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飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.7

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ジニー篇

 謹慎八日目。今日の会議でアタシの最終処分が決まった。

 解雇。

 キスの件と、よそのマネージャー暴行未遂の責任で。その相手事務所側も多少の非があったことを認め、解雇までは求めていないとのことだったけど、キスの件はアタシの非だ。元々アタシが唐禹哲に対して毅然とした態度をとれなかったことが招いたのだから。

 夕方、荷物を取りに行くと、他のスタッフからの憐れみや好奇の目にさらされた。

「元気でね」

「あなたも」

 そんなやりとりを幾度も重ね、事務所を出ようとしたときだった。

「おい」

 たった一週間しか聞いていないだけなのに、とても懐かしく感じる声に呼び止められた。

 振り返ると、相変わらずアタシには無愛想な顔しか見せない禹哲がタキシード姿で立っていた。ステキ・・・・・・。今日はクリスマス。お姉さんと大東の結婚式の日だ。クビになったばかりのこんなときでも胸が高鳴るほどステキに見える。でもアタシはなんでもない風を装って答える。

「何か用?」

「オマエの最後の仕事だ。俺を結婚式の会場まで送れ」

 腕を引っぱられながら外で待っていたタクシーに無理矢理乗せられる。そのくせ、車内では何も話しかけない禹哲。アタシたちはただ、それぞれ窓の外を眺めていた。胸がいっぱいで言葉なんて何も浮かばない。

 左腕のケガはすっかりよくなったからか、前のように禹哲はアタシの右側にいる。アタシを守ってくれてるって思うだけで充分幸せだ。

 禹哲が何か言いかけた気がした。だけどそんなときに限って禹哲の携帯が鳴った。

「俺・・・・・・今そっちに向かってるところだ・・・・・・ちゃんと間に合うからさ。・・・・・・ああ、うん。・・・・・・じゃあ、あとで」

 お姉さんからの電話かな? それとも? ・・・・・・今日の招待客を、アタシは知っていた。婚約披露パーティーのときに名簿を見せてもらったから。その中に、桐村裕恵という名前も入っていた。あの人気スタイリストHIROの本名だ。もちろん旦那様の呉尊も、揃ってブルネイから出席する。だから禹哲のテンションが下がって当然だ。

 禹哲は再び黙ってしまった。

 

 会場までは気まずくて長いようで、あっという間だった。また禹哲が何か言いかけた気がしたけど、アタシにタクシーチケットを無造作に手渡すと「じゃあな」と言ってタクシーを降りたから、アタシも「じゃあね」とだけ言った。これがアタシたちの最後の会話になるんだと覚悟した。タクシーが出発しても、アタシはバックミラーで禹哲の姿を目で追っていた。

 姿が見えなくなったところで、禹哲が携帯を忘れていることに気がついた。

「すみません、アタシもここで降ります」

 アタシはタクシーチケットを渡してタクシーを降り、急いで禹哲の後を追った。そしてどんな巡り会わせなんだろう。ホテルのエントランスに入ってすぐ、目の前にHIROが現れた。HIROの画像を検索して何度も見たことがあったから、すぐに彼女だとわかった。

「あの・・・・・・HIROさんですよね? この携帯、唐禹哲の忘れ物なんですけど、渡していただけますか?」

「え? ええ、わかりました。あの、アナタのお名前は?」

 アタシ、こんな声なのかな? だったらステキな声よね。ちょっと嬉しくなる。

「ヒロ! 呉尊の飛行機出発が遅れたってホント? あれ? ジニー?  遅かったじゃない待ってたんだから」

 待ってた? アタシは早くこの場を去りたいのに、運悪く莉莉が現れた。

「莉莉、紹介してもらえる?」

「あ、そっか。ヒロはジニーと会うの初めてだよね。ジニーは禹哲のマネージャーなの」

 莉莉はHIROにそう紹介してくれた。まだアタシの解雇を知らないようだ。

「あの、アタシこれで帰ります」

「え? どうして? ジニーも出席してくれるって櫻雪から聞いてるよ」

「アタシ、櫻雪さんの社交辞令だとばかり思って・・・・・・それにこんな格好じゃ・・・・・・」

 アタシはチェックのシャツにデニム姿で、とても華やかな芸能人の披露宴に出席できるような服装じゃない。

「そんなことなら心配ないわ。さあこっちに来て!」

 

 アタシはあれから無理矢理二人に連れてこられ、今、控え室にいる。

「やだヒロ! このドレス、ジニーにすごく似合ってる! 髪形もステキ!」

「そうでしょ? きっと似合うんじゃないかって思ったのよ! 私いつも二着用意してくるの。よかったわ役に立って」

「あの、アタシやっぱり出席なんてできない! 禹哲に叱られちゃうから!」

「禹哲にそんなことさせないから大丈夫よ。ねえ莉莉!」

「そうそう、あたしとヒロがいれば、禹哲なんて全然怖くないってば」

 ノックが聞こえて誰かが入ってくる。それは亞綸だった。

「莉莉! こんなとこにいたのか! ・・・・・・あれ? ジニー?」

 亞綸がマジマジとみつめてくるから恥ずかしくなる。

「ジニーすごく似合ってるよ。じゃあまた後で! 莉莉、リハやるから行くぞ!」

「は~い」

 莉莉はさっさと出て行ってしまった。嘘! HIROと二人っきり!?

「楽しみよね、ジニー。禹哲と二人が一緒に歌うなんて、最初で最後になるかも」

 え? 禹哲も歌うの? アタシは何も聞いてない・・・・・・。でも当たり前だ。もうアタシはマネージャーじゃないんだから・・・・・・。

「あ、これって禹哲に内緒なんだった。サプライズで歌わせるって莉莉たち、すごく張り切ってたから」

 なんだ、そうだったんだ。ホッとするアタシがいる。でもアタシが知らない禹哲を、この人は知ってるんだと思うと、やっぱりへこむ。

「ほらジニー、ちゃんと鏡を見て。このドレス、アナタが着るためにデザインされたみたいに似合ってるわよ」

 まるでアタシを励ますようにHIROは褒めてくれる。落ち込んでるの、もしかして気付いてる?

 ヒロさん・・・・・・なんてステキな人・・・・・・。禹哲が忘れられなくて当然だ。

 

 ヒロさんに連れられてアタシは会場に入る。彼女は隣のテーブルで、アタシのテーブルには禹哲と莉莉、亞綸の席札が置かれていた。まだ誰も席にいない。少しホッとする。 

「ジニー!」

 名前を呼ばれて振り返るとフラッシュがたかれる。誰?

「ギャビー! 台北に戻ってたの?」

 そこにはカメラマンのギャビーがいた。最近、小綜のお気に入りのカメラマンで、その関係で禹哲の写真も担当してもらっていた。ここしばらくはアジア中を駆け巡ってたらしいけど。

「どうしてここに? え? 結婚式の仕事もしてるの?」

「まさか。特別な友人に頼まれた時だけだ。今、まとも以上の仕事が出来てるのは、汪東城のおかげだからな」

「そうだったんだ・・・・・・」

「どうした? 今日は浮かない顔だな。せっかくのドレスが泣くぞ」

 ギャビーが私に向けてもう一枚シャッターを押すと、ちょうどBGMが変わる。前にはいつの間にか大東が立っていた。どうやら新婦入場みたいだ。ギャビーは入り口にファインダーを向ける。

 禹哲はどこへ行ったんだろう・・・・・・。

 扉が開くと、輝くばかりに美しい櫻雪さんが現れた。そして、新婦をエスコートしているのは・・・・・・え? 禹哲? 禹哲だ・・・・・・。普通は父親の役目のはずだ。

「ギリギリセーフ!」

 亞綸と現れた莉莉が隣の席に座った。

「ねえ莉莉。禹哲のお父さんは?」

「え? ジニー知らなかったの? 禹哲と櫻雪の両親は随分前に事故で亡くなったの」

 言葉が出ない。全然知らなかった。アタシは禹哲の過去を、ほとんど知らない。

 普段あまり笑顔を見せない禹哲が、笑顔でお辞儀をする。櫻雪さんと腕を組みながら、ゆっくりと客席の間を歩いていく。櫻雪さんの長いケープの両端を握ってついてくる男の子と女の子を、時折振りかえって気づかいながら。

「ふふ、偉偉(ウェイウェイ)と裕惠(ユーフイ)、可愛い」

「莉莉。あの子供たちは?」

「偉偉は櫻雪の子で、裕惠は阿明と亦儒の娘なの」

 櫻雪さん子供がいたんだ!  

「バツ一なの?」 

「櫻雪は禹哲の学費のために結婚したの。両親が亡くなったあと、櫻雪はお父さんの親友に引き取られたけど、禹哲は施設。その親友はお金持ちで、そこの息子は櫻雪に夢中だったらしいの。櫻雪は自分と弟の境遇の違いを嘆いて、それで好きでもない人と結婚してまで禹哲のためになりたかったみたい。あたしね、施設で禹哲に妹みたい守られながら育ったの。この前までママに捨てられたと思い込んで生きてきたんだけど、最近、亞綸のおかげでママはあたしを捨てたんじゃないってことがわかったの。そうやって禹哲と亞綸が支えてくれてるから、今のあたしがあるの」

 

 禹哲と莉莉、そして櫻雪の意外な真実。ううん、意外じゃなく、納得の真実だ。初め莉莉のことを、禹哲の片思いの相手なんだって勘違いしてたことを思い出す。それほどの二人の親密さの理由が、今初めて明らかになった。禹哲はお姉さんを守れなかった分、莉莉を守ってきたんだってこと、今のアタシには分かりすぎるくらいに分かる。亡くなったお父さんとの約束を、禹哲はしっかり守ってきたんだ。

「莉莉聞いていい? あなたのお母さんやお父さんは?」

「・・・・・・ママはあたしが小さい頃に亡くなってたの。でもその時ママの死を知ることができなくて・・・・・・だからあたしは捨てられたと思ってしまったの。パパは・・・・・・会ったこともなければ、どこの誰かも知らないんだあ」

 明るく話す莉莉にアタシの胸は締め付けられる。アタシの両親は元気なのに、親不孝なアタシは旧正月にしか帰ってあげてない。

 そうこうしているうちに、だんだんと禹哲たちが近づいてくる。どうか今はまだ気付かれませんように! 

「櫻雪! こっち向いて!」

 ああっ! 莉莉が呼ぶ声で禹哲もこっちを見た。思わず顔をそむけ、後からこっそり禹哲の反応を伺うと、どうやら気付いていない様子でホッとする。いずれバレることなんだけど・・・・・・。

 禹哲から大東へと櫻雪さんは手渡され、禹哲は大東の耳元で何かを囁いてから、席に着くためにこちらへ歩いてくる。きっと嫌味の一つ二つ、大東に言ったんだろうけど、アタシは今それどころじゃなく、言い訳も思いつかないでいる。

 禹哲は莉莉に一声かけると、まるでアタシが見えないかのように通り過ぎ、隣に座った。完全無視ってこと? それとも気がつかなかっただけ? 胸がチクリと痛んだ。

 式は人前式で、高校時代からの友達の東城衛のメンバーが司会と式の進行をしている。なんてお似合いな二人! 誓いの言葉を櫻雪さんの息子さん・・・・・・偉偉だっけ? その偉偉が誓いの言葉を堂々と読み上げてる。櫻雪さん泣いてる・・・・・・。いろいろあったんだろうな。きっと・・・・・・。あ、大東も泣きそうになってる。けっこう涙もろいんだ。アタシも泣いちゃいそう・・・・・・。

 偉偉が指輪の入ったケースを差し出すと、二人は指輪の交換をした。それからやっぱりキスでしょ? 

 キス・・・・・・。もう一生キスできないかも、アタシ・・・・・・。だってもう一生恋なんて出来そうにない気分だから。勇気を出して横目で禹哲の顔を盗み見る。こんな近くで生の顔を見るのは、もうこれで最後になるかもしれないと思ったから。

 明日からの禹哲は遠い世界の人で、アタシはただの一般人になる。

 禹哲はどこかをじっとみつめていた。その視線の先が、大東と櫻雪さんじゃないことはすぐにわかった。確認するのも怖かったけど、アタシは確認しずにはいられなかった。

 禹哲の切なげな横顔。胸がズキン、ズキンと何度も痛くなる。禹哲の熱い視線の先には、きっとあの人がいるはずだ。

 あの人・・・・・・HIRO、ヒロさん・・・・・・。

 禹哲の視線の先には、やっぱりヒロさんがいた。二人を祝福し、優しい微笑みをたたえたヒロさんの姿は、女のアタシでもみとれるくらいだ。禹哲の周りって、すごくきれいな人ばかり。アタシなんか振り向いてもらえるわけがないって、身にしみた。

 我慢していた涙がポロリとこぼれ落ちる。

 でもよかった・・・・・・。涙に気付かれても、結婚式に感動してるって思われるだけだから。

 アタシは新郎新婦へと視線を移す。彼らの横には、いつの間にか辰亦儒が立っていた。手にはシャンパングラス。そして周りの人たちにつられるようにしてアタシも立ち上がった。急いでナプキンで涙を拭いていると、辰亦儒が何かお祝いの言葉を述べて、「乾杯!」と言う。アタシは慌てて持っていたナプキンを置いてグラスに手を延ばすと、勢いでうっかり倒してしまった。それも禹哲の方へ! アタシはこの失態に声も出ない。

「大丈夫?」

 禹哲は倒れたグラスを立てて、「俺は飲まないから」と言って自分のグラスをアタシに渡すと、すぐにウェイターを呼んでくれた。禹哲は、うつむいているアタシに気付いていないんだと思った。なんだか情けなくなる。たった半年とはいえ、ほとんど毎日一緒にいたのに気付いてもらえないなんて。キスだってしたのに・・・・・・だんだん悔しくなってきた。

「・・・・・・大丈夫じゃないです」

 アタシはうつむいたまま思わずそう答えていた。

「オマエ、なんで・・・・・・」

 さすがに声で気付いたみたい。アタシは顔を上げて一気にシャンパンを飲み干してから禹哲を睨みつけた。

 禹哲は、アタシが今まで見た中で一番驚いた顔をしていた。あんまりその顔がびっくりしてるから、思わず吹き出してしまったくらいだ。

「わ、笑い事じゃないだろ!」

「だって、禹哲の顔、面白すぎるんだもん!」

「なんでここに!」

「あ、そうそう忘れてた! はい、これ!」

 アタシはバッグから禹哲の携帯を取り出してテーブルに置いた。

「俺の? あ、タクシーか・・・・・・」

 落としたことにも気付いてなかったみたい。そんなにも誰かさんのことばかり考えてたんだ・・・・・・。

「なんだ、そのドレス」

「ああ、これ? ステキでしょ? HIROが・・・・・・ヒロさんが貸してくれたの」

 禹哲は絶句してしまう。なんか面白くなってきちゃった。アタシとHIROが親しくなったなんて、禹哲的には冷や汗ものだろうから。別にアタシはヘンなこと告げ口したりなんかしないけど。

「それに、アタシ櫻雪さんから招待受けてたのよね。禹哲も知ってたんでしょ?」

「え? いや・・・・・・それは・・・・・・」

 禹哲をシドロモドロにさせられるなんて、なんだか気分がいい。

「アタシが出席するとそんなにも迷惑?」

「ジニー、やる~! 禹哲なんかやっつけちゃえ!」

 隣の莉莉が加勢してくれるから、心強い。どうやら式が終わって、披露宴までしばらく歓談の時間のようだった。新郎新婦と写真を撮ってる人もいる。

「いいな~アタシも一緒に撮りたい! ギャビーに撮ってもらっちゃお!」

「鶏女、ちょっと来い!」

 アタシは仕方なく禹哲の背中を追って会場を出る。そして人目のつかない場所まで来ると、禹哲は振り返る。

「ねえ、似合う? 誰だかわからないほど見違えたでしょ? 全部ヒロさんのおかげだけど。やっぱりトップスタイリストってすごいよねえ! 美人だし! あの呉尊を射止めたのも当然だよね」

 アタシ、禹哲を煽ってる。ちょっと酔いがまわってきてるとはいえ、こんなこと言ったら禹哲にもっと嫌われるの、わかってるのに・・・・・・。

「旦那様は遅れてくるみたいだけど、二人が並んだらすご~くお似合いなんだろうな~! 絶対に誰も割り込めないって感じ! 早く見てみたいな~!

 一気に考えもなしにしゃべり続け、ついにアタシは言葉が浮かばなくなり黙って禹哲の顔色を伺った。

「それだけ言ったら気が済んだか?」

 禹哲は顔色ひとつ変えず冷ややかだ。

「・・・・・・ごめん、アタシ、やっぱり帰る」

「別に・・・・・・」

「え?」

「別に帰れとは言ってない。姉貴が望んだことだ。俺がとやかく言うことじゃない。先に戻るから、落ち着いたら席に戻れよ」

 禹哲が背を向ける。ねえ、どっちが本心なの? どうすればあなたの本心がわかるの? アタシじゃヒロさんの代わりにはなれない? アタシ、身代わりだって構わない・・・・・・だから禹哲・・・・・・いつもみたいにキスして! そう心の中で叫んでいた。

 気付くとアタシは禹哲の背中に抱きついていた。禹哲はしばらくそのままでいたけど、キスもしなければ振り向いてもくれなかった。アタシの心の叫びは届かない。

 そしてアタシがゆっくりと体を離すと、禹哲は何も言わずに会場へと戻って行った。

               Ep.8「投げKISS」へつづく・・・・・・

目次と登場人物~Kiss Me Now !
目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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