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飛輪海小説『ステップアップ!』SP~第三章

                         第三章 「過去と未来」

亞綸篇

 化粧室・・・化粧室はどこだ! 莉莉は確かに言った。「まさかあのときの?」って! 

 あのときってどのときだ? 莉莉のうちで出演した番組を一緒に見たときか? でも確かあのときはちゃんと・・・じゃあ、父さんと母さんが旅行でいなかったとき? いや違う、あのときも・・・そうだ! 先月イベントでシンガポールに行ったとき、莉莉が初めての海外で興奮してて眠れないってボクの部屋にこっそり来て・・・。そのとき持って来てなくて、さすがに買いにも行けなくて・・・だけどさ、莉莉がはしゃいでるのがあんまり可愛いからさ・・・ついつい・・・。その時のことで思い当たることがいくつもある・・・。

 イヤな汗がどっと吹き出てくる。あれだけヤンさんに“大事な時期だから気をつけるように”と釘を刺されていたのに・・・。

 父親になる覚悟なんて、まだ一度もしたことがない。結婚でさえまだ考えたこともなかったのに!

 化粧室の前まで来ると、ちょうど莉莉が出てきたところだった。ボクに気がつくと莉莉は作り笑顔を浮べた。

「莉莉・・・吐いたのか?」

「ちょっとだけ吐き気がしただけだってば」

「父さんを連れてくる! それから病院へ行こう!」

「大丈夫だってば! 呉先生は外科のお医者さまでしょ? それに阿明のウエディングドレス姿を見られて嬉しかったのね。ご機嫌でたくさん飲んでたじゃない」

「それじゃあ他の先生に診てもらおう! 姉さんの担当医だった先生なら信用できる!」

「やだ小霖ったら! 阿明の担当医って、産婦人科でしょ? それに病院なんて大げさだってば! やっと演奏も終わったから落ち着いてお料理食べようと思ったのに~」

「何言ってんだ! もっと自分のこと大事にしろよ! 自分だけの体じゃ・・・」

「あら! あなたたちそんなところで何やってるの?」

 母さんだった。ボクは“自分だけの体じゃないんだぞ!!”って言葉を飲み込む。

「小霖ママ! 阿明ったらとってもキレイだった~!」

 莉莉は母さんの腕に自分の腕をからめて甘えている。

「本当に驚いたわ。ヒロやあなたたちがあんなサプライズをたくらんでたなんて、もう!」

「あたしたちも今日知ったの。小霖ママ、泣いちゃったの?」

「莉莉の歌声だけでも泣けてしまうのに、娘のウエディングドレス姿が見られただなんて・・・もう感激しちゃって・・・メイク直さないといけないわ。あら、莉莉。あなたも直しなさい、メイク道具貸してあげるから」

「小霖、先に戻ってて!」

 莉莉たちは嬉しそうに、まるで母娘みたいな調子で二人は化粧室へ入ってしまった。

 もしかしてボクを避けた? 莉莉は気付いてるんじゃないのか? もし本当にそうだったらどうする? 莉莉なら産むって言うに違いない。だけど託児所の子供たちの世話とは訳が違うんだ!

 ボクだって子育てなんて・・・。姪っ子の裕惠のことは可愛いけど、たまに可愛がるのと育てるのが全然違うことくらいはわかってる。

 会場に戻ると、亦儒兄さんがボクのところにシャンパンを持って現れた。

「どこ行ってたんだ? 捜してたんだぞ。ほら、飲めよ。ステージお疲れさん!」

 兄さんは、愛する妻のウエディングドレス姿を見られて、幸せの絶頂って感じだ。可愛い子供が二人もいて、仕事も順調で・・・。

「この後、仕事だから飲めないよ。・・・ねえ兄さん・・・結婚ってそんなに幸せ?」

「は? そんなわかりきったこと聞くなよ亞綸! 阿明と毎日一緒にいられて、裕惠と凌晨の寝顔が毎日見られるんだ。充分すぎるくらいに幸せだ」

 わかりきってたさ、もちろん。ただ自信満々に結婚は幸せだって答える兄さんを見たかったんだ。

 それからすぐ、兄さんはボクの父さんに呼ばれて行ってしまった。ボクはシャンパンの瓶を持って大東の隣の席に座る。

「大東、父親になる自信ってある?」

「亞綸、なんだよ来るなり! あるも何も、なりたいからなるんだ。自信とかは後からついてくるもんだろ?」

「じゃあさ偉偉に聞くけど、大東っていい父さんになりそう?」

 そう尋ねると、偉偉は困ったような顔をする。

「う~ん・・・ねえ小雨、“いい父さん”ってどんなの? 今のトコ大東は“いい大東”だよ。それに絶対に“父さん”って呼ばなきゃいけないの?」

 自分のことを振り返っても、ボクと父さんも同じだったかも。ボクの父さんは“いいお医者さん”から“いい父さん”に急になったわけじゃない。自然とそうなっていったはずだ。

「亞綸ったら、結婚式で結婚に憧れたの? もう子供のことまで考えてるなんて」

「おまえ気が早いな」

 大東と櫻雪がからかうように笑う。

 笑えばいいさ。現実問題なのに、今まで考えたことがなかったから、頭の中の整理がつかない。“いい夫”と“いい父親”にいっぺんになるなんてさ。

 そんなボクに、可愛い姪っ子の裕惠が小声で尋ねる。

「ねえおじちゃま! ユーフイも可愛いお嫁しゃんになれる?」

「それって誰のお嫁さんだい? 可愛い裕惠」

「内緒だもん!」

 いつもみたいに膝にのせてぎゅっと抱きしめてやろうと思ったのに、裕惠はスルリとボクをかわす。相手がボクじゃなくて偉偉だってことくらい、とっくにわかってる。だけどそんなに露骨に避けなくてもいいだろ! 

「やあ、炎亞綸! すっかり遅くなってしまったよ。台南までロケハンに行っていてね」

 誰かと思えば、何(ホー)監督だ。欠席かと思ってたけど、なんとか間に合ったみたいだ。

「ホーさん。お久しぶりです。この度は本当にありがとうございました。感謝しています」

「いや、こっちこそ感謝してるよ。エンドロールにいい歌をありがとう。ヒロが巡り合わせてくれたおかげだから、ちゃんと“ありがとう”と“おめでとう”を言いたくてね、今日はなんとか駆けつけたんだが・・・」

 何監督は周りを見渡す。

「見事にみんな正装だ。普段着で着てしまって場違いだな」

 何監督は黒の皮のジャケットにジーンズという、いつものスタイルだ。

「日本の披露宴は正装が当たり前らしいですよ」

「そういえば招待状に書いてあったかな? ・・・そうだ、黄莉莉って子は来てるのか?」

「莉莉・・・ですか? あ、今、あそこでボクの母と姉と一緒です」

「姉って、あれは明日香(ミン・リーシャン)じゃないのか? 姉? それにどうしてウエディングドレスを?」

「ホーさん、知らなかったんですか? 明日香はボクの姉です」

 何監督の顔色が変わった。そう言えば、監督って明日香の熱狂的ファンだって噂だ。雑誌のインタビューで“昨今の恋愛小説家の中では稀有の存在だ”とまで賞賛していたし。

「・・・彼女も・・・今日結婚したのか・・・」

「いえ、3年前に結婚したんだけど、わけあってウエディングドレスを着られなくて。それで今日サプライズで着ることになったんです」

「そ、そうだったのか・・・サプライズってのはヒロが仕組んだんだろ? 彼女らしいプロデュースだな。ただのスタイリストじゃないとは思ってたが・・・はあ・・・そうか・・・」

 大きなため息だな。なんでもないふりをしてるけど、何監督が狼狽していることは隠しようがなかった。監督とは一度ドラマの仕事したことがあったけど、相変わらずゴシップに疎いみたいだ。だから姉さんの相手があの“辰亦儒”だってことも知らなさそうだ。

「・・・そういえば黄莉莉って子は新人なのか?」

 何監督は平静を装って聞くけどあきらかに元気がない。

「ええ。ボクのソロワークのサポートメンバーで、コーラスと作詞作曲も担当してます」

「じゃあ、あの曲も彼女の曲?」

「あれは・・・作詞はボクで作曲は黄莉莉です・・・」

 本当は莉莉の母親の作った曲だけど、覚えていないフレーズをところどころ莉莉が補っていた為、表向きは全部莉莉の作曲となっていた。

 そして何監督は懐かしむような遠い目をして話し出す。

「いや、実は昔、あの曲に似たメロディの鼻唄を歌っていた人がいてね。もう24年前のことだからうろ覚えだけどね」

 24年前? ・・・莉莉の生まれる一年前か・・・。

「誰なんですか? それは」

「15歳くらいのときに組んでたアマチュアバンドのメンバーでね、彼女は年上で、ボクは憧れていたんだ」

 そうだった。何監督はデビューは歌手で、俳優を経て監督になったんだった。

「ホーさんはその人と付き合ってたとか?」

「どうかな? ボクはそのつもりで有頂天になってだんだけど、ある日急に姿を消してしまって音信不通だよ。愛称で呼んでいたから本名も知らなければ家も知らなくてね」

「じゃあ、それから会ってないんですか?」

「ボクは翌年にカナダ留学を控えていて彼女のことを捜せず、そのままになってしまったよ」

「似てるんだよ、彼女の歌声に」

「え?」

「黄莉莉の歌声が、彼女の声に聞こえてしまうんだ・・・阿蘭の声に・・・」

 アラン? ドキリとした。莉莉の母親の名前が黄如蘭(ファン・ルーラン)だから。

「もしかして阿蘭の娘なんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。彼女何歳?」

 ボクは返事を迷った。迷ったあげくに・・・。

「えっと・・・20歳・・・だったかな?」

 思いっきりサバを読んでしまった。莉莉の本当の年齢は23歳だ。とっさの嘘に内心ドキドキだ。監督とアランという女性が付き合っていたのが24年前だって言うから、思わず嘘をついてしまった。監督が莉莉の父親である可能性がある以上、今この場でそれがはっきりさせるべきじゃないと思ったからだ。

「それじゃあ、あれから結婚して娘が生まれたのかもしれない。彼女の母親の名前を聞いてみてくれないか? いや、僕が自分で聞けばいいのかな?」

 そう来たか。なんとか今は阻止しないと・・・。ってどうすればいいんだ! とその時だった。照明が落ちて、ヒロと呉尊にスポットライトが当たる。立ち上がった何監督はもう一度腰をおろす。

 二人の挨拶は、多分感動的だったんだろう。ヒロの家族も呉尊の家族も、いや、ボクの家族もすべての出席者が涙を浮べている。

 だけどボクは、莉莉のことと父親問題で、かなり気が動転していて、まったく二人の挨拶が耳に入らなかった。

 どうすればいい? せっかく莉莉の精神状態が安定してきたのに、今度は父親登場なんて・・・。とりあえず逃げるか? 時計を見ると、テレビの収録の時間が迫っていることに気がついた。

「ヤンさん! 時間!」

 ボクは隣のテーブルのヤンさんとマーキーに腕時計を指差しながら口パクで伝える。するとヤンさんの顔色が変わった。そりゃそうだ。大物司会者のバラエティー番組だ。待たせるわけにはいかない。

「ホーさん、すみません。ボクと莉莉は仕事へ向かわないといけないので、これで失礼します!」

「え? あ? そうか。じゃあまた次の機会にでも・・・」

 ボクは莉莉の腕を引っぱって出入り口まで行き、ヒロと呉尊に手を振って挨拶もそこそこに会場を後にした。

 

「本日は呉吉尊様のご婚儀、大変おめでとうございます」

 振り返るとレストランの支配人がにこやかに立っていた。支配人に会うのは莉莉が酔っ払って一泊したとき以来だ。

「支配人、久しぶりだね」

「呉庚霖様も黄莉莉様もお変わりなく。またご一緒にいらしてくださるのをお待ちしております」

「うん。じゃあ、急ぐから!」

「小霖、誰だっけあの人」

 莉莉はあの日酔っ払ったせいで、支配人のことを覚えていないようだった。

 それにしてもこのホテルで今までいろんなことがあったな。呉尊とヒロが再会したのも、ここだっていうし。

 それよりも、これから莉莉のためにどうすればいいのか、じっくり考える時間が必要だ。明日にでも心療内科の李おじさんに相談しに行こう。次から次へと難題ばかりだ。

「小霖、どうしたの?」

「なんで? どうもしないよ・・・急ごう、走るぞ!・・・じゃない、走ったらダメだ!」

「でも急がないと!」

「バカ、転んだらどうするんだよ!」

「・・・うん」

 莉莉はボクの勢いに驚いたのか、素直にボクに従った。

 まだなんの覚悟もできていないくせに、思わず口に出た。覚悟なんてどうやってできるものなんだろう。現在進行形のボクでさえ、こんなにもとまどうことなのに、きっと何監督にとっては覚悟以前の問題だ。

 ボクの頭の中は、自分のことと何監督のことが混ざり合って、混乱するばかりだった。

         *      *      * 

 

 番組収録も無事に終わり、ボクはそのまま莉莉の家に行った。ヤンさんはボクが莉莉の家に行くと言うといい顔をしないけど、ブツブツ言いながらもいつも送ってくれる。

「じゃあ、二人ともお疲れ様。明日7時に迎えに来るから。撮影があるんだからちゃんと眠って疲れをとりなさいよ! いい?」

 ヤンさんはいつものように遠まわしに釘を刺す。

「あんたたち! アツアツの呉尊とヒロに当てられてないでしょうねえ? でもあんたたちの初夜じゃないんだからね! じゃあおやすみ~いい夢を~」

 マーキーは相変わらずストレートに釘を刺す。一週間休暇を取っているヒロの代わりに、マーキーがついてくれることになったのはいいけど、ヒロの用意したこだわりの衣装に自分なりのアレンジを入れようとしてくるから困ってしまう。ボクの悩みはいろんな意味で尽きない。

 結婚式の引き出物を車から降ろしていると、莉莉はボクが注意する暇もなく、階段を駆け上がっていった。転んだらと思うとヒヤヒヤなボクの心配をよそに・・・。

        *        *        *

「小霖、やっぱりヘン!」

「え?」

 ベッドに座って考え込んでいると、莉莉は洗った髪をタオルで拭きながら隣に座ってボクの顔をのぞき込む。

「なんだか浮かない顔してる。もしかしてヒロが結婚しちゃって寂しいんだ?」

 莉莉はちっとも自分の置かれてる状況をわかっていない。

 何監督だってそうだ。まさか自分が23年も前に父親になってるとは思ってもいないはずだ。

「キレイだったな~ヒロと阿明・・・呉尊も亦儒も素敵な旦那様で、二人とも幸せだね」

 莉莉は結婚式の余韻に浸って瞳を輝かせている。やっぱり女の子ってのは結婚に憧れて、結婚に幸せを求めるものなんだろうか。

 ボクはもうあれこれ考えたり迷うのはやめにした。ボクがしっかり男らしく決めないといけないんだ。何があっても莉莉との子供を諦めることなんて出来ない。事務所には誠意を持って謝るしかない!

「莉莉・・・明日一緒に病院へ行こう」

「小霖ったらまだ言ってる~。もうなんともないってば!」

 取り合わない莉莉を強く抱き寄せ唇を重ねる。ボクのありったけの気持ちを証明したかったんだ。ボクは我を忘れたようにキスする。

「小霖・・・ダメ・・・その気になっちゃうよ・・・」

 莉莉は唇を引き離して、そう拒絶しながらも、すぐ自分から唇を重ねてくる。

「やっぱりダメ! 明日、朝早いし・・・撮影だし・・・」

「守りたいんだ! ・・・莉莉のことも、お腹の子のことも! 愛してるから!」

 ボクは思わず莉莉の言葉をさえぎってそう叫んでいた。

だけど莉莉は何も答えない。しばらく抱きしめていると、おそるおそる莉莉は口を開く。

「・・・もしかして小霖・・・赤ちゃんできちゃったって・・・思ってる?」

「だから明日病院に!」

「違うの・・・」

「隠すなよ! ちゃんとボクが守るから・・・」

「だから、もう違うってば!!」

 莉莉は語気を強めてそう叫ぶと、ボクから体を引き離した。

え?・・・・・・

「違うって? でもシンガポールの夜にさ・・・」 

「シンガポールの夜?」

 莉莉はすぐに思い出したのか、顔を真っ赤にした。

「ホントに違うんだってば・・・だってシンガポールから帰ってきてすぐに来たもの・・・アレ」

「嘘だろ? じゃあ“あのとき”ってどのときなんだよ!」

「あのとき?」

「会場を飛び出す前に言ってただろ? “まさかあのときの”って!」

「それは・・・昨日の夜のことだってば。マンゴープリン・・・昨日の夜食べちゃったの。ちょっとすっぱいかなって思ったけど・・・」

「まさか差し入れでもらった、あのマンゴープリン?」

 あれっていつ貰ったんだっけか? ずいぶん前だったような・・・。それじゃあ・・・

「・・・食あたりなのか? 本当に?」

「だってどうしても食べたくなったんだもん! 忙しくてすっかり冷蔵庫にあるのを忘れてたの。食べ物を捨てるなんて出来ないし、それに行列のできるお店で有名なマンゴープリンなんだから! あ、でも食あたりはしてなかったみたい。披露宴のお料理食べたらすぐに気持ち悪いの治ったもん。緊張とお腹すき過ぎのせいだったみたい」

 なんだよ・・・なんなんだ・・・。じゃあボクは父親になることもなければ結婚もまだまだ先ってことなのか? 力も気も抜けてボクはそのままベッドに倒れこむ。

 そんなボクの隣で、莉莉も横になってボクをじっとみつめてくる。

「小霖、さっきのってプロポーズだった?」

「ん?」

「“守りたい”って言ったじゃない、あたしと赤ちゃんを。それに“愛してる”って」

「え? あ・・・うん・・・」

「勘違いからのプロポーズだから忘れてあげる。・・・でもすっごく嬉しかった・・・あたしも愛してる・・・」 

 莉莉は瞳をうるませてゆっくりと顔を近づけてくる。

「キスだけ・・・ね・・・」

 ・・・そんなのムリだ。唇が重なって、その柔らかさに、ぬくもりに。気持ちを確かめ合ったばかりのボクたちの思いは一つになって、もう止められない。

 莉莉のパーカーのファスナーをゆっくりおろすと、胸元にはボクがプレゼントしたエンジェルハートのペンダントが光っている。下着をつけていないことは服の上からの感触でわかっていた。

 そんないいところで莉莉の携帯が鳴る。まさか出ないよな。

「小霖ストップ! ん? ウィルバー?」

 無情にも携帯に出る莉莉。一生恨んでやる潘瑋柏(パン・ウェイボー)

「・・・下で禹哲が酔いつぶれちゃったんだって・・・」

BaTで? 禹哲が?」

「今から翔(シャン)と二人でここまで連れてくるって」

 嘘だろ!? 最悪だ。禹哲が酔いつぶれた理由はわかってる。気持ちもわかる。

 だからといってなんでボクらが面倒みないといけないんだ!! 

 数分して、泥酔した禹哲がウィルバーと高以翔(カオ・イーシャン)の間に吊られ、ひきずられるようにして現れた。

「来てたのか、炎亞綸。ちょうどいい、オーナーをよろしくな」

「悪いな、いいところを邪魔してさ。それじゃごゆっくり」

 二人はそう言って、ほとんど意識のない禹哲の体を強引に預けると、さっさと行ってしまった。

 重っ! どこがちょうどいいんだウィルバーめ! 何がごゆっくりだ高以翔!

 やっとのことでソファに禹哲を寝かせる。莉莉が布団をかけながら心配そうに言う。

「ねえ・・・禹哲がこんなに飲んじゃうのって初めてよ。どうしちゃったのかな」

 莉莉は知らないんだ。禹哲がどんなにヒロを思っていたかを・・・。

 それにしても案外不器用なヤツなんだな、禹哲って。いまだに引きずってたんだ。

 だけど過去は変えられなくても、未来は変えられる。

 失恋は消せなくても、これから新しい出会いはきっとある。全部禹哲次第だ。

 

 莉莉の過去は、父親が存在しなくても成立したけど、未来に父親は必要になるだろうか。ボクの過去と未来は、莉莉なしでは語れない。

 過去から未来へと繋ぐ、現在の自分を、今は精一杯生きるだけだ。

 

 気がつくと莉莉は、ソファで寝息をたてている禹哲の枕元に突っ伏して眠っていた。

 兄と妹同然の二人に、今でこそ嫉妬も何もないけど、とんだお邪魔虫の登場に多少なりとも腹がたつ。

 禹哲の両頬を指でつまんでひっぱってみる。すると禹哲の閉じた瞼の端から一粒の涙がこぼれ落ちた。思わずつまんでいた頬を放す。痛かったのかな? それとも・・・。

 だけど禹哲は再び穏やかな寝息をたて始めた。どんな夢を見ていたんだろう。

 

 それから莉莉を抱き上げ、ベッドに寝かせた。

 莉莉のあどけない天使の寝顔に癒され、ようやく気持ちが落ち着いてきた。結婚式のことや、久しぶりに4人がそろったことが、今になって甦ってくる。

 呉尊とヒロは今頃二人きりになれたんだろうか。ヒロはやっと幸せになれるんだ。

 亦儒兄さんと姉さんは今日の再出発でもっと幸せになってほしい。

 そして大東と櫻雪は、来月結婚する。いろいろあったみたいだけど、偉偉と三人できっと幸せになるはずだ。今頃上の階の部屋で、ボクと同じように天使の寝顔に癒されてるにちがいない。

 気がつくと、ボクはあの歌を口ずさんでいた。もともと裕惠に子守唄代わりに聞かせていた歌だった。

 するとボクの口からこんな言葉が自然に飛び出した。

「莉莉、百万回言っても足りないくらい、愛してる」

 そしてボクは、

 ボクの天使の唇に、

 ありったけの愛をこめてキスをする。

飛輪海小説『ステップアップ!』SP~最終章「誓いの言葉」へつづく・・・

目次と登場人物~SP

目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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