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飛輪海小説『ステップアップ!』第1話~東綸篇

第1話「二人の恋愛観」~東綸篇                青:大東 緑:亞綸

 

 目が覚めるとそこは家じゃなかった。ホテルか? 昨日どこで何をやったのか、すぐに思い出せない。そのとき、何かが体の上にのった気がした。起き上がって見てみるとそれは白い女の脚だった。

 ドラマで共演した新人女優が、なぜかオレのシャツを着てすぐ隣で眠っている。

 やばい! オレ、朝まで寝ちまったのか!? 夜の内に二時間で出るはずだったのに、ここんとこ寝不足だったせいだ・・・。ていうか、こいつなんでオレのシャツを着てるんだ? 

 そんなことはいい、とにかく早く一人でホテルから出ないと・・・。

 オレは上半身裸のまま革ジャンを羽織る。幸いなことに下はしっかりデニムをはいていた。 ニット帽をかぶり、すばやくブーツを履く。

 ドアをゆっくりと開け、廊下を見渡すがパパラッチは見当たらない。念のため非常階段を使って一階まで降りる。

 

 早朝だからか、ロビーとフロントに人影はなく、オレはそのままエントランスから寒空にむかって颯爽と飛び出した。

 それと同時に誰かがオレの腕にしがみついた。

 オレのシャツを着た彼女だ。

「大東ったら、置いてくなんてひどいじゃないの~」

「オマエ、なんのつもりだ!」

「パパラッチに撮られないと意味ないでしょ? 視聴率のためだもん」

案の定、フラッシュがたかれパパラッチが現れる。

最悪だ! 弱冠二十歳の新人女優にしてやられた。

飛輪海が解散してから一年がたとうとしている。

その間、オレを取り巻く環境は一変した。
 
 新しく迎えたプロデューサーは、オレの“脱アイドル”を強引に推し進め、“セクシー&クール”路線に方向転換。その結果今では“共演者キラー”と呼ばれている。しかもオレと噂になれば必ず売れるってジンクスつきだ。

オレはそのイメージを壊さないように振舞うことに慣れてはきたが、本当の自分がどんなだったか、わからなくなってきている気がする。

いつか誰かが、本当のオレを・・・汪東成自身を、本気で好きになってくれる日が来るんだろうか・・・。

 

         *         *         *

「亦儒、見てよこの写真、よく撮れてるよ! 大東の表情、サイコーじゃない?」

 ボクが週刊誌を見せようとすると、亦儒は苦笑いする。

「亞綸、おまえそんなに大東の不幸がおもしろいのか? こんなもの買って来るなよ」

「違うよ~事務所に置いてあったんだよ。ほら裕惠(ユーフイ)、おいで~」

 裕惠が嬉しそうにボクに駆け寄る。ボクにすごくなついていて最高に可愛いんだ。姉さん似だからね。

「裕惠、ボクのこと好き?」

「うん! ユーフイね、おじちゃまのことだ~いしゅき~!」

 ボクが裕惠をギュッと抱きしめると、ちょっと亦儒がくやしそうな顔をするのをボクは見逃さない。それがおもしろくてやめられないんだ。

 そして裕惠をひざにすわらせ週刊誌の写真を見せながら言う。

「ほら、これ大東おじちゃんだよ」

「あ~! ダアトンだ~ ダアトンだ~ この女のしとはだあれ?」

 なぜか裕惠はボクだけを“おじちゃま”と呼ぶ。そりゃ、間違いじゃないけど、どう見てもボクが一番若いのに!

「もう! 裕惠にそんな写真見せないで!」

 姉さんがつまみとビールをテーブルに並べながら文句を言う。

姉さんは最近ボクにはっきりとものを言うようになった。まるで本当の弟に言うみたいに。一緒に暮らしてた頃は何か目に見えない壁があって、ボクや母さんにいつも気をつかっていた気がする。

つまり今じゃ姉さんが姉さんらしくなり、ボクも弟らしく自然に振舞えるようになったってこと。

飛輪海が解散し、亦儒が引退してから、ようやく姉さんと亦儒と裕惠はこのマンションで一緒に暮らせるようになったんだ。ボクんちのマンションと目と鼻の先なんだけどね。

 だからボクは時々こうやって裕惠と遊んでやってるんだ。姉さんの作るつまみと、ビールで一杯やりながらさ。

 亦儒は会社の仕事が忙しくて帰るのが遅いから、たまにしか会えないんだけど、別に亦儒は、相談したいことがあるときにだけいてくれればそれでいいんだ。

 裕惠がひざの上でうとうとし始めた。裕惠の体をボクに向けてだっこし、背中をゆっくりとトントンしてあげる。子守唄を歌いながらね。

「でも、いくら視聴率の為だからって、ホテルから出てくるところをわざと撮らせるなんて、やりすぎじゃない? 前は映画とか食事とか、その程度だったでしょ? わたし、信じてても亦儒がそこまでやらされたら耐えられなかったと思うもの」

 想像するだけでもつらそうな表情の姉さんの手の上に、亦儒は自分の手をのせて微笑みかけている。あ、見つめ合いだしたし! あの、ボクがここにいること忘れないでよね。

 でも、姉さんが幸せそうでラブラブな様子を見るのも、悪くないって思えようになったんだ。これってボクも成長したってことだろ?

「新しいプロデューサーって、独裁的なやり手なんだろ?」

「そうなの? ちゃんと話せばわかってくれる人よ」

あ、そうか、姉さんは小説の映画化のことで会ったことあるんだっけ・・・。あのプロデューサーを説得したってんだから、昔の姉さんからは信じられないよ。

「でも自分とこのタレントをスキャンダルネタで人気あげさせるなんてさ。大東は今回も潔白なのか?」

「いやだ、亦儒ったら大東を疑ってるの?」

姉さんと大東のあいだに、昔何があったのかなんて知りたくもない。何かあったことくらいはボクだってわかってる。

姉さんは大東をいつまでも一途で清廉潔白な男だと信じすぎている。大東だって普通の男だってこと、わかってないんだ。

「亞綸は大東と話したんだろ? なんて言ってたんだ?」

「彼女一人でWiiをやってたらしいよ。大東はベッドで雑誌を読んでたら、眠っちゃったらしくて、目が覚めたら朝だったんだって。朝に出てくと言い訳できないだろ? 夜だったらホテルのレストランで食事してたって言い訳もできるけど、朝までじゃあ、何もありませんでしたで通るわけないからね」

「でもわたしたちは大東を信じるべきでしょ? ・・・裕惠、完全に寝ちゃったわね」

 姉さんはボクから裕惠を受け取り抱き上げると、子供部屋へ連れて行ってしまった。

 亦儒は、姉さんが子供部屋に入ったのを見届けると、興味津々な顔で聞いてくる。

「本当に大東は白なのか?」

「いまどきの若い子は、したたかだよ。いくら話題になるって言ったって、“ふり”はできても実際にはそこまでしないよ。・・・でも・・・」

 ボクは小声で意味ありげに亦儒のそばによる。

「前回のドラマの、がけっぷち女優とは、かなり怪しいかも」

「あの女優、大東と噂になってから、引っ張りだこらしいな。今でも付き合ってるってことか?」

「それはないよ。ドラマの放送終了と同時にジ・エンドだろ」

「おまえの話はどこか寒々しいよ。もっと恋愛に夢とか希望を持てないのか?」

「なんでボクの恋愛のことになるんだよ」

「これ以上待ってもヒロは来ないぞ。ヒロは食事時か裕惠が起きてそうな時間にしか来ないからな」

「べ、べつにヒロを待ってるわけじゃないよ!」

「じゃあもう帰って寝ろよ」

「なんだよ、ボクを追い払ってどうするつもりさ!」

「久しぶりに早く帰って来れたんだから、おまえも少しは気をつかえよ」

「はい、はいわかりました! 邪魔者は帰ればいいんだろ!」

 ボクがリビングから出た直後に、ちょうど姉さんが戻ってきたらしく、うしろから姉さんの声が聞こえる。

「あら、もう帰っちゃうの?」

 姉さんの残念そうな声。ほら見ろ、姉さんはボクにいてほしいんだぞ! ちょっと嬉しかったりする。

「亞綸のヤツ、明日、朝が早いらしいよ」

 亦儒、覚えてろよ!

 

「小霖、気をつけて帰ってね」

 玄関で靴を履いていると、姉さんが見送りに来てくれる。

「すぐそこだから大丈夫だよ。姉さんこそ気をつけて」

 姉さんはちょっと不思議そうな顔してる。

「裕惠のこと明日お母さんにお願いしてあるの。お昼前に連れて行くって伝えてね」

「わかったよ。おやすみ、姉さん」

 

 

 外の空気は少し冷えてるな。思わずブルゾンのファスナーを首元まで上げる。

  マンションを見上げると、窓やテラスにクリスマスのイルミネーションを飾りつけた部屋が何件かあることに気付く。もうすぐクリスマスか・・・。 

 今年のクリスマスはちょうど仕事がオフで姉さんが誘ってくれてるから、ボクは裕惠と姉さんにもうプレゼントを買ってあるんだ。

 ボクのことをみんなはシスコンだって言うけれど、それはもう昔の話だ。

 恋愛だって出来ないわけじゃない。

 ボクの理想に叶う子がまわりにいないだけのことだ。

 そんな子が現れれば、いつだって恋愛できるはずだ。

 

 そう言えば姉さん、明日どこ行くんだろ。

「姉さん・・・」

 ボクは声に出してそうつぶやいてみる。どうして一緒に住んでるときはそう呼べなかったのかな。今では“姉さん”と呼べることに小さな幸せを感じる。

亦儒のことは一生“兄さん”とは呼べそうにないけどね。

第2話「櫻雪の香り」~大東篇につづく・・・感想お待ちしてますheart02ミンクロ

目次と登場人物~大東&亞綸篇

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