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2011年11月

飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.9

              Ep.9 「ドラマティックKISS

ジニー篇

 

 勢いよく飛びこんできたのは莉莉だった。

 莉莉はなんの迷いもなく飾ってあった花瓶の花を抜き取り持ち上げると、その中の水をケンカの渦中に一気に浴びせかけた。そばに立てかけてあった自分のギターに構うことなく! 

 突然のことに誰もが呆然と立ち尽くしている。言葉も出ない。そこで最初に口を開いたのは他でもない、莉莉だった。

「なんか様子がおかしいと思って急いで帰ってきて正解ね! あたしをわざわざコンビニに買出しにやらせておいて、その間になんのケンカよ二人とも!」

 ちゃっかりと寸前によけて水難を逃れた禹哲と、体半分浴びてしまった亞綸は目も合わせず、顔をそむけてどちらも口を開かない。全身びしょ濡れの大東も、莉莉の件は亞綸の意見を尊重しているのか黙っていた。

 亞綸は前髪から雫を滴らせながら、左手に莉莉のびしょ濡れのギターを持ち、右手で莉莉の腕を掴んで言う。

「帰ろう」

「帰らない」

「いいから帰るんだ!」

「いや!」

 そんな押し問答の途中に、また誰かが現れた。

「大東、いるかな?」

 一瞬にしてその場は凍りつく。

 それは何潤東、その人だった。

 大東は慌てて進み出る。

「何監督! 今日は来てもらえるとは思ってなかったから嬉しいですよ」

「大東、本当におめでとう・・・・・・どうしたそんなに濡れて! この部屋で雨でも降ったのか?」

「はは・・・・・・ちょっとした余興があって・・・・・・。今日は最後までゆっくりしていってください」

「実はもう行かないとダメなんだ。少しでもお祝いを言いたくて来てみたんだが、来てよかったよ。さっきちょうど炎亞綸と黄莉莉の歌も聴けたからね」

 そう言って何監督は莉莉に笑顔を向けた。これってすごくまずい展開のような・・・・・・。

「黄莉莉、やっと君に会えたね。まずは感謝するよ。君の曲は本当に素晴らしい」

「いえ・・・・・・監督の映画もステキでした。挿入歌に選んでもらえて、本当に本当に嬉しかったです!」

「それはよかった。・・・・・・それで、ちょっと聞きたいんだが、君のお母さんは・・・・・・」

「わああ!」

 急に亞綸が叫び声をあげた。その拍子に持っていたギターが手から離れたのか、床に激しく転がり落ちた。それまではギターを気にも留めていないようだった莉莉が、我に返ったように濡れたギターを拾い抱えて座り込んだ。

「ママ、ごめんね。大事なギターを・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

 そのとき、ギターの穴の中に何か白いカードのようなものがチラリと見えた。思わず部屋の中に足を踏み入れたけど、アタシは自分でそれを取り出すことをためらった。アタシは莉莉にとってほんの知人にすぎない部外者だ。だからそばにいたヒロさんにそっとカードのことを知らせた。

 ヒロさんはしゃがみこんで、弦の隙間からその白いカードを指ではさんで抜き出した。みんなの目は一斉にそこへ注がれる。禹哲も亞綸も立ち尽くしたまま見下ろしている。だけど当の莉莉だけはまだ気がついていないようだった。

「莉莉、ギターの中に入ってたの。あなたが先に見るべきよね?」

 ヒロさんがそう言って白いカード・・・・・・ううん、それは明らかに写真だった。少し古そうな一枚の写真。ヒロさんはそれを裏向きのまま差し出した。

 莉莉は訳がわからない様子で顔を上げると、写真を手に取りゆっくりと表に向ける。アタシは好奇心からもう一歩部屋の中へ入っていく。その少しピンぼけしたその写真にはきれいな若い女の子が、男の人の首に手をまわしてホッペをくっつけて写っていた。

 その男の人は20代半ばくらいに見える。それに、どこかで見たような面影がある。ううん、どこかどころじゃない。会ったことはまだ一度もないけれど、アタシなんかでもよく知ってる人にそっくりだ。台湾人でこの顔を知らない人なんていない。彼をキライだって人も聞いたことがない・・・・・・。いわゆる国民的スターだ。

 莉莉は動揺しているのか、していないのか、無表情だった。そしてヒロさんは莉莉の様子を見計らいながら聞く。

「莉莉、この若い女の子って莉莉の?」

「そう・・・・・・ママ」

 何監督は歩み寄ってひざまづき、写真を凝視する。

「・・・・・・これは阿蘭だ・・・・・・やっぱりキミは阿蘭の娘なんだね?」

 何監督は感慨深げに言う。だけどそれもつかの間だった。監督は写真の日付部分を読み上げる。

1986年7月・・・・・・まだボクと付き合っていた頃だ。だけどこの月の終わりに彼女は消えたんだ。それでボクはカナダ留学を決意して、秋には台湾を離れたからよく覚えてる」

 何監督は力なく立ち上がり、窓辺まで行くと、月もない真っ暗な空の闇を見上げた。

 誰も何も言えなかった。その写真の二人は、男女の関係が何もないようには見えなかったから。特に、莉莉のママは、多分この人のことを愛してたんだとアタシは思った。

 しゃがみこんでいた莉莉はゆっくり立ち上がり、亞綸の肩におでこをくっつけながら少し低い声で言う。

「あたし、この翌年の4月生まれなの・・・・・・」

「莉莉・・・・・・」

 亞綸は莉莉を抱きしめた。

「霖、あたし大丈夫だから・・・・・・。どんな真実でも受け止める」

 ヒロさんはびしょ濡れになった大東と、まだお色直しの済んでいない櫻雪さんに「さあ、 早く着替えて会場に戻らないと!」と言って部屋から出ていこうとする。多分遠慮したんだろう。でもアタシも部外者であることを思い出し、一緒に出ようとすると、「アナタはここにいてあげて」とヒロさんは囁いてアタシをそっと部屋の中に押し戻しドアを閉めた。

 アタシなんかがいてもいいのか戸惑いながらも、禹哲の少し後ろにそのまま立っていた。でも多分、禹哲はアタシがここにいることに気付いていない。アタシがあげた唯一の叫び声も、ヒロさんの声だと思っているはずだ。

 亞綸と莉莉は中央で抱き合い、窓際で腕と脚を組み、外をみつめている何監督の横顔は切なげだ。

 

 莉莉は亞綸の腕の中で、安心したようにゆっくりと語り出した。

「ママは、このギターをとっても大事にしてたの・・・・・・。いつかこのギター一本で歌手デビューするんだって希望を持ってた。だけどだんだん、食べるので・・・・・・生きるので精一杯毎日が続いたの・・・・・・ママは遅くまで働いて、疲れきってた・・・・・・。作曲なんて、ちっともできなくなって・・・・・・でもね、それでもママは歌うことだけはやめなかったの。時々、この人の歌も歌ってた。ラジオで彼の曲がかかると、耳をくっつけて嬉しそうに聴いてたのを覚えてる、あたし・・・・・・」

 そして一呼吸おいてから莉莉は覚悟を決めたように聞く。

「この人写真の人があたしのパパなのかな? この人は、本当に・・・・・・あの彼なの?」

 誰も答えられない中、今度は禹哲が聞く。

「何監督。あなたは莉莉の母親から何か聞いてたんじゃないですか?」

「ああ・・・・・・。阿蘭は、路上でよく歌ってたんだ。それでレコード会社のプロデューサーを名乗る若い男に声をかけられてから、頻繁に会うようになっていったんだ。その男も、歌手デビューを目指していると阿蘭は言っていた・・・・・・ボクは彼女がその男の話をするのがイヤだったからよく覚えてるんだ」

「蘇季妮(スー・ジーニィ)。オマエ、どうせ芸能界のサクセスストーリーとか詳しいんだろ?」

 禹哲が振り向きもせずにいきなりアタシに振ってくる。心臓が止まるかと思った。アタシがいること、知ってたんだ・・・・・・。ずっとアタシに背中を向けていたのに。

 もちろん芸能界大スキなアタシは知っている。この場で隠しても仕方ないよね。ネットで調べれば誰でもすぐにわかることだもん。

「彼は香港から台湾大学に留学してその後中退。歌手を志しレコード会社で仕事をするうちに、ついに26歳でデビューを果たしたって・・・・・・。多分、彼の今の年齢から計算すると、時期も何監督の話と一致するみたい」

「確か子供は二人いたよな。いつ結婚したんだ?」

「デビュー前の25歳で結婚したはず、レコード会社の同僚のアメリカ人女性と・・・・・・」

 アタシと禹哲のそんな会話を黙って聞いていた何監督がようやく口を開く。

「そのプロデューサーにはアメリカ人のフィアンセがいると、聞きもしないボクに阿蘭は言い訳したこともあった。ボクが彼に嫉妬していることに気付いたんだろうな」

 莉莉も亞綸も黙ったまま聞いていた。それから禹哲は遠慮なくストレートに聞いてくる。

「子供は今、何歳なんだ?」

 莉莉の手前、すごく言いづらい。

「多分、娘さんのほうは莉莉よりちょっと若いくらいだと思う」

 でも愛妻家で家庭円満なイメージの強い彼が、結婚直前まで17歳の少女とそんな関係だったなんて考えられない。

「何監督。顔色が悪いですね。あなたは当時まだ15歳だったとはいえ、莉莉の母親と付き合ってたんですよね?」

「ああ・・・・・・」

「じゃあ単刀直入に聞きます。あなたが莉莉の父親である可能性はあるんですか?」

「やめろ禹哲!」

 亞綸がたまらず声を上げた。

「・・・・・・それより先に教えて欲しい、阿蘭は・・・・・・阿蘭は今どうしているんだ?」

 何監督の表情は切実だ。そういえば彼はいまだ独身のはず。

「ママは・・・・・・母は亡くなりました。あたしが7歳のときです」

 何監督は悲痛な表情を浮べた。

「そうだったのか・・・・・・もう阿蘭には会えないのか・・・・・・」

「それで、どうなんですか? まさか死人に口なしとか?」

「そんなつもりはない! ・・・・・・ただ、今となってはよく覚えてないんだ。ボクは逃げてるわけじゃない。彼女との間に、もちろんそういうことはあったんだ。忘れるわけはないだろ、ボクは本当に彼女を愛していたんだ! でもそれはただ一度だけのことで、それが何月だったのかは、まったく覚えていないんだ」

「そうですか・・・・・・。すみません、引き止めてしまって。仕事の約束があるんですよね? 莉莉、平気か?」

「うん、大丈夫。禹哲、ありがと。何監督も・・・・・・ありがとうございます。母のこと、いつかもっと話してくださいね」

「もちろんだよ。いつでも事務所に訪ねてくるといい」

 そう言って監督は莉莉に名刺を渡し、控え室から出て行こうとした。だが振り返り言う。

「君がボクの娘であったらどんなにいいかと、心から思うよ。きっと自慢の娘だ」

 莉莉は少し力なく笑顔を作って監督の背中を見送っていた。

 何監督が出て行ってしまうと、この控え室には、亞綸と莉莉と禹哲とアタシの四人きりだ。

 亞綸は莉莉をギュッと抱きしめた。

「あたし、パパのことは考えないようにして生きてきたのに・・・・・・いきなり二人も候補が現れるなんて、サンタさんってすごく気前いいのね」

「うん、そうだな」

「でもあたし、これからどうすればいいの? 今頃迷惑な話でしょ? どちらにとっても」

「何潤東の用事ってのは本当はクリスマスデートじゃないのか? まさか仕事じゃないだろう、こんな時間に」

「ああ、先月姉さんに思いっきり失恋して、吹っ切れたとこだろうね」

「阿明に失恋? 何監督が? 霖、どういうこと、意味わかんない」

「莉莉はどっちが理想の父親なんだ?」

 禹哲が余計なことを聞いた。

「・・・・・・わかんない」

 アタシなら・・・・・・迷っちゃうな・・・・・・何潤東は長身でモデルみたいにステキだけど・・・・・・。でもギターの中にわざわざ写真を隠して貼っておくなんて、莉莉の母親はよほどもう一人の彼のこと好きだったにちがいない。もっとこのギターに手がかりは入ってないのかな。アタシはギターの裏に貼ってあるステッカーを何の気なしに触った。あ、少しめくれ上がってる。濡れたせいではがれてきたんだ。アタシはそのめくれたステッカーの下に指が触れ、何かザラッとしてることに気がついた。ゆっくりとめくり上げると、その下には何か英文字が彫られていた。筆記体で・・・・・・W・a・k・・・・・・。めくれた部分はそこまでしか読めない。でもこれは彼の名前の広東語読みに違いなかった。このギターはきっと彼から貰ったものなんだ。莉莉のお母さんは、このギターをどんな思いで弾いていたんだろう。

「父親の名前でも書いてあったのか?」

「え? うん・・・でもまだ莉莉の父親かどうかはわからないでしょ」

 あまりにもビッグネーム過ぎて、誰も彼の名前を口に出来ずにいた。あの禹哲でさえだ。

 もしあの彼が父親なら、大スキャンダルになってしまう。

 亞綸が手を差し出したから、アタシはギターを手渡した。亞綸はギターを裏返し、ステッカーを全部剥がした。莉莉はそっと彫られた文字に触れる。

「このギター、個性的なデザインだろ。いつかボクたちが彼と同じステージに上がれば気付いてもらえるときが来るかもしれない・・・・・・」

「うん」

「それまで、新しいステッカーを貼っておこう」

 莉莉の美声は母親だけじゃなくて、父親ゆずりでもあったのかもしれない。莉莉の透き通っているのに幾重にも重なったような不思議な温かみのある声はきっと二人をミックスした奇跡の声なんだと思った。ギターの音色も、作曲の才能も、きっと父親ゆずりにちがいない。

「あたし、このままパパがわからなくても平気。だって霖パパも李先生も、本当のパパみたいにいつも優しくて娘のように気にかけてくれてるもん」

「うん。そうだったな」

「それに、霖がいてくれる・・・・・・」

「・・・・・・あのさ、二人ともそろそろ遠慮してどっか行ってよ」

「え!?」

 微笑ましい二人の様子に、ついみとれてしまっていたけど亞綸に言われてハッとする。

「ったく勝手なこと言いやがって。おい、行くぞ、鶏女!」

 また“鶏女”に逆もどりだ。でもそう呼ばれてホッとする。禹哲を追いかけるようにアタシは出て行きながらそっと振り返ると、亞綸と莉莉は・・・・・・もうキスをしてる! でもすっごくドラマティック・・・・・・。

 ドラマティックキスを横目に部屋の外に出てドアを閉めると、ちょうど隣の控え室からヒロさんが出てきた。心臓がチクリとした。廊下にはアタシたち3人しかいない。

「莉莉は大丈夫?」

「・・・・・・ああ。そっちは?」

「うん、さっき着替え終わって二人は会場に戻った。それでちょっと片付けてたとこ。東城衛が演奏で場つなぎしてくれてたんだって、助かっちゃった・・・・・・久しぶりね、禹哲」

 ああ、神様。どうしてアタシはこんな場面に居合わせてしまったのでしょう。気まずいどころじゃなく、あらゆる内臓という内臓が、ナイフで切り刻まれるような感覚だ。どう見てもこの二人、過去に何かあったようにしか思えない。

「ちょっといいか? 話がある」

 禹哲は親指を立てて控え室の中を指した。後ろからだから表情は見えない。

「え? でも・・・・・・」

 明らかにアタシを気にしているヒロさん。アタシの顔、そんなに動揺してる?

「オマエは戻ってろよ」

「うん・・・・・・」

 行かないでって言えなかった。言える訳ない。そして二人はそのまま控え室に入っていった。アタシは会場に戻ろうとしたけれど、その向こう隣の控え室に入っていく。そこはアタシがヒロさんにスタイリングしてもらった部屋だ。そこでドレスを急いで脱ぎ、自分の服に着替える。髪は飾りだけはずして鏡の前に置く。あっという間にシンデレラから一般庶民に逆戻りだ。まだ八時にもなってないのに・・・・・・。

 隣の部屋で禹哲とヒロが何をしてるのか、知りたくもなかった。早くここから逃げ出して、禹哲のことを考えなくても済むどこかへ消えてしまいたかった。借りていたドレスをハンガーにかけ、ハイヒールを揃えておき、アタシはすぐ部屋を出て角を曲がったところのエレベーターまで走っていく。

 下から上がってくるエレベーターが、妙に遅く感じた。やっとドアが開き、飛び込むと、中から出てきたキャップをかぶった男の人と思い切りぶつかってしまった。

「すみません! 大丈夫ですか?」

「す、すいません! アタシが悪いんです! 慌ててたから」

「いや、ボクも慌ててたので・・・・・・」

「大丈夫なので行ってください!」

「それじゃあ・・・・・・」

 アタシは焦っていたせいでろくに顔も見ず、彼の後姿を見送った。カジュアルなジーンズ姿に、スーツを入れるガーメントバッグを持ったその後姿には見覚えがあった。

 今の呉尊っ!? このままだと禹哲と鉢合わせちゃう!

「あの!!」

 アタシは考える暇もなく呼び止めた。振り返った彼は、まさしく呉尊だった。

「はい?」

「あ、あの・・・・・・えっと・・・・・・そうだ! アタシさっきヒロさんにドレス借りたんですけど、もう帰らなくちゃいけなくて、でもお礼を言えなくて、だから、その、お礼を伝えてもらえますか?」

「えっと、キミの名前は?」

「え? ア、アタシ、唐禹哲のマネージャーの蘇季妮です」

「蘇季妮さんだね? それじゃあ」

 もっと時間稼がないと!

「あの!! ファンなんです、握手してもらっていいですか?」

「はい」

 呉尊はにっこりと笑ってしっかりと手を握ってくれた。急いでるはずなのに嫌な顔ひとつしない。

「ヒロさんって、本当にステキな人ですね」

「キミもそう思う? ボクもだよ」

 サラッと奥さんを賞賛する呉尊もなんてステキなんだろう。二人は本当にお似合いの夫婦だ。アタシもいつかこんなステキな結婚できるのかな・・・・・・。

 そんなこと呑気に考えてる場合じゃなかった。でももうこれ以上引止められない。呉尊は大東の披露宴の為に駆けつけたんだから・・・・・・。

 アタシは呉尊に別れを告げてエレベーターに乗った。どうか彼が禹哲と鉢合わせませんように! 

 禹哲はヒロさんに何を話したんだろう。話だけで済んだのかな・・・・・・。エレベーターと一緒に急降下していくアタシのテンション。

 職を失い、恋を諦めた今日という日を、アタシは一生忘れない。

 だけどこんなクリスマスの夜に泣いたら負けだ。

 アタシは笑い飛ばして新年を迎えてやるんだから!

          Ep.Final「Kiss Me Now !」へつづく・・・・・・ 

目次と登場人物~Kiss Me Now !
目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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亞綸 生日快樂♪

亞綸Happy Birthdaybirthday 26歳ですね~shine

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  25歳の亞綸を振り返ると、それまでとは違う顔をたくさん見せてくれた気がしますshine

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              今年初めのラゾーナ川崎heart01

ギュウギュウ詰めになりながらも、ミンクロは見るのに必死でしたbearing 
イベント参加率が極めて低いミンクロは、亞綸だけこの日が初見で感動heart02
握手のとき、名前を呼んでもらうことにも成功scissors 
あの声、忘れませんconfident

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          ソロアルバム発売。もちろん買いましたよ~wink

現在連載中の『Kiss Me Now !』でも、亞綸の存在は欠かせず登場率多しですnotes

亞綸は不安定で複雑で奥が深いからミンクロ小説には欠かせないのです~

26歳の亞綸もこのままの亞綸でいてほしいような、乗り越えてほしいような、どちらもミンクロの正直な思いです・・・。

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 最後に次男&末っ子の仲良しショットで締めくくり~scissors

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飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.8

                   Ep.8「投げKISS」

禹哲篇

 なんでアイツを帰らせなかったのか・・・・・・今さら後悔しても遅いか・・・・・・。ただ、今の俺はヒロに思いを伝えることを優先させるべきだ。チャンスは今日しかない。今日こそはっきりとヒロに告げてやる。

 鶏女のヤツ、なかなか戻ってこないな・・・・・・。やっぱり帰ったのか? そのほうが俺としては都合がいい。アイツがいると、なんか調子が狂う。

 それに呉尊もまだ現れないのも、なお好都合だ。だがヒロと二人きりになるチャンスはあまり期待できそうにない。俺はこの会場内で実行するしかないのか? ヒロは姉貴と阿明、莉莉と一緒に写真を撮っている。

「なあ、そんな熱い視線を、誰に送ってるんだ? まさかボクの奥さんじゃないよなあ?」

 突然、そう絡んできたのは、少し酔ってるのか上機嫌な陳奕儒だった。めんどくさい男につかまったな・・・・・・。

「阿明は魅力的だから、さぞ心配でしょうね、陳奕儒」

「だろ? だけど禹哲。残念ながら阿明はボクしか見えてないんだよ!」

 はい、はい。わかってるさ、言われなくても。

「櫻雪は大東だけ、莉莉は亞綸、ヒロは呉尊・・・・・・。残念だったな、あそこの美女たちは一途過ぎて、さすがの唐禹哲でもおとせないだろうなあ」

 なんだよ、酔ったふりしてヒロのことを釘刺しに来たのか? っていうか姉貴は関係ないだろうが!

「そうだそうだ! 俺の奥さんも、おまえなんかには見向きもしないぞ!」

 今度は陳建州か。なんでもう泥酔してるんだ・・・・・・。

「ごめんなさいね、禹哲。黑人ったら、櫻雪さんが幸せになれるからって嬉しくて呑むピッチ早過ぎちゃって」

 嬉しさ半分、寂しさ半分ってわけか。

「俺の奥さん! 愛してるよ~!」

 陳建州が范瑋琪にキスをした。さすがにあの巨体を拒むことが出来ないことをわかっているのか、范瑋琪はおとなしくキスに応えていた。キスが終わると范瑋琪は「ごめんなさいね」と詫びてから陳建州を引っぱって席へ戻っていった。

 気がつくと陳奕儒は阿明と子供のところへ戻っていた。莉莉の姿は消えていて、姉貴は大東の母親と一緒だった。どうやらヒロの姿をまた見失ったようだ。

 次の瞬間、照明が暗くなったかと思うと、一箇所にライトが当たる。そこにはグランドピアノとイスが一つ用意されていた。マイクはピアノとイスの横に一つずつセッティングされている。亞綸と莉莉が歌うことは聞いていた。 

 司会の脩が、紹介すると亞綸と、ギターを抱えた莉莉が現れ、それぞれのイスに腰掛けた。

 亞綸はピアノに設置されたマイクに向かい、話し出す。

「呉庚霖です。そして黄莉莉」

 莉莉がぺこりと頭を下げる。

「ボクの三番目の兄と櫻雪を、歌で祝福させてください・・・・・・」

 亞綸はソロアルバムから続けて3曲歌い、くやしいが客たちは二人のハーモニーに聴き入っていた。姉貴なんかは泣きそうだ。だが、誰もが期待しているであろう、あの曲をまだ歌っていない。最後までもったいつける気だな。

「最後に・・・・・・この曲を選びました。それではもう一人・・・・・・」

 東城衛の戒がスタンドマイクをセンターに置く。

「もう一人・・・・・・唐禹哲!」

 俺!? 聞いてないぞ!!

 拍手の嵐と声援に自然と立ち上がってしまう。職業病か・・・・・・ったく! 俺が姉貴の披露宴をぶち壊しに出来ないことをわかってて、亞綸のやつめ! 

 俺がスタンドマイクの前に立つとすぐに亞綸が前奏を弾き始める。

 ・・・・・・やっぱりこの曲か・・・・・・ったくなんで俺がこいつらのヒット曲を歌わなきゃならないんだ。それにこいつら、俺が歌詞を知らなかったらどうする気だ?

ジニー篇

 会場に戻ると、禹哲が歌っていた。でも禹哲の歌じゃない。これは亞綸と莉莉の『百万回言っても足りないくらい愛してる』だ。

 最後まで全部歌えるの? 歌詞カードもないのに・・・・・・分かってればカンペを作っておいたのに・・・・・・やだ、アタシったら、まだマネージャー気分が抜け切れてない・・・・・・。

 でもそんな心配をよそに、禹哲はまるで自分の持ち歌のように感情を込めて、だけど適度にクールに歌い上げている。妹同然の莉莉の初ヒット曲だから、きっと嬉しくて何度も何度も聴いたに違いない。ホントにいいお兄ちゃんなんだなって思った。その後ろでギターを弾きながら、安心した表情で莉莉は歌っている。

 いいな、莉莉は・・・・・・。頼りになるお兄ちゃんと魅力的な彼氏に守られてて・・・・・・。

 一瞬、歌に集中してた禹哲の表情が変わった気がした。動揺してるみたい。もしかしてヒロさん? あたりを見渡し、よく目を凝らすと、入り口付近にヒロさんが立っているのが見えた。隣には誰か背の高い男の人がいる。呉尊が来たの? ううん、あれは呉尊じゃない。・・・・・・もしかして何潤東? 映画監督の? 

 あ、ピアノ、タッチミスした。亞綸まで様子がおかしくなってる。どうしちゃったんだろう・・・・・・。

 よかった、なんとか持ち直したみたい。

 三人の声が重なると、また全然違う味わいがある。禹哲が二人のハーモニーの邪魔になったらどうしようって、本当はちょっと心配してた。あれだけヒットしてみんなの耳になじんでる曲に、禹哲の声が加わっても、違和感があるんじゃないかって・・・・・・。でも三人は自然とバランスをとって歌ってるんだ。これを聴けたことは幸せなことだ。出席してよかったって心から思えた。

 歌い終わると、禹哲は「大東、二人を幸せにしろよ」とちょっとキザなこと言ってから観客に投げキッスをした。会場中の女性客が甲高い悲鳴をあげる。一瞬、禹哲と目が合った気がしたけど、それは多分たまたまで、その投げキッスは単なるステージパフォーマンスにすぎない。そう思いたかった。でも本当はそれがヒロさんに向けてのものだと認めたくなかっただけ。

 櫻雪さんはポロポロと涙をこぼしていて、偉偉がティッシュでその涙を拭いてあげている。アタシまでもらい泣きしちゃう。

 三人は席に戻らず、そのまま会場を出て行った。そして新郎新婦はお色直しで退席する。もちろんスタイリストのヒロさんもだ。

 アタシは知り合いが誰もいない状況になった。頼みの綱のギャビーは忙しく各テーブルをまわって撮影しているし・・・・・・。帰ろうかな・・・・・・。でもそれも失礼だし・・・・・・。

「楽しんでる? えっと、ジニーだったかな? 唐禹哲のマネージャーの」

 嘘っ! 見上げるとそこには微笑みを浮べた辰亦儒が立っていた。 

「はい、蘇季妮(スー・ジーニイ)です! 飛輪海のCDも本も全部持ってます! 明日香の本は全部読みました!」

 アタシったら舞い上がってこんな場所でバカみたいなこと言ってる。だって大東の婚約披露パーティーでは一度も話す機会がなかったから。ずっと亞綸ファンだったけど、やっぱり他のメンバーでも目の前にするとテンションが上がってしまう。

 アタシが一人でいたから気にかけてくれたのかな。優しいんだ・・・・・・イメージ通り。

「それは嬉しいな。どうもありがとう。妻も喜ぶよ。今頑張ってるから」

「じゃあ新作の予定があるんですね!」

「うん、今日も親友の大東の披露宴なのに早く帰って書きたくて仕方ないってさ。インスピレーションが冴えててアイデアがどんどん溢れてくるらしいよ。今夜は新月だってのに」

 “新月”? どういうことだろ。そう言えば明日香の小説には“新月”とか“満月”とか、よく月の描写が出てくる。

「ケルビン! ちょっと来てちょうだ~い!」

「ごめん、マーキーに呼ばれちゃったよ。話せて楽しかったよ。それじゃあ」

「あ、はい。こちらこそ楽しかったです」

 辰亦儒のスラッとした後姿を見送る。もしかしてあの人が香港人スタイリストのマーキー? 独特な感性で最近話題になってる人気スタイリストだ。最近ヒロさんに続いてフリーになったんだっけ。

 今日の彼? 彼女? どっちでもいいけど、今日のマーキーの服装、噂どおりかなりユニークだ。  

 

 アタシはまた一人ぼっちでかなり居心地が悪く、身の置き所がなくなった。とりあえず行きたくもないトイレへ向かってる。

 あれ、どっちだろ? たしか着替えた控え室のそばにあったはず・・・・・・。

 廊下を進んでいくとドアが少し開いている控え室がある。そこを通り過ぎるとき、中から禹哲の声が聞こえた気がした。アタシは立ち止まってのぞいてみる。

「何潤東は来ないはずじゃなかったのか!」

「ボクに文句言っても仕方ないだろ!」

「仕方ないだあ? どうするか決めたのか!?」

「・・・・・・それは・・・・・・まだだけどさ・・・・・・」

「何潤東が莉莉に母親のことを確認しに来たらどうする! そこでいきなり親子だとわかったとき、何潤東の反応が最悪だったら莉莉は傷つくんだぞ!」

「じゃあ、先に莉莉に伝えればいいのか! 何監督が確認に来るかどうかもわかんないのに!?」

 なんなの、この会話・・・・・・。たしか莉莉は父親の名前さえも知らないって言ってたはず。でも二人はまるで何監督が父親だという前提で話してる。

「よく聞けよ炎亞綸! 真実を受け止める強さを、今の莉莉は持ってるだろ? 後はおまえが支えればいいことだろうが!」

「バカ言うなよ! せっかく、やっとここまでぜん息の症状も落ち着いたのに、また逆戻りだよ! ボクはこのまま莉莉は知らないほうがいいと思うんだ! 何監督と接触させなければいいだけだ!」

「莉莉はおまえの物じゃないぞ! 一人の人間として真実を知る権利があるだろうが!」

 禹哲はものすごい剣幕で亞綸の腕を掴んだ。亞綸はそれを振り払う。

「うるさい! 莉莉が死んだらどうすんだよ! ボクは発作が怖いんだ! もうあんな思いするのはイヤなんだ!! 禹哲は莉莉が死んだって困らないから言えるんだ!!」

「おまえ!!」

 禹哲は亞綸の襟を掴みあげる。すごい剣幕だ。どうしよう、止めないと! そのときだった。アタシを押しのけて誰かが控え室へと飛び込んでいった。そして二人の間に入って力ずくで引き離した。

「いい加減にしろ!! おまえら隣の控え室までまる聞こえだぞ!!」 

 それは大東だった。誰かがアタシの肩にそっと手を置いた。振り返るとそれはヒロさんで、「大丈夫よ」という顔で頷いた。後ろに立っている櫻雪さんは泣いている。

「どけよ大東! 俺はこいつを殴ると決めたんだからな!」

「いいよ! 殴りたければ殴れよ! そのかわり莉莉に黙ってろよ!」

「うるさい!」

 禹哲が大東の制止を振り切って再び亞綸に殴りかかる。

「やめてえ!!!」

 アタシのこの叫び声よりも先に、また誰かが部屋へと飛びこんでいった。

 

 それはまるでスローモーションのように見えた。

           Ep.9「ドラマティックKISS」へつづく・・・・・・

目次と登場人物~Kiss Me Now !
目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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亦儒 生日快樂♪

今日はミンクロの大本命亦儒のお誕生日ですbirthday

threeone歳になられましたねpresent 

Birthday

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風が左側から吹いてるみたいなヘアスタイルもすっかり定着し、この先どんなふうに進化していくのかshine

伸ばしちゃう? それとも維持? また大業ヘアー? 楽しみですnote

O0440058311235514442             バンクーバーで撮影時の髪形、すごく好きでしたheart01

グレーを知的でキレイに着こなす亦儒、とってもステキですねlovely

以前にも書きましたが、ミンクロは亦儒のサンシャインスマイルよりもポーカーフェイスの方が好きなのですhappy02

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 677a0a85jw6ddryhkjnbfj  760b85e5jw6dfncupz0k2j_2
        上の三枚よりももっと無表情なのが好みですconfident

68b17729jw1dgxs6y3xm2j_2        伏し目がちも大好き♪ 長い指も好き♪ 二の腕のラインも好き♪

待ちに待った日本公式ファンクラブも本日プレオープン♪
その名も“CALVIN SMILE CLUB”shine
でもなぜかAZIOさんで使われてるのはミンクロ好みのポーカーフェイス画像。↓

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また後日正式なスマイリーな亦儒に差し替えるのでしょうか?

30歳の一年は、呉尊のことやおじいちゃんのご不幸もあって、心を痛めたであろう亦儒think

31歳はどうかハッピーな一年になりますようにnote 

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飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.7

                             Ep. KISS LESS

ジニー篇

 謹慎八日目。今日の会議でアタシの最終処分が決まった。

 解雇。

 キスの件と、よそのマネージャー暴行未遂の責任で。その相手事務所側も多少の非があったことを認め、解雇までは求めていないとのことだったけど、キスの件はアタシの非だ。元々アタシが唐禹哲に対して毅然とした態度をとれなかったことが招いたのだから。

 夕方、荷物を取りに行くと、他のスタッフからの憐れみや好奇の目にさらされた。

「元気でね」

「あなたも」

 そんなやりとりを幾度も重ね、事務所を出ようとしたときだった。

「おい」

 たった一週間しか聞いていないだけなのに、とても懐かしく感じる声に呼び止められた。

 振り返ると、相変わらずアタシには無愛想な顔しか見せない禹哲がタキシード姿で立っていた。ステキ・・・・・・。今日はクリスマス。お姉さんと大東の結婚式の日だ。クビになったばかりのこんなときでも胸が高鳴るほどステキに見える。でもアタシはなんでもない風を装って答える。

「何か用?」

「オマエの最後の仕事だ。俺を結婚式の会場まで送れ」

 腕を引っぱられながら外で待っていたタクシーに無理矢理乗せられる。そのくせ、車内では何も話しかけない禹哲。アタシたちはただ、それぞれ窓の外を眺めていた。胸がいっぱいで言葉なんて何も浮かばない。

 左腕のケガはすっかりよくなったからか、前のように禹哲はアタシの右側にいる。アタシを守ってくれてるって思うだけで充分幸せだ。

 禹哲が何か言いかけた気がした。だけどそんなときに限って禹哲の携帯が鳴った。

「俺・・・・・・今そっちに向かってるところだ・・・・・・ちゃんと間に合うからさ。・・・・・・ああ、うん。・・・・・・じゃあ、あとで」

 お姉さんからの電話かな? それとも? ・・・・・・今日の招待客を、アタシは知っていた。婚約披露パーティーのときに名簿を見せてもらったから。その中に、桐村裕恵という名前も入っていた。あの人気スタイリストHIROの本名だ。もちろん旦那様の呉尊も、揃ってブルネイから出席する。だから禹哲のテンションが下がって当然だ。

 禹哲は再び黙ってしまった。

 

 会場までは気まずくて長いようで、あっという間だった。また禹哲が何か言いかけた気がしたけど、アタシにタクシーチケットを無造作に手渡すと「じゃあな」と言ってタクシーを降りたから、アタシも「じゃあね」とだけ言った。これがアタシたちの最後の会話になるんだと覚悟した。タクシーが出発しても、アタシはバックミラーで禹哲の姿を目で追っていた。

 姿が見えなくなったところで、禹哲が携帯を忘れていることに気がついた。

「すみません、アタシもここで降ります」

 アタシはタクシーチケットを渡してタクシーを降り、急いで禹哲の後を追った。そしてどんな巡り会わせなんだろう。ホテルのエントランスに入ってすぐ、目の前にHIROが現れた。HIROの画像を検索して何度も見たことがあったから、すぐに彼女だとわかった。

「あの・・・・・・HIROさんですよね? この携帯、唐禹哲の忘れ物なんですけど、渡していただけますか?」

「え? ええ、わかりました。あの、アナタのお名前は?」

 アタシ、こんな声なのかな? だったらステキな声よね。ちょっと嬉しくなる。

「ヒロ! 呉尊の飛行機出発が遅れたってホント? あれ? ジニー?  遅かったじゃない待ってたんだから」

 待ってた? アタシは早くこの場を去りたいのに、運悪く莉莉が現れた。

「莉莉、紹介してもらえる?」

「あ、そっか。ヒロはジニーと会うの初めてだよね。ジニーは禹哲のマネージャーなの」

 莉莉はHIROにそう紹介してくれた。まだアタシの解雇を知らないようだ。

「あの、アタシこれで帰ります」

「え? どうして? ジニーも出席してくれるって櫻雪から聞いてるよ」

「アタシ、櫻雪さんの社交辞令だとばかり思って・・・・・・それにこんな格好じゃ・・・・・・」

 アタシはチェックのシャツにデニム姿で、とても華やかな芸能人の披露宴に出席できるような服装じゃない。

「そんなことなら心配ないわ。さあこっちに来て!」

 

 アタシはあれから無理矢理二人に連れてこられ、今、控え室にいる。

「やだヒロ! このドレス、ジニーにすごく似合ってる! 髪形もステキ!」

「そうでしょ? きっと似合うんじゃないかって思ったのよ! 私いつも二着用意してくるの。よかったわ役に立って」

「あの、アタシやっぱり出席なんてできない! 禹哲に叱られちゃうから!」

「禹哲にそんなことさせないから大丈夫よ。ねえ莉莉!」

「そうそう、あたしとヒロがいれば、禹哲なんて全然怖くないってば」

 ノックが聞こえて誰かが入ってくる。それは亞綸だった。

「莉莉! こんなとこにいたのか! ・・・・・・あれ? ジニー?」

 亞綸がマジマジとみつめてくるから恥ずかしくなる。

「ジニーすごく似合ってるよ。じゃあまた後で! 莉莉、リハやるから行くぞ!」

「は~い」

 莉莉はさっさと出て行ってしまった。嘘! HIROと二人っきり!?

「楽しみよね、ジニー。禹哲と二人が一緒に歌うなんて、最初で最後になるかも」

 え? 禹哲も歌うの? アタシは何も聞いてない・・・・・・。でも当たり前だ。もうアタシはマネージャーじゃないんだから・・・・・・。

「あ、これって禹哲に内緒なんだった。サプライズで歌わせるって莉莉たち、すごく張り切ってたから」

 なんだ、そうだったんだ。ホッとするアタシがいる。でもアタシが知らない禹哲を、この人は知ってるんだと思うと、やっぱりへこむ。

「ほらジニー、ちゃんと鏡を見て。このドレス、アナタが着るためにデザインされたみたいに似合ってるわよ」

 まるでアタシを励ますようにHIROは褒めてくれる。落ち込んでるの、もしかして気付いてる?

 ヒロさん・・・・・・なんてステキな人・・・・・・。禹哲が忘れられなくて当然だ。

 

 ヒロさんに連れられてアタシは会場に入る。彼女は隣のテーブルで、アタシのテーブルには禹哲と莉莉、亞綸の席札が置かれていた。まだ誰も席にいない。少しホッとする。 

「ジニー!」

 名前を呼ばれて振り返るとフラッシュがたかれる。誰?

「ギャビー! 台北に戻ってたの?」

 そこにはカメラマンのギャビーがいた。最近、小綜のお気に入りのカメラマンで、その関係で禹哲の写真も担当してもらっていた。ここしばらくはアジア中を駆け巡ってたらしいけど。

「どうしてここに? え? 結婚式の仕事もしてるの?」

「まさか。特別な友人に頼まれた時だけだ。今、まとも以上の仕事が出来てるのは、汪東城のおかげだからな」

「そうだったんだ・・・・・・」

「どうした? 今日は浮かない顔だな。せっかくのドレスが泣くぞ」

 ギャビーが私に向けてもう一枚シャッターを押すと、ちょうどBGMが変わる。前にはいつの間にか大東が立っていた。どうやら新婦入場みたいだ。ギャビーは入り口にファインダーを向ける。

 禹哲はどこへ行ったんだろう・・・・・・。

 扉が開くと、輝くばかりに美しい櫻雪さんが現れた。そして、新婦をエスコートしているのは・・・・・・え? 禹哲? 禹哲だ・・・・・・。普通は父親の役目のはずだ。

「ギリギリセーフ!」

 亞綸と現れた莉莉が隣の席に座った。

「ねえ莉莉。禹哲のお父さんは?」

「え? ジニー知らなかったの? 禹哲と櫻雪の両親は随分前に事故で亡くなったの」

 言葉が出ない。全然知らなかった。アタシは禹哲の過去を、ほとんど知らない。

 普段あまり笑顔を見せない禹哲が、笑顔でお辞儀をする。櫻雪さんと腕を組みながら、ゆっくりと客席の間を歩いていく。櫻雪さんの長いケープの両端を握ってついてくる男の子と女の子を、時折振りかえって気づかいながら。

「ふふ、偉偉(ウェイウェイ)と裕惠(ユーフイ)、可愛い」

「莉莉。あの子供たちは?」

「偉偉は櫻雪の子で、裕惠は阿明と亦儒の娘なの」

 櫻雪さん子供がいたんだ!  

「バツ一なの?」 

「櫻雪は禹哲の学費のために結婚したの。両親が亡くなったあと、櫻雪はお父さんの親友に引き取られたけど、禹哲は施設。その親友はお金持ちで、そこの息子は櫻雪に夢中だったらしいの。櫻雪は自分と弟の境遇の違いを嘆いて、それで好きでもない人と結婚してまで禹哲のためになりたかったみたい。あたしね、施設で禹哲に妹みたい守られながら育ったの。この前までママに捨てられたと思い込んで生きてきたんだけど、最近、亞綸のおかげでママはあたしを捨てたんじゃないってことがわかったの。そうやって禹哲と亞綸が支えてくれてるから、今のあたしがあるの」

 

 禹哲と莉莉、そして櫻雪の意外な真実。ううん、意外じゃなく、納得の真実だ。初め莉莉のことを、禹哲の片思いの相手なんだって勘違いしてたことを思い出す。それほどの二人の親密さの理由が、今初めて明らかになった。禹哲はお姉さんを守れなかった分、莉莉を守ってきたんだってこと、今のアタシには分かりすぎるくらいに分かる。亡くなったお父さんとの約束を、禹哲はしっかり守ってきたんだ。

「莉莉聞いていい? あなたのお母さんやお父さんは?」

「・・・・・・ママはあたしが小さい頃に亡くなってたの。でもその時ママの死を知ることができなくて・・・・・・だからあたしは捨てられたと思ってしまったの。パパは・・・・・・会ったこともなければ、どこの誰かも知らないんだあ」

 明るく話す莉莉にアタシの胸は締め付けられる。アタシの両親は元気なのに、親不孝なアタシは旧正月にしか帰ってあげてない。

 そうこうしているうちに、だんだんと禹哲たちが近づいてくる。どうか今はまだ気付かれませんように! 

「櫻雪! こっち向いて!」

 ああっ! 莉莉が呼ぶ声で禹哲もこっちを見た。思わず顔をそむけ、後からこっそり禹哲の反応を伺うと、どうやら気付いていない様子でホッとする。いずれバレることなんだけど・・・・・・。

 禹哲から大東へと櫻雪さんは手渡され、禹哲は大東の耳元で何かを囁いてから、席に着くためにこちらへ歩いてくる。きっと嫌味の一つ二つ、大東に言ったんだろうけど、アタシは今それどころじゃなく、言い訳も思いつかないでいる。

 禹哲は莉莉に一声かけると、まるでアタシが見えないかのように通り過ぎ、隣に座った。完全無視ってこと? それとも気がつかなかっただけ? 胸がチクリと痛んだ。

 式は人前式で、高校時代からの友達の東城衛のメンバーが司会と式の進行をしている。なんてお似合いな二人! 誓いの言葉を櫻雪さんの息子さん・・・・・・偉偉だっけ? その偉偉が誓いの言葉を堂々と読み上げてる。櫻雪さん泣いてる・・・・・・。いろいろあったんだろうな。きっと・・・・・・。あ、大東も泣きそうになってる。けっこう涙もろいんだ。アタシも泣いちゃいそう・・・・・・。

 偉偉が指輪の入ったケースを差し出すと、二人は指輪の交換をした。それからやっぱりキスでしょ? 

 キス・・・・・・。もう一生キスできないかも、アタシ・・・・・・。だってもう一生恋なんて出来そうにない気分だから。勇気を出して横目で禹哲の顔を盗み見る。こんな近くで生の顔を見るのは、もうこれで最後になるかもしれないと思ったから。

 明日からの禹哲は遠い世界の人で、アタシはただの一般人になる。

 禹哲はどこかをじっとみつめていた。その視線の先が、大東と櫻雪さんじゃないことはすぐにわかった。確認するのも怖かったけど、アタシは確認しずにはいられなかった。

 禹哲の切なげな横顔。胸がズキン、ズキンと何度も痛くなる。禹哲の熱い視線の先には、きっとあの人がいるはずだ。

 あの人・・・・・・HIRO、ヒロさん・・・・・・。

 禹哲の視線の先には、やっぱりヒロさんがいた。二人を祝福し、優しい微笑みをたたえたヒロさんの姿は、女のアタシでもみとれるくらいだ。禹哲の周りって、すごくきれいな人ばかり。アタシなんか振り向いてもらえるわけがないって、身にしみた。

 我慢していた涙がポロリとこぼれ落ちる。

 でもよかった・・・・・・。涙に気付かれても、結婚式に感動してるって思われるだけだから。

 アタシは新郎新婦へと視線を移す。彼らの横には、いつの間にか辰亦儒が立っていた。手にはシャンパングラス。そして周りの人たちにつられるようにしてアタシも立ち上がった。急いでナプキンで涙を拭いていると、辰亦儒が何かお祝いの言葉を述べて、「乾杯!」と言う。アタシは慌てて持っていたナプキンを置いてグラスに手を延ばすと、勢いでうっかり倒してしまった。それも禹哲の方へ! アタシはこの失態に声も出ない。

「大丈夫?」

 禹哲は倒れたグラスを立てて、「俺は飲まないから」と言って自分のグラスをアタシに渡すと、すぐにウェイターを呼んでくれた。禹哲は、うつむいているアタシに気付いていないんだと思った。なんだか情けなくなる。たった半年とはいえ、ほとんど毎日一緒にいたのに気付いてもらえないなんて。キスだってしたのに・・・・・・だんだん悔しくなってきた。

「・・・・・・大丈夫じゃないです」

 アタシはうつむいたまま思わずそう答えていた。

「オマエ、なんで・・・・・・」

 さすがに声で気付いたみたい。アタシは顔を上げて一気にシャンパンを飲み干してから禹哲を睨みつけた。

 禹哲は、アタシが今まで見た中で一番驚いた顔をしていた。あんまりその顔がびっくりしてるから、思わず吹き出してしまったくらいだ。

「わ、笑い事じゃないだろ!」

「だって、禹哲の顔、面白すぎるんだもん!」

「なんでここに!」

「あ、そうそう忘れてた! はい、これ!」

 アタシはバッグから禹哲の携帯を取り出してテーブルに置いた。

「俺の? あ、タクシーか・・・・・・」

 落としたことにも気付いてなかったみたい。そんなにも誰かさんのことばかり考えてたんだ・・・・・・。

「なんだ、そのドレス」

「ああ、これ? ステキでしょ? HIROが・・・・・・ヒロさんが貸してくれたの」

 禹哲は絶句してしまう。なんか面白くなってきちゃった。アタシとHIROが親しくなったなんて、禹哲的には冷や汗ものだろうから。別にアタシはヘンなこと告げ口したりなんかしないけど。

「それに、アタシ櫻雪さんから招待受けてたのよね。禹哲も知ってたんでしょ?」

「え? いや・・・・・・それは・・・・・・」

 禹哲をシドロモドロにさせられるなんて、なんだか気分がいい。

「アタシが出席するとそんなにも迷惑?」

「ジニー、やる~! 禹哲なんかやっつけちゃえ!」

 隣の莉莉が加勢してくれるから、心強い。どうやら式が終わって、披露宴までしばらく歓談の時間のようだった。新郎新婦と写真を撮ってる人もいる。

「いいな~アタシも一緒に撮りたい! ギャビーに撮ってもらっちゃお!」

「鶏女、ちょっと来い!」

 アタシは仕方なく禹哲の背中を追って会場を出る。そして人目のつかない場所まで来ると、禹哲は振り返る。

「ねえ、似合う? 誰だかわからないほど見違えたでしょ? 全部ヒロさんのおかげだけど。やっぱりトップスタイリストってすごいよねえ! 美人だし! あの呉尊を射止めたのも当然だよね」

 アタシ、禹哲を煽ってる。ちょっと酔いがまわってきてるとはいえ、こんなこと言ったら禹哲にもっと嫌われるの、わかってるのに・・・・・・。

「旦那様は遅れてくるみたいだけど、二人が並んだらすご~くお似合いなんだろうな~! 絶対に誰も割り込めないって感じ! 早く見てみたいな~!

 一気に考えもなしにしゃべり続け、ついにアタシは言葉が浮かばなくなり黙って禹哲の顔色を伺った。

「それだけ言ったら気が済んだか?」

 禹哲は顔色ひとつ変えず冷ややかだ。

「・・・・・・ごめん、アタシ、やっぱり帰る」

「別に・・・・・・」

「え?」

「別に帰れとは言ってない。姉貴が望んだことだ。俺がとやかく言うことじゃない。先に戻るから、落ち着いたら席に戻れよ」

 禹哲が背を向ける。ねえ、どっちが本心なの? どうすればあなたの本心がわかるの? アタシじゃヒロさんの代わりにはなれない? アタシ、身代わりだって構わない・・・・・・だから禹哲・・・・・・いつもみたいにキスして! そう心の中で叫んでいた。

 気付くとアタシは禹哲の背中に抱きついていた。禹哲はしばらくそのままでいたけど、キスもしなければ振り向いてもくれなかった。アタシの心の叫びは届かない。

 そしてアタシがゆっくりと体を離すと、禹哲は何も言わずに会場へと戻って行った。

               Ep.8「投げKISS」へつづく・・・・・・

目次と登場人物~Kiss Me Now !
目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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