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2011年12月

飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.Final

              Ep.final Kiss Me Now !

 

ジニー篇

 大東の結婚式の翌日、エディからメールがあった。

“すぐに事務所へ来いよ! クビ撤回になったんだ!”

 どうして急に? 嬉しいってまだ素直には思えないでいる。アタシは訳も分からず事務所へ向かった。

「オレがイベントあちこち行ってて台北を離れてたせいでジニーの謹慎処分に気付かなかったんだ。それで小綜に連絡が遅れてさ」

 エディが嬉しそうに言う。

「まさか兵役中の小綜に連絡したの? アタシの処分のこと!」

 すっごく恥ずかしい・・・・・・。アタシが暴力未遂と担当のアーティストに手を出しただなんてこと!

「それしか方法がなかったんだ。オレだけが直訴したってムリだ。小綜の力がなきゃさ」

「ありがとうエディ・・・・・・本当にありがとう・・・・・・」

「オレより小綜さ。クビ撤回にしないと除隊後は別の事務所と契約するっておどしたからだよ。それに礼なら唐禹哲にも言えよ。あいつがわざわざ昨日の夜オレのいる台中まで車飛ばして頼みに来たんだからな」

「禹哲が!?」

「ああ・・・・・・。でも正直ショックだったよ。・・・・・・まさか、ジニーと禹哲がそんな関係になってたなんてさ・・・・・・」

 エディが何かつぶやいたみたいだけど、耳に入らない。だって禹哲がアタシの為にわざわざそんなこと? 結婚式のあとに? ふと乾杯のときに禹哲がシャンパンを飲まなかったことを思い出す。お姉さんの結婚式なのに「今日は飲まない」と言った意味が初めてわかった。

 責任感じてだよね? でも禹哲にそんな義理堅いところがあったなんて・・・・・・。担当になって半年ちょっとだけど、最近は仕事での信頼関係は築けてきてたからかもしれない・・・・・・。それ以上でもそれ以下でもない、きっと・・・・・・。

 アタシが禹哲の担当に戻れるわけではないけど、正式に解雇は撤回された。アタシは年明け1月にデビューする新人女性アーティストの付き人に降格処分となった。それでも全然かまわない。アタシはこの世界が心底好きなのだから。

 多分、禹哲と顔を合わせることはほとんどなくなると思う。

 今日、禹哲はどこで仕事なんだろう。そんなことさえ、今のアタシには分からない。だから禹哲がどんな気持ちでいるのかなんて、分かるはずない。

 夜になると高以翔から“無職でヒマならバイトに来てくれ”というメールがあった。月曜の夜なのにずいぶん盛況のようだ。

 駅の階段を昇っていると、ずっと下を向いていることに気がついた。アタシは上がりきったって外に出たときに思い切って夜空を見上げた。

 空は月もなく真っ暗だけど澄み切って見える。そういえば昨日辰亦儒が「今夜は新月だ」と言っていた。どういう意味だったのか、アタシには分からないけど、彼と奥さんである明日香との間で新月は、何か意味のあることなんだと思った。

 それにしても今夜はすごく冷えていて、駅からBaTまでの薄暗い夜道は寒さが身にしみた。首元が寒くてコートの襟を立ててみる。去年買ったネックウォーマーしてくればよかった。鮮やかなオレンジ色が気に入って買ったのに、一度も使う機会がなかったんだった。だって事務所の車移動が多くて、寒い夜道を歩くなんてことなかったから。

 BaTに着いて店内に入ると客はまばらだった。カウンター内でグラスを磨いている翔がアタシに気付くと、カウンター席を勧める仕草をした。そしてスツールに腰掛けると、すぐに温かいココアを出してくれる。

「寒かっただろ。だが思ったより元気そうだなジニー」

「ずいぶん鍛えられたもの、ここの元オーナーに」

「毎晩でもバイトするか?」

「実はね、事務所に戻れるの。だから今晩だけにしとく」

「そうか、よかったな。・・・・・・だが弱ったな。最近ウィルバーが休みがちでね。困った新オーナーだよ」

 翔はあご髭を触りながら苦笑した。

「早速だがジニー。V.I.Pルームを片付けに行ってくれる?」

「うん、任せて!」

 こんな簡単なことでも、誰かの役に立てることが嬉しかった。トレーを持って中二階への階段をかけ上がっていく。V.I.Pルームに入るのは、あの“身代わりキス”のとき以来だ。

 アタシと禹哲の初めてのキスの場所・・・・・・。

 そう思うだけで胸がキュっ締め付けられた。

  バカなアタシ。もういい加減、忘れなきゃ。

 

 ドアを開けると、ソファで脚を投げ出して横になっている男の靴が目に入る。

「しっ失礼しました!」

 思わずドアを閉めたけど、その靴に見覚えがあった。
 禹哲のお気に入りの靴だ。もう一度そっとドアを開けてみた。顔は見えないけど、確かにその靴は禹哲の靴だった。

 何? これどういうこと? 戸口で立ちつくしていると、大きく伸びをしてその男が起き上がった。

「やっと来たな。早く閉めて鍵かけろ」

 紛れもない禹哲だった。アタシは言われるがままに鍵をかけた。

 え? どうして鍵かけるの? 禹哲の威圧的な手招きに仕方なくソファに近づいていく。

「なんで昨日勝手に一人で帰った? 俺は会場に戻ってろと言っただろうが」

 アタシの気持ちなんか全然わかってない禹哲に、突如として怒りが込み上げてくる。

「そんなことアタシの勝手でしょ。どうせ誰かさんのことで頭が一杯でアタシのことほったらかしだったくせに!」

「ヒロのことか? 俺はただヒロに伝えたいことがあっただけだ」

「・・・・・・伝えられたの?」

「ああ・・・・・・」

「内容は聞きたくない! 絶対に! だいたい想像つくし!」

 言葉を遮ってアタシは床に膝をつき、ローテーブルの上のパスタ皿とコーヒーカップをガチャガチャとトレーに載せる。すぐ後ろのソファにいる禹哲の大きなため息が聞こえた。 

「オマエさ、なんか勘違いしてるだろ?」

「確信を持って言ってるんだから! 報われない恋なんてバカみたい! でも別にもう関係ないし! 誰を好きだろうが誰とキスしようが勝手にどうぞ! アタシはもうあなたといっさい関係ないんだから!」

 アタシさっきから何言ってんだろ。まるで元カレとケンカしてるみたいな。

「もういいのか? 他に言いたいことは?」

 禹哲のあきれたような物言いに、次の言葉が浮かばない。

 背を向けていて禹哲の表情は読み取れない。

 あ、そうだ・・・・・・。

「あの・・・・・・ありがと」

「は? なんだよ突然」

「わかってるくせに! 解雇撤回のことよ」

「別にオマエのためにやったわけじゃない。自分のためだ」

「わけ分かんない!」

「オマエにわけ分かんないとこで働かれると迷惑なんだよ!」

「禹哲のほうがわけ分かんない!」

 汚れてもいないテーブルを、おしぼりでひたすらゴシゴシと拭く。

「心配だからに決まってるだろうが! うちの事務所なら、他よりマシだろうが。うるせえお偉方がいてもな。ったくオマエいつまで勘違いしてんだ! 俺が毎日、一分一秒残らず、誰のこと思って息してると思ってんだ!」

 禹哲が一秒残らず思ってるのがアタシであるわけない。禹哲が毎日ずっと思い続けてるのは・・・・・・。

「ヒロさん・・・・・・なんでしょ?」

「いい加減にしろよ! ヒロには昨日“おめでとう”と“幸せになれ”と伝えただけだ。あいつと出会ったのがちょうど一年前のクリスマスだったしな。けじめつけてからでないと次に進めないんだ、俺は!

「次って・・・・・・?」

「オマエのことに決まってるだろうが!」

「嘘・・・・・・」

「ヒロはお見通しだったぞ。早くオマエのところへ行くように言われて会場に戻ったのに、オマエときたら帰ってやがった」

「だってわかるわけないじゃない! いっつも気まぐれなキスばっかりでアタシの気持ちなんかちっとも考えないくせに!」

 思わず振り返って禹哲に詰め寄る。

「じゃあどんなキスすれば伝わるんだ! 伝わらないんならもうしてやらないからな!」

 禹哲の真剣に怒る顔・・・・・・。

 ホントに本気なんだ。

 嘘みたい・・・・・・。

「どのキス? ねえどのキスから本気のキスだったの!?」

「は? どのキスって・・・・・・」

「絶対にヤキモチキスの時じゃないよね! その後のソルティキスだ! そうでしょ!」

「なんだよそのネーミングは! オマエいちいち名前付けてんのかよ!」

「だからどのキスなの!」

 禹哲は少し考えてから、照れかくしなのか面倒くさそうに言う。

「オマエがどんな名前付けてるかは知らないが・・・・・・MV撮影の後、車ん中でケンカになっただろ」

「・・・・・・リアルキス?」

「ああ、多分それ」

 嘘! リアルキスって3回目だ。身代わり、マンゴー、リアルキス・・・・・・。

「それって禹哲が自分で名前付けたって覚えてる?」

「はあ? マジかよ!」

「“俺のリアルキスはあんなもんじゃない・・・・・・”」

 アタシは禹哲の真似をして再現してみせた。禹哲の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。・・・・・・可愛い!

「何ニヤニヤして見てるんだ!」

「あんな頃からだったんだなあって」

「今思えばってことだからな! オマエがお嬢様女優に嫉妬して怒り狂ってるのがさ、俺に火をつけたっていうか、妙に可愛く感じたというか、なんか抑え切れなくてさ・・・・・・」

 アタシ、今きっと真っ赤だ。やけに素直な告白第二弾。リアルキスは失神するかと思うほど甘美だったことを思い出すだけでどうかなりそうだ。

「オマエはどうなんだよ!」

「え? アタシ? ・・・・・・言っとくけど今思えばだからね! わかった?」

「わかったから早く言えよ!」

「えっとねえ・・・・・・それはねえ・・・・・・多分・・・・・・」

「マンゴーキス!」

 二人同時で声が揃ってしまう。

「やっぱりな。しかもそのまんまのネーミングだな」

「なによ、自分だってそれしか思いつかなかったんでしょ!」

「それ以外つけようがないだろ。じゃあ“季妮(ジイニー)のエロキス”とでも命名してやろうか?」

「もうバカ!」

 恥ずかしくて再び背を向けるとすぐに、後ろから禹哲の腕が伸びてくる。そしてギュって音が聞こえそうなくらいに抱きしめられてしまう。

「怒るなよ蘇季妮・・・・・・季妮」

 耳元で禹哲がアタシの本名を正しい発音で甘く囁いた。呼び捨ての響きだけで、アタシもうダメ・・・・・・。

「あのとき、まんまとオマエの術中にはまったんだよな。やけに鄭元暢や彭于晏と仲良さげなのを見せ付けて嫉妬させただろ?」

「そんなつもりないってば」

 あのときから禹哲、嫉妬しちゃってたんだ。嫉妬されることに喜びを感じてしまう。禹哲はアタシの髪を優しく触り始める。

「俺らの初キスはマンゴー味だな」

 嘘みたい! 禹哲って究極のツンデレ男だったんだ。こんな恥ずかしいセリフ、平気で言えちゃうなんて・・・・・・。それにマンゴーキスは禹哲との初キスなんかじゃない。でもそれはアタシの胸の中に閉まっておいた。

 初キスはこの部屋での“身代わりキス”。でもあのときの禹哲の相手はアタシじゃなく、確かにヒロさんだった。だからノーカウント!

「あとで気付いたんだ。オマエがさ、好きでもない相手のキスを受け入れるような女じゃないってことをさ。しかもあんなエロく!」

「もう何度も言わないで! 大キライ!」

「嘘だ。死ぬほど好きなんだろ?」

 禹哲はアタシの頭のてっぺんに熱いキスをした。ズルイこんな反則技。

 さっきから髪を触られるたびに、心地よい魔法にかかっていくみたい。女の扱いに慣れてるって分かっていても、心も体も溶けていってしまいそう・・・・・・。

「ねえ、いつ気付いたの? アタシの気持ち・・・・・・」

「・・・・・・多分ドラマ撮影のときだ」

「どっち? アタシからしたご褒美キス?」

「・・・・・・そっちじゃない。後の方だ」

「ソルティキス? 嘘、恥ずかしい、アタシ涙で顔グチャグチャだった

「どっちもハズいネーミングだな」

 禹哲が笑い出す。もしかしてネーミングを知りたかっただけ? いい雰囲気にしておきながらひどすぎる。後ろから巻きついてる禹哲の腕が、さっきからアタシの唇に触れるたびにキスを連想してしまっていたのに・・・・・・。

「もう! ホントはいつなの! 教えてくれなきゃ・・・・・・」

 アタシは憎たらしくなってその腕に噛み付いた。

「わかった、わかった。教えてやるよ。・・・・・・謹慎中だ。オマエに会えなかった間に気付いたんだ。オマエがどれだけ俺を好きかって・・・・・・同時に俺がどれだけオマエを好きかってことにさ」

 アタシを抱きしめてる禹哲の腕にギュッと力が込められた。耳元でのストレートな告白に涙が出そうになる。

「それにしてもオマエ、マジにどMだな。俺にイビられるのがいいのか?」

 禹哲はアタシの首筋を甘噛みしてから優しく吸い上げた。そのドラキュラキスにゾクっとして思わず声をあげそうになる。でもなんだかじらされてるみたい。

「禹哲こそなんでアタシなんか?」

「オマエのキス顔、案外可愛いからな。苦しげな顔が妙にそそる」

「全然嬉しくない!」

「俺の場合やっぱキステクだろ?」

 禹哲の挑発に、もう限界かも。

「そうよ。だってアタシたちキスから始まったんだもの」

 アタシは体をゆっくりと禹哲のほうにむけながら彼の首にしがみついて言う。

「だから・・・・・・ねえ、キスして・・・・・・」

「ここで、今か? どうなっても知らないからな」

「どうなってもいいから早く! 今すぐキスして!」

 

 それからアタシたちは、数え切れないほどいろんなキスをした。ネーミングは・・・・・・もう全部秘密にしておこう。
 
アタシと禹哲だけの大切なキスなのだから。

                     『Kiss Me Now !』 Fin.

目次と登場人物~Kiss Me Now !
目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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