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飛輪海小説『ステップアップ!』第30話~東雪篇

30話「最後の審判」~東雪篇  青:大 ピンク:櫻雪

 今日は、親権の調停の日だ。偉偉はオレを信じて、ちゃんと正直な気持ちを伝えてくれるだろうか・・・偉偉を不安にさせたのは、オレの責任だ。今はオレを信じてくれてればいいんだが・・・。もちろんオレは調停の場にはいられないが、櫻雪の心の支えになれる方法はないか、ずっと考えていた。そしてある一つの方法を今朝になって思いついた。

 オレは昼過ぎの仕事のあき時間に櫻雪の部屋を訪ねた。櫻雪に笑顔はなく、心なしか青ざめているようにも見える。服装はグレーのパンツスーツで、いつものように髪を後ろで一つに束ねていた。

「経済的に安定してるって印象を与えたくて・・・どう思う? 大東」

 櫻雪はどう見てもガチガチに緊張している。オレは櫻雪の髪を束ねているバレッタを、断りもなしにはずしてから言った。

「髪をおろして行ったほうがいい。母親らしい柔らかさのほうが、経済力より偉偉には必要だ。オレも金なんかなくても、母さんの優しさと暖かさが一番だったからさ」

 櫻雪は感極まったようにオレの首に抱きついた。

「そうね・・・大東の言う通りよ・・・私もどんな贅沢よりもママとのハグが忘れられないの・・・ヘンね・・・なんだか大東・・・少しだけママの香りがする・・・」

 櫻雪はそう言ってオレの体のあちこちに鼻を押し付けて、香りの元がどこなのか探そうとするもんだから、くすぐったくて仕方がない。

「櫻雪! やめてくれ! わかったよ、出すから・・・」

 オレは耐え切れず、ポケットから、ビニール袋を取り出し、櫻雪の前で袋をあけた。中には一枚のハンカチが入れてある。

 櫻雪は、そのハンカチを手に取ると、自分の鼻にそっと押し当てた。そして大きく息を吸い込むと、ポロポロと涙をこぼした。

「大東・・・これ、どうしてママの香水の香りがするの?」

 オレは、図らずとも母さんにプレゼントしてしまった“HoneyMoon”を一吹きだけハンカチに染み込ませてきた。

 だけど櫻雪に、これまでのいきさつをすべて話すには時間が足りない。あまりにも壮大過ぎて・・・。だからこう答えたんだ。

「今夜偉偉と三人で食事するときに話すよ。だから頑張れ。絶対に大丈夫だから」

 オレは櫻雪の頬を両手ではさみ、親指で涙をはらってから、唇を重ねていく。櫻雪の頬はしだいに桜色に染まり、さっきまでの緊張感から解きほぐされていくのが伝わってくる。

 オレは櫻雪をバイクに乗せ、家庭裁判所へ向かった。今日は時々亞綸に貸すヘルメットを用意したが、実は今、彼女用のメットを発注しているところだ。白地に桜色のラインとさりげなく桜のイラストが入っているデザインだ。もちろんオレの特注デザインで、イラストもオレが描いたものだ。櫻雪もきっと気に入ってくれるにちがいない。そしてこれがオレから彼女への初めてのプレゼントとになりそうだ。本当はHoneyMoonがそうなる予定だったんだがな・・・。

 それが叶わなくなった今、指輪とか、月並みなものじゃなく、オレらしいものにしたかったんだ。

 櫻雪を裁判所近くで降ろしてから、オレは仕事場へ向かった。

 今夜、無事に三人で食事できることを信じて、オレは仕事を頑張るだけだ。

      *          *          * 

 大東のサプライズで、私はどんなに励まされたか・・・。あんなに緊張していたのに、今ではこんなに落ち着いていられる自分の単純さにびっくりする。それにしても、大東はどこであの香水を手に入れたのかしら・・・。

 私は、調停員との面談を済ませ、ある部屋で調停が始まるのを待っていた。私は親権を放棄しないで、収入の見通しや、環境と周囲の協力、有利になると思われることはすべて話したつもりだ。ただ「再婚のご予定は?」という質問には「いいえ」と答えるしかなかった。

 今、別室で偉偉は調停員と話をしているはずだ。そこには私も、傳一も入ることはできない。偉偉は本当に私を選んでくれるのか、急に自信がなくなってくる。

 しばらくして、私は調停の行われる部屋へと通された。中にはすでに傳一が座っていて、少し笑みを浮かべ余裕を見せていた。彼をだますようで心苦しい。でも偉偉の純真な気持ちに付け込んだ彼を許せない気持ちもある。そんな中、間に入っている調停員が口をひらき、「親権は、母親である唐櫻雪のものとする」と言った。

 私は喜びというよりも安堵感で体の力が抜けていくようだった。祈るように握っていたハンカチの香りを、深く吸い込む。

 傳一の様子を伺うと、落胆はしているけど落ち着いているように見える。

「わかりました。受け入れます。それでも僕は父親として養育費など、できる限りのことをしてやりたいと思っています」

 彼のいさぎよい態度に、ホッとする。調停員も安心したのか、偉偉を私に引き渡す手続きのために退室していった。

 そのとたん、傳一の態度が一変した。

「櫻雪・・・親権を放棄するんじゃなかったのか?」

「ごめんなさい。やっぱりそれはできなかったわ。だって偉偉の本心じゃないって思ったから」

「俊偉は僕を選ぶとさっきまで言っていたんだ! これはきっと何かの間違いだ! 経済力の差も歴然だろうが! 櫻雪! 俊偉ともう一度逢わせるんだ!」

 こんなに取り乱した傳一を見たのは、これが初めてだった。彼がこんなに偉偉に執着してるなんて・・・それなに偉偉を愛してるってこと?

「養育費はこれまで通りいりません。でも偉偉と時々会うことは許すわ」

「俊偉のことはどうでもいい! 櫻雪、キミが戻ってくることが僕の望みだ! 俊偉が戻ってくればキミを取り戻せるはずだった! 母さんの占いのせいで・・・僕の人生はメチャクチャだ! キミを失い・・・僕はすべてを失ったも同然だ・・・」

「何を言ってるの!? お義母さまのせいにするなんて! あなた自身の弱さで招いたことじゃない! あなたが裏切らなければ、私は離婚に同意なんかしなかった! お義母さまに何を言われようが・・・占いの結果が最悪であろうが、あなたが守ってくれさえすれば・・・」

「キミは勝手だな・・・キミは結婚しても・・・子供が生まれても僕を愛してくれなかったじゃないか! それくらい気付いていたさ! それがどんな拷問よりもつらいことか、キミにはわからないだろう! こんなにも僕はキミのことを愛しているのに! 僕の浮気はキミ自身が招いたことなんだよ!」

「あなたは私を愛してるんじゃないわ・・・執着しているだけよ。高校のときからそうだった・・・。そんなの決して愛じゃない」

「キミは昔のことで僕を恨んでるんだな? 陳建州のことで・・・。だがそれはあいつ自身の弱さだろ? 自分の父親がキミの両親を殺したも同然だから耐え切れなくて逃げ出したんだ!」

「やめて! そんな言い方! 私も彼も、もう前を向いて歩き出してるのよ! それぞれの明るい未来に向かって! だからあなたも・・・傳一・・・あなたも新しい未来をみつけてほしいの・・・あなたのこと、恨んだりしてないから・・・私の両親が亡くなってから、あなたの両親は私にとてもよくしてくれたわ。それにあなたは結婚してからとても優しくしてくれた。何年かは、あなたの愛情が嬉しかったの。本当よ。なかなか子供が授からなかったせいで、お義母さまとぎくしゃくしてしまったから、私たちまでおかしくなってしまっただけ・・・」

「母さんのせいじゃないと言ったのはキミのほうだろ? 知っていたか? 僕はキミをうたがったんだよ。愛してもいない僕の子供を生みたくないと思っているからキミは妊娠しないんだとね! だからキミが妊娠したときも初めは疑ったよ。誰の子かって!」

「お願い・・・過去ばかりを振り返らないで! あなたが幸せにならないと、私も偉偉もあなたに会うことがつらくなってしまうわ・・・あなたはこれからもずっと偉偉の父親よ・・・それは変えようもないことだわ・・・偉偉のこと、どうでもいいなんて本当は思ってないはずよ、そうじゃない? 私、ちゃんとわかってるわ、傳一・・・」

 私は思い返していた。偉偉は夜中寝ぼけて、ベッドの下で眠ってしまい風邪をひいたりすることがあった。私は義母から、偉偉と添い寝することを許されていなかったから、夜は子供部屋に近づくことは控えていた。だけど私は気付いてしまった。

 それは傳一は出張や、愛人の家に泊まることが多くて、ほとんど家に寄り付かなくなっていた時期だった。でも傳一が帰ってきている日に限っては、偉偉は朝、必ずちゃんとベッドで布団をかぶって眠っていたのだ。

 そして私は傳一が帰ってきていたある日、朝方に偉偉の部屋から出てくる傳一を見たのだ。あとからこっそりと様子を見に行くと、偉偉はきちんとベッドで眠っていた。

“どうでもいい”と思っていたらそんな真似しないはずだ。

 傳一は私から目をそらし、黙ったままだった。そして戻ってきた調停員と、私は部屋を出た。傳一は何も言わずに私を見送った。

 別室に入ると、そこには偉偉が待っていた。

「ママ!」

 偉偉は私に駆け寄り、私はしっかりと一週間分の思いを込めて偉偉の体を抱きしめた。偉偉の匂いがこんなにも懐かしいなんて・・・涙があふれて止まらない・・・。

「偉偉・・・偉偉・・・」

「ママ、泣かないで! もうボクがいるから大丈夫だよ! ごめんね! ママのこと・・・母さんのこと、もう一人にしないから」

 偉偉は私が握り締めていたハンカチを、「ボクに貸して」と私の手から受け取ると、私の涙を優しく丁寧に拭いてくれる。

 偉偉は涙も見せずに、私のことを気遣ってくれる・・・。いつの間に、こんなに強くて思いやりのある子になったんだろう・・・。偉偉の成長が嬉しくもあり、少し寂しくも感じた。

 夕方タクシーで家に帰ると、公園の入り口近くに、傳一の車が停まっている事に気付く。私は偉偉に部屋の鍵を渡して先に戻っているように言う。私は偉偉の背中を見送ると、公園へ向かって歩いていく。運転席の傳一には目もくれず、車を一瞥してから公園へ入っていく。日暮れ時で寒いせいか、公園には誰もいない。傳一が車から降りる音がした。バタンとドアが閉まり、私のうしろでしばらく黙って立っている。

「もうやり直せないのか・・・櫻雪・・・」

 私は振り返らず、背を向けたまま答える。

「ごめんなさい・・・傳一」

「汪東城と・・・結婚するのか?」

「まだ付き合い始めたばかりよ・・・わからないわ・・・」

 今はまだ考えないようにしている。大東にとって大事なときだし、彼にとって簡単なことではないはずだから・・・。

「傳一・・・偉偉と逢いたいときは逢ってもいいのよ」

「キミが新しい家庭を持っても、そう言えるのか? 新しい父親が誰であれ、そいつはいい気がしないだろう・・・俊偉だって二人の父親のあいだで混乱するはずだ」

「でもあなたから見放されたと思うかもしれないわ・・・時々は会ってやってほしいの」

 私は振り返ってそう懇願した。

「ママをいじめるな! ママをいじめるとボクが許さないぞ!」

 偉偉がいつの間にかやってきて、勇ましい表情で傳一に向かってそう叫んだ。まるで牙をむく小獅子のように。

「馬俊偉。おまえみたいな子供にママを守れるわけないだろう」

 まるでわざと挑発するように傳一は言い放つ。どうしてそんな言い方・・・。

「守るよ! ママのことはボクが守る! もうパパのことなんか必要ない! もう来ないでよ!」

「その言葉、忘れるなよ馬俊偉」

 傳一はそれだけ言うと、偉偉の横をただ通り過ぎ、車へ向かう。背を向けていて表情はわからない。そして彼は車に乗って帰っていった。

 偉偉は私のそばに来て手をギュッと握り、私を見上げた。

「母さん、早く夕食の準備しよう! 大東が来ちゃうよ。ボクも手伝うから!」

 突き放すことが、父親としての傳一の最後の優しさだと思った。そんな彼を、許し、感謝し続けよう。きっと偉偉にも、父親のこの決意を理解できる日が来ると信じて・・・。

      *          *          *

 櫻雪の部屋を訪ねると、偉偉が元気に出迎えてくれた。

「大東おかえり! ごはんもうすぐだよ! ボクも手伝ったんだよ!」

 “おかえり”と言われ妙な感じだ。

「おまえのほうこそ“おかえり”だろうが!」

 偉偉の髪をクシャクシャっとなでると、「やめてよお」と嫌がって逃げていく。

 櫻雪はハンバーグを皿に盛りつけながら、オレに最高の笑顔を見せた。

「ボク、おしっこ!」

 タイミングよく偉偉がトイレに入っていく。オレはチャンスとばかりにヘルメットとケーキの箱をかかえたまま櫻雪の元へ一直線だ。そして、盛り付けしながら何の気なしに振り返る櫻雪の唇を不意打ちで奪う。櫻雪はゆっくりとオレのほうに体を向けると、フライ返しを持ったままの手を、オレの首に巻きつけ、緊張や寂しさから解放されたことを証明するかのように、なめらかなキスを返してくる。オレは唇を重ねたまま、メットとケーキをテーブルに置き、櫻雪の腰に腕をまわし引き寄せた。

 ・・・本当によく頑張ったな・・・櫻雪も偉偉も・・・。それにしても偉偉のやつ、いやにトイレが長いな・・・まさかあいつ、また気をまわしたな・・・。

「いい加減、長いんだよ!」

 その声にオレたちは我に返る。玄関のドアを半分開け、目線を廊下側にそむけた禹哲が立っていた。

「禹哲、いつからそこにいたの!」

 櫻雪はリップの乱れを気にしながら、顔を真っ赤にしている。

「偉偉の好きなプリン買ってきたんだよ。出所祝いにさ。汪東城、もう来てやがるとは、ずいぶんヒマな人気者だな」

「何が“出所”だ。オレだってケーキを買ってあるんだよ!」

「偉偉はこの店のプリンが好物なんだ。そんなことも知らないのか」

「もう! 子供のケンカじゃないんだから!」

「そうだよ! ボクはプリンもケーキも大好きだよ! 禹哲兄ちゃんも大東も、どっちも大好きなんだからケンカしないでよ!」

 やっとトイレから出てきた偉偉は、オレたちのケンカの仲裁をする。情けないオレ・・・。

「・・・偉偉!・・・」

 禹哲がいきなり偉偉に抱きつく。そうか・・・こいつもこいつなりに心配してたってわけか。案外いい叔父さんだからな。

「おまえ、もうこんな姉貴を悲しませるような真似すんなよ! おまえがいなくなって喜ぶやつがどこにいるんだ! 莉莉もすげえ怒ってたぞ・・・もうすぐ帰ってくるから覚悟しとけよ!」

「ええっ! ねえ、大東! 助けてよね! 莉莉姉ちゃん怒るとすっごく怖いんだよ!」

「こればっかりは助けられないな。たっぷり叱ってもらえよ」

「ママ! ママは助けてくれるよね!」

「ママも莉莉には弱いのよ。あとでなぐさめてあげるわね」

「あ~ん、ボクの味方は誰もいないのお!?

 泣きそうな顔の偉偉を囲んで、みんなで大笑いすると、偉偉も可笑しそうに笑い出す。こんな平和で幸せな時間と空間を、オレはこれからも守っていきたいと思わずにはいられない。

 

 結局、仕事から帰ってきた莉莉も加わり、オレたちは偉偉の帰還をにぎやかに祝うことになった。食事を終え、片付けが済んでから、オレのケーキと禹哲のプリンを目の前にして、HoneyMoonにまつわるエピソードを、オレは話し始める。

 禹哲にとっても、あの香りは忘れがたい母親の思い出のはずだ。

「なんだか暑いな・・・」と言って禹哲は、この寒いのに窓際に腰掛け、外の景色を眺めながら黙って聞いていた。偉偉はいつの間にかソファで眠ってしまっている。プリンとケーキの両方を食べたせいなのか、寝顔は満足げだ。

 オレが話し終わると、禹哲は「まさか俺らとあんたが、生まれる前からの縁だったとはな・・・信じたくないよ」と皮肉を言い、莉莉は「とってもロマンティックね」と目を輝かせ、櫻雪は「周さんと久美子さんの結婚のきっかけをつくったのね」と微笑んだ。そして櫻雪が紅茶を淹れ直すために席を立つと、禹哲は小声でオレをけん制してくる。

「それにしても母親に香水を奪われたままってのはどういうことだ。姉貴のことをまだ母親に話せてないのか?」

「オレにはオレの考えがあるんだ! おまえは黙ってろ!」

「姉貴を裏切ったらどうなるかわかってんだろうな!」

 オレは禹哲と小声でそんな小競り合いをしながら、弟がいたらこんな感じなんだろうかと思わずにいられなかった。

 莉莉は携帯のメールを読んだあとに、急に眠くなったと、なぜだか嬉しそうに自分の部屋に戻っていく。禹哲はそんな莉莉の背中を優しい兄貴みたいな目で見送ってる。

 それから、昨日あきらかになった莉莉の母親の真実が、禹哲の口から語られた。莉莉が施設にいた頃からずっと気にかけていた櫻雪は、顔を両手で覆い泣いている。オレにとっては、莉莉の過去は初めて聞くことばかりで驚きっぱなしだ。

 そして今度は禹哲の携帯が鳴り、禹哲は電話に出る。相手はどうやら中華のウィルバーのようだ。そして禹哲までが「姉貴のこと頼んだぞ」とだけ言っていそいそと嬉しそうに出て行ってしまった。

 オレは泣いている櫻雪の隣に座り肩を抱きよせる。

「大東・・・なんだか私、嬉しいのか悲しいのか・・・よくわからないわ・・・莉莉のことも、偉偉のことも全部ごちゃまぜだし・・・」

「うん・・・そうだな・・・オレもだ・・・今日はいろいろありすぎた・・・でも見ろよ、偉偉はこんなに安心したように眠ってる。それが一番大事なことだろ、オレたちにとって」

 オレと櫻雪は、ソファで眠っている偉偉の顔をのぞきこむ。

「ふふっ。偉偉ったら口の周りにクリームとカラメルソースつけて・・・」

 櫻雪は偉偉の口元をティッシュでそっとふき取る。

「ねえ、大東。禹哲ったら今日の結果を報告しなかったわね。ダメだったのかしら・・・」

「本当に心配性だな・・・少しは今、目の前にいるオレのことも見てくれよ」

 オレがすねたふりをすると、櫻雪はハッとしたように、“母親”と“姉貴”の表情から少しだけ“オレの彼女”の顔をのぞかせる。そんな櫻雪のとまどったような顔がオレは好きだ。オレは櫻雪の長い髪に触れる。

 キスしたいと無性に思った。

 それを感じ取ったのか櫻雪の頬が染まり、オレが顔を近づけていくと、櫻雪は瞳を閉じる。

 今日、三度目のキスは、一番櫻雪らしいキスだった。

第31話「二人の誓い」~ヒロ篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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