« 飛輪海小説『ステップアップ!』第9話~大東篇 | トップページ | 飛輪海小説『ステップアップ!』第11話~東雪篇 »

飛輪海小説『ステップアップ!』第10話~東綸篇

10話「聖夜のプロローグ」~東綸篇   青:大東  緑:亞綸

 今日はクリスマス。今夜は姉さんとこのパーティーに参加予定だ。いつもはうちでやるんだけれど、今年の母さんは別のパーティーを主催するから、代わりに姉さんが仕切ることになったんだ。それに土曜日だから、亦儒の仕事が休みってことで、姉さんがはりきって準備しているらしい。

 今までボクも、いつも仕事のせいで途中参加だったのに、今年に限っては神様からの贈り物かもしれない、最初から参加できることになった。大東も今日のスケジュールだと早く来るはずだ。

 日本での撮影が延びた呉尊と、仕事が入ってるヒロが来られるかどうかわからない。でも二人が本当に来るつもりがあるのかも微妙なところだ。お互い、顔を合わせるのが気まずいに違いないから。

 衣装合わせが終わったころ、受付からタクシー到着の電話をもらう。今日は土曜だから受付の櫻雪(ユンシュエ)は休みのようだ。

「マーキー、タクシー来たみたいだから、ボクもう帰るよ。じゃ、明日!」

「メリークリスマス! 阿布(アブー)~!」

「メリークリスマス! マーキー」

 裕惠(ユーフイ)と姉さんへのプレゼントを持ってボクは衣裳部屋をあとにする。

 外へ出て、タクシーに乗ろうとすると、誰かが駆け寄ってくる足音がした。

 パパラッチ? それともファン?

「小雨(シャオユー)! 待ってよ!」

 ・・・偉偉(ウェイウェイ)!? 紺色のダッフルコートを着た、いつかの男の子だ。

「小雨! よかった会えて!」

「ボクに何か用?」

「はい!」

 差し出された偉偉の小さな手は、何かチケットのような紙切れを持っている。

「何? これ」

「くりすますらいぶのチケットだよ! 大東も来るから小雨も来てね! 絶対だよ!」

「あ、待って!・・・行っちゃったよ・・・」

 走り去る偉偉の小さな背中を見送ってから、ボクは待たせていたタクシーに乗り込む。

 困ったな、今夜は姉さんとこのパーティーなのに・・・。でもおかしいな、大東もライブに来るって偉偉は言ってた。大東とも知り合ってるってことか。

 チケットを見ると、“BaT”と書かれている。 店の名前? ライブハウスかな?

 今夜は阿明(アミン)のクリスマスパーティーに招待されているが、まだプレゼントを買っていない。買う暇がなかったというよりも、そんな浮かれたことをする気分でなかったというのが正直なところだ。

 母さんは最近、オレとすごすより、友達と出かけることが多くなった。今夜も友達とクリスマスディナーらしい。だからオレは迷わず阿明のところへ行けばいいわけだが、いまいち気乗りしない。

 

 あの夜、あのおかしな月の夜は、あとでわかったことだが、“皆既月食”だったらしい。三日月だと思っていたのは、月食中の月の形だったようだ。実際、あの日の本当の月は、満月だった。

 いつか阿明から聞いたことがある。「満月の夜はいつもと違う自分になる」ってさ。まさにあの夜のオレは理性を欠いた狼同然だった・・・。「子供みたいなこと言わないで!」・・・櫻雪の言葉が耳に残って離れない。会わせる顔がない・・・。オレって毎度毎度進歩がない・・・。

 冷たい風が吹く。ダウンジャケットのポケットに手をつっこむと、何か紙きれのようなものが二枚入っていた。

 一枚はライブのチケット? もう一枚の白いメモには数字が書かれていた。携帯番号!? 身に覚えがない。ん? ライブチケットには“BaTクリスマスLIVE”と書かれている。書かれている住所と地図からすると禹哲(ユージャ)の店か?

 じゃあ、この番号は・・・まさか櫻雪の携帯!? 櫻雪にダウンを貸したときに、彼女が入れたってことか!? マジか!? 

 彼女とクリスマスをすごせると知っていれば、あんな早まったバカなマネはしなかった。完全にフライングだ。

 あ! ・・・阿明のパーティーはどうする? それもオレにとっては重要だ。オレはどっちを選べばいいんだ!? 

 ・・・何を迷う必要がある? いくら先約でも阿明は人のモノだろうが。義理立てしたってなんの得もない。行っても毎度のようにあいつらのラブラブぶりを見せつけられるだけだ。

 オレは“仕事で行けなくなった。阿明に謝っておいてくれ”とだけ亦儒にメールする。

 もう7時をまわっている。もうすぐライブ開始の時間だ。まだプレゼントも買ってない。何を買えばいい? 櫻雪だけでなく、一応偉偉のぶんも買わないとまずいよな。阿明と裕惠(ユーフイ)はまた後日だ。とにかく時間がない! 

 携帯の着信が鳴る。・・・亦儒からだ。今はそれどころじゃない。悪いな、亦儒。

 櫻雪にはアクセサリーか。でもそんなものクリスマスに買ったら店員になんと思われるか。店員にリークされてまた週刊誌ネタだ! 偉偉は? 今どきのあれくらいの男の子が何を欲しいかなんてさっぱりわからん! 時間がない! 櫻雪に直接聞いてみるか? せっかく番号をゲットしたことだし、それにあれから4日もたつのに、オレから一度も電話がないなんて、櫻雪が気にしてるに違いない。 

 オレは迷わず電話をかける。

『・・・ハイ・・・あの・・・どちらさま・・・ですか?』

 4日ぶりに聞いた櫻雪の声・・・。だがなんか様子がおかしい。声が震えている気がした。

「オレ・・・汪東成だけど・・・」

『大東!? どうして私の番号を知ってるの!?

 え? 櫻雪がメモを入れたんじゃなかったのか? まさか偉偉か!?

『知らない番号からかかってきたから、私、てっきり・・・』

 櫻雪はそこまで言うと、声をつまらせた。泣いてるのか?

「どうしたんだ? 何かあったのか?」

『・・・偉偉が・・・』

「偉偉が今度はどうした!?

『帰ってこないの・・・』

「は? いつからだ!?

『隣の部屋でテレビを見てるとばかり思っていたの・・・気付いたらいなくて・・・私、休みの日は家で翻訳の仕事をしてるの・・・出て行ったことに全然気付かなくて・・・』

「外は捜したのか? 禹哲(ユージャ)の店は?」

『最近一人で近くの公園まで行くことがあるから・・・見に行ったけど・・・やっぱりいなくて・・・禹哲の店にもいなかったわ・・・』

「禹哲は今、捜してるのか?」

『話してないの。ライブの準備をしてる弟には迷惑かけられないわ! きっとそのあたりで遊んでるだけだと思うから・・・』

 さっきオレからの電話を誘拐犯かもと心配したってわけか。それほど心配している櫻雪をほっておけない。

「すぐそっちに行くから家で待ってろ!」

 オレは櫻雪の返事も聞かずに携帯を切り、バイクを走らせた。

 

 ビルの前にバイクを停めてヘルメットをハンドルにひっかける。 

 櫻雪の部屋はたしか3階だったはずだ。階段をかけあがると、この前と同じ踊り場で櫻雪が不安げな表情で立ち尽くしていた。月明かりに浮かびあがる今夜の彼女の顔色は青ざめて見える。

「大丈夫か?」

 櫻雪はだまったまま小さくうなずく。

「一緒に捜しに行こう」

     *          *          *        

 8時をまわったのにボク以外の誰も現れない。このままだと姉さんがかわいそうだ。

 せめて母さんたちでも来てくれないかな。最近の母さんは、ただ楽しいだけのパーティーよりも、チャリティーパーティーやボランティア活動に熱心になっていた。范范(ファンファン)と黑人(ヘイレン)のチャリティーに連れて行ったときに影響を受けたみたいだ。そして今夜も、父さんの病院に入院している子供たちのためのパーティーを主催したせいで、ここに来られるかどうかは微妙だった。

 ヒロはやっぱり仕事が長引いたみたいだから仕方ないとはいえ、大東が仕事だなんて聞いてないぞ。

 ありえないよ、姉さんのパーティーをドタキャンするなんて。まさか本当にクリスマスライブってのに行ってたりして・・・。

 呉尊は日本の撮影が終わらなかったのかな。連絡がないのは、きっとまた携帯をなくしたにちがいない。それともわざと来なかったから電話をかけづらい?

 ヒロは来られなくてよかったかもしれない。現れない呉尊を待ち続けるヒロを見ていられそうにないから。

「大東に、“少しくらいは顔出せよ”ってメールしたけど返事もないな」

 亦儒はさっきから何度も呉尊と大東に電話してるけれど二人とも出ないようだ。

「呉尊が来ないんじゃ料理がずいぶん残りそうね。大東も仕事なら仕方ないわ」

 実は大東に仕事が入ったかどうかをヤンさんにメールで確認したんだ。今、返事が来た。

 やっぱり仕事じゃない。姉さんたちには言えないな。きっとクリスマスライブを優先させたに違いないから。

 どんなライブなんだろ・・・姉さんとの約束を破るほどのライブって。

「姉さん、裕惠眠っちゃったよ。さっきまでヒロが来るのを待つって頑張ってたのに」

「ベッドに寝かせてくるわ。小霖(シャオリン)、料理をどんどん食べちゃってね」

「もうおなかいっぱいだよ! ボク、そろそろ行こうかな・・・実は友達にも誘われててさ」

「そうかそうか、亞綸、気をつけて行けよ」

 亦儒・・・大人げないよ。露骨に嬉しそうでさ。でも今夜は気にしないよ。ボクから二人へのクリスマスプレゼントだからね。

「小霖(シャオリン)、来てくれて嬉しかったわ。裕惠もプレゼントすごく喜んでたし」

「うん、じゃあ行くよ。おやすみ姉さん」

 マンションのエントランスを出るとタクシーが止まっていた。誰かがタクシーのそばに立っている。ん?・・・ヒロ?

「お客さん! いい加減にしてくださいよ。もう一度乗るのか乗らないのか、マンションに入るのか入らないのか、早く決めてくれませんかね~」

「ヒロ! 何やってんの?」

 ボクが声をかけると、ヒロは駆け寄ってくる。

「亞綸・・・もしかして帰っちゃうの?」

「ボク以外誰も来なかったんだよ」

「え? ・・・大東も?」

 ヒロは本当は「呉尊も?」って聞きたいんだろうなって思った。無意識だろうけど、ヒロは耳のピアスを触っていた。そのピアスが呉尊からのプレゼントであることにボクは気付いてしまう。

「ねえヒロ! 今からボクに付き合ってよ!」

「え? どこに!?

「いいからタクシーに乗って!」

 ヒロの腕を強引に引っ張って、ボクはタクシーに乗り込む。ヒロは勇気を出して来たにちがいない。それなのに呉尊は来なかった。どんな理由であれヒロは落胆するだろうと思った。ヒロを元気付けるのがボクの役目だ。

          

     *          *          *

 オレたちは偉偉が行きそうな場所を探しながら賑やかな通りまで来ていた。「別行動で捜しましょう」と櫻雪が提案してきた。オレの立場を気遣ってくれたんだろう。

 時々、道行く人の「あれ大東じゃない?」と囁く声が耳に入るがそんなことはかまってられない。

 10分ほどたったころだろうか、携帯が鳴る。櫻雪からでファミレスに偉偉がいるらしいということだった。ここから程近い場所だ。オレたちはそこで落ち合うことにした。

 オレが到着したころには、もう櫻雪は店の中で店長らしき男に頭をさげていた。  店から出てきた偉偉は、オレを見ると少し顔色を変えた。

「大東! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「おまえ、こんなところで何やってたんだ。誰かと一緒だったのか?」

 何度も謝るのは、この前オレが激怒したからだろう。今度ばかりはオレも冷静になろうと心に決めていた。

「・・・うん。パパと・・・」

 パパ? 櫻雪の元夫か。いつかカフェで会っていた。

「大東・・・さっき電話があったの・・・あの人から。偉偉と食事したから今から送り届けるって・・・それでちょうど近くにいるから迎えに行くって伝えたわ・・・着いたときにはあの人はもういなかったけれど・・・」

「ママ! 別にパパに会いたかったわけじゃないからね! 公園に行ったらパパがいたんだ。ボク行きたいところがあって、そこに連れてってくれるってパパが言うから、車に乗せてもらっただけだよ! そしたらその代わりにごはんを食べに行こうって言われて仕方なくここに来たんだ・・・ごめんなさい・・・」

 オレも複雑な思いだが、櫻雪のほうがもっと複雑に違いない。どういう理由で別れたかは知らないが、たしか元夫は櫻雪を泣かせるようなことをしたとか偉偉が言ってたはずだ。父親は偉偉に愛情を持っているんだろうか。クリスマスに会いに来たことが何よりの証拠か? 櫻雪は偉偉をとがめるどころか何も聞こうとしない。

「おい偉偉、行きたいところってどこだったんだ?」

「・・・大東のじむしょだよ。小雨(シャオユー)にくりすますらいぶのチケットを渡しに行きたかったの」

「亞綸に? 渡せたのか?」

「うん! 絶対に来てくれるよね?」

 ・・・それはムリだろうな。あいつは今頃阿明のところに行ってるはずだ。

「偉偉、ムリを言わないで。小雨はとっても忙しい人なのよ」

「そっかあ・・・でも大東はヒマな人でよかった!」

「もう偉偉ったら! 大東だって本当は忙しい人なのよ!」

 そう言いながらも櫻雪は笑っていた。オレもそれにつられて笑ってしまうと偉偉まで笑い出した。さっきまでの妙な雰囲気が吹き飛んだようでホッとする。

「大東、くりすますらいぶに来てくれたんだよね!」

「偉偉、招待してくれてサンキュ」

「え!? どういうことなの?」

「この前、貸しただろ? このダウン。ポケットにチケットと携帯の番号が入ってた」

「そうだったのね・・・偉偉ったら・・・」

「あ! サンタクロースだ! サンタさんがバスを運転してるよ!」

 偉偉の指差すほうを見ると紛れもなくサンタクロースがバスを運転していた。街路樹はイルミネーションでブルーに染まっている。街がクリスマスムード一色になっていることに、オレは初めて気付かされた。

 街の雰囲気を楽しむ余裕がないんじゃない。楽しもうとする理由がこの数年のオレにはなかっただけなのかもしれない。

 今のオレは、櫻雪とこの瞬間を楽しむチャンスを偉偉からもらった気がした。

 子供ってやつは何もできないようで、案外大人より実行力があるもんだな。

 とりあえず、偉偉に感謝だ。

第11話「聖夜のモノローグ」~東雪篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

|

« 飛輪海小説『ステップアップ!』第9話~大東篇 | トップページ | 飛輪海小説『ステップアップ!』第11話~東雪篇 »

飛輪海小説『ステップアップ!』東綸篇」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 飛輪海小説『ステップアップ!』第9話~大東篇 | トップページ | 飛輪海小説『ステップアップ!』第11話~東雪篇 »