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飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.8

                   Ep.8「投げKISS」

禹哲篇

 なんでアイツを帰らせなかったのか・・・・・・今さら後悔しても遅いか・・・・・・。ただ、今の俺はヒロに思いを伝えることを優先させるべきだ。チャンスは今日しかない。今日こそはっきりとヒロに告げてやる。

 鶏女のヤツ、なかなか戻ってこないな・・・・・・。やっぱり帰ったのか? そのほうが俺としては都合がいい。アイツがいると、なんか調子が狂う。

 それに呉尊もまだ現れないのも、なお好都合だ。だがヒロと二人きりになるチャンスはあまり期待できそうにない。俺はこの会場内で実行するしかないのか? ヒロは姉貴と阿明、莉莉と一緒に写真を撮っている。

「なあ、そんな熱い視線を、誰に送ってるんだ? まさかボクの奥さんじゃないよなあ?」

 突然、そう絡んできたのは、少し酔ってるのか上機嫌な陳奕儒だった。めんどくさい男につかまったな・・・・・・。

「阿明は魅力的だから、さぞ心配でしょうね、陳奕儒」

「だろ? だけど禹哲。残念ながら阿明はボクしか見えてないんだよ!」

 はい、はい。わかってるさ、言われなくても。

「櫻雪は大東だけ、莉莉は亞綸、ヒロは呉尊・・・・・・。残念だったな、あそこの美女たちは一途過ぎて、さすがの唐禹哲でもおとせないだろうなあ」

 なんだよ、酔ったふりしてヒロのことを釘刺しに来たのか? っていうか姉貴は関係ないだろうが!

「そうだそうだ! 俺の奥さんも、おまえなんかには見向きもしないぞ!」

 今度は陳建州か。なんでもう泥酔してるんだ・・・・・・。

「ごめんなさいね、禹哲。黑人ったら、櫻雪さんが幸せになれるからって嬉しくて呑むピッチ早過ぎちゃって」

 嬉しさ半分、寂しさ半分ってわけか。

「俺の奥さん! 愛してるよ~!」

 陳建州が范瑋琪にキスをした。さすがにあの巨体を拒むことが出来ないことをわかっているのか、范瑋琪はおとなしくキスに応えていた。キスが終わると范瑋琪は「ごめんなさいね」と詫びてから陳建州を引っぱって席へ戻っていった。

 気がつくと陳奕儒は阿明と子供のところへ戻っていた。莉莉の姿は消えていて、姉貴は大東の母親と一緒だった。どうやらヒロの姿をまた見失ったようだ。

 次の瞬間、照明が暗くなったかと思うと、一箇所にライトが当たる。そこにはグランドピアノとイスが一つ用意されていた。マイクはピアノとイスの横に一つずつセッティングされている。亞綸と莉莉が歌うことは聞いていた。 

 司会の脩が、紹介すると亞綸と、ギターを抱えた莉莉が現れ、それぞれのイスに腰掛けた。

 亞綸はピアノに設置されたマイクに向かい、話し出す。

「呉庚霖です。そして黄莉莉」

 莉莉がぺこりと頭を下げる。

「ボクの三番目の兄と櫻雪を、歌で祝福させてください・・・・・・」

 亞綸はソロアルバムから続けて3曲歌い、くやしいが客たちは二人のハーモニーに聴き入っていた。姉貴なんかは泣きそうだ。だが、誰もが期待しているであろう、あの曲をまだ歌っていない。最後までもったいつける気だな。

「最後に・・・・・・この曲を選びました。それではもう一人・・・・・・」

 東城衛の戒がスタンドマイクをセンターに置く。

「もう一人・・・・・・唐禹哲!」

 俺!? 聞いてないぞ!!

 拍手の嵐と声援に自然と立ち上がってしまう。職業病か・・・・・・ったく! 俺が姉貴の披露宴をぶち壊しに出来ないことをわかってて、亞綸のやつめ! 

 俺がスタンドマイクの前に立つとすぐに亞綸が前奏を弾き始める。

 ・・・・・・やっぱりこの曲か・・・・・・ったくなんで俺がこいつらのヒット曲を歌わなきゃならないんだ。それにこいつら、俺が歌詞を知らなかったらどうする気だ?

ジニー篇

 会場に戻ると、禹哲が歌っていた。でも禹哲の歌じゃない。これは亞綸と莉莉の『百万回言っても足りないくらい愛してる』だ。

 最後まで全部歌えるの? 歌詞カードもないのに・・・・・・分かってればカンペを作っておいたのに・・・・・・やだ、アタシったら、まだマネージャー気分が抜け切れてない・・・・・・。

 でもそんな心配をよそに、禹哲はまるで自分の持ち歌のように感情を込めて、だけど適度にクールに歌い上げている。妹同然の莉莉の初ヒット曲だから、きっと嬉しくて何度も何度も聴いたに違いない。ホントにいいお兄ちゃんなんだなって思った。その後ろでギターを弾きながら、安心した表情で莉莉は歌っている。

 いいな、莉莉は・・・・・・。頼りになるお兄ちゃんと魅力的な彼氏に守られてて・・・・・・。

 一瞬、歌に集中してた禹哲の表情が変わった気がした。動揺してるみたい。もしかしてヒロさん? あたりを見渡し、よく目を凝らすと、入り口付近にヒロさんが立っているのが見えた。隣には誰か背の高い男の人がいる。呉尊が来たの? ううん、あれは呉尊じゃない。・・・・・・もしかして何潤東? 映画監督の? 

 あ、ピアノ、タッチミスした。亞綸まで様子がおかしくなってる。どうしちゃったんだろう・・・・・・。

 よかった、なんとか持ち直したみたい。

 三人の声が重なると、また全然違う味わいがある。禹哲が二人のハーモニーの邪魔になったらどうしようって、本当はちょっと心配してた。あれだけヒットしてみんなの耳になじんでる曲に、禹哲の声が加わっても、違和感があるんじゃないかって・・・・・・。でも三人は自然とバランスをとって歌ってるんだ。これを聴けたことは幸せなことだ。出席してよかったって心から思えた。

 歌い終わると、禹哲は「大東、二人を幸せにしろよ」とちょっとキザなこと言ってから観客に投げキッスをした。会場中の女性客が甲高い悲鳴をあげる。一瞬、禹哲と目が合った気がしたけど、それは多分たまたまで、その投げキッスは単なるステージパフォーマンスにすぎない。そう思いたかった。でも本当はそれがヒロさんに向けてのものだと認めたくなかっただけ。

 櫻雪さんはポロポロと涙をこぼしていて、偉偉がティッシュでその涙を拭いてあげている。アタシまでもらい泣きしちゃう。

 三人は席に戻らず、そのまま会場を出て行った。そして新郎新婦はお色直しで退席する。もちろんスタイリストのヒロさんもだ。

 アタシは知り合いが誰もいない状況になった。頼みの綱のギャビーは忙しく各テーブルをまわって撮影しているし・・・・・・。帰ろうかな・・・・・・。でもそれも失礼だし・・・・・・。

「楽しんでる? えっと、ジニーだったかな? 唐禹哲のマネージャーの」

 嘘っ! 見上げるとそこには微笑みを浮べた辰亦儒が立っていた。 

「はい、蘇季妮(スー・ジーニイ)です! 飛輪海のCDも本も全部持ってます! 明日香の本は全部読みました!」

 アタシったら舞い上がってこんな場所でバカみたいなこと言ってる。だって大東の婚約披露パーティーでは一度も話す機会がなかったから。ずっと亞綸ファンだったけど、やっぱり他のメンバーでも目の前にするとテンションが上がってしまう。

 アタシが一人でいたから気にかけてくれたのかな。優しいんだ・・・・・・イメージ通り。

「それは嬉しいな。どうもありがとう。妻も喜ぶよ。今頑張ってるから」

「じゃあ新作の予定があるんですね!」

「うん、今日も親友の大東の披露宴なのに早く帰って書きたくて仕方ないってさ。インスピレーションが冴えててアイデアがどんどん溢れてくるらしいよ。今夜は新月だってのに」

 “新月”? どういうことだろ。そう言えば明日香の小説には“新月”とか“満月”とか、よく月の描写が出てくる。

「ケルビン! ちょっと来てちょうだ~い!」

「ごめん、マーキーに呼ばれちゃったよ。話せて楽しかったよ。それじゃあ」

「あ、はい。こちらこそ楽しかったです」

 辰亦儒のスラッとした後姿を見送る。もしかしてあの人が香港人スタイリストのマーキー? 独特な感性で最近話題になってる人気スタイリストだ。最近ヒロさんに続いてフリーになったんだっけ。

 今日の彼? 彼女? どっちでもいいけど、今日のマーキーの服装、噂どおりかなりユニークだ。  

 

 アタシはまた一人ぼっちでかなり居心地が悪く、身の置き所がなくなった。とりあえず行きたくもないトイレへ向かってる。

 あれ、どっちだろ? たしか着替えた控え室のそばにあったはず・・・・・・。

 廊下を進んでいくとドアが少し開いている控え室がある。そこを通り過ぎるとき、中から禹哲の声が聞こえた気がした。アタシは立ち止まってのぞいてみる。

「何潤東は来ないはずじゃなかったのか!」

「ボクに文句言っても仕方ないだろ!」

「仕方ないだあ? どうするか決めたのか!?」

「・・・・・・それは・・・・・・まだだけどさ・・・・・・」

「何潤東が莉莉に母親のことを確認しに来たらどうする! そこでいきなり親子だとわかったとき、何潤東の反応が最悪だったら莉莉は傷つくんだぞ!」

「じゃあ、先に莉莉に伝えればいいのか! 何監督が確認に来るかどうかもわかんないのに!?」

 なんなの、この会話・・・・・・。たしか莉莉は父親の名前さえも知らないって言ってたはず。でも二人はまるで何監督が父親だという前提で話してる。

「よく聞けよ炎亞綸! 真実を受け止める強さを、今の莉莉は持ってるだろ? 後はおまえが支えればいいことだろうが!」

「バカ言うなよ! せっかく、やっとここまでぜん息の症状も落ち着いたのに、また逆戻りだよ! ボクはこのまま莉莉は知らないほうがいいと思うんだ! 何監督と接触させなければいいだけだ!」

「莉莉はおまえの物じゃないぞ! 一人の人間として真実を知る権利があるだろうが!」

 禹哲はものすごい剣幕で亞綸の腕を掴んだ。亞綸はそれを振り払う。

「うるさい! 莉莉が死んだらどうすんだよ! ボクは発作が怖いんだ! もうあんな思いするのはイヤなんだ!! 禹哲は莉莉が死んだって困らないから言えるんだ!!」

「おまえ!!」

 禹哲は亞綸の襟を掴みあげる。すごい剣幕だ。どうしよう、止めないと! そのときだった。アタシを押しのけて誰かが控え室へと飛び込んでいった。そして二人の間に入って力ずくで引き離した。

「いい加減にしろ!! おまえら隣の控え室までまる聞こえだぞ!!」 

 それは大東だった。誰かがアタシの肩にそっと手を置いた。振り返るとそれはヒロさんで、「大丈夫よ」という顔で頷いた。後ろに立っている櫻雪さんは泣いている。

「どけよ大東! 俺はこいつを殴ると決めたんだからな!」

「いいよ! 殴りたければ殴れよ! そのかわり莉莉に黙ってろよ!」

「うるさい!」

 禹哲が大東の制止を振り切って再び亞綸に殴りかかる。

「やめてえ!!!」

 アタシのこの叫び声よりも先に、また誰かが部屋へと飛びこんでいった。

 

 それはまるでスローモーションのように見えた。

           Ep.9「ドラマティックKISS」へつづく・・・・・・

目次と登場人物~Kiss Me Now !
目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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