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飛輪海小説『ステップアップ!』第18話~亞綸篇

18話「秘密の花園」~亞綸篇

「亞綸! 待って!」

 店の外に出たところで莉莉に呼び止められる。ボクは振り返らずにそのままどんどん足を速めていく。

「待ってったら!」

 莉莉が腕にすがりつく。

「ひどいよ亞綸、黙って帰っちゃうなんて!」

「ひどい? 会う約束なんてしてなかっただろ」

 こんなこと言うなんて、男らしくないのはわかってた。

「亞綸、怒ってる。あたしがあの歌を禹哲と歌ったから?・・・」

 図星すぎて余計にカッとなってしまう。ボクは背中を向けたまま莉莉の手を振り払う。

「いい加減にしてくれよ! 関係ないよ! 禹哲のところへさっさと戻れよ!」

 そう捨て台詞を吐いたとたんに背中に激痛が走った。振り返ると莉莉の手には、いつもの巾着袋の紐の部分が握られている。どうやらその巾着袋で思い切りなぐられたようだった。中に何が入ってるのかは不明だけど、遠心力で相当の負荷がかかったのか、今でもかなりの痛みが背中にのこっている。

「亞綸、やっぱりサイテー! 男の嫉妬はみっともないんだから!」

 莉莉の感情の起伏の激しさはハンパじゃない。怒りと哀しみをたたえた瞳は、ボクの感情までも激しく揺さぶる。莉莉に対する腹立たしさより、抱きしめたいという感情にかられ、ボクは莉莉に腕をのばす。・・・が莉莉の体は猫のようにスルリと身を翻し、走り去って行った。

 莉莉は天使でも悪魔でも、そんなのをまるごとひっくるめて莉莉なんだと思い知らされた。近づこうとすればするほど逃げていく、決して思い通りにはならない猫・・・。

 

 走り去る莉莉を目で追っていると、店のあるビルを通り過ぎ、隣の公園らしきところへ入っていってしまった。

 あいつ、こんな時間に女一人で! 

 

 公園の入り口まで追いかけて行くと、不思議な感覚にとらわれた。

 ここ、初めて来た気がしない・・・。デジャブかな? 

 公園には子供の遊具がいくつかあり、見渡しても莉莉の姿はなかった。街灯の灯りでその奥へと続く小道の存在に気付く。その小道には時々街灯があり、少し歩いていくと、噴水のある広場に出る。公園の作りとしてはよくあるパターンだ。

 そこのベンチには、夏場ならカップルでも座っていそうなものだけど、さすがに1月の公園にカップルの姿はあるわけもない。

 腕時計を見ると10時を回っていた。こんな寒い夜に、変出者なんて出るわけもないだろうが、“変出者”って言うくらいだから寒さも感じないおかしなヤツがウロウロしてないとも限らない。

 だけどこの広場にも莉莉の姿は見当たらない。あっちのほうに道があるような・・・そんな気がして噴水の向こう側まで回ってみる。

「やっぱり・・・」

 そこにはさらにうっそうとした林の奥へと小道が続いていた。どうしてわかったんだろう。BaTに来たのは今日が4回目だけど、それ以外にこの辺りに来た覚えはまったくなかった。

 ボクは小道を早歩きしていたけど、途中からはいつの間にか走っていた。この先にはたしか女の子の・・・。

 林をぬけると小さな広場があった。そこには少し不似合いなくらいに立派な記念碑が建てられている。

 そしてその前にある花壇の真ん中には“歌う少女像”と彫られた台座の上に、ポーズをとった女の子の像が街灯に照らされ、そのすぐ前で莉莉はたたずんでいた。

「莉莉!」

 ボクが呼びかけると莉莉は振り返り、

「あたしの秘密の花園へようこそ。花は咲いてないけどね」

と言いながら右腕をあげ、左手を胸に当てて歌っている少女像と同じポーズをとっておどけて見せた。

「なんだか・・・この公園に来たことある気がする・・・」

「あれえ、亞綸は何も覚えてないんじゃなかったの?」

 莉莉はからかうように言う。じゃあ、もしかしてここで?

 ボクは記憶の糸を懸命にたぐりよせる。

「・・・たしかここでボクは・・・酔いを醒まそうと・・・」

「嘘! ここでもワインのビンをラッパ飲みしてたくせに」

「そうだ・・・タクシーで気持ち悪くなって・・・公園の前で降りたんだ。水飲み場を探して歩いてるうちにここにたどり着いて・・・」

「亞綸ったらよぱっらってフラフラしてた。それなのにまたお酒飲んでるんだもん。どうしてあんな無茶な飲み方してたの?」

「あの日、解散コンサートの打ち上げがあったんだ・・・」

「解散が寂しかった? それでやけ酒?」

「そんな単純なものじゃないよ!」

「泣いてたくせに」

「ちがっ! 泣いたのは歌のせいだ!」

 歌? そうだ、ここで弾き語りの歌を聴いていたら無性に涙が出てきて・・・

「初めてだった。あたしの歌で人が泣いてくれたの・・・人前で歌ったのも初めてだったんだけど」

 そうか・・・あの時、歌っていたのは莉莉だったんだ。

「一生懸命歌ったの。一人で歌うのはこわかったけど、泣いてくれたあなたのために・・・」

 あの時の莉莉も、かすれた声でとぎれとぎれに歌っていた気がする。・・・でもそれからの記憶がまったくない。

「ボクはそれからどうしたんだろう」

「一緒に歌ってくれた。この前みたいに何度も何度もサビを繰り返し歌ってくれたの」

「莉莉・・・どうして一人で歌うのが怖いんだ?」

「ねえ、亞綸。一緒に歌って!」

 はぐらかされた気がした。ボクはそれ以上聞けなくなってしまう。

 気付くと莉莉はコートを着ていなかった。ボクは莉莉の冷え切った小柄な体をうしろから抱きしめて歌いだす。

「Lalala・・・」

「亞綸の声が好き・・・Lalala・・・」

 莉莉がかかえいる問題がなんなのかはよくわからないけど、今のボクに出来ることは、一緒に歌ってあげることぐらいのような気がした。

 もうヘンな嫉妬や詮索をするのはやめようと思う。

 ボクはボク、禹哲は禹哲だ。どちらも莉莉には必要な存在なんだと思った。きっとこんなふうに思えるのは“恋愛感情”じゃないからなんだろう。そう思うことにした。

 女の子に振り回されるなんて本当はまっぴらだけど、莉莉になら仕方ないって思えるから不思議だ。

 

 莉莉をビルの前まで送り、催促されるままに彼女の額におやすみのキスをする。

 莉莉は「よく眠れるおまじないだね」と言って少女のように笑った。そして「亞綸もよく眠れますように・・・」と言って爪先立ちになり、ボクの首に腕を巻きつけてきた。

 ボクは一瞬、唇にキスされることを期待したのかもしれない。だけど莉莉は頬にそっとキスすると、耳元で「おやすみ」とだけ言って階段を駆け上がっていった。

 

 なんだか今夜ボクのほうは眠れそうにない。

 でも久しぶりに何か書いてみたい気分だ。

 今のボクにしかつむぎ出せない言葉があるはずだから。

第19話「大東と禹哲」~大東篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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