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飛輪海小説スピンオフ『Kiss Me Now !』Ep.2

                                Ep.2 「身代わりKISS

禹哲篇

 仕事が終わり、鶏女(ジィニュイ)の運転で俺はいったんマンションに戻った。車にはスタイリストも同乗していたせいで、鶏女イジメの続きは明日へ持ち越しだ。

 いいストレス発散をみつけたはいいが、今日はまだ消化不良だ。俺は自分の部屋の前まで来たが、思い直しもう一度エレベーターへ向かった。

 

 BaTは金曜の夜だというのに客がまばらだ。昨夜よりはましだが。

  新オーナーのウィルバーの経営努力が足りないようだから一喝しておくか。だがカウンター内にはイタリアン担当の高以翔(カオ・イーシャン)だけでウィルバーの姿は見当たらない。

「ウィルバーは?」

「今夜は休みだ。明日花連で友人の結婚式があるとかで」

 俺のストレス発散の矛先がまた一つ減った。どいつもこいつも結婚式か。

「高、昨日は悪かったな。悪酔いしたみたいだ」

「ハハッ、酔いつぶれるなんてあんたらしくない。もっと視野を広げろよ。未婚の女はこの台北に五万といるぞ。ヒロだけが女じゃないだろ」

 俺が睨みつけると、高以翔は首をすくめて厨房へ逃げていった。何がわかる。ヒロほどの女にはおそらくもう二度と巡りあえない。あいつはいつもまっすぐで、筋金入りのいい女だ。あいつの物怖じしない目、決意の表われた唇、俺のハートを揺さぶる声・・・・・・。

「高、シーフードのパスタ作ってよ。あと白ワインいいのある?」

 カウンター席の俺の隣に炎亞綸が腰掛ける。高のやつ、電話したな。

「禹哲、また飲み過ぎないでよ」

 俺の周りにはおせっかいなヤツが多すぎる。

「俺にかまうな。莉莉の部屋に戻れ」

「莉莉は今日久しぶりに託児所なんだ。もうすぐ帰ってくるけどね」

 あいつ、やっぱり保育士の仕事が好きなんだな。 

「そうだ禹哲。ギャビーから昨日の写真もらったけど見る? ・・・・・・わけないよね」

 好きな女と他の男の結婚写真を誰が見たがるかよ。まさか俺にそんなもの見せるためにわざわざ来たのか? いや、何か別の目的があるに違いない。 

 

「禹哲・・・・・・あのさ」

「俺に聞くな」

「・・・・・・まだ何も言ってないだろ!」

「言わなくてもわかる。面倒な相談事ならごめんだ。三馬鹿兄貴の誰かに聞け」

「禹哲に聞きたいんだよ」

「汪東城に電話しろ。あいつのことだ、また姉貴んちにいるかもしれない」

「大東に? 電話とかメールとかしたことないよ、この一、二年」

「は? なんでだ」

「なんか電話だと照れくさいっていうか・・・・・・。会った時には言いたいこと言い合えるけどさ。それにボクがウジウジ悩むの、大東は嫌うんだ。昨日もボクの悩みを一蹴されたばっかだから、もう相談する気にもなんないよ。あ、その悩みのほうはもう解決したから心配しなくていいよ」

 誰も心配してないっつうの。

 ・・・・・・まあ、炎亞綸と汪東城はどこか似たもの同士だからな。密かに張り合ってるくらいがお互いのいい刺激になってるのかもしれない。

「陳奕儒は本当の義理の兄貴だし、前から相談にのってもらってたんじゃないのか?」

「・・・・・・ゆうべから新婚旅行だよ」

「は? 阿明と一緒にか?」

「他の誰と行くんだよ! 日月潭に行ったんだ。三年も経ってやっとの新婚旅行にさ」

 俺はあえてもう一人の兄貴のことには触れなかった。聞くまでもない。もう一人の兄貴は今頃ヒロを連れてブルネイだ。

「それに、莉莉の問題だから、やっぱ最初に禹哲に相談するのが筋だろ?」

「莉莉がどうかしたのか? また調子が悪いのか?」

 俺がそう詰め寄ると、亞綸は覇気のない表情で頬杖をつきながらため息をつく。

「違うよ。今のところは元気だよ。心身ともに」

「今のところってどういうことだ?」

「禹哲は、何潤東監督って知ってる?」

「ああ、汪東城の主演映画を撮った監督だろ? 莉莉になんの関係がある」

「昨日、結婚式で会ったんだよ。その時、何監督が言ったんだ。莉莉の歌声にそっくりなコと昔付き合ってたって」

 俺は飲んでいたブランデーを、ゴクリと音をさせて飲み込んだ。

「本名も住所も知らないのに、ある日いなくなってしまったそのコは“アラン”って呼ばれていたらしいよ」

 莉莉の母親の名はたしか黄如蘭(ファン・ルーラン)。愛称が“阿蘭(アラン)”だとしたら・・・・・・。炎亞綸が何を言おうとしてるかは想像出来た。だが何潤東は何歳だ? 

「いくらなんでも莉莉の父親には若すぎるだろ!」

「アランってコは年上のバンドメンバーで、何潤東監督が15歳のときに付き合ってたって。でもアランが突然姿を消しちゃって、親に勧められるままにカナダ留学したんだって」

 妊娠を隠して身を引いたってことか。何潤東が父親である可能性は大だな。だが莉莉に不確かなまま告げるわけにはいかない。亞綸はやっと安定してきている莉莉の精神を乱すようなまねは避けたいはずだ。それでも莉莉には知る権利があるが、下手に動くと、マスコミの格好の餌食だしな。

 くそっ、ただでさえ俺が弱ってるときに、こんなややこしい状況になるなんて・・・・・・。

「亞綸、診療内科の李先生はなんて言ってるんだ?」

「今、アメリカだよ、学会で・・・・・・。 禹哲・・・・・・ボク、どうすればいいんだろ・・・・・・。ああ、なんでヒロは何監督にボクたちの歌を聴かせたんだろ! こんなに悩むことになるなら、映画挿入歌にならないほうがよかったよ」

 こいつ、またヒロのこと思い出させやがって! もう、今夜も飲むしかない!

ジニー篇

 携帯が鳴った。意外にも唐禹哲からだ。

「何? かけてくるなんて珍しい」

『ジニー? ボクがわかる? 今朝会ったんだけど』

 え!? うそ、この声、忘れもしない炎亞綸!

「は、はい! 炎亞綸さんですよね?」

 思わず声が裏返ってしまった。今朝、心地いいステキな声だって言われたばかりなのに・・・・・・。炎亞綸がクスッと笑ったのが受話器から聞こえる。

『亞綸でいいよ、ジニー』

“ジニー”って二回も呼んでくれた! 亞綸が“ジニー”って! でも、あれ? 禹哲の携帯からなんで?

「あの、禹哲は?」

『今、トイレ。でもこのぶんだと、また酔いつぶれちゃいそうだから、そうなる前に連れて帰ってくれないかな? 二晩続けて邪魔されたくないからね。今、BaTなんだ。ねえジニー、頼める?』

        *       *       *

 仕事を片付けてから急いでBaTに駆けつけ、カウンターで飲んでいる禹哲の様子をアタシはそっと伺っていた。禹哲のただならぬ様子に、どんな顔して登場すればいいのかためらわれた。アタシが出て行けば、怒鳴られるのは分かりきってる。プライベートまで干渉されたくないって日ごろから釘をさされているから、なかなか覚悟が決まらない。

「わっ!」

 他の客が、暗がりで身を潜めていたアタシに驚きの声をあげた。

「キミ、こんなところで何やってるんだ?」

「す、すいません! ごめんなさい!!」

 カウンターを見ると、禹哲が振り向いてこちらを見ていた。アタシはとっさに階段を駆け上がり、目の前のドアを開け、その部屋に逃げ込んだ。

 中は薄暗い間接照明だけで、高級そうな大きなソファーがどっしりと構えていた。しばらくするとドアがゆっくりと開き、禹哲がふらつきながら入ってきた。もう隠れようがない。

「唐禹哲、飲みすぎよ。もう帰ろう。送るから」

「いやだ、帰らない・・・・・・おまえも帰らせない!」

 そう言うと同時に、禹哲はアタシを抱きしめ唇を押し付けてきた。

 アタシは突然の出来事になす術もない。禹哲のむさぼるような野生的なキスに、体中の力が抜けていく・・・・・・。 

うしろのソファに倒れこむと、アタシの体は禹哲に押さえつけられて身じろぎひとつ出来ない。

 このままアタシ、禹哲と・・・・・・? アタシ抵抗しないと・・・・・・。

「よ、酔ってるの? やだ、離して!」

「おまえがいないとダメなんだ俺は・・・・・・ヒロ」

 禹哲が悲痛な声で囁き、再び激しくアタシの唇を塞いだ。アタシの心臓がキュっと締め付けられると同時にまた全身の力が抜けていく。

 “ヒロ”・・・・・・。名前なの? 日本人? 誰?・・・・・・。あの強気で自信過剰な唐禹哲を、こんなふうにしてしまうヒロって・・・・・・。

 アタシが抵抗しなくなったせいか、禹哲から荒々しさは消え、切ないくらい優しいキスに変わっていた。

 禹哲のキスを一身に受けながら、その苦しみから少しでも禹哲を救ってあげたいって心から思った。アタシ、マネージャーなのに何もわかってあげられてなかったんだ。

 だから、アタシ、もうこのままどうなってもいい・・・・・・。

 

 そう思ったときだった。禹哲の唇の動きは止まり、アタシの肩の上にゴロリと頭を横たえた。そしてアタシの耳元で聞こえる寝息。

 嘘でしょ・・・・・・。

 アタシの決死の覚悟はいったいなんだったの?

 でも、ホッとした・・・・・・。

 こんなこと、愛がなければ救いになんかならないから・・・・・・。

 

「キミ、大丈夫? 気分悪いのか?」

 階下のカウンターまで降りていくと、身長が190はありそうな口ひげの男が心配そうにアタシを見下ろして聞いた。

「だ、大丈夫です・・・・・・あの、唐禹哲が上の部屋で眠ってしまって・・・・・・アタシ、彼のマネージャーなんですけど・・・・・・あの・・・・・・わかります? 唐禹哲って新人のアーチストで・・・・・・」

 さっきの動揺からか、しどろもどろになってしまう。

「唐禹哲はこの店のオーナーだよ。お嬢さん」

「え!?」

「正確に言えば“元オーナー”。ちょっと待ってな。2階から炎亞綸が降りてくるから」

「え? あ、はい・・・・・・」

「待ってる間にこの名簿にテキトーに書いといて」

 そう言って背の高いお兄さんはアイスティーと名簿を目の前に置く。アタシはさっきのとんでもない出来事でノドがカラカラだったから、一気に飲み干した。

 BaT会員名簿? パラパラとめくると、

“陳奕儒 会社役員 T 紹介者:呉香明

と書いてあるのが目に入った。これって飛輪海だった辰亦儒のことだ。呉香明(ウー・シャンミン)って炎亞綸のお姉さんで辰亦儒の奥さんだよね? 

 呉香明のページを見てみると“呉香明(明日香)”と書いてある。職業は作家? ・・・・・・嘘! あの人気作家の明日香(ミン・リーシャン)ってこと? アタシ彼女の小説、全部読んでる! 亞綸と呉尊のドラマとか、最近の大東の主演映画にもなったよね、明日香の小説って。

 ページをめくると他にも黑人や范范の名前もある。紹介者はHIRO? アタシは急いでHIROのページを捜す。

 あった! 

HIRO(桐村裕恵) スタイリスト T 紹介者:炎亞綸”

・・・・・・HIROってスタイリスト? え? じゃあ、あのHIROってこと? 林志玲(リン・チーリン)のお気に入りスタイリストのHIRO? 来台する世界のセレブも指名するあのHIRO? じゃあ禹哲が呼んでたのは彼女のこと? 

 それにしてもこの“T”って何?

「ジニー! おまたせ」

 亞綸が現れた。“亞綸”って呼んでいいんだよね。アタシの方が一つ上なんだし。

「こんばんは。亞綸、聞いていい? この“T”とか“B”って何?」

「う~ん・・・・・・ジニーは多分・・・・・・というか禹哲ならきっと“B”って言うだろうね、キミのこと」

「え?」

「禹哲基準だからね、いまだに。“T”はその業界でトップ、“B”は駆け出しの新人や、まだ成し遂げてない底辺の人間。それがボトムって意味なんだ。ごめんねジニー」 

「ううん、気にしないで。アタシ、マネージャーとして新人だし、まだまだだって自覚してるから」

「でも“B”のほうがいいよ。飲食全部タダになるからさ」

「ホント!?」

「ホントだよ」

 亞綸はにっこり笑った。なんて可愛いの・・・・・・。

「ほら、ボクだっていまだに“B”なんだよ。さすがにもう“T”に更新してもらわないとね。でも肝心の禹哲が酔いつぶれちゃってるから今日はムリかな」

 

 しばらく話してから、見た目通り“高(カオ)”なお兄さんと亞綸がVIPルームから禹哲を運び出して、タクシーに乗せてくれた。それからアタシも乗り込むと、続いて亞綸も乗り込んできた。え?

「ジニーだけじゃ、部屋まで運べないだろ? 運転手さん、松山区までお願いします」

 そう言ってまたにっこり笑った。この笑顔、暗がりでもすごいオーラ・・・・・・。それに比べてうちの禹哲ときらた、こんなに酔いつぶれてダメダメ状態だし・・・・・・。

 禹哲も“B”だってこと、亞綸が教えてくれた。アタシがいつか唐禹哲を亞綸みたいなオーラのある“T”にしてあげること、できるのかな・・・・・・。才能はあるもん。二重人格は許せないけど、才能だけは認めてる。今作ってる曲、時々口ずさんでるのをこっそり聞いちゃってるけどホントにいい曲なんだもん。

「ねえ亞綸。HIROって・・・・・・HIROと唐禹哲って何かあったの?」

「うん・・・・・・多分明日にでも記事になっちゃうと思うから言うけど、昨日、ヒロと呉尊の結婚式だったんだ」

 呉尊? 呉尊!? あのHIROとあの呉尊が結婚!? えーーーー!

「ヒロは以前ちょっとの間、禹哲のスタイリストをやってて、禹哲はヒロにベタぼれだったんだ」

 禹哲がHIROを・・・・・・。

 じゃあ失恋でヤケ酒ってことなのね、昨日も今日も・・・・・・。

 なんだか複雑な思いだ。さっきアタシをHIROだと間違えてあんなこと・・・・・・。

「そんなに禹哲のことが気になる?」

「やだ、違うってば! マネージャーとしてよ! 恋愛禁止の契約だから」

「へえ・・・・・・でもキミたちけっこう仲良しに見えたよ。今朝のやりとり」

「どこが!? いつもうるさがられてるのに! アタシの声が気に障るって」

「キミの声が? ステキな声なのに・・・・・・。そうかなるほどね~。大丈夫。禹哲もかなりジニーのこと気になってるってことだよ。禹哲が毒舌になるってことは、無意識にでも好意を持ってる証拠だよ。どうでもいい相手にはネコかぶってるから」

 そうなんだ・・・・・・。でも全然嬉しくなんかないんだから!

 

        *       *       *

 

 唐禹哲のマンション前でタクシーを待たせて、亞綸はアタシと一緒に唐禹哲を部屋の前まで運んでくれた。

 そこでアタシはあることに初めて気がついた。

「アタシ、バッグお店に忘れてきちゃった・・・・・・」

 きっとあの部屋だ。禹哲があんなことするから・・・・・・。

「ジニー、禹哲の鍵は?」

 禹哲はジャラジャラと腰から下げてるチェーンの先に鍵をつけている。アタシはその鍵でドアを開け、禹哲を二人で中に運び入れベッドに寝かせた。

「アタシも一緒にお店に戻らないと」

「もう遅いからここに泊まっていけばいいよ。バッグは明日の朝、事務所に届けさせるから。じゃあおやすみジニー!」

「え? あの、亞綸!!」

 亞綸は帰ってしまった。お金もケータイも鍵もバッグの中だ。アタシは禹哲のマンションにお泊りするしかないってこと???

 部屋にあがったのは初めてだ。イメージ通り、黒やグレーで統一されたシンプルな部屋。間接照明で薄暗い感じ、ちょっとナルシストな唐禹哲らしい。キーボードの上には書きかけの楽譜が乱雑に置いてある。

 この曲、よく口ずさんでるやつだ。初めての作曲なのか、楽譜を書くのに悪戦苦闘してるっぽい。あ、この小節、音符の拍、足りてない・・・・・・えっと、確かこのフレーズは・・・・・・うん、これでよし! それにこっちは、付点八分音符なはず。

 唐禹哲、よく眠ってる。つらいことで思い悩まなくていいのは眠ってるときだけなんだろうな・・・・・・。寝顔をじっくり見るのなんて初めてだ。 

 禹哲の唇・・・・・・この唇がアタシの唇に・・・・・・。

 やだやだ! バカバカ! 何思い出してんの!

「唐禹哲のバカ! 二重人格のキス魔、サイテー」

 そう悪態をつくと、聞こえたのか禹哲の唇がかすかに動く。

「ヒロ・・・・・・」

 禹哲の寝言にアタシの胸がキュンっとなった。眠っていても、忘れられないHIROへの禹哲の思いに、胸が締め付けられる。まるで恋しちゃったときみたいに。ううん、もちろんそんなのは錯覚に決まってる! 

 アタシも寝て忘れよう! 禹哲のベッドから一番離れたソファーで、アタシは禹哲のダウンジャケットにくるまって横になる。

 あんなキスなんか一晩眠っちゃえば忘れちゃえるんだから!

 Ep.3「マンゴーKISS」へつづく・・・・・・
目次と登場人物~Kiss Me Now !

目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

目次と登場人物~SP

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