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飛輪海小説『ステップアップ!』SP~第二章

          第二章  「秘密と真実」

阿明篇

 小霖(シャオリン)に連れられ招待客の控え室へ戻ると、裕惠(ユーフイ)と凌晨(リンチェン)はもう起きていた。それどころか裕惠は泣いている。凌晨は莉莉の腕の中で笑っていた。

「ママ!」

 飛びつく裕惠を抱きしめる。

「兄さんは?」

 小霖が母にそう聞くと、母の表情が曇る。

「それがまだなのよ・・・亦儒ったら携帯にも出なくて」

「おまえたち、亦儒は仕事中なんだから、むげに電話するんじゃないぞ」

「父さん、陳家は? 亦儒兄さんの両親とお姉さんも招待されてるんだろ?」

「ああ、大東のお母さんと一緒にさっき挨拶にみえてね、陳社長が申し訳ないと詫びてくださったよ・・・明日が納期だったはずの仕事が、今日に繰り上がったらしい。亦儒の大事なプロジェクトのようだから仕方がないだろう」

「お客様。そろそろ始まりますので、ご準備ください」

 ホテルの係りの女性は、小霖を見ると目を輝かせた。

「わかりました。どうもありがとう」

 小霖はとびきりの笑顔で答えた。係りの女性は顔を赤らめて立ち尽くしている。 炎亞綸にそんな笑顔をされたら、誰だってこうなるに決まってる。

 亦儒はまだ現れないのに、呉尊とヒロの結婚式は始まろうとしていた。

 

 呉尊とヒロは、人前式を行う。呉尊が無宗教だからじゃない。みんなへの感謝の表れだ。とっても二人らしい選択だなって思った。それなのに、立会人代表である亦儒が来ていないなんて・・・。

 円卓の席につく。回りを見渡すと、もうほとんどの招待客が集まっていた。まだ公になっていないせいで、ホントに極親しい人たちだけしか招待されていない。

 わたしのテーブルは、小霖、莉莉(リーリー)、大東、櫻雪(ユンシュエ)、偉偉(ウェイウェイ)、裕惠・・・そして亦儒が座ることになっている。禹哲(ユージャ)は仕事で欠席らしい。禹哲はデビューして半年になるけど、今では恩人の結婚式に出られないくらい忙しいみたい。ヒロの努力のおかげで今の禹哲があるはずなのに、欠席する禹哲が少し薄情にさえ思える。前にそう言ったら、ヒロはただ笑っていた。いつか京都のお寺で見た、観音菩薩のような優しいけど寂しげな笑み・・・。今思えばヒロと禹哲の間に、何かあったからなのかもしれない。そんな気がした。

 

 隣のテーブルにはわたしの両親、生後一ヶ月の凌晨、大東のお母さん、亦儒の両親、お姉さんがいる。挨拶をしにいくと、お義父さんとお義母さんが申し訳なさそうに亦儒の不在をわたしに謝ってくださった。そして大東のお母さんに出産祝いのお礼を言うと、手をしっかりと握って映画のお礼を何度も何度も言ってくれるものだから、ヒロの式が始まる前から泣きそうになってしまった。

 大東の映画俳優としての成功は、大東の才能と努力あってのことだ。わたしはそれを発揮できる場所を提供しただけに過ぎない。

 

 それから、わたしの後ろのテーブルには、マネージャーのヤンさん、スタイリストのマーキーさん、林志玲(リン・チーリン)Makiyo、そして5月に結婚した黑人(ヘイレン)、范范(ファンファン)夫妻が顔をそろえていた。

 そしてその新婚の黑人、范范夫妻が仲良く寄り添うようにやってきた。

「大東、櫻雪。次は君たちの番だな」

「来月のクリスマスですってね。ステキ! 幸せになってね」

「ありがとう、ふたりみたいな夫婦になれるようにがんばるわ」

「大東、櫻雪を泣かすなよ。櫻雪、マリッジブルーになってないか?」

「心配ないさ、なあ櫻雪!」

「ええ」

 櫻雪はにっこりと笑った。大東と櫻雪、幸せそうでうらやましい。黑人と范范夫妻も・・・。

 あさって、またブルネイで披露宴が行われるため、今日は日本式の進行になっている。

 日本では、うしろの両端に親族のテーブルがそれぞれ用意されるらしいけれど、呉尊のたっての希望で、一番前に親族席を持ってくる台湾式になっていた。

 服装はヒロの家族に失礼がないようにと、日本式で招待客もきちんとした服装だ。台湾では普段着で気軽に参加する人もいるくらい、わりと簡単な食事会気分の人が多い。

 日本の映画やドラマで見る女性は、結婚式では着物やドレスを着ていて、素敵だなって思っていた。だからわたしもドレスを新調して今日と言う日にのぞんだ。でも、以前なら一番に褒め称えてくれていた亦儒は、今はそばにいない・・・。 

 

 会場内の音楽が変わった。気がつくといつの間にか呉尊が数メートル先に立っている。呉尊はわたしを見て、にっこり笑ってうなずいた。不安げな顔をしていたからなのかもしれない。会場の照明が落ちて、扉にスポットライトが当たる。扉が開くと、ヒロがお父さんであろう人と腕を組んで立っていた。お父さん似ってヒロが言ってたのを納得してしまうくらい似ている。だけどどうしよう・・・すぐに人前式が始まってしまうのに亦儒はまだ来ない・・・。

 ヒロは時間を引き伸ばそうとしてくれているのか、ゆっくりすぎるくらいゆっくり歩いている。わたしのそばを通ったとき、そっとヒロが耳打ちする。

「来たわよ、あなたのダーリンが」

 え? ふと亦儒の気配を感じた。振り返ると後ろに亦儒が拍手をしながら立っていた。

「遅れてごめん」

 亦儒はわたしの耳元でそう言った。間に合ったのね・・・よかった・・・。何にホッとしたのか自分でもわからない。でも亦儒は笑顔だけど、わたしの目を見てはくれなかった。そんなことの一つ一つがまたわたしを不安にさせる。

 それでも式は粛々と進行していく。ヒロはお父さんから呉尊に委ねられ、わたしは亦儒に促されて二人の前へと進み出る。ヒロ、本当にキレイ・・・。いいな・・・ウエディングドレスって、こんなにも女をキレイに見せるんだ。・・・わたしは着ることのできなかったウエディングドレスへの未練が、沸々と湧いてくる。婚約披露パーティーの前日にわかった妊娠。そのせいで急に婚約披露パーティーはそのまま結婚披露宴と変わってしまった。ヒロのデザインしてくれたあのパープルのカクテルドレスは素敵だったけど、やっぱり白いドレスを着ることが夢だった・・・。

「さあ、席に戻ろう」

 亦儒の声で我に返る。いつの間にか人前式は終わっていた。わたしったら自分の想いにとらわれていて何も覚えていない・・・。大切な親友の大事な式だったのに・・・。会食が始まっても料理がノドを通らない。ただ、機械的に裕惠の料理を取り分けて、嫌がる裕惠の口へ運んでいた。

「もう食べたくない! こんなのキライ!」

 裕惠は毎日こんな調子だった。前はあんなに聞き分けのいい子だったのに・・・いつまでこんなことが続くんだろう・・・。

「嫌いなら何も食べなければいいわ!」

「やだもん! ユーフイ食べるもん!」

 裕惠が泣き出した。隣の席の莉莉が裕惠をなだめている。亦儒は他のテーブルをまわっていて席をはずしていたけど、そんなことはどうでもいい。わたしは迷わず席を立ち、泣いている裕惠を置いて会場を後にした。

 

 さっきのアンティークの長椅子までたどり着くと崩れ落ちるように腰掛ける。もうすでに自己嫌悪だ。以前のわたしはこんなに短気じゃなかった。もっとちゃんと裕惠に向き合っていたのに、今では逃げ出すことしか思いつかなかった。何やってるんだろ・・・。これじゃ亦儒だけじゃなくて、子供たちからもそっぽを向かれてしまう・・・。涙が零れ落ちてシルバーグレーのドレスにいくつものシミを作っていく。

「阿明」

 顔を上げるとそこには純白のドレスに身を包んだヒロが、菩薩様のような微笑をたたえて立っていた。

「さあ、阿明、こっちへ来て」

 ヒロはわたしの手を引っぱっていく。

「ヒロ! どこへ行くの!?」

 連れられて行った場所はヒロの控え室だった。

「ヒロは戻って! 新婦がいないなんて・・・」

「大丈夫、もうすぐ亞綸と莉莉のライブが始まるから。さあ、準備始めよっか」

「何を?」

 ヒロは答えずに笑ってる。そして間仕切りのアコーディオンカーテンをゆっくりと開ける。

 ドレスだ・・・。カーテンの向こうには、真っ白なドレスが架かっていた。

 それは“わたしのウエディングドレス”だとすぐにわかった。ヒロを抱きしめ、言葉にならなくて涙だけが溢れてくる。ヒロが優しくわたしの背中をポンポンと叩く。

「ほら、スタイリング開始! メイク直すから涙はしばらく我慢しなさい」

 どちらが年上なのかわからない。誕生日がくれば、わたしのほうが一つ上で30歳になるのに、年下のヒロがいつもわたしを支えてくれている。

 なんてステキなウエディングドレスなんだろう! ヒロのスレンダーなドレスとは対照的に、お姫様みたいに膨らんだラインのスウィートなデザインだ。

 子供の頃、お嫁さんになることを夢見て、ママに話して聞かせた物語に出てくるわたしのウエディングドレスは、きっとこれだったんだと思った。これはわたしが思い描いていた理想のウエディングドレス・・・。

 ヒロはいつのまに準備してくれていたんだろう。自分のことだけでも大変だったはずなのに。

「ねえ、ヒロ・・・亦儒も今頃このサプライズに驚いてるよね・・・喜んでるかな?」

 ヒロは最後の仕上げのベールを、結い上げた髪に慎重につけてくれている。スタイリングが終わりに近づくほどに、緊張してくる。亦儒が驚きはしても喜んでいるかどうかが気になって仕方がない。

「そうねえ・・・亦儒は驚きもしてなければ、まだ喜んでもいないんじゃない?」

 わたしの心臓は止まった。ノドがカラカラになって言葉が出ない。

「だってね阿明、もともと亦儒が言い出したことなんだから」

 止まっていた心臓が急激に鼓動し始める。

「・・・亦儒が? どういうこと、ヒロ! 亦儒が何を言い出したの?」

「亦儒が阿明のウエディングドレス姿を見たいって言ったのよ」

「いつ? いつそんなことを?」

「一ヶ月前かな。凌晨が生まれたちょっと後。呉尊のマンションにフィットネスゾーン台北ジムの資料を亦儒が持ってきてくれたとき。亦儒が私たちの前でそう言ったから、すぐにデザイン画を見せたの」

「すぐに? え? でもデザイン画がどうしてあったの?」

「春頃に自分のドレスをデザインしてたら、阿明のドレスのアイデアがどんどん湧いてきちゃったのよ。だから対になってるの。ほら、イメージやラインはまったく違うけど、生地は一緒でしょ?」

 本当だ。しかも立ち上がって並ぶと私たちのドレスは一枚の絵のように、パールや刺繍が繋がっていた。

「亦儒がそのデザインを気に入ってくれて、その場で正式にウエディングドレスを注文してくれたから、もう工房に頼んであって縫製中よって伝えたの。さすがにその時の亦儒は驚いてたわね」

 ・・・亦儒がこのドレスを・・・。

 

ヒロ篇

「二人へのサプライズにしようと思ってたのに、亦儒は驚く側から仕掛ける側に変わったってわけ。だから今頃、ドキドキして楽しみにしてるんじゃない?」

「・・・嘘みたい・・・信じられない・・・」

「亦儒からのプレゼントよ。もう泣かなくていいから。何も心配しないで、阿明」

「だって・・・もうずっと目も合わせてないの、わたしたち・・・。それにいつもの言葉も言ってくれなくなったし」

「嘘!? “百万回言っても足りないくらい・・・”ってあの亦儒が言わなくなったの? いつから?」

3日前・・・多分」

 ・・・3日? たった3日が“もうずっと”なの!? 阿明の常識はずれな感覚に、どれほど亦儒に愛されてきたかが想像できる。ううん、想像を超えてる。

「阿明・・・あなたは今、世界で一番幸せで一番きれいな花嫁よ。だからもう泣いたら許さないわよ。はい笑顔!」

 私が寄り目にして変顔を作ってみせると、ようやく阿明も笑顔になる。

「わたし、今本当に世界一幸せよ。だからヒロは二番目でいい?」

「やっぱりダメ! 私が世界一だから!」

「わたしだったら!」

 阿明の溢れるような自然な笑顔をやっと見ることができた。それにしても、亦儒が一番悪い! 阿明をこんなに不安にさせるなんて、亦儒らしくない。

 会場の扉の前でスタンバイする。私が阿明をエスコートして入場するのだ。二人とも膨らんだドレスではエスコートしにくいから、私のドレスはスレンダーライン、阿明はプリンセスラインにしてある。それなら、もし産後の阿明のウエストが元に戻ってなくても充分隠せるから、そこまで計算済みだったのだ。

 係りの人がドアを開ける。聞こえるピアノとギターの音色。この歌しかない。阿明と亦儒を祝福する歌は。亞綸と莉莉の生のハーモニーがBGMだなんて、贅沢すぎる? 亦儒は満面の笑顔で待っていると思っていたら、泣きそうな顔をしていた。感無量? きっと彼なりにつらかった一ヶ月だったのかもしれない。愛する妻に隠し事をしていたせいで、自然と避けてしまっていたのだろう。隠し事の前科があったからなおさらだ。私と呉尊が考えたサプライズプランに巻き込んだことを、少しだけ申し訳なく思う。

 ゆっくりと各テーブルをまわっていく。私たちのウエディングドレスのファッションショー気分。阿明と亦儒のご両親も嬉しそう。

 亦儒に阿明を手渡すと、二人はみつめあってやっと笑顔になる。呉尊が亦儒にマイクを渡した。そこでちょうどあの歌のサビの部分になる。

“百万回言っても~足りないくらい愛してる~”

 亦儒はしっかりと阿明の目をみつめながらあの得意の愛の言葉を歌い上げる。

 亞綸と莉莉には、このサプライズのことを今日伝えた。初め私は亦儒に歌わせるつもりなんてなかった。それなのに二人ともノリノリでアイデアを出してきて、結局こんなベタ過ぎる演出になってしまったのだ。でも、ちょっと寒いくらいのほうが亦儒らしいかなって思えてきた。亞綸と莉莉は嬉しそうに演奏してコーラスに徹してくれている。

 実は亦儒に歌ってもらうことは亦儒自身には知らせていなかった。それくらいは亦儒にもサプライズがないとつまらない。だけどさすが亦儒。“昔取った杵柄”って日本の言葉があったはずだけど、まさにそれ! 堂々と歌い上げてしまった。

 歌い終わると亦儒は阿明を抱き寄せ額にキスをした。会場中が歓喜の声と拍手に包まれる。なんだか自分のことよりも二人のことで胸がいっぱいになってしまう。そのときだ。暖かくて大きな手が私の肩を抱き寄せ、私の額にも唇が押し当てられた。見上げると呉尊が微笑んで見下ろしている。さっきの人前式での誓いの言葉が甦る。

“遠く離れていても、抱きしめていても、同じように愛し、守り抜くことを誓います”

 呉尊の言葉には優しさと力強さがこもっていて、私の胸をうった。私の指には今、一つ目のエンゲージリングと、呉尊のお母さんの形見のリングである二つ目のエンゲージリング、そしてマリッジリングの三つの指輪が輝いている。

 このサプライズを、亞綸と同じく今日知らされたばかりの大東が、緊張した面持ちで凌晨を抱っこして亦儒に近づいていく。首の座らない赤ちゃんに慣れてない大東は、亦儒に手渡すとホッとした様子だ。そして櫻雪と偉偉の間で手を繋いで現れたのは、赤ちゃん返り真っ最中の裕惠だ。

 裕惠は櫻雪から花束を受け取ると、偉偉に送り出されて、阿明の前にトコトコと歩み寄る。ママが急に消えて泣いてたんじゃないかって心配してたけど、なんだか様子が違う。阿明がしゃがんで目線を合わせると、裕惠は持っていた花束を可愛らしく阿明に手渡して、ハグしてホッペにキスまでしたのだ。完璧なまでに役目を果たしている。阿明はポロポロと涙をこぼして裕惠を抱きしめた。阿明は裕惠を抱き上げる。そして阿明の涙を拭いてあげる亦儒!

 なんて感動的なの! このサプライズ、何から何まで大成功だ。カメラマンのギャビーは幸せな家族の姿にレンズを向けている。ギャビーのことだから、きっと素敵に撮ってくれてるにちがいない。

 そしてステージから降りた亞綸も加わって、私たちの目の前には飛輪海の四人が久しぶりに顔を揃えていた。なんだか胸が熱くなる。ギャビーは、もちろんその瞬間も逃さずシャッターを切り続ける。

 気がつくと櫻雪がもう一つ花束を持っている。私、櫻雪に一つしか花束を預けなかったはずだけど・・・。櫻雪は花束を裕惠に渡すと、私のほうを指差した。裕惠は大きな花束を抱えてトコトコと歩いてくる。そして偉偉は呉尊の腕を引っぱってきて、私の横に並ばせた。阿明がそのまま小さくなったような可愛い裕惠が、私たちの前に来ると花束を差し出した。

「ヒロママ、尊お兄ちゃま、ゴケッコンおめでとうございましゅ」

 花束を受け取ると、私にもハグとキスをしてくれる。

 呉尊が裕惠を抱き上げる。裕惠は呉尊の腕に腰掛けるようにして肩につかまっている。

「ヒロママ、とってもキレイね!」

「裕惠こそ、とっても可愛いわ! ヒロママと阿明ママの自慢の娘よ!」

 櫻雪を見ると、大東と一緒に笑顔でこっちを見ている。二人からのサプライズってわけね。それにしても裕惠ったら、すっかりいいお姉ちゃんになったように見える。赤ちゃん返りがひどいって聞いていたけど・・・。呉尊が裕惠を床に降ろすと、「バイバイ」と言ってすぐに走り去っていく。そしてなぜだか裕惠は偉偉に駆け寄った。しかも偉偉に頭を撫でられて真っ赤になってる。裕惠ったらあんなに嬉しそうな顔して! 

「裕惠のやつ、おじちゃまのお嫁しゃんになる!って言ってたくせに、ホント浮気者だよな」

 亞綸がそうぼやく。呉尊はそんな亞綸の肩に腕をまわして言う。

「阿布、おまえがそんなこと言えた義理じゃないだろう? 心変わりしたのは、おまえのほうが先だったんだろ? 浮気者はおまえも一緒だ」

「浮気じゃないよ! 莉莉のことは本気だ!」

 亞綸が莉莉にぞっこんなことくらい、周りの人間はみんな知っている。莉莉のこととなると、全部顔に出ちゃうんだから。

 それにしても裕惠の初恋の相手が、大東の息子になろうとしている偉偉だなんて・・・。もし裕惠と偉偉が結婚したら、阿明と大東は親同士だから親戚になってしまう。ふふっ、まさかそんなことになったりしないかな。さすがに。

「莉莉、亞綸、素敵なステージどうもありがとう。でもあんまり見られなかったけど」

 私が改めて御礼を言うと、二人はみつめあって笑った。

「ヒロあってのあたしたちだもん、披露宴で歌わせてもらえて、すっごく嬉しかった! ヒロも阿明もキレイすぎて感動的で歌いながら泣いちゃった! ね、小霖!」

 最近、莉莉は亞綸のこと、本名の愛称で呼ぶようになった。亞綸のお母さんとも本当の母娘みたいだし、互いの家に頻繁に泊まり合ってるくらいだから安泰かな、この二人も。

 いつかきっと結婚して、ステキな家庭を作るんだろうな。不安定だった亞綸を変えてくれた莉莉に、感謝の気持ちでいっぱいになる。亞綸は私にとって弟みたいな存在なのだから。そんなふうに思い巡らせていたときだった。莉莉が口元を押さえて少し前かがみになった。

「やだ、まさかあのときの?」

 莉莉はそうつぶやいてから急に会場から出て行ってしまった。なんだか気分が悪そうだったけど・・・、えっ・・・このシチュエーションって・・・もしかして・・・。

 亞綸の顔を見ると、ただ呆然と見送っている。

「亞綸、何してるの! 早く追いかけて!」

「・・・え? 莉莉、どこ行ったんだろ」

「化粧室に決まってるでしょ! 早く!」

 亞綸はあわてて出て行った。だけどまさか、そんなことって!? 二人にとって、今が一番大事なときなのに!

 私の考え及ばない事態が起きてしまったのかもしれない。

 こんなはずじゃなかった。

 二人をこんなふうにプロデュースするつもりなんて・・・。

 まったくの想定外な展開に、

 私はただ、とまどうしかなかった。

飛輪海小説『ステップアップ!』SP~第三章「過去と未来」へつづく・・・

目次と登場人物~SP

目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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