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飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.5

              Ep.5 「ヤキモチKISS

禹哲篇

 

 5杯目ともなるとウィルバーは酒を出し渋るようになった。また俺が酔いつぶれるのを食い止めるためだろうが、これじゃ飲んだ気がしない。

 鶏女の楽しげで、いつもと違う甘ったるい声が俺の耳について仕方ない。別にアイツが他の男といるのが気に入らないわけじゃない! 俺が楽しくもないのにアイツだけが楽しんでるのが気に入らないだけだ。それに今は俺のマネージャーのくせに、その俺をほったらかしってのはおかしいだろ!

 

 たまらず俺は席を立ち、トイレへ向かった。だがトイレの前に来ると、中から汪東城と炎亞綸の声がする。

「なんか相談あるんだろ?」

「・・・・・・別に・・・・・・」

「本当か?」

「・・・・・・自分で解決するからいいよ」

「ならいいけどな」

「ありがと・・・・・・」

「ん? 何がだ?」

「別に」

「わけわかんねえな、おまえは」

 

 なんなんだよ、このむずがゆい会話は! トイレでする話か? おかげで俺はトイレの外で立ち聞き状態だ。  

「なあ亞綸。あのジニーって子さ・・・・・・」

「声のこと?」

「ああ。びっくりするくらい似てるよな」

「うん。やっぱ大東も思ってた?」

「禹哲のやつ、幸か不幸かってとこだな」

 ・・・・・・うるせえ、ほっとけよ!

ジニー篇

 カウンターで飲んでいた禹哲の姿が見えなくなった。もう帰っちゃったの? 

「どうかした?」

「ううん、なんでもないです。あのアタシ、飲み物もらってきます」

「ボクが行くから待ってて。何がいい?」

「え? あ、えっとトマトジュースで」

 小綜はすごく優しくてやることすべてがスマートだ。でも本当はアタシ、カウンターに行くための口実だった。ウィルバーに禹哲のことを聞きに行くための。

 別に禹哲が気になるわけじゃない! ちゃんと見張っておかないと、どこかのアイドルをお持ち帰りしてパパラッチされちゃうなんてことになりかねないからだ。

「あの・・・・・・ジニーさん?」

 振り向くと、そこには大東の婚約者の櫻雪さんが立っていた。つまり禹哲のお姉さん。

「は、初めまして! いつも弟さんにはお世話になっています! マネージャーの蘇季妮です!」

「いえ、こちらこそ、あんな弟のマネージャーを根気強く続けてもらって、本当に感謝しているのよ、ジニーさん。ジニーって呼んでもいいかしら?」

「も、もちろんです!」 

 ああ、なんてキレイで上品なの! とても禹哲と血が繋がってるとは思えない。

「ねえジニー。あの子、口が悪いでしょ? 亞綸や莉莉から聞いたんだけれど、アナタのこともヘンなあだ名で呼んでるみたいでごめんなさいね」

「いえ、もう慣れたから平気です」

「弟の肩を持つ訳じゃないんだけど、アナタだけは理解してあげて欲しいの」

「何をですか?」

「禹哲は、ああ見えてすごく不器用なのよ。人一倍、男は女を守るものだって思ってるのに、その表現方法が下手なのね。多分アナタにも伝わってないくらいに」

 櫻雪さんの言い方からすると、アタシは気付いていないだけで禹哲に守られてることになる。そんな訳ないけど。

「父がね、幼い禹哲によく言って聞かせてたの。女を守れなければ男じゃじゃないって。だからだと思うんだけど、あの子っていつも右側にいるでしょ? 歩く時も、車の中でも」

「あ、そういえばそうかな」

 でも車は左ハンドルだから禹哲が座る助手席は右側で当たり前だ。

「あの子、左利きだからなのよ。自分の利き腕の方に女性がいないと落ち着かないみたい」

「そうだったんだ・・・・・・アタシったらマネージャーなのに全然わかってなくて」

 アタシはとりあえず理解したふりをした。

「これからもずっと禹哲のことよろしくお願いします。結婚式にもぜひ禹哲と一緒に出席してね」

「え! そんなアタシなんかが・・・・・・」

 その時、誰かが急にアタシの背中に抱きついた。

「ヒロ! 台湾に帰ってたんだ~!」

 振り返るとそれは亞綸の天使、黄莉莉だった。けっこう酔ってるみたい。

「うそ! ジニー!? やだ、あたしてっきりヒロの声だって勘違いしちゃって! あっ!」

 黄莉莉はしまったとばかりに自分の口を手で押さえた。

 HIROの声? アタシの声をHIROの声と聞き間違えたってこと? 櫻雪さんは「もう、莉莉ったら!」と黄莉莉をたしなめている。そういえばいつか禹哲の携帯に黄莉莉が出た時も、アタシの声を聞いた彼女は「ヒロ?」って聞いた気がする。そうだ、ずっと前、小綜の付き人の頃一度だけ林志玲(リン・チーリン)に会えた時も、「友人と声がとても似てるわ」と驚かれたんだった。あれはHIROのことだったんだ。

「ジニー、莉莉、話してるとこ悪いな。櫻雪を借りてくよ」

 大東が櫻雪さんを連れて行ってしまうと、黄莉莉もそれに便乗して亞綸のところへ逃げるように戻って行った。でもそれでよかった。今のアタシに、愛想良く話すなんてこと、出来そうにないから・・・・・・。

 次から次へと疑問が浮かんでくる。禹哲はアタシの声質がウザイんじゃなかったってこと? それならHIROを思い出したくなくてあんなに嫌がってたことになる。

 忘れたくても忘れられないHIROの声・・・・・・。初めてアタシにキスしたとき、酔ってたうえに暗がりだった・・・・・・だから禹哲はアタシの声を聞いてHIROだと勘違いしたんだ・・・・・・あの時の禹哲は、身代わりキスの相手が誰でも良かったわけじゃない・・・・・・好きで好きで仕方なくて諦められなかったHIROをやっと取り戻したって、きっと酔って錯覚したんだ・・・・・・。だからあんなに切なくて優しくて愛のあるキスだった・・・・・・。

 でも禹哲はしらふで、はっきりとアタシだってわかってる時でもそんなふうにキスしてくれた・・・・・・あの車でのリアルキスみたいに。アタシをウザイって本気で思ってたら、あんなキス、できないよね? ・・・・・・でもアタシの声を聞くと、禹哲のキスはいつも激しくなる気がした。目を閉じていれば、キスの相手がHIROだって錯覚できるから?

「ジニー? 大丈夫? 気分でも悪いのか?」

 いつの間にか戻っていた小綜が、心配そうな表情でアタシをみつめていた。

「いえ、大丈夫です・・・・・・」

「やっぱり顔色が悪い。家まで送るよ」

「はい・・・・・・」

禹哲篇

 出入り口のところで、鄭元暢が鶏女にコートをかけている。紳士的な完璧なエスコートだ。鄭元暢と来たんだから鄭元暢と帰るのは当たり前だ。だが俺のマネージャーのくせになんの挨拶もなく帰ることはないだろうが。明日のスケジュールの再確認とか、いつもならしつこいほどするくせに今に限ってしないとなると、鶏女のヤツ、何かやましい気持ちでもあるんじゃないのか? いくら紳士的で草食系な鄭元暢でも、兵役前だぞ! ちょっとでもその気を見せれば肉食に変貌するかもしれない。まさかそれを期待してるんじゃないだろうな!

 俺は思わず鶏女の元に向かおうとしたときだ。後ろから汪東城が追い越していく。

「小綜! もう帰るのか? 一年は会えなくなるんだからもう少しいてくれよ! 禹哲、おまえが代わりにジニーを送ってけよ」

「は? あ、ああ・・・・・・」

 なんだか拍子抜けだ。鶏女が二人に挨拶しているうちに、先に外へ出ると、鄭元暢が呼んだと思われるタクシーが待っていた。挨拶を済ませ出てきた鶏女は無表情で無言だ。俺は少しムカつきながらも先にタクシーに乗り込んだ。

 走り出してからも鶏女はずっと無言で俺と目も合わせようとしない。鄭元暢と帰れずがっかりしてるのか!? そんなに鄭元暢と一夜限りを楽しみたかったのか!!

ジニー篇

 アタシのアパートの前に着くと、なぜか禹哲は運転手に料金を払ってタクシーから降りてきた。すごく不機嫌な顔だ。そして先に降りていたアタシの腕を強く掴んで歩き出した。

「痛い! 放してよ!」

 禹哲の手を思い切り振り払うと、一瞬、禹哲の表情が歪んだような気がした。だけど禹哲はすぐに背を向け、階段を先に上がっていく。

「話があるから部屋にあがるぞ」

「え? 何言ってんの! いやよ!」

「じゃあタクシーの中で聞けばよかったのか? それともここで大声で聞こうか? そんなに鄭元暢と一夜限りを楽しみたかったのかってな!」

「やだ! こんなとこでヘンなこと叫ばないでよ! 小綜に迷惑かけちゃうじゃないの!」

 

 アタシは仕方なく禹哲を部屋にあげた。ドアを閉めたとたん、壁に押し付けられ、禹哲の執拗な質問攻めが始まった。

「あのまま、あいつとどこへ行くつもりだったんだ!」

「小綜とアタシがどこへ行ったって関係ないでしょ!」

「関係なくない! 恋愛禁止はあいつも一緒だろうが!」

「小綜がアタシなんか好きなわけないじゃない!」

「当たり前だ! オマエがあいつに気があるのがみえみえなんだよ!」

「いったいどこがよ!!」

「顔赤くしたり、甘えたような声出してただろうが!!」

「アタシがどんな顔してどんな声出したって勝手じゃない!」

「あいつも男だぞ! やることはやるんだよ! あんな声出しやがって、自分から誘ってるようなもんだろうが!」

「何よさっきから声、声って! じゃあこの声ではっきり言えばいいんでしょ! 小綜好き! アタシは小綜が大好きー! 小綜愛してるーー!」

「やめろ! もういい!」

 やめない! 全部禹哲が悪いんだから! きっと聞きたくないはずだ。HIROと同じ声が他の男を好きだって言うのを!

「小綜ステキ! 小綜優しい! 小綜一番愛してる!」

「黙れ!」 

 アタシだってホントはしたくない、こんなHIROに嫉妬してるみたいな嫌がらせ! でもきっと禹哲はキスでアタシの口を塞ぐ・・・・・・。だからアタシはそれまで言い続ける!

「小綜好きになっちゃったの! キスして!」

 その瞬間、禹哲の唇は、強くアタシの唇に押し付けられた。

 ずっと待ってた・・・・・・期待通りの、激しくて、せつなくて、苦しいくらいのヤキモチのキス・・・・・・。禹哲のHIROへの思いが、どんどんアタシの体の中に注ぎ込まれていく・・・・・・。苦しい・・・・・・でも・・・・・・アタシはそれでもいい。キスされないよりはずっといい。身代わりだっていい・・・・・・。どうしてこんなにキスを求めちゃうの? 全然わかんない・・・・・・アタシ、いつからこんな女になっちゃったんだろ・・・・・・。禹哲のせいだ・・・・・・全部禹哲の・・・・・・。

「あ・・・・・・」

 禹哲は突然唇を放す。どうしちゃったの・・・・・・?

「おい、明日までなのか、作曲の締め切り・・・・・・」
 
え? すぐには頭が切り替えられない・・・・・・でも、そう言えば編曲の人が12月1日の午前中には見せて欲しいって言ってたような・・・・・・。

「このカレンダーにそう書いてあるぞ・・・・・・」

 振り返って後ろの壁のカレンダーを見る。そこには確かにそう書いてあった。

「明日って12月1日・・・・・・だよね?」

 アタシと禹哲は抱きあったまま、一瞬無言で見つめ合った・・・・・・。

「禹哲! どこまで書けてるの!?」

「この一週間でほとんど書き上げた。後はCメロ書き直すだけだ」

「完成させられるの!?」

「寝ないでも完成させるに決まってるだろ!」

「早く行って!」

 そう言って禹哲の腕を強く掴むと、禹哲は腕を押さえうめき声と共に顔を歪ませた。とっさに禹哲の袖を強引にまくり上げると、打撲のような紫のアザが腫れ上がっていた。

「何これ! いつやったの?」

「さあな」

 触ると少し熱を持っていた。

「早く脱いで!」

「はあ? いやに積極的だな。やっとその気になったか」

「バカ! 靴よ!」

 アタシは禹哲の反対側の腕を引っぱり、部屋にあげるとソファに座らせた。救急箱から取り出した湿布を腕に貼り、ネットをかぶせると禹哲はニヤリとした。

「いやに手馴れてるな。そういうプレイが趣味か? ナース服あるなら着て見せろよ」

「テニス部だっただけよ。筋肉疲労とか打撲とか、日常茶飯事だったから」

「なるほどな」

「明日病院行きなさいよ! ほらもう帰って!」

「ったく女ならもう少し優しく言えないのか? 婚期逃すぞ」

 禹哲はそう毒舌を吐きながら靴を履くとドアを開け、出て行く寸前に振り返った。

「おい!」

「何よ! まだ言い足りないの!」

「楽譜、また手直ししてくれよ、編曲家に見せる前にさ。じゃあな」

 禹哲はそれだけ言って出て行った。気付いてたんだ。アタシが楽譜直したこと・・・・・・。

 なんだろ、このあったかい気持ち。今までの禹哲に感じたことのない、不思議な気持ち。ヤキモチキスの後味の悪さを帳消しにするような、そんな気持ちだ。

 ふと禹哲の痛めたのが利き手の左腕だったことにアタシは気付いた。

 そうだ、この前のリアルキスの後だ。急ブレーキを踏んだとき、アタシを守ろうとして腕をハンドルで・・・・・・。

 禹哲が後部座席に座らないわけが、初めてわかった気がした。助手席に座るのはアタシが左側の運転席にいるから? でもさっきのタクシーの後部座席では、先に乗り込んでアタシの左側に座っていた。だけどそれは左腕をケガしてたからだったんだ。

 櫻雪さんの言っていたことが、すべて腑に落ちていく。 

 今まで見えていなかった禹哲の優しさが、アタシの胸いっぱいに広がって、さっき感じたあったかさと混ざり合っていく。 

 禹哲の顔を思い浮かべたとたん、アタシの心臓がキュっと締め付けられた。

 この感じ、あの時と一緒だ。あの時と・・・・・・。アタシはあの時から無意識に禹哲に惹かれていってたんだ。あの時の禹哲のあのキスがきっかけで・・・・・・。アタシの心臓が激しく鼓動し始めた。

 アタシは禹哲に守られてた・・・・・・愛されてなくても、今のアタシはそれだけで充分だ。アタシも禹哲を守ってあげたい。

 でも、今のアタシは、禹哲が無事に楽譜を書き上げることを祈ることしかできない。

                 Ep.6「ソルティKISS」へつづく・・・・・・

目次と登場人物~Kiss Me Now !

目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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