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飛輪海小説『ステップアップ!』第35話~亞綸篇

35話「ボクたちのハーモニー」~亞綸篇  

 午前は雑誌の仕事で、そこから午後の仕事場所へヤンさんのバンで向かうところだ。莉莉は午後から仕事が休みらしいけれど、ボクは午後も握手会やらレコーディングの仕事があって会いに行くこともできない。それからボクは車の中でウトウトしてしまい、ヤンさんに揺り起こされる。

「え? ヤンさん、仕事ってここ?」

 そこは父さんの勤める病院だった。今日はここで母さん主催のチャリティーがあるはずだ。

「あなたを連れてきて欲しいってお母様に頼まれちゃったのよ。どうして言ってくれなかったの? チャリティーリサイタルで数十人と握手するくらいなら仕事を調整すれば、なんとでもなるのに」

 ただのチャリティーじゃない。院長の末娘の任家萱(レン・ジアシュエン)とボクを引き合わせるために母さんが画策した陰謀だ! 母さんはヤンさんまで丸め込むなんて、やることが周到だよ、まったく!

 ホールに行くと、母さんのチャリティー活動に賛同してくれている人たちや、家萱の友達らしきセレブな女の子たちがたくさん集まっていた。ボクのことを遠巻きにしてヒソヒソ噂するのは勘弁して欲しいよ。そこへ母さんが少し慌てた様子でやってくる。

「あらあら! ヤンさん本当にありがとう! 早く来てもらえて助かったわ! ちょっと出演者の到着が遅れているの。握手会を先に始めてもらいたいんだけれど、大丈夫かしら、ヤンさん」

 ボクと母さんは冷戦中だ。もう一週間も口をきいていない。だから母さんはわざとらしくヤンさんにばかり話しかける。

「もちろん大丈夫よね? 阿布?」

「ヤンさんが言うなら別に始めてもいいよ」

 どうやら任家萱は遅刻のようだ。ホッとした。握手会をさっさと済ませて帰ってしまえば、彼女と会わずに済むかもしれない。

 握手会もあと数人というところで、任家萱の姿が目に入った。ボクのあてが外れた。彼女はブルーのドレス姿でピアノ伴奏者と何か打ち合わせをしている。見ていたボクに気がついた彼女は、長いドレスを少し持ち上げてお姫様のように挨拶をしてくれた。

 そして握手会が終わると彼女はボクのところへ駆けつける。

 任家萱は近くで見ると、二年前とはあきらかに違っていた。驚いた・・・。この前はチラっと見かけただけでよくわからなかったけど、さすが二年もイタリアに留学していただけのことはある。すごく綺麗になったし、洗練されていてブルーのドレスもよく似合っている。快活に輝いた瞳は、ちょっと目を合わせるのが照れくさいくらいだ。

「呉庚霖、お久しぶりね! また会えて嬉しいわ! お元気?」

「ああ・・・元気だよ! キミも元気そうだね」

 ありきたりな返事しかできないことに、軽く落ち込む。

「おばさまがステキなリサイタルを開いてくださって光栄だわ。チャリティーに少しでもお役にたてるんですもの」

「家萱! よかったわ間に合って! あなたたち、二年ぶりで積もる話もあるでしょうけど、家萱、すぐに始めてもらえるかしら?」

「ええ、おば様。それじゃあ庚霖、私の留学の成果を観て行ってね」

 家萱はにっこりと微笑むとドレスの裾を翻し、ピアノのほうへ歩いていく。拍手に迎えられピアノの横に立つと、クリーム色の大理石の床に、鮮やかなブルーのドレスがよく映え、彼女の美しさが際立って見えた。

 このホールは小児病棟のある5階から最上階の6階までの吹き抜けになっている。ガラス張りの天井からは優しい光が差し込んでいて今にも天使が降りてきそうだ。だから時々ここで歌っている莉莉にぴったりの場所なんだ。でも今日ばかりは、まるで家萱のために用意された場所に思えてしまう。それくらい、彼女は堂々とその場に立っていた。まるで女神のように。

 母さんが彼女を紹介して歌が始まる。歌声も容姿に劣らずきれいで、ソプラノの高音が耳に心地よく響く。普段の話し声とは別人のような彼女の美声にただただ聞き惚れた。お嬢様育ちで、留学も気まぐれなものだと思っていたけれど、ちゃんと頑張ってきたんだな。

「ねえ、小霖。家萱ったら綺麗になったでしょう?

 母さんは満足そうな笑顔を浮かべている。まずい展開だ。完全に母さんのペースに持ち込まれてる。

「母さん、ボクの役目は終わったよね? だからもう帰るよ」

「え? ダメよ! 何を言ってるの! 次の仕事まで、まだ一時間はあるはずでしょう? ちゃんと最後まで聴いていって、母さんの顔を立ててちょうだい! あなた目当てのお客様だっていらっしゃるんだから! それにこの花束をあとで渡す役目も残ってるのよ!」

 小声だけれど、すごい気迫の母さんのせいで、ボクはしばらく帰れそうにない。花束を渡すなんて聞いてなかったぞ! 家萱とボクの間を取り持ちたいのが見え見えだ。だからなのか、母さんはさっきから落ち着かず、ソワソワして見える。家萱の歌を聴いているのかいないのか、別のところを気にして見ている気がした。

 彼女が最後の歌を歌い終わる頃だった。ボクは母さんの視線の先に、意外すぎる姿をみつけた。

 それは莉莉だった。李おじさんのところにカウンセリングに来たんだろうか? それとも小児病棟の子供たちのために歌いに? 莉莉はお母さんの形見のギターを抱えている。今日、いつものこのホールで、チャリティーがあることを知らずに来てしまったんだろう。莉莉はボクがいることに、まったく気付いていないようだった。いつもと違う雰囲気に、戸惑っている莉莉の元に、今すぐにでも駆けつけたい衝動に駆られた。だけど大勢の人前でそんなことはできない。

 そんなふうに葛藤していると、ボクの隣にいたはずの母さんが、いつの間にか莉莉のほうへ向かっていた。母さんは、莉莉のことを遅れてきたお客さんとでも勘違いしたんだろう。そして母さんが莉莉に話しかけると、莉莉はホッとしたような表情を浮かべ、笑顔になっている。ボクもなぜだかホッとする。 

 そこでちょうど家萱のラストの歌が終わり、拍手が沸き起こる。

 

 莉莉は緊張した面持ちでギターを持って母さんの隣に立っていた。センターには、いつの間にか椅子が用意されている。

 いったいこれから何が起こるんだろうか? 莉莉は用意された椅子に腰掛けた。

 手にはお守りが握られている。そして母さんがこう紹介したんだ。

「皆さんは、多分、彼女をご存じないでしょう」

 母さんの知り合いや、家萱の家族、友人たちはうなづいている。

「実は、私も彼女のことを、よくは知りません」

 そこへ小児病棟の子供たちがナースに連れられてやってくる。

「ボクたちは知ってるよ! 莉莉お姉ちゃんだよ!」

 母さんはにっこりと微笑み、話し続ける。

「そうです。子供たちにはおなじみの、黄莉莉さんです」

 ボクは耳を疑った。今、母さんは“黄莉莉”とフルネームで呼んだからだ。

「莉莉さんは、このホールで時折歌ってくれています。それが子供たちにとって、どんなに安らぎになり、励みになったことでしょう」

 母さんは莉莉を知っている? いつからなんだ? 莉莉は緊張からか、ボクの存在にまったく気付いていないようだった。

「莉莉さんの歌には、心があります。天使のような歌声を、どうぞお楽しみください」

 莉莉はいつものようにお守りの巾着袋をしっかりと握っている。ボクからもらったからという理由だけで、莉莉は一年以上大事にしてくれていた。莉莉は目を閉じて気持ちを落ち着けているようだった。

 どうしてボクに話してくれなかったんだろう。ヒロは来てないみたいだけど知ってたんだろうか。莉莉のことだから、誰にも言わないで一人で頑張ろうとしているのかもしれない。

 莉莉は目を開けると、ひとつ深呼吸をした。

「皆さん、今日は遅刻してしまってすみませんでした。本当はあたしが前座みたいなもので、先に歌うはずでした。・・・彼女のステキな歌の後ですごく緊張しています。3曲歌います。どうか聴いてください」

 ギターの音色で始まり、いつもなら禹哲が歌うパートを莉莉が歌いだす。ちょっとゴスペル調のこの歌は、このホールにぴったりの曲だ。ボクは、横のほうに用意してもらった特別席からお客さんの反応をを見ていた。ほとんどの人の目が二倍くらい大きく見開かれ、口をポカンと開けるか手で覆っている。

「やだ、何? どこから声が聞こえてくるの? 天井? なんかスゴイ」

 横にいたヤンさんが感嘆の声をあげた。

 ホールの吹き抜けの天窓から、まるで太陽が降り注ぐように聴こえてくる莉莉の歌声。みんな完全に引き込まれている。ボクだってこの歌を、ここまで魅力的に歌う莉莉を始めて見た。

 2曲目は、ボサノヴァ調のほのぼのした曲で、つい口ずさみたくなるのを我慢する。この曲、ボクもけっこう自信あるんだけどな・・・。

「阿布、この歌知ってるの?」

 ドキっとする。いつの間にか口ずさんでしまっていたみたいだ。

「え? ・・・知らないよ。今覚えただけ・・・」

「この莉莉って子、なんなの? まだどこからもデビューしてないわよね?」

「え? 多分・・・」

 ヤンさんは興奮気味だ。なんだかボクが誇らしい気持ちになる。「ボクの彼女なんだ」って教えてあげたいくらいだ。

 3曲目は・・・ラストはやっぱりあの曲だ。16年前この病院で亡くなった莉莉のお母さんは、死の間際まで歌い続けていたんだ。前奏の途中でボクと莉莉の視線がぶつかった。莉莉はかすかに驚いた顔をしたけれど、ボクが笑うと莉莉もすぐに笑顔になる。おとついヒロに詩を付けた楽譜を渡してあった。だから、もしかして・・・。

  莉莉が歌いだす。もう“Lalala”じゃない。ボクの言葉が、莉莉の歌声にのってお客さんに届けられる。なんだかちょっと照れくさいけど、心臓が震えるみたいな喜びがこみ上げてきた。

 莉莉が歌い終わると、子供たちの沸きあがるような歓声とお客さんのため息まじりの拍手に包まれる。

 家萱が拍手しながら莉莉の元へ歩み寄る。

 家萱が莉莉にハグしてから客席に向かっておじぎすると雨のような拍手に包まれた。そして母さんがボクの元へ走ってくる。

「小綸! 花束贈呈よ! 早く行って!」

 え? まさか莉莉の目の前で、家萱に花束を渡せって!? ボクはとまどいながらも二人のほうへ向かって歩き出すしかない。花束は一つ。家萱にだけ渡すなんて・・・、じゃあ莉莉はどうするんだよ! ボクは顔で笑って、心では叫びだしたいくらいに叫んでた。

 ボクが近づいていくと、莉莉は嬉しそうに微笑んだ。でも渡す相手は莉莉じゃないんだ。莉莉、ごめん!

 家萱まであと少しというところで、ボクのうしろから誰かが追い越していった。

Selina! Bravo!!

 え? セリーナ? ブラーヴォ? その男は外国人で、家萱に花束を渡すと熱い抱擁と同時に額にキスをした。ボクは内心あっけにとられながらも、臨機応変に笑顔で莉莉に花束を渡してハグをする。

「亞綸、どうしてここに?」

 右側のハグで莉莉が聞く。

「莉莉こそなんでここに?」

 左側のハグでボクが聞く。

「あ! お兄ちゃんだ! ねえ! 莉莉お姉ちゃんと一緒に歌って! さっきの歌、お兄ちゃんも歌ってよ!」

 小児病棟の子供たちが騒ぎ出す。この子たちのリクエストに、ボクは応えたいって強く思った。母さんはこの展開に目を丸くしている。ヤンさんも同じだ。

 莉莉を見ると笑ってうなずいた。ボクはピアノへ向かう。莉莉はギターを持って再び椅子に座った。子供たちは歓喜の声をあげ、ファンの子達はざわめいた。アイコンタクトでボクのピアノと莉莉のギターが同時に始まる。歌詞は頭に入っていた。ボクが作詞したんだから当然だ。

 初めは莉莉が先だよって視線を送ると、莉莉は迷わず先に歌いだす。ボクはコーラスとハモリに徹する。久しぶりに莉莉と歌う楽しさ。ボクたちの声が重なりあって、一つになるのって、すごく気持ちいいんだ。

 2番はボクがメインで歌い、莉莉がハモってくれる。ボクの莉莉への思いが、言葉とメロディーで伝わっているだろうか。

 最後のサビはハモらないでユニゾンにしてある。何度も繰り返し、一番二人の気持ちが高まったときに転調して最後の一回を歌い上げる! 

 一瞬、歌い終わってもまだ現実に戻れていない感覚だった。少し間をおいてからのお客さんの歓声で現実に引き戻された。ボクは椅子から立ち上がりゆっくり莉莉のほうへ歩いていく。ボクが手を差し出すと、莉莉は手をのせて立ち上がった。

 たかれるフラッシュと数台のテレビカメラが目に入る。いつのまにかボクたちを撮影していたみたいだ。記者たちが数名つめよってくる。

「庚霖! 莉莉! こっちだ!」

 いつから見ていたのか、李おじさんがボクたちを手招きする。

「あなたたちどこへ行くの!?

 母さんとヤンさんまでもがボクたちについてくる。

 ボクは莉莉の手をしっかりと握って走り出す。

 ボクたちは数分後には心療内科病棟の李おじさんの部屋にいた。

「運が悪かったね。さっき、有名な政治家が緊急入院したんだ。それで急遽記者会見が開かれることになってね。それにしてもいい歌だった! もうすっかり二人の歌になっていたんだな」

 李おじさんは、冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り出すと、ボクと莉莉に差し出した。

「奥さんたちにはコーヒーでもお淹れしますよ」

「私は未婚ですけど!」

 ヤンさんが顔を少し赤くして否定する。

「いや、それは失礼した」

「李先生、私はもうなにがなんだか・・・どうして小霖が莉莉の歌を歌えるのかも・・・」

 母さんは訳がわからなくて混乱しているようだった。ボクだって平静を装っているけど内心はかなり動揺していた。

「とにかく、呉の奥さんは気持ちを整理するために、二人を引き合わせる紹介をしてみたらどうだね?」

 さすがに診療内科医の李おじさんは心得てる。

「え? ええ・・・あのね莉莉。この子は・・・炎亞綸は・・・私の息子なのよ」

「亞綸が? おばちゃんの・・・息子さん? いつから?」

 莉莉は動揺したのか、おかしなことを言うからボクは飲んでいたミネラルウォーターを噴出しかける。母さんもおじさんもヤンさんまでもが笑い出す。いや、そんなことより、莉莉は母さんのことを親しげに“おばちゃん”と呼んでいる。どういうことなんだ?

「莉莉。もちろんこの子は生まれたときから私の息子よ」

 莉莉が信じられないって顔で「本当に?」と聞くから「本当だよ」と答える。

「小霖・・・。こちらは黄莉莉さん。最近できた私のステキなお友達よ」

 今度はボクが動揺して、母さんの言ってることがすぐには理解できない。

「・・・お友達? 誰と誰が?」

「私と莉莉がよ!」

 母さんはなぜか得意げだ。莉莉を見ると、莉莉までもが得意げに笑ってる。莉莉と母さんが友達?

「嘘だろ!!」

「嘘じゃないわよ、ねえ莉莉! 今日、小霖にどうしても会わせたくって、それでヤンさんに仕事って形で頼んだのよ」

「それじゃ母さんが言ってた“ふさわしい人”って任家萱じゃないのか?」

「え? 小霖ったら何言ってるの、彼女にはさっきのイタリア人の婚約者がいるのよ! 今が一番幸せなときよね。だから家萱ったら、あんなに綺麗になっちゃって!」

 そういうことだったのか!

「亞綸、“ふさわしい人”って何? さっきのきれいな人がどうかしたの?」

「え? あのさ・・・えっと・・・」

 なんて答えればいいのか・・・全部ボクの早とちりだ。 

「阿布・・・それで、あなたたち二人はいったいどういう関係なの?」

 そばでずっと気をもんでいたヤンさんが、ストレートな質問をしてくる。ボクと莉莉はみつめあって笑顔になる。

「小霖! もしかしてあなたがうちに連れてきたい女の子って・・・莉莉のことなの?」

「おばちゃん、あのね、あたし・・・ずっと会いたかったの。いつも考えてた。亞綸のお母さんはどんな人なのかなって・・・。すごくすごく会いたくって。でもあたしなんかじゃ、がっかりされるかなって不安で・・・」

 莉莉は感極まったのか泣き出した。

「あらあら莉莉。泣かなくていいのよ!」

 母さんはそう言って、莉莉を抱き寄せた。

「私はあなたが大好きなのよ! あなたみたいに思いやりのある子はなかなかいないわ。初めてあなたがあのホールで歌ってるのを見たときから、私はあなたのトリコなんですからね!」

「・・・おばちゃん・・・本当に?」

「ええ、本当よ。あなたと小霖をどうやって引き合わせるかを考えるのがどんなに楽しかったか! あなたたちならきっとすぐに惹かれあうに決まってるってわかってたんですもの。小霖に“ふさわしい人”はあなたしか考えられなかったわ。この子にないものをあなたはたくさん持ってるもの。親の心、子知らずって言うでしょ? あなたがいればもう少し母親を思いやってくれるようになるわ。ねえ、もうキスとかしてる仲かしら?」

「母さん!!」

 母親にボクたちのそんなことには触れてなんかほしくない! だけど、ボクの心配は取り越し苦労に終わったみたいだ。莉莉が持ってる目に見えない素敵なものを、母さんはちゃんと見ていてくれたんだ。

「母さん、ヤンさん。ボクは莉莉とのことを報道されても、否定なんかしないからね」

「当たり前じゃない」

 母さんは笑って言った。

「とにかく社長に相談しましょう」

 ヤンさんはマネージャーらしい意見を言った。

「さあさあ、とにかく、二人が幸せになることが一番だ。私たちはこれからも見守っていこうじゃないか」

 李おじさんが言った。

「李先生は前から莉莉をご存知だったのね?」

「母さん。李おじさんは主治医なんだ、莉莉の・・・」

「・・・そうだったのね。どうか莉莉をよろしくお願いします」

 まるで自分の娘のことのように母さんは頭をさげた。ボクはなんだか涙が出そうになってうしろを向く。

「阿布・・・次の仕事があるわ。そろそろ・・・」

「そうだね。ごめん、もうボクは行くよ。母さん、莉莉のこと頼んでいい?」

「もちろんよ! 二人のために7時にいつものレストランを予約してあるからあなたは直接行ってちょうだいね。阿明と亦儒の披露パーティーをしたホテルよ。それまで私は莉莉に付き合うわ。お買い物でもして時間をつぶしましょう、莉莉」

「ありがとう! おばちゃん」

 母さんはホント、手回しがいいよ。チャリティーのイベントだけじゃなく、息子の恋愛のお膳立てまでしてあるんだからさ。

 ボクたちは、記者たちの目を盗んで救急の搬送口から外に出て、それぞれの目的地へ向かった。ボクとヤンさんは次の仕事場へ、母さんと莉莉はタクシーで忠孝東路4段へ買い物に。

 莉莉はいつもよりはしゃいで見えたっけ。あんなに嬉しそうな莉莉を見ていると、ボクも嬉しくなる。

 それにずっと悩みの種だった母さんとの問題もあっけなく解決したわけだ。

 ボクと莉莉のハーモニーを邪魔するものは、もう何もない。そんな気がしていた。この時までは・・・。

第36話「ボクたちの不協和音」~亞綸篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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