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飛輪海小説『ステップアップ!』第24話~亞綸篇

24話「unusuallyな恋」~亞綸篇

「亞綸。そろそろボクらは帰るよ。裕惠(ユーフイ)を迎えにいかないと」

 そうだ、昨日から裕惠をボクんちで母さんが預かっていたんだ。昨日、姉さんはなぜか迎えに来れなくなったんだった。ヴァネスが来てたから? ボクも会いたかったな・・・。

「姉さん。ボクが帰れないこと母さんにはうまく言っといてよ」

「わかってるわ。まさか女の子と二人きりでお泊りだなんて言えないものね」

 姉さん、もしかしてこの普通じゃない状況に小説家の血が騒いでる? なんだか嬉しそうなんだけど。

  今夜みたいなハプニング、もうボクはこりごりだ。

「亦儒。わたし、外科部長室に顔を出したいの。お父さんにも口止めしておかないと・・・」

「ボクも一緒に行くよ。まだお義父さんに昨日のこと電話でしか謝っていないんだ」

「いいのよ。元はといえばお父さんからの頼みだったんでしょ?

「でも、阿明を傷つけることになってしまったのはボクの不手際だ」

 いったい全体どういうことになってるのかわからないよ! 昨日はどんなハプニングがあったんだろう。 

「やあ、阿明! なんだかしばらく見ないうちに艶っぽくなったんじゃないか?」

 あ、この人、確か父さんの親友の李おじさんだ。診療内科の先生で、今年の旧正月はなぜか年始の挨拶に来なかったんだ。

「李おじさま! お久しぶりです」

「悪かったね・・・昨日は君につらい思いをさせてしまったようだ」

 昨日のこと、李おじさんまで知ってるのに、ボクは知らないんだ・・・。なんだかまたへこんできた。

「いえ・・・もういいんです。だって今は・・・」

 姉さんはニッコリと聖母のように微笑みながら隣に寄り添っていた亦儒を見上げた。二人はしばらくみつめあっている。そりゃ艶っぽくもなるよ。

「おじさま。今、主人が邱淑芳さんに面会することはできますか?」

「いや・・・彼女はもう眠ってしまっているよ。年明けからひどい痛みでモルヒネを使うことが多くなってね。意識が朦朧としていることのほうが多いんだ。でも昨日は調子がよくて、それで電話をかけたがってね。だが君が出るとは夢にも思わなかった。本当にすまなかったね、阿明」

「そうだったんですか・・・」

 目に涙をためた姉さんを、亦儒は人目もはばからず抱きしめる。事情のわからないボクまでもらい泣きしそうだ・・・。

 

「ところで庚霖。あの子は君の彼女なのかい?」

「ち、違いますよ、おじさん! 友達です!」

「秘密は守るよ。人気者の君のことだからね。看護師たちにも口外しないよう厳重に言っておくよ」

 李おじさんはまだ勘違いしている。別にボクは・・・まだ・・・。

 おじさんは莉莉の保護者代わりに話が聞きたいと言って、禹哲と別の診察室に入っていった。おじさんは心療内科のはずなんだけど・・・。

「ねえ亦儒、そろそろ・・・。小霖、莉莉をよろしくね」

 姉さんは預けっぱなしの裕惠のことが気になってるみたいだ。

「じゃあお義父さんのところに寄ってから本当にもう帰るよ。亞綸、頼んだぞ」

 亦儒はボクの肩をポンポンと叩くと、姉さんと外科病棟のほうへ行ってしまった。ボクはしばらくためらったけど、とりあえず二人を追いかけた。

 廊下の角を曲がると、二人はちょうどエレベーターに乗ろうとしているところだった。

「亦儒・・・亦儒兄さん!」

 ボクの口から思いもかけない言葉が出た。“兄さん”と呼んだのは初めてだ。気付いた亦儒は立ち止まり、振り返る。

「なんだよ、弟」

 なんだか赤面してしまう。今さら兄弟って再確認してるみたいでさ。亦儒はニヤニヤしてるし姉さんは嬉しそうに笑ってる。

「ありがと・・・」

「ん?」

「ありがとう兄さん・・・莉莉を助けてくれて・・・」

「小霖。あなたにとって莉莉は大事な存在なのね?」

「え? そんなのわかんないよ・・・」

「おまえがお礼を言うってことはそういうことだろ?」

「そうなのかな・・・」

 亦儒に言われるとそんな気がしてくる。

「発作の後は背中が凝るらしいから、目を覚ましたらマッサージしてやるといい」

「う、うん、わかったよ」

 今度こそ本当に二人を見送り、ボクは莉莉の病室へ戻っていく。

  やっぱり亦儒はすごいって思った。一度にいろんなことに気を配れる大人の男なんだって。前からわかってたことだけど・・・やっぱり姉さんにふさわしい男だって認めざるをえない。

 いつかボクも、兄さんみたいになれるかな・・・。

 

       *         *         *

 とっくに面会時間は過ぎていた。みんなはそれぞれに帰っていき、付き添いのボクと莉莉は病室に二人きりだ。・・・とは言っても、安心したのか、莉莉は診察後からずっと眠ってしまっていた。

 枕元の椅子に座って、しばらく莉莉の寝顔を見ていた。すると莉莉は急に寝返りをうつもんだから、布団から白い脚がにょきっと現れドキっとさせられる。どうすればいい? 太ももあたりまでめくれ上がったこの状態の脚を、このままにはしておけない。ボクはひとまずベッドのカーテンをぐるっと一まわり閉めてみる。なんとなく誰にも莉莉の脚を見られたくなくて。って言っても個室だからボク以外誰もいないんだけどさ。

 それから脚に手が触れないように布団をひっぱりあげ、脚をなんとか布団の下におさめる。

「これでよし!」

「ありがと・・・」

「わ! さ、触ってないからな!」

「・・・みんなは? もう帰った?」

「え? う、うん・・・あのさ・・・ボクが付き添うことになったんだ・・・禹哲に頼まれてさ」

「痛っ! あぁイッタ~い・・・久しぶりの発作はこたえるなぁ」

 莉莉はベッドから体を起こすと、背中の痛みを訴えた。亦儒の言ってたとおりだ。

 でもいつもの莉莉に戻ったみたいでホッとする。

「こっちに背中向けろよ。マッサージしてやるから」

「やだ! なんか恥ずかしい・・・」

「いいからさ!」

 そっちが照れるとこっちも照れる。こうなったら勢いだ。ボクは椅子から立ち上がり、莉莉の背中を強引に自分に向けた。まずは肩から・・・

「うふふっ・・・やだもう! 亞綸下手くそ! くすぐったい~」

 莉莉が笑って身をよじるもんだから、病衣の胸元がはだけて、上から見えそうだ。この日本の浴衣みたいな病衣、なんとかしてほしいよ! 脚やら胸やら無防備すぎるんだ!

「ホントくすぐったいってばあ!」

「そんなことあるもんか! みんなボクは上手いって言うのにさ!」

 ボクは煩悩を振り払いたくて、怒り口調になってしまう。

「嘘ばっかり! あたしのほうが絶対上手いんだから~ お手本やってあげる! 座って右手を出して! ほら早く!」

 ボクは言われるがままに右手を差し出す。莉莉はボクの袖を捲り上げると、丁寧に手首から肘にかけてマッサージし始めた。

「疲れたでしょ? 発作のとき、ずっと背中をさすってくれてたんだもん」

「あれくらい、何てことないよ・・・」

 みつめてくる莉莉から目をそらしてしまう。今は何てことあるくらいドキドキしてるのを悟られたくなくて。これって好きってことなのか? よくわからないよ・・・。

「もう大丈夫なのか? すごく苦しかったんだろ?」

「ううん、すごく幸せだった・・・また発作起きないかな~なんて」

「バカ言うなよ。もう二度とご免だ、あんな思い・・・」

 莉莉の顔が少しずつ近づいてくる。こんなの反則だ。男なんて、こんなシュチュエーションに持ってこられたら、たとえ好きじゃなくても・・・その気になってしまう・・・生き物なんだ・・・。

 気持ちがはっきりしないまま、あと1センチというところで自分から唇を重ねていく。今日の莉莉の唇は少しひんやりしてる・・・。ボクたちは何度も何度も唇を重ね直す。まるで生きてることを確認するみたいに。もし莉莉を失っていたらと思うと、それだけでも身震いしそうだ。

 ボクは莉莉の体をゆっくりと倒すように自分の体を載せていく。靴、どうしようか・・・ここで少し冷静になる。いいのか病院だぞ、ここ。発作の後だし・・・。禹哲の信頼を裏切るようで気がひける。そんな迷いをよそに、莉莉とのキスはやめられない。 

 トントン。ノックが聞こえる。ボクは我に返り、体を起こすと同時に布団を莉莉にかぶせて椅子に何食わぬ顔をして座る。

 看護師さんがカーテンをそっとあけ、事務的な口調で「調子はどうですか?」と聞くから「まだ寝てます」と背中を向けたまま、ちょっと声色を変えて答えてみた。看護師さんは「消灯時間ですよ」とだけそっけなく言って出て行った。

 莉莉が布団から顔をのぞかせると、ボクたちは同時に笑い出す。

「バレてないよね。キスしてたことも、炎亞綸だってことも! 亞綸の知名度もたいしたことないのね」

「うるさいな! ほら消灯だってさ。もう寝ろよ」

「は~い、おやすみ~」

 案外素直なんだな。拍子抜けだ。でももうそんな雰囲気じゃない。

 でもホッとしている自分もいる。莉莉を大事に思えば思うほど、慎重になってしまう。

 これが恋なのか? 友情なのか? そうなのか?  

 今、詩を書いたら、疑問文ばかりで韻を踏みそうだ! しかもかなり駄作の・・・。

 あ~! あんなキスの後ですぐ眠れるわけがない!

第25話「壊れたハート」~亞綸篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇 

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