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飛輪海小説『ステップアップ!』第12話~東綸篇

12話「聖夜の奇跡」~東綸篇   青:大東 緑:亞綸

 偉偉(ウェイウェイ)が招待してくれた店はどうやらここみたいだ。その証拠に大東のバイクが停まっている。

 店の中に入ると、客でにぎわっていて、ステージ上ではジャズピアノをひいている男がいた。かなり独創的だけど上手いと思った。

「ねえ、亞綸! どうしてこの店に?」

「最近できた友達に招待されたんだ。ヒロ、迷惑だった?」

「ううん、なんだかおもしろそうな店ね。ちょっとお手洗いに行ってくる」

 

 階段を何段か上がると中二階になっていて、そこの立ち見席から店内を見回したけど、大東の姿はみつからない。だけどカウンターの中に偉偉の姿をみつける。

 客をよく見ると、有名な実業家やアーティストの姿が見えるし、あちこちに絵やアート作品が飾られている。いったいこの店はなんなんだ? ライブハウスなのかバーなのか、それとも画廊? 

「まさかオマエが来るとは思わなかったな」

 大東が現れた。ボクのすぐ横で、立ち見用のバーに両手をついてステージを見下ろしている。あれ? 大東ってこんな香水つけてたっけ? でもこれって誰かの香りと同じだよね。誰だっけ?

「それはこっちのセリフだよ! 大東が姉さんの誘いをドタキャンするなんて前代未聞だろ? どうしてこのライブを選んだんだよ!」

「余計なこと阿明(アミン)に話すなよ。・・・まあ、まずオレの紹介でってことで会員登録しろよ」

「ここ会員制なんだ?」

「大東ずるいよ! 小雨(シャオユー)はボクのショウカイだよ!」

ボクに気がついた偉偉が何か帳簿のようなものを持って現れた。

「これに名前書いてよ小雨! ショウカイ者は“馬俊偉(マー・ジェンウェイ)”って書いといて」

 大東とボクの間に偉偉は強引に割り込んでくる。そんな偉偉に大東は、

「偉偉、オマエさっきはよくも・・・」

 そう言いながら偉偉をうしろから捕まえて、わき腹をくすぐり始めた。すごく親しげに。

「や、やめてよ大東! くすぐったい~! せっかくママと二人きりにしてあげたのに~!」

 え!? ママって誰? 偉偉のママと大東は、今まで二人で会ってたってこと? じゃこの香りは偉偉ママの香水?

「ね、大東! ママとギュっとしてチュってした?」

「ば、バカ、そんなことするわけないだろ! オマエ子供のくせに・・・」

 動揺しまくる大東、おもしろすぎるよ。多分何もできなかったってパターンだな。あ、でもギュっくらいはしたかもね。

「大東、ママが嫌いなの? だってボクはママが大好きだから毎日寝る前にベッドでギュってしてチュってするんだよ! そのときが一番幸せな気持ちになるんだもん。大東にも幸せを分けてあげようと思って“西太后のベッド”まで連れてってあげたのに・・・」

「西太后のベッド? 何それ?」

 なんかおもしろそうな展開になってるみたいだ。

「あのね、小雨。ボクんちのベッドすっごく大きくてね、禹哲兄ちゃんが・・・」

「偉偉! もうやめろ!」

 大東があせりまくってるとき、ステージ上は次の出演者の準備に入っていた。スツールとスタンドマイク、譜面台が用意され、オーバーオール姿の女の子がギターを持って腰掛けた。

 え!? もしかしてあの子・・・

「あ! 莉莉(リーリー)姉ちゃんと禹哲(ユージャ)兄ちゃんの番だ!」

 やっぱり莉莉って子か。ステージのセンターにもスタンドマイクが置かれ、禹哲とかいう男が何か莉莉に話しかけている。

「なあ偉偉。莉莉と禹哲は一緒に歌うのか?」

 大東のその口ぶりからすると二人のことを知っているみたいだ。

「うん。前まではギターを弾くだけだったんだよ。でも莉莉姉ちゃんは今日初めてステージで歌うの。だから小雨にも聞いて欲しかったの」

 ふ~ん、莉莉の初ライブか。いったいどんな歌を歌うんだろ。

 

 莉莉は古びた巾着袋のようなものをギュっと胸のあたりで握ってから譜面台にひっかける。挨拶もなく莉莉のギターソロが始まる。彼女のギター、まるで歌ってるみたいだ。禹哲ってヤツがソロパートを歌いだすと、観客の女性の悲鳴に近い歓声が聞こえてくる。ふ~ん、人気があるんだな。たしかに上手いし、女性受けする容姿だよな。大東がボソッと「なんでこんなに上手いんだよ」と悔しそうにつぶやいたのをボクは聞き逃さない。大東と禹哲って仲が悪そうだな。

 Bメロになっても莉莉はまだ歌わない。普段の声は少しうるさいくらい大きな声だった気がする。歌うってことが想像できない。そんなことを考えていると、サビに入る少し前のフレーズから、急に心地いい温かみのある声が会場中を包み込んだ。

 何? これって人間の声? もし天使の声ってのがあるなら、きっとこういう声のことを言うんだと思った。地球上のあらゆる美しい声や音が何層にも重なり合ったような不思議な響のある声・・・。

  アッ・・・今、目が合ったかも。一瞬莉莉の声がうわずった気がした。

「莉莉姉ちゃんの歌ってるときの声、ボクすごく好きなんだ! 怒ったときの声はイヤだけどね」

 怒った声ならボクも聞いたことある。だけど歌うとこんなにも違うものなんだ。それなのにコーラスだけなんてもったいないよ。それに、禹哲ってヤツにこの曲のキーが合ってないのかな。ボクのほうが上手く歌えそうな気もする。

 3曲目の終わりがけに、偉偉が急に階下へ走り出す。

「ママ!」

 え? 偉偉のママ? どの人だ? 大東も偉偉を目で追っているようだ。

 偉偉は小さすぎてすぐに人ごみに紛れてしまい、見失ってしまった。大東の視線の先に偉偉のママがいるはずだ。

 ボクは意外にもそこに櫻雪(ユンシュエ)の姿をみつけた。長い黒髪をおろしていて、いつもと違う雰囲気の服を着ているけれど、あれは確かに櫻雪だ。よく見ると櫻雪は偉偉と話している。これってまさか・・・まさかだよ。

 櫻雪は髪をおろしていた。ひざ上丈で太もものラインがはっきりわかるピタっとした黒いスカートで細身のロングブーツを履いている。上は胸元が大きく開きゆったりとしたベージュのニットで、オフショルダーになっているため、櫻雪の華奢な肩が見えている。下には同系色でラメのチューブトップを着ているようだが、一瞬、中に何も着ていないようでドキリとする。ウエストには黒のベルトをしているせいか、元々細いウエストがさらに細く見え、逆に胸が強調されていた。あまりにもイメージに合わない挑発的なスタイルだ。

 周りの男たちの視線を集めている櫻雪は、とても子持ちには見えず、30代にも見えるはずがなかった。彼女の長くスラっとした脚は一歩一歩、品のある脚運びで階段をあがり、偉偉にエスコートされるようにしてオレのそばまでやって来る。彼女の胸元が目に入り、またドキリとする。彼女はそんなオレを素通りして、亞綸に声をかけた。

「亞綸、今日は偉偉が突然誘ったのに来てくれてありがとう」

「あのさ、櫻雪、ひとつ聞いていい?」

 亞綸が聞きたいことはわかっている。驚くのもムリはない。

「この子は私の息子よ。隠していたわけじゃないけど、私、離婚してるの」

 亞綸は目を丸くしてオレの顔を見る。なんだよ、何が言いたい。

「今日のママすごくキレイでしょ? 亞綸も大東もびっくりしたよね?」

 偉偉は嬉しそうに無邪気に聞いてくるが、オレは亞綸の前でなんて答えればいいんだ?

「うん、すごくキレイだね。大東なんか言葉も出ないみたいだよ」

 亞綸の言うとおり別人のようにきれいな櫻雪にかける言葉もない。

 だが櫻雪はオレと目を合わせない。

 なぜだ? さっきまでいい雰囲気だったことが、まるでなかったことのようだ。あせらず大人な態度を心がけたはずのオレには、さっぱり身に覚えがない。

 そのうえこんな大胆な格好で現れて、どういうつもりだ?

「大東、目のやり場に困っちゃうよ」

 そう小声で耳打ちする亞綸を、目隠ししてやりたいくらいだ。

 ステージ上は、次の出演者の演奏が始まっていた。

 は? ヒロ? 

 ステージ近くの席から、こっちに向かって手を大きく振っているのは間違いなくヒロだった。

「大東! 久しぶりね!」

 中二階の席にヒロが駆けつける。

「姉さんのことドタキャンしてこんなとこにいたんだよ、大東は」

 亞綸、櫻雪の前で余計なことを!

「私も亞綸のせいでドタキャンしたようなものよ。・・・亞綸、こちらを紹介してもらえる?」

「ああ、うん。えっと・・・事務所に新しく入った・・・」

「ボク、馬俊偉! 偉偉だよ! お姉さんは?」

 亞綸の言葉をさえぎって偉偉が自己紹介した。ヒロは偉偉の目線まで腰をおとす。

「わたしはキリムラヒロエよ。偉偉、ヒロって呼んでね」

「ヒロ、きれいだね~! ボクのママの次にだけどね。ママの名前は唐櫻雪だよ!」

 偉偉はそう言って櫻雪の手を握った。ヒロは少し驚いたように立ち上がる。

「櫻雪。ヒロはスタイリストで、前はうちの事務所にいたんだ」

 亞綸がヒロを紹介すると、櫻雪は流暢な日本語で話しかける。

「初メマシテ、ヒロサン。オ会イデキテ嬉シイデス。前カラ、オ会イシタカッタカラ」

 ヒロのことを知ってるみたいだ。まあ、一応人気スタイリストだからな。

「日本語ガオ上手デ、驚キマシタ。私モ、アナタニ会エテ嬉シイデス・・・いやだ、私が緊張しちゃう、あんまり完璧な敬語だから・・・ヒロッッテ呼ンデネ。・・・アッ・・・」

 ヒロは何を思ったのか、自分の大きめのペンダントをはずすと櫻雪の首に付け始めた。

「キレイな鎖骨が隠れちゃうけど、これくらいアクセントがあるほうがクリスマスの夜には華やかでいいでしょ? ごめんなさい、余計なことだった? スタイリストの習性なの、許してね」

「いいえ、ありがとうヒロ。素敵なペンダントね、しばらくお借りするわ」

「よかった、気に入ってもらえて」

 そう言いながらヒロはオレにむかってこっそりとウインクしたように見えた。まいったな。昔からヒロはなんでもお見通しだ。いつからオレたちの様子を観察していたんだか。ヒロはオレが櫻雪の胸元に気が気じゃないことを察してペンダントで隠してくれたにちがいない。だがホッとしたのもつかの間だった。

「嘘! あれ阿明と亦儒じゃない?」

 オレはヒロの言葉に耳を疑った。嘘だろ! だけどあれは正真正銘、阿明と亦儒だ。

「阿明! 亦儒!」

 ヒロに気付いて二人はこっちへ向かってくる。オレは思わず背を向ける。

「ヒロ! 小霖(シャオリン)! どうしてここに?」

「パーティーに行かなくてごめんね阿明、亞綸に連れて来られちゃって・・・」

「姉さんこそどうして?」

「わたしはここの会員だから、招待状をもらっていたの。来られないと諦めてたけど、あれからお父さんとお母さんが来てくれて、亦儒とたまにはデートして来なさいって。 ねえ、ヒロ。もう櫻雪と知り合ったみたいね」

「そうなの。もう櫻雪とは友達よ。こんな偶然ってあるのね。それにみんなで会えるなんて聖夜の奇跡ね」

 オレにとっては全然奇跡なんかじゃない! 

「偉偉、大きくなったわね!」

「香明お姉ちゃん、ママに素敵なお仕事くれて本当にありがとう!」

「いいえ、どういたしまして。櫻雪、もう受付は慣れた?」

「だいぶん。亦儒、紹介してもらえて本当に助かったわ。感謝してます」

「いや、今回はボクじゃなくて阿明の力だよ。引退したボクにはなんの力もないからね」

 は? いったいどういうことだ? さっきからみんな何を話してるんだ? 阿明と櫻雪は前からの知り合いだったのか!? 阿明の紹介で櫻雪は事務所に入れたって?

 オレは思わず振り返る。

「大東! おまえ仕事じゃなかったのか!?

 亦儒、声がデカイ。そして阿明とばっちり目が合ってしまう。

「呉香明(ウー・シャンミン)・・・あのさ・・・」

 言い訳が思いつかない。オレの聖母様! 頼むからそんな不信感いっぱいのデカイ目で見ないでくれ。だが櫻雪の手前、どう言いわけすればいいんだか・・・。

「阿明、ヒロ。カウンターで弟のカクテルをごちそうするわ。行きましょう」

 救世主は櫻雪か? というより相変わらず櫻雪はオレを避けている。

 阿明と櫻雪の奇跡的な鉢合わせに、オレは成すすべもない・・・。

第13話「聖夜の悪夢」~東綸篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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コメント

はじめまして。

ずっと前から読ませてもらってました。

ヒロ&アミン篇は、大東の心の中がはっりきわからないところがドキドキしたりもしたけど、
東綸篇は、男の本音がたくさん出てきて、それはそれでドキドキさせてもらってます(*´ェ`*)

わたしは大東迷だけど、このお話の中での亞綸のちょっと毒のあるキャラが好きだったりもします(*v.v)。

これからの展開も楽しみです~

投稿: すてぃっち | 2010年3月18日 (木) 21時24分

>すてぃっちさん

コメありがとうございます!
ミンクロは女なので、男の本音は本当のところはわかってないのかもしれませんがcoldsweats01

亞綸は書いてると、考えなくても一番勝手にしゃべって動いてくれるのでラクですnote
まだまだ続きますので、最後までお付き合いよろしくお願いしますhappy02

投稿: ミンクロ | 2010年3月19日 (金) 19時56分

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