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飛輪海小説『ステップアップ!』第13話~東綸篇

13話「聖夜の悪夢」~東綸篇   青:大東 緑:亞綸

「大東、自業自得だな」

 亦儒の言葉に言い返す気力もない。中二階のテーブル席に、仕方なく亦儒と亞綸の男三人で・・・いや、偉偉(ウェイウェイ)を入れて男四人で座ることになってしまう。

「ジゴウジトクってどういう意味?」

 偉偉は無邪気に質問する・・・。

「それはね、女の子二人どちらにも好かれたいって思っても、そう上手くはいかないよって意味だよ」

 亞綸め、全然違うだろうが! いらない解釈付けやがって・・・。

「ふ~ん、大東は明(ミン)お姉ちゃんのことも好きってことだね? ボク、ジュース飲んでくる!」

「おい! 偉偉! 待て! 誤解だ!」

 偉偉はオレが呼び止めるのも聞かずにカウンターのほうへ行ってしまった。

「亞綸、オレになんの恨みがあるんだ!」

「ボクもジュース飲んでこよっと」

 逃げたな! それにしても・・・

「亦儒・・・あのさ・・・」

「櫻雪(ユンシュエ)と阿明(アミン)は二年来の友人関係にある。出会いはうちの会社のメインバンクのパーティーさ。彼女はその銀行の副頭取夫人だったんだ、当時はね。二人はそのパーティーで意気投合。彼女は元々明日香(ミン・リーシャン)のファンで、今では明日香が阿明だってことも知っているよ」

 亦儒はオレの聞きたいことをよくわかっていた。

「メインバンクってどこだよ」

「台北第一銀行だ」

 台北第一銀行だって!? 台湾どころかアジアの大銀行だ。うちの事務所のメインバンクでもある。亦儒は続ける。

「櫻雪の夫だった馬傳一(マー・チュアンイー)はやり手だって聞くけど、ボクは一、二度挨拶したことがある程度さ」

 あのカフェで見た男が、馬傳一か。

「なんで離婚した?」

「離婚の原因は公になってないはずだ。多くの新聞社やテレビ局のメインバンクだからな。・・・でも」

「でも、なんだよ?」

「おそらく浮気だな、馬傳一の。・・・それと姑だ。彼は母親の言いなりみたいだ」

 櫻雪は事故で両親を亡くした上に、弟と離れ離れになり、夫には裏切られた・・・。

「余計な詮索は無用だ、汪東城(ワン・トンチェン)

 禹哲(ユージャ)だった。相変わらずつっかかってくるよな。

「まさかオマエが歌うとはね。驚いたよ」

「何か作りますよ、陳奕儒(チェン・イールー)

 禹哲はオレの言葉を無視して亦儒に話しかけた。

「じゃあ、聖夜にふさわしいカクテルを」

 亦儒、寒いぞその言い回し。オレも今夜は飲んでやる!

「オレはブランデー。ストレートで」

「飲酒運転する気か? 汪東城」

「乗らなけりゃいいんだろ? 金を払うんだから飲ませろよ」

「この店のルールを知らないようだな。アンタは“B”だから払う必要はないんだ」

「は? どういう意味だ」

「“B”は飲食がすべて無料だ。そのかわり“T”は市価の二倍の金額を支払ってもらっている。つまり“B”は“T” になった時に出世払いしてくれればいいんだ」

「大東が“B”とは意外だな。ボクもまだまだビジネス界では子供みたいなものだから“B”扱いさ」

  亦儒でさえ“B”ってことは、かなりボーダーラインが高いってことか。

「陳奕儒、あなたは今夜から“T”だ。さっき阿明から聞きましたよ、年明けの役員会で取締役に就任するらしいですね。おめでとうございます」

「ありがとう、禹哲。どうやらやっと父に・・・社長に認められたみたいだ」

「やったな、亦儒! そういうことは早く言えよ! 乾杯するから早く持って来い唐禹哲!」

 もうこうなったら飲むしかない。

 

 大東、本当に“自業自得”だよね。でもちょっとかわいそうだからボクが偵察してやらないと。そう思ってカウンターの女性陣から少し離れた端っこに座り、カクテルを飲みながら様子を伺う。ボクをイメージして唐禹哲(タン・ユージャ)が作ってくれたこのカクテル、なんでこんなに甘ったるいんだ? 初対面から感じが悪いったらない。

 さっき禹哲に“B”って断定されてちょっと腹がたったけど、名簿の“T”の層々たるメンバーを見たあとでは何も言えない。“B”は“ボトム”つまり“底”で“T”は“トップ”って意味らしい。だから店の名前は“Bottom and Top”で略して“BaT”だ。姉さんはもちろん“T”で亦儒も今夜から昇格だって。でもボクだって、いつか“T”にのし上がってやるつもりだ。

 莉莉(リーリー)と禹哲の関係はよくわからない。それにしても櫻雪と禹哲が姉弟ってのは信じがたい。この店は禹哲がオーナーなのか? それともただのバーテン? 莉莉はステージ担当なのか、他のアーティストの機材を片付けたり準備したりと忙しそうにしている。

 姉さんたちはカクテルを飲みながらガールズトークの世界にどっぷりって感じで、大東のことなんてすっかり忘れてるみたいだ。

 哀れだな、大東。亦儒も姉さんとデートのつもりがとんだ期待はずれだね。姉さん、アルコールに弱いのに大丈夫かな。

「ねえ小雨(シャオユー)、大東とママは結婚できるかな?」

 でもどうやらボクが今夜一番の貧乏くじをひいたのかもしれない。子守だなんてさ。慣れてるし子供は嫌いじゃないけどこういう店ではありえないだろ。

 偉偉の素朴かつ切実なこの質問に、ボクは真面目に答えるべきなのか?

「偉偉は、ママが大東のこと好きだと思うのか?」

「う~ん、よくわかんない。ママは阿光(アーグァン)のことが好きなのかも」

 呉尊をだって? いつの間にそんなややこしいことに?

「ねえ小雨。大東は明お姉ちゃんのこと好きなんだよね?」

「あのさ偉偉。“好き”にはいろいろあるんだよ」

「もしかして小雨も明お姉ちゃんのこと好きなの?」

「えっ? す、好きさ、もちろん。阿明はボクの大事なお姉ちゃんだからね」

「何を話してるの~? お二人さん」

 突然姉さんがフラフラとしてボクらの会話に入ってくる。もしかして酔ってる?

「あのね、小雨がお姉ちゃんのこと好きなんだって!」

「わぁ姉さん、違うよ! なんでもないって! 偉偉! だから“好き”にはいろいろあるって言ってるだろ!」

「小雨ってだあれ?」

 姉さん・・・ボクの役名だってこと知らないんだね。それはそれでちょっと寂しい気がするよ。

 誰かの携帯が鳴る。カウンターに置いてあった姉さんの携帯だ。あ、母さんからだ。酔ってる姉さんの代わりにボクが携帯に出る。

「もしもし、母さん? ボクだけど・・・」

  

        *          *         *

 トイレを出ると、丁度ヒロと出くわした。

「大東、あなた櫻雪にいったい何をしたの?」

「は? なんだよ突然」

「彼女、普段はあんな格好しないでしょ? 着慣れてないことなんてすぐわかるわよ」

「オレは何もしてない。誓って」

「そう・・・やっぱりね」

 ヒロはまたなんでもお見通しな表情で、オレを見据える。

「女が露出の多い大胆な格好をする理由なんて、ひとつよ」

「なんだよ・・・」

「自分で考えなさい! それにしても彼女すごいわね」

「何が?」

「あれだけ大胆にしても下品にならないのは、彼女自身のオーラに品があるからよ」

「まあ・・・そうだな」

 櫻雪を褒められると悪い気はしない。 

「それに羨ましいくらいスレンダーよね」

「まあな」

「なによ、まるで自分のものみたいに。何もできなかったんでしょ?」

「オマエな! ったくホント変わったよな、呉尊が聞いたら驚くぞ、その発言」

 ヒロの表情が硬くなる。オレまずいこと言ったな。

「・・・さっき来たんだって。阿明のマンションに。阿明のお母さんから連絡があったの。携帯を荷物に入れて宅配で送っちゃったらしくて、遅くなるけどパーティーに顔を出すってことを電話できなかったって・・・。彼らしいよね」

「何やってるヒロ! 今から阿明のマンションに行けよ!」

 ヒロは首を横に振る。

「日本のお土産を置いてすぐに帰ったって。遅くなったお詫びにって花束も」

 その花束はどう考えてもヒロにだろ。元来、気休めを言ったり、なぐさめるのは苦手だ。だがこんなに気落ちしたヒロに、何か言ってやらないと・・・。

「さあ、飲み直すわよ~! じゃ、大東、今夜のところは櫻雪と阿明は借りるわね!」

 ヒロはあっけらかんとした様子で去っていった・・・。

「なんなんだまったく! 全然元気じゃないか!」

  女心はさっぱりわからん。ヒロも、櫻雪も・・・。

 あのとき、あの部屋にあれ以上いたら、オレの理性なんて数分で飛んで行きそうだった。傷口に息を吹きかけられたときにはもうどうにかなりそうだった。キスだけで終われる自信なんてオレにはなかった。ただそれだけだ。

 

 ヒロをなぐさめようと追いかけてきたのに、大東にその役目を横取りされたかと思いきや、本当に役立たずだよな、大東は。

  ヒロのカラ元気さえも見抜けない大東に、繊細な櫻雪を扱えるわけないか。でも大東のために一肌脱いで恩を売るのも手かも。ボクはアート作品に興味あるふりをして、櫻雪を誘う。彼女にあることを吹き込むために・・・。

      *          *          *

 カウンターに戻って気がつくと、ステージ上にはもう誰もいない。どうやらライブは終わったみたいだ。今夜才能を認められた“B”は“T”からのサポートを受けられるってしくみらしい。つまりパトロンってことか。

「やっと会いに来てくれた!」 

 突然誰かにうしろから抱きつかれ、飲もうとしていたウーロン茶をこぼしそうになる。振り返ると満面の笑みの莉莉だった。天使の歌声とスマイル・・・ふっとそんなフレーズが浮かぶ。

「いつかみつけてくれるって信じてた、あたし」

「べ、別にキミに会いにきたわけじゃ・・・ みつけるも何も・・・」

「ううん、初めて会ったときからわかってた。再会する運命だってこと」

 そう言えば、この前言ってた「また会えて嬉しかった」の“また”ってどういうことだったんだろ。

「ボクたち、会うのは今日で二回目のはずだよね?」

 一瞬にして莉莉の表情が凍りつく。それと同時に左頬に痛みが走る。

「亞綸、サイテー!!

 ボクは彼女に平手打ちされていた。莉莉の瞳は怒りと涙でキラキラしている。呆然としているボクを置いて莉莉は駆け出す。反射的にボクは追いかける。

「待てよ!」

 店を出たところの急なのぼりの階段で彼女の腕を掴むと、思いっきり振り払われた。一段高い場所にいる彼女は振り返りボクを見下ろす。

「亞綸になんて、会えないほうがよかった!」

「意味わかんないよ! なんでぶたれなきゃなんないんだ・・・」

 突然ボクの襟元を莉莉が両手で掴み上げたかと思うと、彼女の唇はボクの唇を塞いでいた。

 しばらくの間ボクたちはキスしていた。ボクが抵抗するのも忘れるくらい、彼女はキスが上手で、しだいにボクまでその気になりかけたときだ・・・。彼女は突然キスをやめると、にっこり微笑んだ。彼女は多少、ファッションセンスに問題はあるけれど、間近で見るとかなり可愛いことに気付く。

「亞綸。これはお別れのキス。もう二度と現れないで!」

 彼女は天使の微笑みで、捨てゼリフのようにそう言い放つと、店に入りバタンとドアを閉めた。

 

 ・・・今の、いったいなんだったんだ・・・。ぶたれ頬の痛みも、キスの余韻までもがどこかへ吹き飛んでいく。

 悪魔だ・・・悪魔の化身。莉莉は、天使の姿に身をやつした悪魔だ!

  この悪夢のようなクリスマスの夜を、ボクは一生忘れられそうもない・・・。

第14話「聖夜のエピローグ」~東雪篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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