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飛輪海小説『ステップアップ!』第17話~裕綸篇

17話「嫉妬の行方」~裕綸篇    緑:亞綸 オレンジ:ヒロ

 BaTのドアを開けると、中からはたくさんの人の熱気が感じられた。

 禹哲の挑発に乗せられたわけじゃない。莉莉との約束を果たしたまでだ。ボクは莉莉にさえも声をかけることなく、中二階席へ上がる。

 クリスマスライブで好評だった二人の初単独ライブということで、多くの客が集まっている。

 8時きっかりに二人はステージ上に現れた。沸き起こる拍手と歓声。

 気付くとボクの隣にヒロが立っていた。

「ねえ、今夜の莉莉も最高に可愛いでしょ?」

「うん、すごく可愛い」

 ヒロにだから素直に言えた。

「ヒロ・・・禹哲のこと、好きになった?」

 ヒロはすぐには答えない。

「・・・好きにならないように努力してるかも。逃げ切れるように祈ってて」

 ヒロはボクにできるだけ正直に答えたんだと思った。

 莉莉のギターでライブは始まった。初めて聴く曲だった。ボサノバみたいな、ポップで楽しい曲だ。莉莉の作る曲は、カントリーっぽかったりブリティッシュっぽかったりして一つのジャンルには収まらない。特に“あの曲”なんかは時代もジャンルも超えたようなノスタルジックでキュンとくるような感じだ。

 禹哲は時々莉莉に視線を送りながら見守るように歌っている。そして曲の合間にヒロの指示どおりMCを入れる。軽妙なトークが客に受けている。たまに自虐的だったりナルシストだったり莉莉の失敗談を暴露したりと、癒し系の曲とはギャップがあるのが、かえって人をひきつける。

 莉莉は笑ったり、はにかんだり、怒ったふりしたりと、表情をころころと変えていき、客の笑いを誘っている。

「ヒロ、まさかMCの台本あるんじゃないよね?」

「そこまではしないってば。禹哲の神秘性と莉莉の多面性をそのまま出せばいいって言っただけよ」

 ヒロは短い付き合いの中で、もう二人のセールスポイントをつかんでる。もしかして、気付いてないだけで、とっくに禹哲のこと好きになってたりして・・・。

 ボクでさえ、禹哲のことは決してキライではない気がする。表面はにこやかでも、腹の中では何を思っているかわからないようなヤツらよりはずっといい。味方のような顔して甘い汁を吸うために近づいてくるヤツらに比べれば、敵意むき出しの禹哲のほうがマシってことだ。腹はたつけど、言いたい放題できる相手だから楽なのかもしれない。

 禹哲と莉莉の関係をヒロはどう思っているんだろう。

 そんなことを考えながら、ボクはライブをそれなりに楽しんでいるつもりだった。

 あのラストの曲を聴くまでは・・・。

「ヒロ・・・呉尊さ、昨日ブルネイに帰ったんだ・・・」

「・・・そう・・・。もう半年は戻らないのね」

「うん、多分・・・」

 ヒロは表情を変えなかった。

 ステージ上の禹哲が「最後の曲です」と告げる。

「私、最後の曲はリハでも聴いてないの。選曲は二人に任せたから。禹哲が決めたみたいだけど、莉莉は気がすすまないみたいだったから、大丈夫かな・・・」

 ヒロは心配そうにステージを見下ろす。そういえば今夜の莉莉は、一度もボクのほうを見ない。

「まだ歌詞も、タイトルさえもない曲です」

 禹哲が莉莉に目で合図する。莉莉は胸に当てていた巾着袋を譜面台に置き、深呼吸をした。まさか・・・。

 莉莉のギターソロはいつもにも増してノスタルジックな響きで始まる。やっぱりあの曲だ。

「Lalala・・・」

 莉莉は歌いだす。追いかけるように禹哲も歌いだすけど、それまでとは違って控えめだ。まるで莉莉の声を際立たせようとしているようだった。会場からはため息にも似たどよめきが感じられる。

「Lalala・・・」

 禹哲が一緒に歌っているせいか、声も安定し、かすれたり震えたりすることもない。禹哲のことを信頼してるから? それとも・・・。

 ボクが一緒に歌ったときは、まるで競い合うようにボクは熱唱してしまった。一人よがりだった? 莉莉の声を消してしまっていた? 莉莉は禹哲とボクと、どっちと歌うほうが楽しいんだろう。

Thank you・・・unusuallyでした」

 禹哲の挨拶が終わると同時に拍手と歓声に包まれる。そしてアンコール・・・。

「ユニット名は私が考えたの。“ユージャ”と“リーリー”をくっつけると“usually”になるでしょ? 普通とか一般のって意味よね。それで“un”をつけると“普通じゃない”、つまり“一風変わった”って意味になるの」

 ヒロの説明は半分も頭に入らなかった。ボクの頭の中は他のことでいっぱいだ。あの曲は、莉莉にとっても、ボクにとっても特別な曲だと思い込んでいた。過去と今のボクたちを繋いでいた曲だから・・・。まだ、何も思い出せないけれど・・・。

 アンコール曲が終わるとステージの照明が消え、客席側に間接照明が灯される。観客たちの満足げなざわめきをイヤでも感じる。

「ねえ、亞綸。正直どう思った?」

「え? 何が?」

「このユニットの商品価値。クオリティーの高さも、ヴィジュアル的にも、文句なしじゃない?」

「・・・うん・・・」

 

 ヒロはこれからどうするつもりなんだろう。

「来月のオーディション、参加させちゃおうかな」

 え!? 

「亞綸、そんな顔しないで」

 そう言って急にヒロが笑い出す。なんで? 

「ボクがどんな顔したって言うんだよ!」

「あからさまにイヤそうなんだもん」

 ヒロに強がっても仕方ないけど認めたくない。

「亞綸が嫉妬するほど、よかったってことね」

 ヒロの言うとおりだ。ボクは禹哲に嫉妬してる。莉莉を公私共に独占している禹哲・・・。

 莉莉と一緒に歌いたい。莉莉とユニットを組めたらって心の底から切望している自分に驚く。

 でもこんなグチャグチャした感情のまま、莉莉にどんな顔して会えばいいのかわからない。

「ごめん、ヒロ・・・ボク帰るよ」

 ボクは階段を駆け下りる。

「亞綸ったら!! 莉莉に会っていかないの!?

 亞綸は帰ってしまった。ちょっとからかい過ぎちゃったかな・・・。でも今夜の二人のライブ、亞綸のいい刺激になったかも。いろんな意味で・・・。

「あ~! でも迷っちゃうな・・・」

「何をだ?」

 いつのまにか禹哲がそばにいた。

「禹哲・・・」

「何を迷うことがあるんだ?」

「禹哲、あなたってすごく器用で、たいていのことは水準以上にやってのけちゃうタイプでしょ?」

「だったらなんだ」

「今夜のライブ、すごくよかったけれど、あなたのやりたい音楽って、本当にこれなの?」

 禹哲は答えない。

「あなたらしさを消してまでやる意味がある? はじめはよくてもそれじゃ続かないわ」

「あんた、いちいちウルサイ女だな。客の反応を見ただろ? あんたは俺たちがデビューできるようにしてくれるんじゃなかったのか?」

「こんなところで言い争う気? お客に聞こえるじゃないの」

「来いよ!」

 禹哲に腕をつかまれ、すぐそばにあった部屋へ連れて行かれる。V.I.Pルームなのか、高級そうなソファが置いてある。二人きりになりたくなかったけれど、とことん話し合うためだから仕方ないと思った。

「ソロは考えたことないの? それぞれのカラーを出そうと思ったら、ソロで挑戦してみればいいじゃない。どうして莉莉とのユニットにこだわるの?」

 禹哲はわざと憎まれ口たたくけど、本当は思いやりのある人のような気がする。何か理由がある気がしていた。

「好奇心か? それとも俺たちの仲に嫉妬してるとか?」

「禹哲・・・どうしてすぐに感情を逆なでしようとするの? 私にその手は通用しないわよ」

「じゃあ、こういうのはどうだ?」

 そう言い終わると同時に私の体は禹哲に突き飛ばされ、すぐうしろのソファーにあおむけに倒れてしまった。

「何すんのよ!」

 私はすぐに上半身を起こし禹哲をにらみつける。それなのに禹哲は無表情で私の体にのしかかろうとする。

 私はとっさにポケットから二つのものを取り出し、のしかかってきた禹哲の顔の前に突きつけた。

「なんのマネだ?」

「見てわかんない? 防犯ブザーと催涙スプレーよ」

「日本人のポケットは、みんな四次元ポケットなのか?」

「女一人で生きてるんだから、これくらいは常識でしょ?」

「どうしてすぐに使わない?」

「あなたが本気で襲うつもりのないことくらいわかってるつもりよ」

「頭のいい女は好きだが、よすぎるよ、あんたは」

「お褒めいただけて嬉しいわ。そろそろどいてくれない? 重いんだけど」

「いや、気が変わった」

「え?」

 予想外だった。油断した。つめが甘いぞヒロエ! でも後悔しても始まらない。ソファの上で両腕を押さえつけられながら奪われた唇。身をよじってのがれようとしても禹哲の体の重みで身動きがとれない。

 二度目のキスは一度目のときとはまったく違っていた。あまりにも官能的すぎて陶酔しそうになるのを必死で耐える。あがけばあがくほど禹哲の力強さを、禹哲の唇を一身に受けてしまう。このまま流されてしまおう・・・何度もそう思ってしまうくらいだった。でも・・・

 呉尊・・・。呉尊を思い出すと心の奥深くからこみ上げてくる感情があふれ出してきた。それと同時に涙が溢れ出す。

「は? なんだよ! おい泣くな!」

 私、泣いてるの? 嘘!? ホントだ、涙が止まらない・・・。禹哲が私の上半身を抱きかかえるように起こしてくれる。ソファに並んで腰掛けている禹哲がオロオロとしているのがわかる。

 でも一旦泣き出すとなかなか私の涙は止まらない。子供みたいに泣きじゃくるのを、呉尊はいつも優しく慰めてくれてたっけ・・・。

「悪かった、やりすぎた。すまなかった。もう何もしない! いくらでも謝るからもう泣き止めよ!」

 禹哲がさっきと別人みたいに優しくしてくれていることで、かえって涙がこみあげてくる。禹哲はそれに気付いたのか、それからしばらくは私が泣きやむのを待つように、じっとだまって座っていた。

      *          *          *

「もっと大人の女かと思ってたのは、かいかぶりすぎだったみたいだな」

「うるさいな! ほっといて!

 禹哲が差し出したティッシュで鼻を思いっきりかむ。

「・・・ガキだな。ホントに28歳なのか?・・・」

 呆れられてしまったみたい。でもなんだかすっきりしたかも。

 大泣きしたあとはいつもそうだ。それまでのつき物が落ちたみたいに、気分爽快で次を頑張ろうって思えるから不思議だ。

 こんなに泣いたのは久しぶりだったからなおさら。

「誰のせいだと思ってんの! また泣くわよ!」

 私は泣きはらした目で禹哲をにらみつける。

「わかったわかった! 俺が全て悪かった。どうすれば許してくれる?」

「どんなことでもいいの?

「できることならな」

 思わぬ展開で禹哲の弱みを握ることができた。私は優位に立ってるみたい。

「じゃあまず一つ目」

「は? 一つ目? まあ、いい」

「さっきのことはなかったことにして」

「さっき?」

「キスしたこと」

「なんでだ? そんなにイヤだったのか? 普通の女はみんな俺のキスを忘れられないって言うのに」

「イヤじゃなかったことがイヤなの!」

「キスくらいでピアスの彼氏に義理立てか? そいつ俺よりいい男なのか?」

「二つ目!」

「次はなんだよ」

「ダンスの経験ってある?」

「なんだよ唐突に・・・、店を持つ前は3年くらいレッスンに通ってた。それがなんだ?」

「じゃあ、またダンスレッスン受けて! それとボイストレーニングも」

「は? マジで言ってるのか?」

「もちろんマジよ。そして三つ目。それで来月オーディションを受けるの」

 唖然としている禹哲を尻目に、私はなんだかワクワクしていた。禹哲の才能も、莉莉の才能も、どちらも無駄にしたくない。

 そしてあさってには映画の仕事で台南に飛ぶ。私の新しい挑戦の道が二つも開けてきたような気がしていた。

第18話「秘密の花園」~亞綸篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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コメント

はじめまして。
偶然このサイトを知って、第2弾から読んでいます。
フィクションとして理解していても第1弾は呉尊が主役なので、どうしても迷としては、冷静に読めません。
ごめんなさい。
4日ペースでアップされるこの小説を楽しんでいます。
ミンクロさんは、飛輪海の誰迷ですか?
台湾とかイベントで良く行かれるのですか?
ちょっと気になっちゃいました。
これからも頑張ってくださいrock

投稿: SAKURAblooming | 2010年4月10日 (土) 17時17分

>SAKURAbloomingさん

コメありがとうございますhappy02
呉尊迷だと呉尊のお話は複雑なのですね?
その気持ちもわかりますsign03

ミンクロは3年半くらい前に大東をきっかけに飛輪海に興味をもつようになり、2年くらい前に亦儒にはまり、今年2月に大東に会ってからは急速に大東にひかれ、今はどっちも好きですheart02
・・・と言いながらも、大東への比重が大きくなりつつありますbleah
やっぱ目の前で大東にキラキラした笑顔でみつめられたら、抵抗できませんhappy02
それに加え、毎週素敵な史朗とMARS見てれば仕方のないことbearing

台湾には一度も行ったことはありませんよ~
全部ネットで調べたりして、あとは想像で創造してますsweat01
イベは、二年前の大東と亦儒のファンミ、今年1月のホットショットイベ、2月の大東サイン&握手会の3回だけ。
悲しいくらいにコンサートとか全然行けてませんcoldsweats01
今年こそ日本でのコンサートを切望しながら、日々執筆にいそしんでます!

投稿: ミンクロ | 2010年4月11日 (日) 13時40分

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