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飛輪海小説『ステップアップ!』第33話~東雪篇

33話~「桜色のスキャンダル(前)」東雪篇 青:大東  ピンク:櫻雪

 偉偉が戻ってから一週間がたとうとしている。大陸でのCM撮影やイベント続きで、櫻雪たちにはほとんど会っていない。それでも、以前とは違って、会えない時間は、会えたときの楽しみの増幅剤だと思えるようになっていた。

 だけどこのままにしておけない。オレは台北に戻ったこの足で、今から事務所の社長に直談判しに行くところだ。

 ロビーを横切り、受付の櫻雪にさりげなく尋ねる。

「社長いる?」

「え? ええ、いらっしゃるけど・・・」

 オレは櫻雪に「サンキュ」と言ってウインクする。一緒だったヤンさんはそんなオレに気がついたのか、エスカレーターを上がる途中にオレを尋問する。

「大東。正直に答えて。あなたもしかして櫻雪に気があるの?」

「YES!

 オレは前を向いたまま振り返らずに、きっぱり答える。

「じゃあ言っておくけど、彼女はバツ一で子供がいて四つも年上よ。ひいちゃうでしょ?」

「NO!」

「まさか知ってたの?」

「YES!」

「もう! YES・NOクイズじゃないんだからちゃんと答えなさい、汪東城!」

 オレはエスカレーターを降りると、ヤンさんに向かって答えた。

「オレは櫻雪のすべてを受け入れてる。今から社長に認めてもらいに行くところだ。隠していて悪かった、ヤンさん」

 ヤンさんは神様に祈るようなポーズをとる。エレベーターに乗りこむとヤンさんはさらに詰め寄る。

「大東、何も今じゃなくてもいいじゃないの? 映画の公開もまだ決まってないのに、そんなスキャンダルが公になったら・・・」

「スキャンダル? 何も悪いことはしてない」

 オレはヤンさんの制止を振り切り、エレベーターを降りると、社長室へ向かう。

「大東!」

 社長室をノックして返事を待たずにドアを開ける。

「失礼します」

「汪東城? 戻ったのか・・・」

 プロデューサーが先客か。タイミング悪いな・・・。だけどオレの決意は固い。

「社長。お話があります」

「最近、私に直談判するのが流行っているのかな?」

「まったく月に一度はこういう場面に遭遇している気がするな。今度はなんなんだ」

 プロデューサーがため息を大きくつく。オレの他にも、こんなマネするヤツがいるのか。

 大東は社長になんの用があるんだろう。今日は衣装合わせに来ただけのはずなのに。

 ヤンさんとエスカレーターで何かもめているように見えたのが気になっていた。私には笑顔を見せてくれたし、ウインクまでしてくれたけど・・・。 

 

 小一時間ほどしてから大東とヤンさんが降りてくる。ヤンさんは、受付の前で立ち止まり、私に何か言おうとしたように見えたけど、首を振ると何も言わずに立ち去っていった。

「偉偉は元気か?」

「ええ・・・。ねえ、ヤンさんの様子がヘンよ。何かあったの?」

「ジャブを軽く打っておいただけだ。気にするな」

「え?」

 大東は二度目のウインクをして去っていく。

 社長に渋られることはわかっていた。オレの事務所との契約はまだ一年ほど残っている。あと一年は方針に従うべきだってことも承知している。数々のCM契約だって、プロデューサーと作り上げたイメージで勝ち得たものだから、勝手には変えられない。“クールでセクシーな遊び人”。そんな汪東城が映画では別の一面を見せるってのがプロデューサーのもくろみなのだから、映画のキャラクターと汪東城が同じであっては価値が下がってしまうと言われてしまった。全部もっともな言い分だ。社長も、このことに関してはプロデューサーの意見を尊重していた。

 とりあえず、ジャブは打っておいた。早く次の手を考えないといけない。櫻雪と偉偉を不安にさせるようなことは二度としたくない。

 大東は何を考えているんだろう。あれから数日たつけれど、大東は国内を飛び回っていて一度も会えていない。電話で毎日、話してはいるけれど、私は大東を信じているから何も聞かないことにした。

 明日の日曜は、大東が昼間はオフになったから、三人で出かけようと言ってくれたのに、偉偉は禹哲と遊園地に行く先約があった。私は翻訳の仕事の締め切りが近くて、土日は翻訳にあてていたけれど、なんとか今日までにほとんど仕上げてしまった。手直しは明日の夜に頑張れば大丈夫。

 私はお弁当作りに初挑戦する。このところ、料理の手際もよくなって、腕もあがったと禹哲は褒めてくれる。もうすぐ禹哲は引っ越してしまうから、その前にもっと教わっておけばよかった。弟とはいえ、少し遠い存在になってしまうようで寂しくなる。でも、あの子は、逆境に打ち勝って、自分の未来を切り開いてきた。私は何もしてあげられなかったけど、家柄、財産、学歴なんてものがなくても、あの子が自分の身一つで勝負できる力を蓄えてきていたことに、驚き、誇らしくもある。  ヒロとは、どうなったのか気になるけれども、今の禹哲なら、もう何も心配いらない。

 日曜の朝、禹哲も手伝ってくれて、四人分のお弁当が出来上がった。天気はもちろん晴れ。偉偉は予定通り禹哲と遊園地に。私と大東は、人が多い遊園地は避けて、郊外の山へピクニックへ行く。もちろんこの時期、花見客でどこの山もにぎわっているけれど、黑人(ヘイレン)がとっておきの場所を教えてくれたらしい。

 大東がバイクで迎えに来る。下に降りていくと、大東はピンクのラインの入った白いフルフェイスのヘルメットを差し出した。

「もっと気の利いた渡し方をしたかったけどな。せっかく二人でバイクで行くことになったんだから、このタイミングしかないだろ?」

 ヘルメットを受け取りよく見ると、桜の絵がペイントされていることに気付く。もしかして・・・。

「オレがデザインしたんだ。日本の桜は、こんな淡いピンクが普通なんだろ?」

 ピンクのラインも、桜のイラストも、ソメイヨシノのような淡いピンクだ。

「白は、雪?」

「バレたか。感動してくれた?」

 私の名前をイメージしてデザインしてくれたヘルメットに、感動しないわけない。それにこれが大東からの初めてのプレゼントなのだから・・・。

 私の目は自然と潤んできてしまう。そんな目で大東を見上げてしまったからなのか、大東は私の腕を掴み、ビルの少し陰になった場所に引き入れると、壁に私を押し付けた。明るい時間にこんなところで? 誰かに見られたらと思うと気が気じゃない。少し抵抗してみたけど大東は余裕の笑顔を見せ、私の唇を強引に奪おうとする・・・。そのときだ。

「おはようございます。櫻雪さん」

 大東はとっさに背を向ける。ビルの管理人のおばあさんが、新聞を取りに来たのだ。この場所はちょうど郵便受けコーナーなのだから仕方がない。

「お、おはようございます! いいお天気ですね」

 私は自分のうちの郵便受けの中をのぞくふりをしながら、取り繕うように挨拶した。

 おばあさんはこのビルが建てられた頃に、生まれたって話してくれたことがあった。ご主人に先立たれ、今は一人でビルを守っている。

「驚いたな」

 おばあさんが管理人室へ入っていと、大東はそう言って手の甲で額の汗をぬぐう仕草をしてから笑う。

「それじゃ、続きを・・・」

「ほら、大東! 早く出発しないと!」

 私はキス防止のためにヘルメットをかぶり、渋る大東の腕を引っ張っていく。

    *          *          *

 山は春の陽気に包まれていて、絶好のピクニック日和だ。人けのない場所を選び、バイクを停める。私たちはそこから歩いて奥へ進んでいく。途中には小川が流れていたり、つつじや桜が時折見られた。そして黑人から聞いたって言う穴場にたどり着く。そこには濃いピンクの一本桜が枝を大きく広げていて、そこから眺める景色は、若葉と桜やつつじが織り成すカーペットのようだ。

「日本人は桜を見ながら呑んだり食べたりして騒ぐんだろ?」

「そう、ハナミ!“花見”。日本にいるとき、一度だけパパの会社の花見に参加したことがあるの」

「このリュックから、うまそうな匂いがするよな。弁当作ってきてくれたんだろ?」

「気付いてた? もう食べる?」

「食べる前にさ・・・」

 私が一本桜の下にピクニックシートを広げると大東はそこへ仰向けでねころがる。

「こっち来いよ」

 大東は腕を広げて私を呼ぶ。誰もいないのはわかっていても、なんだか外だとためらってしまう。

「早く来いよ」

 大東のそばに座ると、すぐに押し倒される。桜のピンクと青空のコントラストをバックに大東の唇が近づいてくる。目をとじ、大東の吐息を感じながら、私の唇は大東の唇を待ち焦がれる。そのときだった。

「誰だ!」

 大東は私の上から起き上がると、そう怒鳴った。私もすぐに体を起こし、大東の視線の先を見る。10メートルほど先のところに、カメラを構えた男がいた。男はシャッターを何枚も切り続ける。

 大東が走り寄ると、男はすぐに逃げ出した。

「櫻雪! ここで待ってろ!」

 男を追っていく大東の背中を見送りながら、私は激しく動揺していた。カメラマンに写真を撮られたということが、重くのしかかってくる。私の存在が公になれば、大東に迷惑をかけることになるかもしれない。そう思うと不安で仕方ない。何も悪いことはしていないのに、どうして? 

 私たちは、二人の時間を楽しむことさえ許されないなんて・・・

第34話「桜色のスキャンダル(後)」~東雪篇へつづく・・・
目次と登場人物~東綸篇

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