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飛輪海小説『ステップアップ!』第5話~東綸篇

第5話「疑惑の亦儒」~東綸篇          青:大東 緑:亞綸
 
  あれこれ考えてバイクを走らせるうちに、マンションの前に来ていた。亦儒がこんな時間に会社から帰っているわけがない。そんな時間に来るべきではないのは充分わかっている。だが阿明(アミン)に会えば気も紛れて、この訳のわからない感情から解放されるはずだ。今のオレには、あいつの慈愛に満ちた笑顔が必要だ。

 マンションのエントランスにあるインタフォンの受話器をとり、部屋番号をプッシュする。

「はい」

  受話器から聞こえてきたのは亦儒の声だった。・・・帰ってたのか・・・。まあ仕方ない。

「オレだけど」

「大東か、上がってこいよ」

       *        *        *

「久しぶりだな~大東! ドラマがひと段落ついたんだろ? 噂だけはいろいろ聞いてるぞ」

 なんの噂だか! それにしても阿明と裕惠(ユーフイ)の気配がない。その代わりにキッチンで忙しそうにしているのはどう見ても呉尊だ。

「大東、グッドタイミングだな。もうすぐできるから待ってろよ」

 呉尊が料理してる? どういうことだこれは・・・。

「亦儒・・・妻子はどうした?」

「は? メール読んだから来たんだろ?」

 オレは携帯を確認する。ちょうど子供をひきそうになった頃の着信だった。

“愛妻と愛娘里帰りのため、集合のこと。たまには男同士語り合おう!”

・・・オレと呉尊に一斉送信されている。

「二人は実家だ。昨日からね。阿明は脚本がひと段落ついたからな。どうせボクは帰りが遅いし、二泊くらいしてくるように勧めたはいいが、今日に限って取引先との会食がキャンセルになって、帰宅が五時だ。大東、阿明がいなくて残念だったな」

「べ、別にいいさ。ほらよ!」

 亦儒に見透かされたのをごまかすようにクマのぬいぐるみを差し出す。

「おい・・・大東。あれ見ろよ」

 亦儒が指差した先には、まったく同じクマのぬいぐるみが飾られている。

「大東、夏に持ってきたのと同じの買ったのか? おまえだいぶ疲れてるみたいだな。大丈夫か?」

「・・・オレは大丈夫だ・・・多分な・・・」

 オレ、唐櫻雪(タン・ユンシュエ)の一件でそんなに動揺してたんだろうか・・・。

 呉尊が出来上がった料理の皿をテーブルに並べ始める。

「呉尊、日本語のセリフはちゃんと頭に入ったのか?」

「料理は気分転換になるよ。一日中、家でセリフ詰め込んでも、集中力は続かないさ」

 

「亦儒、亞綸のヤツは?」

今日の仕事は夕方くらいまでだったはずだ。

「あいつには連絡してないよ。来るわけないだろ、阿明と裕惠が里帰りで帰って来てるんだからな」

 亦儒は料理を運ぶのを手伝いながら当然とばかりに答えた。亞綸のやつ、事務所で会ったときは、阿明が帰ってるなんて一言も言ってなかったぞ。

「大東、悩みがあるなら聞いてやるぞ。噂になってる新人女優のことか?」

 そう言って亦儒がニヤニヤしながら隣に座る。大の男が恋愛悩み相談なんてできるか! しかも恋敵だった亦儒になんぞ。

「別に悩みなんかねえし、その子のことはどうだっていいさ」 

呉尊は最後の皿を並べると席につき、会話に加わってくる。

「ふ~ん・・・じゃあどうだってよくないほうの子はどんな子なんだ? 何歳?」

「知らねえよ・・・年なんて」

 オレがそう言ったとたん、亦儒と呉尊は顔を見合わせてニヤリとする。まずい・・・。

「認めたな。年はわからないけど、いるんだな? 好きなのか?」

「知るか! 今日会ったばかりだぞ!」

 オレは馬鹿か・・・。誘導尋問にまんまとひっかかっている・・・。

「なるほど一目ぼれか。安心したよ大東。ちゃんと恋愛できるんだな」

 呉尊・・・オマエだけには言われたくない。一番ひきずってるのはオマエだろ。ヒロと別れてどれだけ経ってるんだ?

「もしかして新入社員だろ? 日本語と英語が堪能だっていう。ヤンさんからきいたよ。明日は事務所に顔出すから、楽しみにしておくよ」

 ・・・勝手にしてくれ。 

      *          *          * 

食事を終え、コーヒーを飲みながら、昔話やくだらない話なんかに花を咲かせる。たまにはこういう同窓会みたいのも悪くないな。

「亦儒、阿明は明日にしか帰らないんだろ? 朝食を用意して、温めるだけにしておいてやるよ。お粥でいいか?」

 呉尊はコーヒーを飲み干すと、カップとソーサーを持ってキッチンに向かう。

「呉尊、悪いな。助かるよ」

よく働くやつだな。・・・自分から婚約破棄だなんて、あんな馬鹿なまねしなければ、今頃ヒロと幸せに暮らしてたんだろうか・・・。

「大東、脚本は読んだのか?」

 亦儒はオレと二人になったところで映画の話を持ち出した。

「ああ、今日な」

 亦儒は急に真剣な顔になる。

「わかってるか? あの脚本は、阿明がおまえのことだけを思って書いたんだからな」

 オレが返答に困るようなことを言うなよ。

「何が言いたいんだ」

「阿明が不器用なのは知ってるだろ? 両立できないんだ。思い込んだらそれしか見えなくなる。脚本を書くときは、裕惠を実家に預けて、ほとんどホテルの部屋にこもって集中して書き上げたんだよ。ボクや裕惠のことを頭から追い出して、おまえのことだけを考えてさ」

 心臓をつかまれ、ゆさぶられたような気がした。中途半端な気持ちでは許されないってことか。

そこで誰かの携帯が鳴る。亦儒はパーカーのポケットから携帯を取り出し、名前を確認すると少しとまどいの表情を見せた。横目で盗み見すると“李(リー)”とだけ表示されている。なんで姓だけなんだ? “李”なんてありふれてるから、姓だけじゃわかりにくいだろ。オレの知り合いにだって5人はいるぞ。

「悪い、ちょっとあっちで出るから・・・」

亦儒が席を立つ。仕事の電話か?

「あ、オレそろそろ帰るな」

「亦儒、ボクもここを片付けたら帰るよ」

 呉尊がキッチンから声をかける。

「そうか、悪いな。呉尊、日本の仕事がんばれよ。それと、クリスマスにパーティーするから、よかったら二人とも来いよ!」

 亦儒はそう言うと隣の部屋へ入っていった。

本当に忙しいんだな。阿明がいつか言ってた。「うちは母子家庭みたいなものよ」と・・・。裕惠が起きる前に家を出て、眠ってから帰ってくる生活。忙しいのは一般人になっても変わらないみたいだな。

      *          *          *

オレは帰り道、亦儒の言葉を思い出しながら、バイクを走らせた。阿明が今回の映画化に関して、オレのために心血注いで尽くしてくれたことは、家族の犠牲無しではありえなかった。それをオレはわかっていたようで半分もわかっていなかった。

くそっ、普通の男なら、あんなこと言えないはずだ。自分の奥さんが“おまえのことだけを思って書いた”なんてさ。亦儒は本当に度量のデカイやつだ。それなのにオレはいちいちくだらないことを気にしてる。唐櫻雪が不倫してるからってなんだよ。彼女をまちがった道から救い出せばいいだけだろ? オレが彼女を説得してみせる!

      *          *          *

小霖(シャオリン)、その歌、なんて歌なの?」

「え?」

 無意識に歌ってたんだな。

「さあ・・・ボクもわからないんだ。歌詞も知らないし、サビだけだし

「時々ハミングしてるわよね。裕惠の子守唄にもなってるけど」

 ボクの背中にいる裕惠はもうよく眠っているみたいだ。もう一泊していく予定だったのに、「おうちに帰りたい」って泣き出した裕惠を、ボクがおんぶして送って行くところだ。先月、姉さんが脚本を書くために、裕惠をうちに一週間預けたから、そのことを思い出して不安になったのかもしれない。

「どうせ亦儒はまだ帰ってないんだろ? 眠っちゃったんだから引き返そうか」

「ううん、このまま帰る。今夜は取引先との会食があるから遅くなるって言ってたけど、帰ってきたら裕惠の顔を見たいと思うから」

「姉さん、よく我慢できるね。亦儒がこんなに仕事人間だとは思わなかったよ」

「仕方ないわ。社員のみんなに認めてもらうためだもの。陰で“ジュニア”とか“飛輪海主任”って呼ばれてるのを知ってから、亦儒も必死なの。でも最近はみんなの態度が変わってきたって喜んでたわ」

 マンションが見えてくると、姉さんたちの部屋の灯りがついているのが見える。な~んだ、帰ってるじゃないか。でもちょっと待てよ。妻が外泊中に愛人を連れ込む夫。予定より早く帰った妻と愛人が鉢合わせて修羅場・・・な~んて昼ドラじゃないんだから、ありえないよね。

 でも・・・。

「姉さん、一応帰る前に電話してみたら」

「どうして? もうすぐなんだし、驚かせたいじゃない?」

 姉さんも、灯りがついてることに気付いてたみたいで、なんだかウキウキしてる。

ボクの勘、今日ばかりはハズレてほしいよ。

      *          *          *

「阿明、帰るのは明日だと思ってたよ!」

「亦儒、早かったのね! 会いたくて帰ってきちゃった!」

百万回言っても足りないくらいに愛してるよ!

 抱き合う二人・・・。 いつものことながらボクの存在、忘れないでよね。

でもよかったよ、愛人と鉢合わせなくて。っていうか亦儒が浮気なんかするわけないか。

「あのさ、邪魔して悪いんだけど、裕惠が起きないようにこのままベッドまで運ぶからさ、続きはボクが帰ってからにしてくれない?」

 ほっとくと目の前でキスとか始まりそうだし。いい加減にしてほしいよ。

「亞綸、悪いな」

「あら? 誰か来てたの?」

 わ! コーヒーカップが二客出てる! まさか口紅とかついてないよね?  

「ああ、呉尊と大東だよ。呉尊が料理してくれてさ。実は会食が中止になって早く帰って来れたんだ」

「それなら実家に来てくれればよかったのに。でも二人と久しぶりに会えてよかったわね」

 ボクだけ仲間はずれ? ま、誘われても行かなかったけどさ。

 それにしても、三人いたのにどうしてコーヒーカップが二つだけなんだろ? おかしいだろ?

 そんな疑問は自分の胸だけにしまい、さすがに裕惠の重さがつらくなり子供部屋に運ぶことにした。

 裕惠をベッドに寝かせようとしたとき、一度だけ目をあけて「おじちゃま、お歌を歌って・・・」とせがんだけれど、寝ぼけていただけみたいですぐに寝息を立て始めた。それでもボクはしばらく裕惠の髪をなでながらいつもの歌をハミングする。 

「裕惠、いい夢を見るんだよ」

 ボクはそう言って裕惠のおでこにキスしてから、足音をたてないようにそっと部屋を出て、ドアを慎重に閉め、リビングへもそのまま足音に気をつけながら戻っていった。そしてリビングへのドアを開ける前に何気なくガラス越しに中に視線をやると同時にボクは思わず目をつむった。

 亦儒と姉さんはキスしていた・・・。しかもかなり濃厚な感じで! 勘弁してくれよ! 身内のキス現場なんてさ! ボクが帰るまで待てなかったのかよ! そりゃ結婚してから二年以上たつとはいえ、一緒に暮らし始めて一年ちょっとだ。まだまだ新婚みたいなもんだろうけど、たった二日離れてただけでこれだもんな。

「ストップ、阿明・・・そろそろ亞綸が戻ってくる・・・」

 ボクを気にしてる亦儒とは反対に姉さんのほうが盲目的にリードしてるらしい。 姉さんは夢中になると周りが見えなくなるタイプだから。

 ボクは廊下を逆戻りしてからわざと足音を立てながら歩き、リビングのドアを開ける。

「・・・小霖、ありがとう。気をつけて帰ってね」

 ・・・紅潮した頬。姉さんは少しみだれた髪を手で直しながら、目を合わせないで早口で言う。お茶の一杯も出してくれないんだね・・・。

「亞綸、今度またゆっくりしていけよ」

 亦儒の笑顔がやけに嬉しそうで腹がたつ。

「あら、お粥?」

 姉さんがキッチンの鍋の中をのぞいて、声をあげたのが聞こえてくる。

「それは呉尊が朝食用に作っていってくれたんだ」

「さすが呉尊ね、トッピングの具が五種類も作ってあるわ!」

 冷蔵庫の中を見て、今度は感嘆の声をあげる姉さん。

 本当なのかな? 本当に呉尊? ・・・どうしてボクがこんなことで気をもまなきゃいけないんだろ。やめたやめた! さっき見ただろ、二人がラブラブなとこを。

  明日は午前から撮影だ。帰って早く寝ておくに限る。どうぞお二人さん、ごゆっくり!

第6話「天国と地獄」~大東篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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