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2011年10月

飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.6

                        Ep.6 「ソルティKISS

 

ジニー篇

 あれから禹哲が初めて作曲した楽譜は、翌朝アタシが手直しして無事提出できた。そして編曲家や音楽プロデューサーから大絶賛された。あの曲は切なくて心に響くものがある。禹哲がどんな歌詞をつけるのかまだわからないけど、失恋ソングになる気がしていた。きっとHIROを思って書いたにちがいない。

 アタシと禹哲の関係は、相変わらずな部分と、不思議な連帯感とが半分半分になった気がする。
 でもあのヤキモチキス以来、一度もキスはしていない。そんな雰囲気になることを禹哲が避けている気もする。アタシの気持ちに気がついてしまったんだろうか。アタシは精一杯、なんでもない顔を演じているのに・・・・・・。

 

 今日は唐禹哲にとっての初めてのドラマ撮影初日だ。プロデューサーたっての希望で他の事務所の俳優との配役交代があったことが少し気がかりではあるけれど、この業界、そんなことは日常茶飯事だ。気にしてなんかいられない。

「ふん、大きい事務所のヤツは簡単に人の役を奪っていきやがる・・・・・・」

 アタシと禹哲がスタジオ入りすると、予想通り例の俳優が聞こえよがしに嫌味を言ってきた。

「おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」

 禹哲は、アタシもびっくりするくらい大きな声で爽やかに挨拶した。その様子に相手も面食らった様子だ。芸能界で生きていく自覚が芽生えたの? なんだか禹哲の成長が誇らしい。

 このドラマのプロデューサーは女性で、女心を掴むステキなアイドルドラマを数々手がけている。アタシは十代の頃から彼女のドラマで育ったようなもので、“恋愛のバイブル”ともいうべき存在だ。彼女も、禹哲の潜在的な魅力を見抜いてくれたにちがいない。だからあの俳優も一緒に仕事をしているうちに、きっと納得してくれるはずだ。

 だけど撮影に入ってからも、彼とのギクシャクした感はぬぐえない。何かモメ事が起きなければいいけど・・・・・・アタシの嫌な勘は当たる確立が高い。そしてやっぱりその勘は当たってしまった。

 それは主役カップルの出会いのシーンで、その二人だけにカメラが向いている時だった。

 例の俳優が軽く伸びをしたかと思うと、体操するように腕を振り回したのだ。その腕が禹哲の口のあたりに激しくぶつかるのをアタシは確かに見た。

 禹哲は何事もなかったように演技を続け、笑顔でセリフを言っているけど、絶対にかなり痛かったはずだ。それなのに・・・・・・。

 アタシの胸はキュンとなる。そして心の中で「好き」ってつぶやいていた。

「カット! はいOK!

 禹哲の今日唯一のシーンが終わった。いい役だけれど、まだ端役に過ぎず、出番はかなり少ない。アタシは共演者に挨拶をしてから禹哲を連れて一旦楽屋に戻った。

 

「唐禹哲、よく我慢したわね。エライぞ、いい子いい子」

「俺はガキかよ、ッツ・・・・・・」

 禹哲が顔を歪めた。

「大丈夫? どこが痛いの?」

「たいしたことない。口ん中ちょっと切っただけだ」

 強がる禹哲にもっとキュンとして、アタシの母性本能はエスカレートしていく。アタシは禹哲の顎に片手を添えて言う。

「ほら、見せて、ア~ンして」

「だからガキじゃねえって」

 頬をサッと赤らめ、顔をそむけた禹哲に、さらにテンションが上がっていく。すねた子供のような唇をこんなにも愛おしく感じるなんて・・・・・・。

 両手で禹哲の頬を挟み自分に顔を向けさせると同時に、すねてとんがった禹哲の唇にそっと自分の唇を押し付けると、禹哲は驚いたのか少し口を開けた。アタシはその隙に彼の口の中の傷口を舌で探しあて、そっとなめてみてから唇をはずした。そして急いで、

「単なる大人のご褒美よ」

 そう高飛車に早口で言ってみた。照れもあったし、アタシの本心を悟られたくなかったから。だけど予想に反して禹哲の顔は赤くなるどころか、少し冷めたような目でアタシを見ていた。

「ご褒美というより、罰ゲームだな」

 禹哲はそう言って苦笑いを浮べた。

「か、監督さんに帰る前に挨拶してくる・・・・・・」

 やだやだ! バカバカ、恥ずかしい! 何やってんだろ! 楽屋を飛び出すと、廊下には例の俳優の女マネージャーが、他の共演者のマネージャーたちと一緒にいるところに出くわしてしまった。

「あの唐禹哲って、才能もないうえに女たらしで、とっかえひっかえ遊んでるって噂ですよ! その上、役を奪い取るためにプロデューサーとホテルにまで行ったとか」

 アタシはツカツカとその女マネージャーに歩み寄ると、自然と手を振り上げた。そして思い切りその手を彼女の頬めがけて振り下ろした時だった。

 誰かがアタシの手首を掴んだ。それは禹哲だった。禹哲はそのままアタシを楽屋の中にひっぱり込みバタンとドアを閉めると、怒りに満ちた表情をアタシに向けた。

「バカか! さっき俺が我慢した意味がなくなるだろうが!」

「だって!」

 言い訳の言葉を捜す。でも急にノドがつまって涙が溢れ出した。

「だって禹哲がとっかえひっかえ遊んでるって・・・・・・昔はそうだったかもしれないけど、ヒック・・・・・・今は、今の禹哲はそんなこと絶対しないのに! 禹哲が好きなのはたった一人の人だもん! ずっとずっと思い続けてるだから! 才能だって、絶対に絶対にあるんだから!」

 禹哲は掴んでいた手首を引き寄せると、アタシの体を強く抱きしめた。キスされたことは幾度かあっても、こんなふうにただ抱きしめられたのは初めてだ。まるで泣いてる子供をなぐさめるようにアタシの肩を強く、それでいて優しく抱いてくれている。アタシが泣き止むまでずっと・・・・・・。

 それから禹哲は抱きしめていた手をゆるめると「汚ったねえ顔」と無表情で言いながらティッシュをアタシの顔に押し付け涙と鼻水を拭いてから今度は覗き込むようにみつめてきた。それは少し眉間にしわを寄せたような真剣な、初めて見たような表情だった。そして顔を傾けゆっくりと唇を近づけてくる。自然と目を閉じるとすぐに唇が重なり、まるで全身の血が駆け巡るくらいに沸き立つ気がした。

 こんないとおしげなキス初めて・・・・・・これはアタシへのご褒美キスなの? アタシの口の中は涙で少ししょっぱくて、禹哲のキズの血の味と混じりあっていくソルティキス・・・・・・。

「な、何やってんだ! おまえたち!!」

 その大声にアタシは心臓が止まりそうになった。その声の持ち主こそが、禹哲に恋愛禁止で契約させた上司張本人なのだ。

       *       *       *

 一週間の謹慎。それがアタシに科せられた最初の処分だった。他の事務所のマネージャーへの暴行未遂と、所属タレントにキスした契約違反。

 アタシはその間、何をするでもなく家に閉じこもってたり、一人で街をブラブラしてすごしていた。今日で七日目。

 後悔はしていない。多分、この仕事を失うことになるだろうけど、アタシは絶対に後悔しない。そう自分に言い聞かせるだけの毎日。

 禹哲が契約解除にならないのなら、アタシはそれでいい。アタシの代わりはいくらでもいるけど、禹哲の代わりに値する人なんてこの世にはいないから。

 気がつくと、禹哲のダンスレッスンスタジオのそばまで来ていた。今日はレッスンの日なのかそうでないのか、今のアタシには分からない。禹哲のスケジュールを把握しない日が来るなんて、考えもしなかった。バッタリと出くわさないうちに離れないと。

 街を歩いていると、CDショップに脚が自然と向く。禹哲の数少ないCDを、目に付くところに並び替えるのが日課だった。店内に女の子たちが楽しげな様子で入ってくる。早速禹哲のCDに目を留める彼女たち。

「唐禹哲って優しそうなのにどこかミステリアスでいいよね~絶対に大失恋とか経験してそう。それで、いまだにその人だけのこと思ってるとか」

「そうそう! そんな感じ~!」

 禹哲って案外わかりやすいヤツなんだ。ミステリアスどころか完全に見抜かれちゃってるじゃない。

 でも禹哲の本音なんて、そばにいるほど分からなくなるものだけど、ただひねてるだけじゃないってことだけは、今のアタシにはわかる。お姉さんと全然雰囲気が違うのも、何か過去に理由がある気がしていた。そのミステリアスな部分がアーティスト唐禹哲の魅力の一つなのだけど、アタシにとって素の唐禹哲も、いつまでも心を掴めないミステリアスな存在のままなのかもしれない。

禹哲篇

「ねえねえ禹哲! 今、魯肉飯買って戻る途中で誰を見たと思う?」

 新しく担当マネージャーになった古株の孫さんは、噂好きのウザイおばさんだ。俺への処罰がまさかこんな形になるとはな。おそらく道で有名人でもみかけたんだろう。ハードなダンスレッスンで腹ペコの俺は答えずに好物の魯肉飯をかきこむ。 

「なんとジニーよ! あの蘇季妮!」

 俺は危なくむせそうになった。

「元気がなかったわね~。声をかけるのもためらわれたわよ! っていうか道の反対側だったから声もかけられなかったんだけどね」

「俺、マンゴーアイス食べたくなったから買ってくるよ。孫さんも食べる?」

「え? あら行ってくれるの? じゃあお願い・・・・・・って返事も聞かずに飛び出してったわ・・・・・・」

 魯肉飯の店がある通りの反対側を、ひたすら走る。アイツに一度がつんと文句を言ってやらないと気がすまない。

 ここらへんで鶏女が寄りそうな店・・・・・・アイツがよく天津葱抓餅を買っていた店を覗くが姿はない。くそ、もう当てがない。俺はアイツのことをほとんど知らない。だが数件先のCDショップが目に入る。あそこでよく、俺のCDが売れているかをチェックしていたはずだ。店に飛び込むが、やはり姿はなかった。

 こんなに走ったのは久しぶりだ。息が切れてしばらく手を膝につき、治まってから顔を上げると、目の前の一番目立つ場所に俺の顔がずらりと並んでいる。新発売でもないのになんで・・・・・・。

「あっ! またあのコ、勝手に並べかえってったな。よっぽどの唐禹哲ファンなんだな」

 店長らしき男から俺は思わず身を隠す。

「ああ、店長。そういえばさっき来てましたよ。あのコ、よその店でも並べ替えてるのを見たことありますよ、オレ」

 どんな地道な作戦だ、鶏女のヤツ! アイツ、あれから俺が電話しても出やしない。前まではそんなこと一度だってなかったはずだ。俺の電話を無視するなんていい度胸だ。チマチマメールを打つ気にもならなければ、アパートを訪ねるのもなんだか気がひける。第一、なんで俺がアイツを追っかけるようなまねしなけりゃならないんだ! 

 このままクビになるのを指くわえて待ってるだけの鶏女に腹が立つ。それだけじゃない、アイツは上司に「アタシが無理矢理キスしました。処分はアタシ一人が受けます」と言ったらしい。恩着せがましいウザイまねしやがって! このままじゃ俺の怒りは収まらず、アイツを怒鳴りつけずにはいられない。アイツに会って、目の前で!

              Ep.7「KISS LESS」へつづく・・・・・・

目次と登場人物~Kiss Me Now !
目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.5

              Ep.5 「ヤキモチKISS

禹哲篇

 

 5杯目ともなるとウィルバーは酒を出し渋るようになった。また俺が酔いつぶれるのを食い止めるためだろうが、これじゃ飲んだ気がしない。

 鶏女の楽しげで、いつもと違う甘ったるい声が俺の耳について仕方ない。別にアイツが他の男といるのが気に入らないわけじゃない! 俺が楽しくもないのにアイツだけが楽しんでるのが気に入らないだけだ。それに今は俺のマネージャーのくせに、その俺をほったらかしってのはおかしいだろ!

 

 たまらず俺は席を立ち、トイレへ向かった。だがトイレの前に来ると、中から汪東城と炎亞綸の声がする。

「なんか相談あるんだろ?」

「・・・・・・別に・・・・・・」

「本当か?」

「・・・・・・自分で解決するからいいよ」

「ならいいけどな」

「ありがと・・・・・・」

「ん? 何がだ?」

「別に」

「わけわかんねえな、おまえは」

 

 なんなんだよ、このむずがゆい会話は! トイレでする話か? おかげで俺はトイレの外で立ち聞き状態だ。  

「なあ亞綸。あのジニーって子さ・・・・・・」

「声のこと?」

「ああ。びっくりするくらい似てるよな」

「うん。やっぱ大東も思ってた?」

「禹哲のやつ、幸か不幸かってとこだな」

 ・・・・・・うるせえ、ほっとけよ!

ジニー篇

 カウンターで飲んでいた禹哲の姿が見えなくなった。もう帰っちゃったの? 

「どうかした?」

「ううん、なんでもないです。あのアタシ、飲み物もらってきます」

「ボクが行くから待ってて。何がいい?」

「え? あ、えっとトマトジュースで」

 小綜はすごく優しくてやることすべてがスマートだ。でも本当はアタシ、カウンターに行くための口実だった。ウィルバーに禹哲のことを聞きに行くための。

 別に禹哲が気になるわけじゃない! ちゃんと見張っておかないと、どこかのアイドルをお持ち帰りしてパパラッチされちゃうなんてことになりかねないからだ。

「あの・・・・・・ジニーさん?」

 振り向くと、そこには大東の婚約者の櫻雪さんが立っていた。つまり禹哲のお姉さん。

「は、初めまして! いつも弟さんにはお世話になっています! マネージャーの蘇季妮です!」

「いえ、こちらこそ、あんな弟のマネージャーを根気強く続けてもらって、本当に感謝しているのよ、ジニーさん。ジニーって呼んでもいいかしら?」

「も、もちろんです!」 

 ああ、なんてキレイで上品なの! とても禹哲と血が繋がってるとは思えない。

「ねえジニー。あの子、口が悪いでしょ? 亞綸や莉莉から聞いたんだけれど、アナタのこともヘンなあだ名で呼んでるみたいでごめんなさいね」

「いえ、もう慣れたから平気です」

「弟の肩を持つ訳じゃないんだけど、アナタだけは理解してあげて欲しいの」

「何をですか?」

「禹哲は、ああ見えてすごく不器用なのよ。人一倍、男は女を守るものだって思ってるのに、その表現方法が下手なのね。多分アナタにも伝わってないくらいに」

 櫻雪さんの言い方からすると、アタシは気付いていないだけで禹哲に守られてることになる。そんな訳ないけど。

「父がね、幼い禹哲によく言って聞かせてたの。女を守れなければ男じゃじゃないって。だからだと思うんだけど、あの子っていつも右側にいるでしょ? 歩く時も、車の中でも」

「あ、そういえばそうかな」

 でも車は左ハンドルだから禹哲が座る助手席は右側で当たり前だ。

「あの子、左利きだからなのよ。自分の利き腕の方に女性がいないと落ち着かないみたい」

「そうだったんだ・・・・・・アタシったらマネージャーなのに全然わかってなくて」

 アタシはとりあえず理解したふりをした。

「これからもずっと禹哲のことよろしくお願いします。結婚式にもぜひ禹哲と一緒に出席してね」

「え! そんなアタシなんかが・・・・・・」

 その時、誰かが急にアタシの背中に抱きついた。

「ヒロ! 台湾に帰ってたんだ~!」

 振り返るとそれは亞綸の天使、黄莉莉だった。けっこう酔ってるみたい。

「うそ! ジニー!? やだ、あたしてっきりヒロの声だって勘違いしちゃって! あっ!」

 黄莉莉はしまったとばかりに自分の口を手で押さえた。

 HIROの声? アタシの声をHIROの声と聞き間違えたってこと? 櫻雪さんは「もう、莉莉ったら!」と黄莉莉をたしなめている。そういえばいつか禹哲の携帯に黄莉莉が出た時も、アタシの声を聞いた彼女は「ヒロ?」って聞いた気がする。そうだ、ずっと前、小綜の付き人の頃一度だけ林志玲(リン・チーリン)に会えた時も、「友人と声がとても似てるわ」と驚かれたんだった。あれはHIROのことだったんだ。

「ジニー、莉莉、話してるとこ悪いな。櫻雪を借りてくよ」

 大東が櫻雪さんを連れて行ってしまうと、黄莉莉もそれに便乗して亞綸のところへ逃げるように戻って行った。でもそれでよかった。今のアタシに、愛想良く話すなんてこと、出来そうにないから・・・・・・。

 次から次へと疑問が浮かんでくる。禹哲はアタシの声質がウザイんじゃなかったってこと? それならHIROを思い出したくなくてあんなに嫌がってたことになる。

 忘れたくても忘れられないHIROの声・・・・・・。初めてアタシにキスしたとき、酔ってたうえに暗がりだった・・・・・・だから禹哲はアタシの声を聞いてHIROだと勘違いしたんだ・・・・・・あの時の禹哲は、身代わりキスの相手が誰でも良かったわけじゃない・・・・・・好きで好きで仕方なくて諦められなかったHIROをやっと取り戻したって、きっと酔って錯覚したんだ・・・・・・。だからあんなに切なくて優しくて愛のあるキスだった・・・・・・。

 でも禹哲はしらふで、はっきりとアタシだってわかってる時でもそんなふうにキスしてくれた・・・・・・あの車でのリアルキスみたいに。アタシをウザイって本気で思ってたら、あんなキス、できないよね? ・・・・・・でもアタシの声を聞くと、禹哲のキスはいつも激しくなる気がした。目を閉じていれば、キスの相手がHIROだって錯覚できるから?

「ジニー? 大丈夫? 気分でも悪いのか?」

 いつの間にか戻っていた小綜が、心配そうな表情でアタシをみつめていた。

「いえ、大丈夫です・・・・・・」

「やっぱり顔色が悪い。家まで送るよ」

「はい・・・・・・」

禹哲篇

 出入り口のところで、鄭元暢が鶏女にコートをかけている。紳士的な完璧なエスコートだ。鄭元暢と来たんだから鄭元暢と帰るのは当たり前だ。だが俺のマネージャーのくせになんの挨拶もなく帰ることはないだろうが。明日のスケジュールの再確認とか、いつもならしつこいほどするくせに今に限ってしないとなると、鶏女のヤツ、何かやましい気持ちでもあるんじゃないのか? いくら紳士的で草食系な鄭元暢でも、兵役前だぞ! ちょっとでもその気を見せれば肉食に変貌するかもしれない。まさかそれを期待してるんじゃないだろうな!

 俺は思わず鶏女の元に向かおうとしたときだ。後ろから汪東城が追い越していく。

「小綜! もう帰るのか? 一年は会えなくなるんだからもう少しいてくれよ! 禹哲、おまえが代わりにジニーを送ってけよ」

「は? あ、ああ・・・・・・」

 なんだか拍子抜けだ。鶏女が二人に挨拶しているうちに、先に外へ出ると、鄭元暢が呼んだと思われるタクシーが待っていた。挨拶を済ませ出てきた鶏女は無表情で無言だ。俺は少しムカつきながらも先にタクシーに乗り込んだ。

 走り出してからも鶏女はずっと無言で俺と目も合わせようとしない。鄭元暢と帰れずがっかりしてるのか!? そんなに鄭元暢と一夜限りを楽しみたかったのか!!

ジニー篇

 アタシのアパートの前に着くと、なぜか禹哲は運転手に料金を払ってタクシーから降りてきた。すごく不機嫌な顔だ。そして先に降りていたアタシの腕を強く掴んで歩き出した。

「痛い! 放してよ!」

 禹哲の手を思い切り振り払うと、一瞬、禹哲の表情が歪んだような気がした。だけど禹哲はすぐに背を向け、階段を先に上がっていく。

「話があるから部屋にあがるぞ」

「え? 何言ってんの! いやよ!」

「じゃあタクシーの中で聞けばよかったのか? それともここで大声で聞こうか? そんなに鄭元暢と一夜限りを楽しみたかったのかってな!」

「やだ! こんなとこでヘンなこと叫ばないでよ! 小綜に迷惑かけちゃうじゃないの!」

 

 アタシは仕方なく禹哲を部屋にあげた。ドアを閉めたとたん、壁に押し付けられ、禹哲の執拗な質問攻めが始まった。

「あのまま、あいつとどこへ行くつもりだったんだ!」

「小綜とアタシがどこへ行ったって関係ないでしょ!」

「関係なくない! 恋愛禁止はあいつも一緒だろうが!」

「小綜がアタシなんか好きなわけないじゃない!」

「当たり前だ! オマエがあいつに気があるのがみえみえなんだよ!」

「いったいどこがよ!!」

「顔赤くしたり、甘えたような声出してただろうが!!」

「アタシがどんな顔してどんな声出したって勝手じゃない!」

「あいつも男だぞ! やることはやるんだよ! あんな声出しやがって、自分から誘ってるようなもんだろうが!」

「何よさっきから声、声って! じゃあこの声ではっきり言えばいいんでしょ! 小綜好き! アタシは小綜が大好きー! 小綜愛してるーー!」

「やめろ! もういい!」

 やめない! 全部禹哲が悪いんだから! きっと聞きたくないはずだ。HIROと同じ声が他の男を好きだって言うのを!

「小綜ステキ! 小綜優しい! 小綜一番愛してる!」

「黙れ!」 

 アタシだってホントはしたくない、こんなHIROに嫉妬してるみたいな嫌がらせ! でもきっと禹哲はキスでアタシの口を塞ぐ・・・・・・。だからアタシはそれまで言い続ける!

「小綜好きになっちゃったの! キスして!」

 その瞬間、禹哲の唇は、強くアタシの唇に押し付けられた。

 ずっと待ってた・・・・・・期待通りの、激しくて、せつなくて、苦しいくらいのヤキモチのキス・・・・・・。禹哲のHIROへの思いが、どんどんアタシの体の中に注ぎ込まれていく・・・・・・。苦しい・・・・・・でも・・・・・・アタシはそれでもいい。キスされないよりはずっといい。身代わりだっていい・・・・・・。どうしてこんなにキスを求めちゃうの? 全然わかんない・・・・・・アタシ、いつからこんな女になっちゃったんだろ・・・・・・。禹哲のせいだ・・・・・・全部禹哲の・・・・・・。

「あ・・・・・・」

 禹哲は突然唇を放す。どうしちゃったの・・・・・・?

「おい、明日までなのか、作曲の締め切り・・・・・・」
 
え? すぐには頭が切り替えられない・・・・・・でも、そう言えば編曲の人が12月1日の午前中には見せて欲しいって言ってたような・・・・・・。

「このカレンダーにそう書いてあるぞ・・・・・・」

 振り返って後ろの壁のカレンダーを見る。そこには確かにそう書いてあった。

「明日って12月1日・・・・・・だよね?」

 アタシと禹哲は抱きあったまま、一瞬無言で見つめ合った・・・・・・。

「禹哲! どこまで書けてるの!?」

「この一週間でほとんど書き上げた。後はCメロ書き直すだけだ」

「完成させられるの!?」

「寝ないでも完成させるに決まってるだろ!」

「早く行って!」

 そう言って禹哲の腕を強く掴むと、禹哲は腕を押さえうめき声と共に顔を歪ませた。とっさに禹哲の袖を強引にまくり上げると、打撲のような紫のアザが腫れ上がっていた。

「何これ! いつやったの?」

「さあな」

 触ると少し熱を持っていた。

「早く脱いで!」

「はあ? いやに積極的だな。やっとその気になったか」

「バカ! 靴よ!」

 アタシは禹哲の反対側の腕を引っぱり、部屋にあげるとソファに座らせた。救急箱から取り出した湿布を腕に貼り、ネットをかぶせると禹哲はニヤリとした。

「いやに手馴れてるな。そういうプレイが趣味か? ナース服あるなら着て見せろよ」

「テニス部だっただけよ。筋肉疲労とか打撲とか、日常茶飯事だったから」

「なるほどな」

「明日病院行きなさいよ! ほらもう帰って!」

「ったく女ならもう少し優しく言えないのか? 婚期逃すぞ」

 禹哲はそう毒舌を吐きながら靴を履くとドアを開け、出て行く寸前に振り返った。

「おい!」

「何よ! まだ言い足りないの!」

「楽譜、また手直ししてくれよ、編曲家に見せる前にさ。じゃあな」

 禹哲はそれだけ言って出て行った。気付いてたんだ。アタシが楽譜直したこと・・・・・・。

 なんだろ、このあったかい気持ち。今までの禹哲に感じたことのない、不思議な気持ち。ヤキモチキスの後味の悪さを帳消しにするような、そんな気持ちだ。

 ふと禹哲の痛めたのが利き手の左腕だったことにアタシは気付いた。

 そうだ、この前のリアルキスの後だ。急ブレーキを踏んだとき、アタシを守ろうとして腕をハンドルで・・・・・・。

 禹哲が後部座席に座らないわけが、初めてわかった気がした。助手席に座るのはアタシが左側の運転席にいるから? でもさっきのタクシーの後部座席では、先に乗り込んでアタシの左側に座っていた。だけどそれは左腕をケガしてたからだったんだ。

 櫻雪さんの言っていたことが、すべて腑に落ちていく。 

 今まで見えていなかった禹哲の優しさが、アタシの胸いっぱいに広がって、さっき感じたあったかさと混ざり合っていく。 

 禹哲の顔を思い浮かべたとたん、アタシの心臓がキュっと締め付けられた。

 この感じ、あの時と一緒だ。あの時と・・・・・・。アタシはあの時から無意識に禹哲に惹かれていってたんだ。あの時の禹哲のあのキスがきっかけで・・・・・・。アタシの心臓が激しく鼓動し始めた。

 アタシは禹哲に守られてた・・・・・・愛されてなくても、今のアタシはそれだけで充分だ。アタシも禹哲を守ってあげたい。

 でも、今のアタシは、禹哲が無事に楽譜を書き上げることを祈ることしかできない。

                 Ep.6「ソルティKISS」へつづく・・・・・・

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飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.4

              Ep.4 「リアルKISS」 

ジニー篇

 あれから一週間ほど、アタシと禹哲の間には、これといって何も起きなかった。二人きりになることも少なく、なってもたいてい禹哲は平然と仮眠をとっていた。アタシ一人が意識しちゃってるみたいでなんだかくやしい。

 この前のマンゴーキスはいったいなんだったんだろう。

 答えは二つに一つ。一つは単にマンゴーアイスを少しでも味わいたかったから。もう一つは最後の一個を食べてしまったアタシへの嫌がらせ。

 今日の仕事はMVの撮影だ。相手役のコはどうやら関係者の娘さんで、唐禹哲みたいな駆け出しのアーティストの相手役には不満があるらしい。そういうわけでのフェイクキス、つまりキスしたように見える演技を要求されている。

「ねえ、ちゃんと歯を磨いたんでしょうね?」

 禹哲は撮影前なのに余裕でゲームをしている。緊張感まるでなし。

「フェイクだろ? 磨く必要ないだろうが。それにお偉いさんの娘かなんだか知らないけどキス拒否って、何様だよ」

「バカ! シーッ! 聞こえたらどうすんのよ!」

「あ~っ! オマエのせいでゲームオーバーだ! うるさいんだよ、オマエの声のほうが!」

 結局、禹哲は歯も磨かずに撮影に入る。出会いのシーンと別れのシーンはロケで別撮りの為、今日は部屋のセットでの中盤のキスシーンのみの撮影だ。禹哲にとって、初のキスシーンだからか、アタシ一人落ち着かない。当の禹哲はマイペースに役を淡々とこなしていくのに、アタシはキスシーンが近づくにつれてなぜかイライラがつのる気がした。たかがフェイクのキスシーンに、あたしが動揺だなんてありえない。

 憧れてた小綜のドラマ撮影に同行したときでさえ、林依晨とのキスシーンには、ドキドキしてみとれてしまっただけだったのに・・・・・・。

 撮影監督が二人を呼び出し、次のシーンの説明をしている。その身振りの様子から、次のシーンがキスシーンだとわかった。禹哲の様子は相変わらずだけれど、ふと相手役のコの顔を見ると、少し蒸気している気がした。フェイクとはいえ、若い新人の女の子なのだから緊張するのはあたりまえだ。

「アクション!」

 監督の声で、そのフェイクキスのシーンが始まった。

 ソファで眠っている彼女に、近づく禹哲。気付いて目を覚ます彼女はキスを受け入れるように再び目を閉じる・・・・・・そこで覆いかぶさるようにしてキスをしようとする禹哲・・・・・・。

 アタシからの角度は二人の口元が丸見えの場所だ。ゆっくりと禹哲が彼女の唇に、自分の唇を近づけていく・・・・・・なんだか他人のプライベートなキスを覗き見している錯覚に陥る。すごくリアルでイヤな感じ・・・・・・。彼女の表情、まるで恋してるみたい。これって演技なの? 新人とは思えないくらい・・・・・・ふと禹哲が彼女のことを“けっこう可愛い”って言っていたことを思い出す。さらに嫌な予感がしたその時だった。すっと彼女は禹哲の首に腕をまわしたと思うと、二人の唇が重なり濃密なまでのキスを交わし始めた。禹哲もそのキスに確実に応えてる・・・・・・。

 アタシは目を逸らしてしまう。心臓に何かがつき刺さったように痛みが走った。

「カット!」

 二人はすぐには離れずに、3秒は続けていたような気がした。直視は出来ない・・・・・・。それから禹哲は「大丈夫?」と彼女を気づかうような言葉をかけてから戻ってきた。アタシは何事もなかったように「はい、コーヒー」と言って無表情に禹哲に手渡してからすぐに、相手の男性マネージャーのところに走っていった。

「すみません、予定と変わってしまって・・・・・・どうお詫びをしたらよいか・・・・・・」

「いやあ、あれはうちも同罪ですから気になさらないでください。いい雰囲気で撮影が進んだようで、気持ちがのったんでしょう。彼のリード、なかなかよかったですよ。一瞬だけでも恋しちゃいますよ、あれじゃあ、なあ?」

「いやだ、もう! 知らない!」

 相手役のコは真っ赤になって照れながらも、チラっと禹哲のいる方に視線を送った。当の禹哲は気にもしてないようで、アタシの痛む心は少し癒された。って何それ、そんなわけない! 関係ない、アタシがそんなこと! まるで嫉妬していたみたいじゃない! 

 帰りの車の中はBGMがひたすら流れているだけだった。話す心境になんてなれない。なぜかいつも助手席に座る禹哲が恨めしい。後ろに座ってくれればまだ楽なのに。

「いやに静かだな」

「・・・・・・アタシの声はうざくて聞きたくもないはずじゃあ?」

「いつもなら文句の一つも言うはずなのに、何も言わないのも気持ちわりいぞ」

「ご勝手に気持ち悪くなってて!」

「はは~ん」

「・・・・・・何よ」

「嫉妬だな?」

「はあ? バカじゃないの」

「演技のキスだぞ」

「そうは見えなかったけど!」

「あのコが勝手にその気になって押し付けてきただけだろ。俺の責任じゃない」

「舌絡めてたくせに言い逃れする気!」

 やだ、アタシ露骨なこと! 

「おい! 赤だぞ!」

 え!? とっさに急ブレーキを踏むと、アタシの体は勢いよく前に倒れこむ!

「バカ! シートベルトくらいちゃんと締めとけよ!!」

 気付くとアタシの体は禹哲の左腕に支えられ、そのおかげでハンドルに顔をぶつけずに済んでいた。

 ・・・・・・シートベルト締め忘れるなんて、アタシ、どうしちゃったんだろ・・・・・・。

「オマエは知らないだろうが俺のリアルキスはあんなもんじゃないぞ」

 禹哲は自分のシートベルトを外すとすぐさま、アタシのシートを倒しながら唇を押し付けてきた。ヤダ! 他のコとキスしたあとなんて!

 そう心では拒絶しながらも、アタシは体中に電流が走ったようで、呼吸も忘れて彼の唇を受け入れていた。

 切なくて、優しくて・・・・・・まるで愛されてるって錯覚しちゃいそうなキス・・・・・・。アタシは知ってる。このキス・・・・・・あの夜の身代わりキスと似てるもの・・・・・・。でも誰のことを思って・・・・・・キスしてるの? HIROだってわかってる・・・・・・。それでもやめられない・・・・禹哲・・・・・・・。

「禹哲・・・・・・」

 アタシの声にならない声をさえぎるようにキスは突然激しくなる。意識が朦朧としてきた・・・・・・何がどうなってるのかさえわからない。でもこれだけはわかってる。アタシはただ、求めてた。ずっとこんなキスを待ってたんだって。アタシはもう禹哲のキスの虜だ・・・・・・。誰を思っていてもいい。今、禹哲の本物のキスは、アタシだけのものなんだから!

 車のクラクションが鳴り響き、禹哲は唇を離す。呼吸はみだれ、すぐには目も開けられない。

「おい、発進しろよ。後ろ、うるさいから」

 いつも通りの禹哲の口調に、体中が醒めていく。

「う、うん・・・・・・」

 アタシはぐったりとした体を無理矢理シートと共に起こす。

 

 それからアタシたちはマンションに着くまで何も話さなかった。相変わらずのまるで何もなかったかのような禹哲の様子に、前の時よりも落胆している自分に気付く。

 そして着いてからも翌日のスケジュール確認を済ますと、禹哲はあっさりと車を降りていった。

 途端にせき切った様に涙があふれ出す。

 さっきまでのアタシの高揚感は、微塵もない。アタシは馬鹿だ。キスに溺れるなんて。自分をこんなに嫌悪したことはない。ホントは愛されてもないのにあんなこと・・・・・・。

 禹哲にとってはあれくらいのこと、なんでもないんだと、アタシは思い知らされた。アタシHIROの身代わりにも値しない、あの新人のコと同じ、単なる通過点に過ぎない女なんだと・・・・・・。

禹哲篇

 部屋に戻ってからも、蘇季妮(スー・ジィニイ)の泣き顔が頭にこびりついていた。あの時振り返りさえしなければアイツのあんな顔見ずに済んだのにな。

 アイツは根っからの芸能界好きだ。マネージャーという仕事を手放すくらいなら、好きでもない俺のキスでも受け入れるしかなかったんだろう。

 バカなことをした・・・・・・今さら気付かされた。アイツはそこらのカンタンな女じゃない。

「イテっ・・・・・・」

 冷蔵庫を開けた左腕に痛みが走った。くそ、さっきより痛みが増している。よりにもよって利き腕やっちまった。俺は缶ビールを取り出すと、仕方なく右手でタブを開けた。

 缶ビールを口にしながら、ふとキーボードの上に置きっぱなしになっていた楽譜が目に留まる。もうこの一ヶ月ほどは、作曲する気にもなれずそのまま適当に放置してあった。その楽譜がきちんと順番に並べ揃えられていた。いったい誰が? 俺以外にこの部屋に入ったのは考えるまでもなく蘇季妮ただ一人だ。

 なんでアイツ、バラバラになっていた楽譜を順番にできたんだ? まだ誰にもちゃんと見せたことも聞かせたこともないはずなのに・・・・・・。よく見ると、何箇所か手を加えたような音符がある。きっとこの部屋が薄暗かったせいで、俺が青いペンで楽譜を書いていることに気がつかなかったんだろう。アイツは黒のペンで書き加えていた。

 俺は施設育ちで、ちゃんとした音楽教育は受けていない。楽譜の書き方は独学の自己流だ。アイツはそれなりの家庭の娘なんだろう。ピアノか何かを習っていたに違いない。

 だけどまるでこの曲を知ってるかのように、きちんと訂正されている。どうしてだ?

「禹哲・・・・・・」アイツの声が頭の中でリフレインする。あの声を聞くと冷静でいられなかった。あの声を打ち消したくて仕方なかった・・・・・・。

 くそっ、もう考えるのはよそう。アイツのやることなすこと、俺の冷静さをかき乱す。だけどその反面、俺をホッとさせる気の置けなさが心地いいのも否定できないでいる・・・・・・。

ジニー篇

 ドアフォンが鳴った。ドアを開けると、そこには禹哲が立っていた。アタシのアパートを訪ねてくるなんて初めてのことだ。ただでさえ車でのことが気まずいのに・・・・・・。

「な、何? 急にどうし・・・・・・」

 左腕で抱き寄せられたかと思うと、アタシの唇はもう奪われていた。その激しさに耐えられないアタシの体をを禹哲のもう片腕が支え、アタシはそのままベッドに押し倒されていた。

「ジニー、もう自分の気持ちを抑えきれない・・・・・・俺にはオマエだけだ・・・・・・好きだ」

 嘘! 禹哲がアタシ「を好きだなんて・・・・・・そんなの信じられない!

「嘘じゃない。信じろよ」

 禹哲ったらアタシ「の心の中をこんなにもわかってくれてるなんて・・・・・・。でも・・・・・・でもHIROは?

「ヒロなんか過去のことだ。今の俺にはオマエだけしか見えない」

 禹哲は耳元でそう甘い声で囁いた。禹哲じゃないみたい・・・・・・。なんだかかえって怖くなる。とまどいの気持ちが胸の奥で渦巻く気がした。

 え!! 気付くといつの間にか禹哲は何も着ていない。いつの間に脱いだの? ここはベッドの上で、アタシの上にいる禹哲は裸で、でもまだ心の準備ができてない・・・・・・だってアタシは禹哲のこと、大嫌いなはずだし、こんなにもドキドキしちゃうけど、それはキスが上手だからってことだけで! それにこのシチュエーションなら誰だってドキドキしちゃうはずよね!?

「顔が赤いな・・・・・・可愛いよ、ジニー・・・・・・いいだろ?」

 禹哲のへんに甘い言葉になんだか寒気がしてきた。アタシの知ってる俺様キャラの禹哲はアタシにこんなこと言わない! 絶対に! 「もったいつけんなよ、減るもんじゃないし」くらい言ってのけるはずだ。え? 嘘! アタシも何も着てない!

「オマエのすべてが欲しいんだ・・・・・・」

 迫り来る裸の禹哲! やだ! こんなことありえない!! 絶対に!!!!

「あれ・・・・・・?」

 目をゆっくり開けると、そこには巨大なクマのぬいぐるみの顔が・・・・・・。去年の創立記念パーティーのビンゴ大会でもらったものだ。窓の外は明るくなっている。・・・・・・夢?

 ぬいぐるみ抱きしめて禹哲とのあんな夢を見ちゃうアタシって、相当どうかしてる。

 でも、唇が重なったときの感触、すごくリアルだった・・・・・・。 

 

 今日で11月も最後の日だ。今日は禹哲と会う仕事がないことに少しホッとする。車の中でのリアルキス以来、私たちの間には何事もない。もう禹哲はアタシをいじめることに飽きたのかもしれない。アタシが嫌がればこそ楽しめた無理矢理キスも、アタシが二度も受け入れてしまったことで、彼はきっと冷めてしまったにちがいない。

 これでよかったんだ、これで・・・・・・。それなのに、アタシはまたキスされることを待ちのぞんでるみたいだ。

 ううん、そんなはずない、そんなはず絶対にない!

 

                

禹哲篇

「ちゃんと来たな、弟!」

 背中を汪東城に思いっきり叩かれ、飲んでいた酒でむせる・・・・・・。カウンターのウィルバーはチャンスとばかりに厨房へ消えた。俺の経営に関する小言から解放されてホッとしてるにちがいない!

「・・・・・・まだ弟じゃないっつうの。姉貴の気が変わるかもしれないだろうが」

「それが婚約披露飲み会で言うセリフかよ。まあいい、来てくれたんだからな」

 普通はパーティーだろうが。飲み会程度の店で悪かったな。そこらのホテルよりは旨いものを出してるつもりだ。

「仕方ないだろ、姉貴の頼みだからな。だけどなんで今さら婚約披露だよ、しかも今日急にメールで召集って」

「式の当日来られないヤツもいるだろ? ここなら気軽に集まれるしな。・・・・・・おまえ一人で来たのか?」

「悪いか」

「いいや。多分一人だろうと思ってたさ。まだヒロから立ち直れてないって噂だからな」

 汪東城は少し出来上がっているのか、なれなれしく俺の肩に腕をまわしてきた。俺の左腕に痛みが走る。

「うるさい。いてもこんなところに連れてくるか!」

 俺は痛みをこらえて何気に汪東城の腕を振り払った。

「亞綸は莉莉と来てるぞ」

「あいつらはとっくに公認だろうが」

「亦儒は阿明とあっちにいるぞ」

「問題外だ」

 そこへ新たに誰かが店内に入ってきた。よく見るとそれは鄭元暢だ。

「小綜! 来てくれて嬉しいよ。忙しいのにありがとう」

「大東、おめでとう! 結婚式に出席できないのが残念だよ。悪いな本当に」

 鄭元暢は来月、入隊が決まっている。一年はおさらばだ。

「今夜来てくれただけで充分さ。あ・・・・・・誰だよ、紹介してくれよ小綜」

 どうやら鄭元暢は女連れのようだ。俺は恋愛禁止でもあいつはいいのか? いったいどんな女と付き合ってるんだ? 汪東城の体が邪魔で顔が見えない。最近余計な筋肉つけすぎだぞ! 

「あ! ジニー! あれ? 今夜は小綜と一緒なんだ?」

 俺より先に炎亞綸が声をあげる。ジニーだって? ジニーってまさか鶏女? 蘇季妮のことか!?

 思わずスツールから降りて、俺はその女の顔を見る。そこにはまぎれもなく鶏女の顔があった。いつもよりちゃんとメイクして、俺の前では着たこともない、そんな服持ってたのかよっていうキレイめファッションに身を包んだ鶏女がちょっと照れたような表情で鄭元暢の隣に立っている。

「阿布は知り合いみたいだね。大東は覚えてないかな? ボクの前の付き人だった蘇季妮だよ」

 鄭元暢はそう言いながら、なにげなく鶏女の腰に腕をまわした。そのなにげなさになぜか苛立つ。

「ああ! ドラマの現場で何度かみかけたよ。・・・・・・あれ? キミ最近どっかで会わなかった?」

「ええ。あの・・・・・・このビルの階段で・・・・・・」

「ああっ! ぶつかって落ちそうになった子だ!」

「あのときは助けていただいてありがとうございました!」

 そんなことがあったのか? あ、莉莉の部屋に俺を迎えに来た朝か。

「それで、今、二人は付き合ってるのか?」

 んなわけないだろ、汪東城! 

「実はそうなんだ」

「ええっ!」

 鄭元暢のカミングアウトに思わず俺は声をあげてしまった。しかも顔を真っ赤にした鶏女と、亞綸の三人同時にだ。そして鄭元暢が大声で笑い出す。

「冗談、冗談! 連れがいないのも寂しいから、ちょうど事務所でタイミングよく会ったジニーを誘ったんだよ」

「びっくりさせないでよ小綜! でもボクより驚いてたのは禹哲だけどさ。ね! 禹哲」

「う、うるさいぞ、炎亞綸! 俺のマネージャーが看板スターとスキャンダル起こしたら大問題だろうが! それだけのことだ!」

「キミ、禹哲のマネージャーなのか。扱いが大変だろうけどこれからもオレの義弟をよろしくな、ジニー」

「は、はい! 本当に扱いが大変だけどがんばります!」

 汪東城と鶏女の言葉に周りが大笑いする。どういう意味だ! ここに鶏女を連れてきた鄭元暢を恨まずにはいられない。

「そんな怖い顔しないの! お祝いの場なんだから」

 鶏女が小声で俺をたしなめると、俺が言い返す前に亞綸に呼ばれて行ってしまった。聞けよ鶏女!

「いい子だよな、ジニーは」

 鄭元暢が俺に話しかけてきた。

「・・・・・・そうですか?」

「今度、ボクのマネージャーになってもらおうかな、兵役から戻ったら」

「は? や、やめたほうがいいですよ、やること雑だし、うるさいし・・・・・・それに・・・・・・」

「これも冗談、冗談! 手放したくないならちゃんと捕まえておかないと、ボクがほっておかないけどな」

 何を言ってるんだ、この男。どういう意味だ? おい! ・・・・・・と俺が鄭元暢に詰め寄りかけた時だった。店内のBGMが急に止まり、ハッピーバースデーの曲が流れ始めた。ステージにライトが集まると“亦儒&亞綸生日快樂”と書いてあるでかいケーキを載せたワゴンを姉貴と莉莉が押してステージに現れた。事情を察した招待客たちはすぐさま声を合わせて歌い始めた。

「サプラーイズ! 亦儒、亞綸! 早くステージに上がれよ!」

 汪東城が二人を手招きすると、陳奕儒は満面の笑みで、亞綸は照れくさそうにステージに上がる。

 そういえば陳奕儒は誕生日に3年遅れのハネムーンへ行っていたんだったな。亞綸は今年もバースデーライブをやったせいで、身内ではちゃんと誕生祝いをやっていないと莉莉が言っていた。

「二人とも、今夜はオレたちの婚約披露会に来てくれてサンキュ。今日が誕生月最後の日だ。遅くなったけど、兄弟、ハッピーバースデー!」

 おい、やることが大げさだし寒いぞ汪東城。おかげで鄭元暢に真意を聞き損ねたじゃないか! 

 俺はまた一人、カウンターで飲み続ける。楽しげに鄭元暢に寄り添う鶏女を尻目に・・・・・・。

                    Ep.5「ヤキモチKISS」へつづく・・・・・・

目次と登場人物~Kiss Me Now !

目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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呉尊 生日快樂♪

呉尊ハッピーバースデーbirthday

毎年同じこと思うのですが、とても32歳とは思えないですよね~shine

Alt2011fall20winter04                

97766180

96791515

呉尊はALTみたいな御曹司路線(?)を着こなすのは当然ながら、カジュアルなリーバイスもよく似合うって、素晴らしすぎheart02 いつもなら、シャツのスソがかたっぽ飛び出してるファッションをどうかと思ってるミンクロでも、↑の呉尊は花丸あげちゃいます~ 

83598721             元Super Junior韓庚と大Sとの共演映画『大武生』

京劇を演じる呉尊と韓庚、すごく観てみたいですshine

本格的なラブシーンもあるようですね~confident 呉尊は伊能静と、韓庚は大Sとらしいです(違ってたらすみませんsweat01

呉尊と韓庚は意気投合して仲良しになったようですが、やっぱり境遇が似てるからでしょうか?

それにしてもここ1、2年脱退、多い気がします。
つい先日の○Pと錦○クンのニュースにもビックリしたし。(さりげなくダジャレ)

ミンクロはピンより断然ユニットが大好きだけど、脱退や分裂、解散・・・悲しいけど避けられないことなんですよね~。
昔、新撰組(リアンじゃないよ)が好きだったけど、脱走したらつかまれば切腹ですから! 話が例えになってないし極端? そこまで罰則があれば半永久的にユニットは存続されるでしょうが、環境、本人たちの幸福感、やりがい、将来設計などなどは時と共に変化していくものだから、ずっと同じではいられないんだと思います。

メンバー全員と会社、そしてファン全員が納得するのは難しいことだとは思うけど、いきなりよりは徐々に段階をふんで、心の準備の期間は欲しかったりします。
それでもやっぱり淋しいものなんですよね、愛が深ければ深いほど・・・・・・。

さてさて、続々と映画が公開、撮影と、呉尊は大忙しのようですが、まだミンクロは公開済みの『武俠梁祝』『錦衣衛』さえも観る機会がなく、残念です。

スピンオフ小説『Kiss Me Now !』には、後半に登場しますのでお楽しみに~shine

 

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飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.3

                 Ep.3 「マンゴーKISS

ジニー篇

「起きろ!」

 誰かがアタシを起こす声がする。まだ眠いのに誰? アタシを起こすのは・・・・・・。

「おい! 鶏女(ジイニュイ)!!」

 ・・・・・・禹哲?

 ぼんやりと禹哲の顔が見える。相変わらず不機嫌そうな・・・・・・。

 禹哲!?

 アタシは飛び起きた。

 何? ここどこ? 禹哲がなんで!?

「なんでオマエが俺んちのソファーで寝てるんだ!」

「え? 禹哲んち? そうだ! 亞綸が泊まってけって! だってバッグをね!」

「ああ、うるさい! イッテエ・・・・・・また二日酔いかよ・・・・・・まあだいたいのことは予想つく。俺を送ってきてそのまま送り狼ってとこだろ! 俺の寝顔見て思わず唇奪ったりしてないだろうな!」

「バッカじゃないの! バッグをBaTに忘れてきたから仕方なく泊まったの! 誰が送り狼よ、狼はそっちでしょ!」

「はあ?」

 ヤバッ! もしかして覚えてない? 身代わりキス!

「冗談よ! 何もなかったってば!」

「あってたまるか! ・・・・・・そういえば昨日言ってたよな。キスは恋愛じゃないって? 期待に応えて狼になってやろうか? 俺、デビュー以来、契約守っていい子にしてたから結構たまってるんだよなあ・・・・・・」

 禹哲はそう言いながら狼が忍び寄るような格好でソファにあがってくる。

「だから酔ってなくてもキス魔になるかもな、誰かれかまわずにさ!」

 禹哲が跳びかかると同時にアタシは身をひるがえして・・・・・・ソファから落ちた。

「痛ったあ・・・・・・」

「バ~カ。マネージャーならキスくらい体張れよな。俺が外で問題起こして責任取らされるのはオマエだろ? 事務所はなんだかんだ言って俺を手放さないだろうからな」

 大した自信だ。でもクビになるなら道連れにするんだから!

 平静を装いながらも心臓だけは勝手にドキドキして止まらない。逃げなかったらキスされてた? だけどキスを“それくらい”と言ってのける唐禹哲に腹が立つ。アタシにとってキスは恋愛において聖域だったのに! 昨日それを奪っておいきながら全然覚えていないのにはもっと腹が立つ。

 あ、そういえば、事務所に朝バッグを届けさせるって亞綸言ってたっけ。

 今何時だろ・・・・・・。時計が見当たらない。

 そばにあったリモコンでテレビを付けるとタイミングがいいのか悪いのか、ちょうど呉尊の極秘結婚の話題が終わったところだった。本当に結婚しちゃったんだHIROと。禹哲は画面を一瞥したけど不機嫌な顔で何も言わない。

 そうだ、時間・・・・・・画面の時計は8:08だ。

「うそ、8時過ぎてる! アタシ事務所行かないと!」

「シャワー一緒に浴びてくか?」

 禹哲が着ていた黒のシャツを脱ぎ捨てた。禹哲の上半身なんて見慣れてるはずなのに、思わず目を逸らす。この部屋で二人きりだとまた心拍数が上がりそうだ。

「お一人でどうぞ! 事務所まで走ってくと何分かかる?」

「知るか。歩きで10分だ」

「ちゃんと午後からの打ち合わせ来てよね! じゃあね!」

「おい!」

 振り返ると何か袋が飛んでくる。とっさにキャッチして中身を見るとクロワッサンと牛乳パックだった。

「ありがとう!」

 もう禹哲の姿はなく、シャワールームの扉が閉まる音がした。

「いってきます!」

 何これ? まるで同棲してるみたいじゃない。

 アタシは禹哲の部屋を急いで後にした。

 着替えもメイクもなんとか間に合った。事務所のメイク道具と衣装をこっそり拝借しちゃった。他の女子社員が朝帰りの時に使う手を、まさかこのアタシがすることになるなんて。

「高(カオ)さん!」

 受付から連絡をもらってロビーへ行くと、目立ちすぎるくらい背の高い高以翔(カオ・イーシャン)が待っていた。

「はい、昨夜の忘れ物のガラスの靴ならぬガラスのバッグ」

「わざわざごめんなさい。夜のお仕事なんだからまだ眠いでしょ?」

「いいや。なあ、あれからオーナーの部屋に泊まったんだって?」

「べ、別に何もなかったんだから!」

 ヤバっ! 受付嬢がヘンな目で見てる。

「高さん、こちらへどうぞ! コーヒーでも飲んでいって」

「サンキュー、ジニーちゃん。それと、高さんってのは勘弁してくれ。あだ名みたいだろ? 翔(シャン)でいいよ」

「ジニー! ジニー! ねえ、誰よ? 背が高くて渋くってすっごくステキじゃない?」

 高さん、じゃなくて翔をロビーの片隅の接待席に案内してからコーヒーを淹れに行く途中、受付嬢に呼び止められる。

「え? 行きつけのバーのマスターってとこかな」

 なあんて、まだ一回しか行ったことないないけど。それにマスターだかバーテンだか知らないし。

「おい、あの男、誰だって? どこと契約してるんだ? モデルだろ?」

 スカウト担当の同僚からも質問攻めだ。それほどに目を引く逸材ってこと?

「えっと・・・・・・モデルじゃないと思います。バーテンかな?」

 たしかに尋常じゃないかっこよさかも。組んでる脚、長っ!

「翔、なんかみんなが色めきたってて、このままだとスカウトされちゃうくらいの勢いかも」

「そう? 面倒だから飲んだらさっさと帰るよ」

 翔はコーヒーを飲み干すと、「じゃあ!」と言って長いコンパスで颯爽と帰っていった。

「あれ? なんだよ、帰っちゃったのか? ジニー、しっかり引き止めておいてくれよ!」

 そんなこと言われたって、スカウトはアタシの範疇じゃないもん!

禹哲篇

 昼過ぎにはやっと頭痛も治まり、事務所での打ち合わせのあとジムに行く。鶏女のやつ、ずっと俺を避けやがって。

 ジムに来るのは久しぶりだ。汪東城がしつこく誘ってくるから仕方なく指定してきた時間に来てやった。それに二日間のアルコール漬けの体を覚ますのに調度いい。

「オレだって、櫻雪(ユンシュエ)が頼むから仕方なく誘ってんだよ」

 汪東城がランニングマシーンで走りながら不機嫌に言った。

「何も言ってないだろうが」

「そんな顔してたからわかるんだよ! 仕方なく来てやった顔! 櫻雪は心配してんだ、こんな恩知らずな弟でもな」

「こんな恩知らずな弟がいやなら、姉貴との結婚やめたらどうだ?」

「死んだってやめないね。今じゃ偉偉もオマエよりオレのほうになついてるしな~」

 まるで子供のケンカだな。炎亞綸もこんな兄貴じゃ相談する気にもならないわけだ。だが一応伝えといてやるか。

「炎亞綸が悩んでたぞ。なんとかしてやれよ」

「は? あいつ、悩むのが趣味なんだよ。悩んでない時のほうが少ないくらいだ。ほっとけばいいさ」

 なるほどね。こんなもんか、兄弟みたいなものってのは。

「昔と違って、自分で解決する力を持ってるはずだ。それを見守るのがオレのやり方だ。・・・・・・それで今度は何を悩んでるんだ?」

「結局気になるのかよ! 本人から聞く気がないならいいさ。俺が勝手に話せるような類の話じゃない」

「大東! 紹介しろよ」

 いいタイミングで郭品超(クオ・ピンチャオ)が現れた。芸歴も年も相当上。まともな挨拶しとくか。

「初めまして、郭さん。唐禹哲と言います」

「ディランでいいよ。タメ口でいいし。“愛我”聴いたよ。大東からCD貰ったからな。こいつあちこちで配ってるみたいだぞ。炎亞綸のCDと一緒にな。いい兄貴を持ったな」

「ディラン、余計なこと言わないでくれよ!」

 汪東城が慌ててたしなめた。

 へえ、あいつがね。案外おせっかいなんだな。

 兄貴、か・・・・・・。

 そう悪くはない存在かもな。

       *       *       *

 あれから忙しくて飲みに行く暇もない。ただ仕事場と家を往復するだけの日々を過ごしていた。どこかよそよそしく事務的だったアイツも、ここのところ、以前のような口うるさい鶏女に戻っていた。

 今日は同じ事務所の同世代三人での撮影で鄭元暢(チェン・ユエンチャン)と彭于晏(ポン・ユウイェン)は先にスタジオ入りしていた。

「新人なのに遅れてすみません! ほら、禹哲もあやまって!」

 鶏女が俺のわき腹を肘でつついくる。やめろ、弱いんだ、そこは。

「遅れてすみませんでした」

「いいよ、前の仕事が押したんだろ? 仕方ないさ。なあエディ」

「そうそう、気にしなくていいよ、ジニー!」

 なんだ、彭于晏は鶏女狙いか。物好きもいるもんだな。

「小綜(シャオツォン)、久しぶりに一緒にお仕事できて嬉しいです!」

 おいおい、鶏女は鄭元暢狙いか? 身の程を知れよ。

「ジニー、がんばってるみたいだね。またボクの付き人に戻ってほしいけれど、今はもう立派なマネージャーだね。なあ禹哲?」

「ええ、ジニーはよくやってくれてますよ、小綜」

 うるさいだけの鶏女なんざ返して欲しけりゃいつでも返してやるよ。まあ俺の決めることじゃないから残念だったな鄭元暢。

「ジニー、今度はオレのマネージャーも頼むよ~」

 そう言って彭于晏まで争奪戦に加わってくる。彭于晏のマネージャーはフィギュア好きのオタクらしいから、こんな鶏女でもよく見えるんだろう。

「アタシなんか、まだ全然ダメなんです。でも二人にそう言ってもらえて感激です!」

 鶏女め、何本気に受け取ってんだ、バ~カ。

「あの・・・・・・小綜、もう風邪は治りましたか?」

「え? うん、もうすっかりいいよ。・・・・・・知っててくれたんだね」

「このサプリ、とってもいいので予防の為にのんでみてくださいね、また風邪ひかないように。もうすぐドラマの撮影に入るんですから」

「ありがとう、ジニー! 相変わらず優しいんだね」

 なんなんだ、鶏女のやつ。もう関係のない鄭元暢のスケジュールから体調管理まで気にする必要なんてないだろうが! 俺にはそんなサプリ、見せたことすらないぞ!

「あ、そうだ禹哲!」

「・・・・・・なんだよ」

 俺にもサプリか? ついでならいらないっつうの!

「何してんの、早くスタイリングしてきてよ。ただでさえ待たせてるんだから」

 ・・・・・・なんなんだ、この対応の違いは!!

 

 俺が戻ると、鶏女は彭于晏と楽しげな様子だ。

「エディのドラマ始まったね! エディの役、おもしろいね。すごくよかった!」

「見てくれたのか! そんなによかった? どのへんが一番よかったかジニーの意見聞きたいなあ」

「たくさんあるけど、あ、でもそれより、撮影前に居眠りでもしちゃったの? なんかほっぺたに跡が付いてたのみつけちゃったんだけど!」

「うわ、よく見てるのな。待ち時間長くてさ、ついつい眠っちゃってさ」

「もう、エディったら!」

 そう言って二人は笑いあう。・・・・・・他のヤツのチェックし過ぎだろ! おまえ、いったい誰のマネージャーだ! 

「おい、鶏女!・・・・・・」

「唐禹哲さん、カメラマンがお待ちですのでお願いしま~す!」

「え? あ、はい・・・・・・」

「彭于晏さんも一緒にお願いします!」

「ほ~い! じゃあな、ジニー!」

「エディ、がんばってね!」

 おいおい、言う相手が違うだろうが!! 

 

 

ジニー篇

「ジニー、入るよ~」

 ノックと共にエディが控え室に入ってきた。手には大好物のマンゴーアイス!

「差し入れだぞ、これ、好きだろ?」

「うん、大好き!」

 エディがなぜかちょっと照れたような顔をした気がした。なんで? 

「でもさ、もう一個しかないから禹哲がまだ撮影してる間に食べちゃいな」

「うん、うん、そうする!」

「ちゃんとカップはわからないように捨てとけよ!」

「うん! ありがと、エディ!」

 ばれないように急いで食べなきゃね。いっただきま~す! 

 

 急ぎながら堪能したマンゴーアイスも、あと一口というところで、ノックも声もなくドアが開いた。

 それは大口開けて、最後の一さじを堪能しようと口に入れる一歩手前だった。

「鶏女、なんだそれは」

 禹哲がヅカヅカと近づいてくる。 

「おい、俺の分はどこだ。早くよこせよ」

「もうないわよ~!」

 アタシはその最後の一さじを急いで口に入れた。

「オマエ!」

 スプーンを持った手首を禹哲につかまれたアタシは、そのまま力強く壁に押さえ付けられて、ドンッと鈍い音が響いた。禹哲の顔が近い。

「暴れて騒ぐと、隣にバレるからな」

 え!? 

 気付くとアタシの冷えた唇に禹哲の温かな唇が押し付けられていた。

 驚きのあまりに声をあげてしまったけど口を塞がれていてうめき声にしかならない。抵抗しようと押さえつけられてる手首に力を入れてもビクともしない。

 薄い壁伝いに「なんだ? 今の振動」と隣部屋のエディのマネージャーの声が聞こえてきた。

 みつかったらアタシだけ解雇? そんなの、ヤダ・・・・・・そう思ったとたんに力が抜けていく。

 禹哲はソフトクリームを舐めたり唇ではむようにしてアタシの唇を吸う。こんなキス初めてだ。されるがまま、力なくうっすらと目を開けていると禹哲と目が合った。恥ずかしくなって目を閉じると、時折聞こえる禹哲のキスの音が耳に響いて、なんだか溶けていくようなヘンな気分になっていく。

 上唇から下唇、下唇から上唇に移る度に禹哲の温かな舌がアタシの冷えた舌に触れてくる。ためらってるの? じらしてるみたいに触れるだけなんて・・・・・・。HIROのせい? 胸がキュっとなる。あの夜の身代わりキスが、どんなに熱く、どんなに激しかったか・・・・・・。耐え切れず口を開くと禹哲の温かな舌は、すぐにアタシの冷えた舌を包み込む・・・・・・。まるで味わうみたいな禹哲の舌に、アタシは自然に合わせるように受け入れ、絡ませて・・・・・・。

 トントン。

 ドアがノックされると同時に禹哲の体はアタシからサッと離れた。

「すいません唐禹哲さん。次の準備が整いました」

「すぐ行きます!」

 まるで何事もなかったように禹哲はスタッフに返事をして戸口へ向かう。

 アタシは全身の力が抜けたように、壁にもたれたままヘナヘナと座り込んでしまう。

 何? なんだったの? 禹哲の背中をうつろな目で追うと、禹哲が振り返って嘲笑するように言う。

「おまえ、ガサツで色気ないわりにはエロいキスするのな」

 瞬間的に火が付いたように顔が熱くなる。アタシはそばにあったクッションを禹哲に投げつけたけど、もう禹哲の姿はない。 

 冷静に感想言うなんてサイテー!  脅迫しといて・・・・・・あんなふうに・・・・・・ズルイよ唐禹哲・・・・・・。心も、頭も混乱している。

 

 だけど、

 あの時、

 アタシの唇は、

 完全に禹哲を求めちゃってた・・・・・・。

 Ep.4「リアルKISS」へつづく・・・・・・

目次と登場人物~Kiss Me Now !

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目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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