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飛輪海小説『ステップアップ!』第14話~東雪篇

14話「聖夜のエピローグ」~東雪篇  青:大東 ピンク:櫻雪(ユンシュエ)

 オレは亦儒にだけ帰ることを告げ、席を立つ。飲んでもまったく酔えないんじゃ意味がない。亦儒の昇進はめでたいが、オレは櫻雪になぜか冷たくされているという事実を受け入れかねていた。

 カウンターに目をやると、櫻雪たちは盛り上がっているようだった。

 帰ろうとするオレに気がついた禹哲(ユージャ)が、オレを見送りに・・・というよりもジャブを打ちにやって来た。

「帰るのか汪東城」

「唐禹哲、バイクを置いてくから頼む」

「ああ、責任を持って預かる。・・・だがあんたの責任感のなさにはがっかりだな」

「姉貴と偉偉(ウェイウェイ)の人生に片足でも踏み込んだんだったら、普通声もかけずに帰ったりはしないだろう」

 オレは禹哲の言葉を聞き流し、店を出た。やり合う気分じゃない。広い道路に出てからタクシーを捕まえるつもりで歩き出す。数分歩いた頃だろうか。

「待って!」

 振り返ると櫻雪が走って来るのが目に入る。高いヒールのブーツで懸命にオレの元へ駆け寄る姿があぶなっかしい。あと少しというところで転びそうな彼女を受けとめる。

「危ないだろ・・・どうした? また何かあったのか?」

 彼女の意外な行動に、意表をつかれ、無愛想な言い方になってしまう。彼女は息も切れ切れだ。

「・・・事務所は連休に入ったし・・・大東がお正月明けから春節まではしばらく忙しくなるって・・・撮影で台北に戻らないって・・・亞綸が言ってたから・・・一ヶ月も会えなくなるの?・・・」

 櫻雪はそれで必死に走って追いかけてきてくれたのか? オレの腕につかまりながら彼女は目を潤ませてオレを見上げている。亞綸のヤツ、大げさに伝えたな。だがそれに乗っからせてもらうことにした。オレはただ、櫻雪の本心が知りたかった。

「連休中にセリフを入れとかないとな。正月明けからは会見とかセリフ合わせとか、忙しくなると思う。そのあとはロケに入るよ」

 彼女の表情はどんどん曇っていく。オレと会えなくなるせいなのか?

「どこへ行ってしまうの? ・・・台南? 香港?」

 明日香(ミン・リーシャン)ファンだけあって、櫻雪はストーリーをよくわかっている。

「台南と香港がほとんどだ」

「でも阿明が・・・脚本には日本のシーンを書き足したって・・・」

「ああ、日本にも行くみたいだな。台北に戻る暇がなさそうだ」

 櫻雪は絶望的な表情をする。オレの勘違いでなければだが。

「偉偉がさみしがるわ・・・」

「そうかな」

「絶対にさみしがるわ!」

「電話してくれればいい、いつでも」

「疲れてるんじゃないかって思うと電話できないかも・・・」

「じゃあオレからかけるよ」

「疲れてても?」

「疲れてるから声が聞きたいんだ」

「でも偉偉が寝てしまっていたらどうするの?・・・」

 オレは櫻雪の細い体を抱き寄せる。櫻雪の香りがオレを酔わせる。

「オレが一番聞きたいのは、櫻雪の声だ」

 大東の腕の中・・・大東が耳元で“櫻雪”と呼ぶ。

 大東は抱きしめていた腕を少しゆるめ、私の露出していた肩を隠すようにセーターを引き上げた。

 恥ずかしい・・・こんな服を着たことを今さら後悔する。

「もうこんな格好するな」

 そう言って、ダウンジャケットごと私の体を包み込むように抱きしめてくれる。

「どうしてこんなマネをした?」

「だって大東が・・・」

「やっぱり怒ってるんだな。オレが何もしなかったから?」

「違う! そんなんじゃ・・・ただ不安なだけ・・・」

「何もしないと不安になるのか?」

「今日の大東はイジワルね」 

「じゃあキスしても怒らないか?」

「そんなこと聞くことじゃないわ!」

「この前みたいに怒られたくないからな」

 顔が熱い。大東はどうしてそんなに余裕でいられるの? 

 まるで今は私のほうが子供みたい。恥ずかしくて顔があげられない。

「顔上げろよ。それじゃキスできないだろ」

 すべて大東のペースだ。でもイヤじゃない。ためらいながら彼の言いなりで顔をあげる。大東は優しいまなざしで私をみつめていた。

「好きだ・・・」

 私を好きだと囁く彼の唇の動きを間近で見ていた。心が幸福感で満たされていく・・・。彼の唇が少しずつ近づいてくる。

「私も・・・好き・・・」

  目を閉じると、ゆっくりと、そっと唇が重なる。物足りないくらい優しく・・・。そう感じたのもつかの間、激しくなるキス・・・。

 

 携帯の音・・・鳴り止まない。出たくない・・・キスをやめる大東。

「出たほうがいい」

 大東に促され携帯に出る。莉莉だった。

「・・・莉莉?・・・え? 偉偉が?・・・ええ・・・いいの? お願いね。ありがとう」

 電話を切ると、大東が少し心配そうな表情を浮べている。

「偉偉がどうした?」

「大丈夫よ。偉偉が眠そうだったから莉莉の部屋に寝かせたんですって・・・朝まで預かってくれるって莉莉が・・・」

 私の唇は再び大東の唇でふさがれる。二度目は初めから大胆で激しいキス・・・。

「行こう」

「え? どこへ?」

「部屋までお送りいたします、西太后様」

 大東は少し気取った言い方をすると、私の手を取り、甲に唇を押し当てる。

 大東の言っている意味、すぐにわかったけれど、どんな顔すればいいのか、なんて答えればいいのか困ってしまう。多分私、真っ赤になってる。大東はそんな私を微笑みながらみつめている。

「本当に冷たい手だな。名前に“雪”がついてるせいかな?」

 大東はそう言いながら私の両手を自分の両手で包み込んだ。あたたかい・・・手だけじゃなくて心まであたたかくなってゆく。大東は私の左手を握ったままダウンジャケットのポケットに入れて歩き出す。

「雪が降ってたらしいの・・・私が生まれた日」

「冬の日本か・・・。今年の2月に行ったよ。雪景色がきれいだった」

「あなたはどんな日に生まれたの?」

「オレは夏の蒸し暑い雨の日に生まれたんだ。子供の頃からずっと言われてるよ。雨男だって」

「私は晴れ女なの。じゃあ一緒にいて雨だったことがないのは私のおかげってことね」

「そうだな。櫻雪のおかげだ」

“櫻雪”ってまた呼んでくれた。これで二度目。そんなささいなことでもこんなに幸せな気持ちになれるなんて。

 それから私達はお互いのことを質問したり答えたりしながらビルの入り口まで歩いていく。

 そして、階段を一段一段あがっていくたびに、ポケットの中で握っている手に力が入っていく。なんだか私、緊張してるみたい。

 そんな私を気遣ってか、いつもの踊り場まで来ると大東は立ち止まり、私を優しく抱きしめる。余計にドキドキしてくるけれど、なんだか安心できる。

「まだまだお互いのこと、知らないことばかりだな。オレたち」

「私の年齢とか?」

 いつも5歳は若く見られるから、私の年を知って驚く人は少なくない。本当の年を知ったら大東はなんて思うだろう。

「それは知ってる」

「知ってたの?」

「年なんて関係ないだろ」

 大東・・・。胸が熱くなる。本当に大好きよ。

「今夜は櫻雪のすべてを知りたい」

「それじゃあ夜通しおしゃべりでもする?」

「おしゃべりするだけにしては、この服はセクシーすぎるだろ?」

「もう! 大東ったら!」 

 大東の腕の中から抜け出し私は階段をかけあがる。そして部屋の鍵をあけていると、うしろから抱きしめられ、首筋に熱いくらいの大東の唇を感じる。振り返るとドアに押さえつけられるようにキスされる。私たちは抱き合い、キスしながらそのまま部屋へと入っていく・・・。

第15話「聖夜の忘れ物」~裕綸篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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