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飛輪海小説『ステップアップ!』第3話~亞綸篇

第3話「天使か悪魔か」~亞綸篇

 さっきの大東はサイコーにおかしかった! 彼女に興味あるの見え見えでさ! でも大東のタイプじゃないと思うけどな。

 見た目と中身にギャップがあってボクもちょっと興味あるけど、なんだかあのコと関わると面倒なことになりそうな予感がする。ボクの勘ってけっこう当たるんだ。

恋愛を面倒だと思うようじゃダメだよね。でも今、恋するなんてありえない気がする。

 ヒロもボクと同じで、恋愛モードから遠ざかっているみたいだ。仕事か、姉さんとこでくつろいでるか、Makiyoと飲んでるかの生活で、女度がかなり低くなっている。

昔は料理をちゃんとしてたのに今じゃまったくやってないみたいだし。遅くに疲れて帰ってきて、自分のためだけに作る気がしないらしい。呉尊のために作ってたときは、すごく手の込んだものとか、種類もたくさん作って頑張ってたのに。

お菓子だってよく焼いていて、呉尊が食べきれないくらい作ると、ボクにだけこっそりくれてたんだ。いつも日本人らしい心配りがあって、優しくって男をちゃんとたてていて・・・。

それなのに、今じゃ、見た目はトップスタイリストらしく洗練されて前よりすごくキレイになったけど、言動が男っぽくて時々驚かされる。

この前なんか、あの巨体の黑人(ヘイレン)がよっぱらって寝ているのを、ヒロが蹴り起こしてパパラッチを撃退させたらしい。范范(ファンファン)から聞いた話だから信憑性はかなり高い。ボクとしては信じたくもないからヒロには未確認だけど。

呉尊が知ったら、きっとびっくりするだろうな。

呉尊とヒロは別れてから一度も会ってないみたいだ。

ヒロはボクと呉尊の出たドラマのスタイリストを引き受ければよかったのに。

呉尊は絶対にヒロのことを口にしない。ヒロも同じだ。でも二人がお互いを思い合ってるのなんて、嫌でもわかるよ。

呉尊は来年、本格的に日本進出する。あさってには日本で連続ドラマの撮影に入るらしい。なんでも人気ドラマの続篇らしい。そんなドラマに出られるなんて、やっぱり呉尊はすごい。

今頃、日本語のセリフを覚えてるのかな? 呉尊の日本語は、お世辞にも上手いとは言えない。きっと丸暗記でもしてるんだろうな。

そういえば、明日は久しぶりに呉尊と一緒に仕事だ。 

       *         *         *

 ボイストレーニングが終わって、ジャスト1時。声を思いっきり出したからすごくおなかすいた。

 ボイトレを始めたのは、もっと高みを目指したいと思ったからだ。でも、ボクの声質とテクニックでは限界を感じることもある。ボクはどんな歌を歌えばいいのか、歌いたいのかがわからなくなってきていた。 

大東とのユニットが嫌なわけじゃないんだ。気が楽だし居心地はいいから。ただ刺激を感じなくなってきている。最近ワクワクしないんだ。

ちょっと作詞に興味が出てきたから、いくつか書いてみたんだけれど、まだ誰にも見せたことはない。自分の気持ちを自分の言葉で歌えたら、何かが違ってくるんじゃないかと、なんとなく思ったりする。

       *        *        *

 スタッフルームに戻ると、みんなが遅めの昼食を食べていた。

「亞綸、お弁当あるわよ。一つ食べる?」

 スタッフからお弁当を受け取り、つい立から応接セットをのぞくと、大東と櫻雪(ユンシュエ)が黙々とお弁当を食べていた。意識しすぎて話せないパターンかな? それとも大東は“セクシー&クール”路線を実行中? 

「ボイトレ終わったのか?」

「うん。・・・おなかすいちゃったよ」

「櫻雪、ここのお弁当、けっこうイケるでしょ?」

「ええ、とってもおいしいわ」

櫻雪がにっこり答える。彼女、すごく育ちがよさそうだな。話し方や物腰がちがう。

ボクがお弁当を食べ始めると、スタッフが慌てた様子でやってくる。

「ねえ大東、ヤンさん知らない?」

「呉尊の急な取材が入ったからって、さっき出てったよ」

「うそ! どうしよう、日本から電話なんだけど、日本語わかる子が今日休んでて・・・大東か亞綸、代わってよ!」

「ムリだよ、そんなの! 大東出れば?」

「オレ? オレだって電話はムリだ」

「あの・・・」

 櫻雪が何か言いたげだ。

「わたし、簡単な会話ならできます」

「ホントに!? お願い! 電話に出てくれない?」

「わかりました」

 

驚いたことに、櫻雪は簡単どころかすごく流暢な日本語でその場を乗り切った。多分、ネイティブに近いくらいに話せていたんじゃないかな。わからない単語が出てくると、英語で確認したりして。英語の発音もいいみたいだ。

大東、びっくりした顔してる。これじゃ、立つ瀬ないな。

「呉尊のスケジュールのことでした。ドラマの完結篇が映画になることが正式決定したそうです。撮影が来年8月にクランクインになりそうなので、スケジュール調整をしてほしいって。ヤンさんの不在を伝えると、明日までにヤンさんから返事をもらいたいとのことです」

「・・・ありがとう櫻雪! すごいわね! どこで日本語を?」

 スタッフが感嘆の声をあげる。

「そんな・・・わたし、日本で生まれて10歳まで日本に住んでいて・・・。両親と台湾に戻ってからは日本語を忘れないために、ピアノは日本人の先生のレッスンを受けてたんです。でも今は発音に自信がなくて・・・」

 櫻雪は恥ずかしそうに謙虚に答えた。ボクは彼女のきれいな英語も気になるところ。

「英語は? 櫻雪、英語も発音がいいよね」

「中学卒業までアメリカンスクールに通っていたから」

 へえ、やっぱりお嬢さま育ちなんだ。ますます大東のコンプレックスを刺激しそうだな。

「ねえ、大東。櫻雪ってすごいね」

「・・・そうだな・・それよりオマエ食べたら次の仕事行くんだろ? 最近、事務所の前にもパパラッチがうろついてるから気をつけろよ」

 

大東のスキャンダルのおかげで、最近のボクはマスコミからノーマークだ。だから別にパパラッチにビクビクする必要も、腹をたてることも少なくなった。

「櫻雪、またね! 仕事がんばって」

 

 1階ロビーに下りるエスカレーターから、念のため外の様子を伺う。見たところパパラッチらしき姿は見えない。その代わり、小さな男の子がロビーのガラスにへばりついて中の様子を伺っている。外からはあまり見えないようになってるんだけどね。

「タクシーまだ?」

 ボクがそう受付の女の子に尋ねていると、警備員のチャンさんが足早にやってきた。

「すみません、へんな子供が覗いてるんで注意してきます」

「大丈夫、ボクに任せて」

 外に出ると、朝より寒いくらいだ。北風が街路樹の枯葉を舞い上げる。そしていつの間にか男の子の元に若い女の子が駆け寄ってきて、小さなダッフルコートで男の子を包みこんだ。

まるで舞い降りてきた天使のように・・・と言いたいところだけど、彼女はオーバーオールにスモック姿、髪形はどことなく今時じゃないポニーテール・・・。つまりちょっとダサめの天使だった。

「偉偉(ウェイウェイ)! 勝手に託児所を抜け出したらダメじゃない! 心配したんだから! こんなに冷え切っちゃって、風邪でもひいたらどうすんの! バカ!」

 どうやら保育士らしい。でもバカって・・・。

「ああっ!」

 偉偉と呼ばれていた男の子が、突然ボクを指差して叫んだ。

「莉莉(リーリー)姉ちゃん! 小雨(シャオユー)だよ! あそこに小雨がいるよ!」

 え? “小雨”って大昔のドラマのボクの役名だよね。どう見ても5,6歳にしか見えない偉偉って子の生まれる前のドラマなんだけど、最近再放送やってたっけか?

「ほら! 莉莉姉ちゃん好きなんでしょ?」

 あ!・・・莉莉ってコ、真っ赤になって偉偉の口の両端を指でつまんでひっぱった。

「イハイホ~」

偉偉は“痛いよ~”って言ったんだと思う。

それにしてもマジ? あのコ、ボクのファンなの? 微妙だ。ちょっと暴力的だし・・・。おっかない天使? それとも優しい悪魔?  

「ほら! 偉偉戻ろ! 今日は罰としておやつ抜き!」

「えええええ! ひどいよ! ねえ小雨! 助けてよ! Ko-4なんだろ! 大東も呼んできてよ!」

「こら! 偉偉いい加減にして! 亞綸、お騒がせしてごめんね! また会えてよかった! バイバイ!」

 莉莉は満面の笑みでそう言うと、無理やり偉偉をひっぱって帰って行った・・・。やっぱり悪魔なのかもしれない。

 でもあんな笑顔で「また会えてよかった」なんて堂々と言われて、正直少し面食らった。それにしても“また”って、どういうことだろ? そこへタクシーがやっとやってきた。乗り込んで走り出し、途中にまた莉莉と偉偉の姿を見かける。ちょうど信号待ちで、二人の様子が伺えた。へ~あんなとこに託児所があったんだ。莉莉って子、くしゃみしてら。こんなに寒い中、自分のコートは忘れて子供のコートだけ持って探しに来るなんて、保育士も大変だな。

 偉偉のおやつ抜きの刑を助けてやれなかったのは心残りだけど、世の中の厳しさを小さい頃から学んだほうが、偉偉のためになるってもんだ。ルールはちゃんと守らないとね。

「お客さん、何かいいことありました?」

「え? どうして?」

「いやあ、あんまり嬉しそうに笑ってるもんで」

 ルームミラーにうつるタクシーの運転手までが笑顔になっている。ボク、笑ってたんだ。笑顔の連鎖だな。そしてまたさっきのことを思い出すと吹き出してしまいたいほどおかしくなってきた。

 今日はいろいろ面白いことがあったな。櫻雪と大東、そして偉偉と莉莉か・・・

第4話「偉偉の笑顔、櫻雪の涙」~大東篇へつづく・・・

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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