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飛輪海小説『ステップアップ!』第二十六話~リンク篇

   第二十六話「私たちの三年間」~リンク篇

                  青:アミン篇緑:ヒロ篇  


 
結婚してちょうど三年がたつ。 飛輪海が一年にわたる解散コンサートを終え、亦儒が引退してからは二年。 わたしは今、二人目を妊娠中だ。

 二歳になる娘を溺愛する亦儒に、困り果てることもあるけれど、「一番愛しているのはアミンだよ。」と毎日言ってもらえるわたしは、申し分なく幸せだと言える。

 わたしたちの家は実家と同じで、来客が多い。 

 フリーのスタイリストになったヒロは、一番の常連客だ。 すごく忙しいくせに、少しでも時間があくとやってくる。 

 お目当てはわたしの娘のユーフイで、ヒロまで甘やかすものだから、子供部屋のクローゼットは、亦儒と、両家の祖父母からのおもちゃだけでなく、ヒロからのセンスのいい子供服でいっぱいだ。

 弟は、飛輪海解散後から、ソロ活動の仕事と平行して大東とユニットを組んでいる。 

 そしてたまにやってきて、娘と遊んでくれるのだけど、どうやら弟のお目当ては姪っ子よりも、頻繁に遊びに来るヒロのような気がしてならない。 

そして大東。 亦儒は半年に一度は大東を連れてくる。 共通の親友だから招待するのは当たり前だと言って。 それなのに、亦儒はいつも娘のユーフイを連れてすぐに出かけてしまい、のこされたわたしと大東は二人で、たまった半年分の話をする。 ときにケンカ口調で。  

わたしは作家としても、今、一番充実しているのかもしれない。

三年前連載していた小説は、単行本として出版され、ベストセラーになり、わたしは一躍人気作家の仲間入りを果たした。 

映画化の話もあったけれど、思い入れの強い作品だったし、順調すぎることがこわくて断ってしまった。

一人目の妊娠中は、日月潭の別荘にこもり、執筆に明け暮れた。 三食散歩つきの理想的な環境で、ヴァネスというよき協力者もいた。 もともと別荘での執筆を勧めてくれたのはヴァネスだった。 それにはこんないきさつがあった。  

婚約は正式に発表したものの、事務所の方針で妊娠、入籍は亦儒の引退まで極秘となった。 わたしは今まで通り、実家のマンション暮らしで、父の病院の産婦人科に、特別に時間外受診するなど、マスコミ対策で生活にも制約ができた。 

亦儒はそんなわたしのことを心配して、かなり悩んでいたらしい。

そしてそのことが、香港コンサート初日の、あの事件につながった。 

亦儒がわたしたちの入籍と妊娠のことを、ファンの前で報告してしまったのだ。

事務所に承諾も得ず、メンバーと相談してのことだったらしい。

そのときの亦儒は、胸のうちを切々と語り、客席のファンたちからは歓声と拍手が起き、翌日の新聞でも、好意的に亦儒を称える記事となった。

 “男らしい”“潔い”と好評で、事務所からもおとがめなしとなったのだ。 

そんなこともあって、結局は注目を集める結果となり、わたしの妊婦姿を撮ろうとするパパラッチがマンション付近をうろつきだし、落ち着かない生活は変わらなかった。

そんなとき、報道を見て心配してくれていたヴァネスやおじさんたちからの誘いもあって、わたしは静かにすごせる日月潭で執筆を続けることになったのだ。

ストーリーの内容は、台北のカメラマンと、台中でカフェを経営する女性の遠距離恋愛ものの予定だった。 それなのに、日月潭でペンションを経営する男を登場させて三角関係の話になっていったのは、ヴァネスの口車にのせられたからなのだ。 

そして、ヴァネスの妹のメロディーのカフェと、ヴァネスのペンションを、小説の中で実在どおり忠実に描いたせいか、それまでが話題になり、台中と日月潭にカフェとペンションを探しに来る人が後をたたなかったらしい。 

後にドラマ化され、弟、炎亞綸カメラマン役で主演、呉尊がペンション経営者役で友情出演することになるとは、執筆中には想像もしていなかった。 

そしてカフェとペンションでの撮影を、快く承諾してくれたメロディーとヴァネスには感謝している。

今ではドラマのロケ地として有名になり、繁盛しているとか。

なんだかすべて、ヴァネスの思う壺だったのではないかと思うこともある。  

そして産休を経て、復帰作となった作品は父子家庭の若き父親と幼い娘の話で、映画化され、この秋の公開を待つばかりだ。

今日は、働く女性の雑誌の対談のため、台北市内のオシャレなカフェに来ている。

対談の相手はトップスタイリストのキリムラヒロエだ。 最近では”HIRO“と呼ばれ、業界で知らない人はいないらしい。 

ヒロは林志玲が出演したハリウッドとアジア合作映画のプロモーション活動時のスタイリストをつとめ、その後、海外からのオファーを数多く獲得した。 その大物女優の名前を挙げだしたらきりがないくらいだ。 

スタイリストの中には、ヒロのことをやっかんで「運がいいだけ」という人もいるらしいけれど、絶対にそうじゃない。 努力をおしまない勉強家で、今では英語もマスターしているし、マレー語も勉強中だ。 

だから、来台する海外スターが、英語と日本語と中国語の話せるヒロを指名するのは当たり前なのだ。 

それにヒロは「スタイリストは自分のセンスを押し付けるだけじゃだめなの。」とよく言っている。 ヒロは言葉だけでなく、相手の好みやそのときの気持ちを理解する、不思議な感覚を持っている気がする。

三年前のあの出来事も、あとから打ち明け合い、わたしたちの意外な共通点や、わたしの思いを感じ取ってくれていたことに驚かされた。

対談の進行役の女性と、仕事先から少し遅れて駆けつけたヒロが現れる。

「アミン! 遅れてごめんね!」

「いいのよ。 ヒロ、あいかわらず忙しそうね。」

『さて、それでは早速始めましょうか。』

『お二人は五年来のご友人ということですが、お互いの第一印象は?』

 進行役の女性の質問に、私たちは顔を見合わせた。 そして同時に笑い出す。

 あれは、飛輪海の三人と一緒に、初めて亞綸とアミンの家に招待されたときだった。

 アミンのお母さんが急用で出かけてしまったらしく、アミンは夕食の準備に一人で追われていた。 私は挨拶も早々に、自己紹介をする間もなく、手伝いをすることになった。 

当時の私は、まだ今ほどに専門的な単語を知っていたわけでなく、台湾独自の調味料や、食材名にわからない物がたくさんあった。 

それなのに、アミンの指示が早口の中国語でばんばん飛びかい、しかも時間がなくてあせっているアミンの指示が、「あれとって!」とか「それを適当に!」とかいうアバウトなものになっても、瞬時に理解し、日本人の私が、作ったことも見たこともない料理でもこなしていく様子が、神業的ですごかったと、飛輪海のあいだでは、語り草になっていた。 

手伝いに入ろうとエプロンまでしていた呉尊に、「二人のあいだに入る隙がないくらい、絶妙なコンビネーションだった。」と言わしめたほどだ。 私たちのことを“ソウルメイト”だと言う人もいる。 

いつかの占い師らしき人も、そんな意味合いのことを言っていたっけ・・・。

呉尊・・・。 私たちは、ちょうど三年前のアミンと亦儒の披露パーティー以来、一度も会っていない。

アミン原作の亞綸と呉尊が共演したドラマで、スタイリストとしてのオファーをもらったとき、迷っているうちに林志玲からのオファーが入り、ドラマのほうを断らざるをえなくなってしまった。

それからも、同じ業界にいるのに偶然でも会うことがなかった。 縁が切れるとは、こういうことなのかって思い知らされた。

もちろん、対談でこんなにあらいざらい話したわけではない。 飛輪海の四人が関わっている部分をはぶいて話しただけ。 

アミンは”明日香(ミンリーシャン)”というペンネームを使っていて、結婚前は亞綸の姉であること、亦儒の婚約者であることは公表されていなかった。 バレたのは訳あって、結婚後二年ほどしてからだ。

私と出会う前から親日家だったアミンは、本名の”香明”と”日本”を掛け合わせて”明日香(ミンリーシャン)というペンネームを高校時代から使っていたらしい。飛輪海の同名タイトルの歌が作られたときは、あまりの偶然に四人とも驚いていたっけ。

「HIROさんは多くの国内外のスターをてがけていて、交友関係も広いと思いますが、一番親しい芸能人はどなたですか?」

誰のことをあげればいいか迷ってしまう。 今でも亞綸とは、アミンの家に行けば自然と会うし、林志玲は案外気さくで素敵なお姉さん的存在だ。 でもやっぱりMakiyoかも。 Makiyoとは今では飲み友達だ。 アミンはお酒が弱くてあまり飲めないせいもあって、初めてできた飲み友達がMakiyoだった。 

この三年をなんとか乗り切れたのは、アミンのあたたかい手料理と、可愛いユーフイが癒してくれること、そして、たまにMakiyoと飲んで日本語で思いっきりしゃべってストレス解消していたからなんだと思う。 

だけど、Makiyoには時々痛い目に合わせられることがある。 

あれは二年位前、Makiyoのいきつけの店で飲んでいたときだ。 仕事で翌朝早いから帰りたいと言ったのにMakiyoがちっとも帰してくれない。 

そこにMakiyoが友人のヘイレンを呼び出し、ヘイレンはどこかで飲んでいたらしく、すっかりできあがった状態でやってきたのだ。  私はヘイレンとは初対面だったけど、ヘイレンの彼女のファンファンことファン・ウェイチーの大ファンだった。  以前、亞綸がドラマで共演したことがあって、その頃何度か会ったことがあったからだ。

ファンファンは私にとって、最も尊敬すべき憧れの女性だ。  そんな彼女のパートナーであるヘイレンと彼らの活動には以前から興味があり、わたしは帰るのをやめて、もう少し付き合うことにしたのだ。  

でもそれが間違いの始まりだった・・・。  私は三人で盛り上がっているうちに、いつの間にか眠ってしまったのだ。  

そして、息苦しさで目が覚めるとMakiyoの姿はなく、代わりに酔いつぶれたヘイレンの巨体が私の体に覆いかぶさっていたのだ。

そこへいきなりカメラのフラッシュとシャッター音が響きわたる。 私は一瞬にして酔いが醒めた。 頭の中には、週刊誌の見出しが飛び交う。 

“トップスタイリストとヘイレン密会”

“スタイリスト、ファンファンから略奪愛!” 

“ヘイレン二股愛! おしどりカップルの危機!”

最悪だ! 尊敬するファンファンを傷つけるだけでなく、いずれは呉尊の耳にも入るんじゃないかと思うと、ゾッとした。

思わずヘイレンの両頬を往復ビンタするけれど、目覚める様子がない。

私は迷う間もなく、のしかかっているヘイレンを思いっきり蹴り上げた。

「ヘイレン! パパラッチよ! なんとかして!」

そのあとのヘイレンはすごかった。 巨漢のヘイレンは寝ぼけたままパパラッチをあっという間に撃退したのだ。 

もちろんカメラのデータは全部削除させて。   

 

私とヘイレンを置いて帰ったMakiyoには、翌日さんざん文句を言ってやった。 そしてたくさんおごってもらい、チャラにはしてあげたけど、実はまだ根に持っている。  だから一番仲のいい芸能人だけど、絶対にMakiyoの名前をあげてやるもんか。 

「林志玲です。 彼女は私を信頼してくれてますし、本当に素敵な女性ですね。」

 私のイメージもこのほうがいいでしょ?

『先生の作品が映画化され、スタイリストとして参加されたときのエピソードを聞かせてもらえますか?』 

 そう、もうすぐ公開される映画はアミンの原作で、なんと大東が映画初主演なのだ。 

アミンは、今では出演俳優を指名できるくらいの人気作家となっていた。

映画の仕事は、私の新境地だった。 大東は、別れた妻に幼い娘を押し付けられる若き父親役で、その心境の変化を服装で表現することのおもしろさを私は知った。

一度、アミンの家で偶然に大東と鉢合わせたことがあった。 もちろん亦儒がいるときにだ。

「アミンとボクの共通の親友だから招待して当たり前だろ?」と言う亦儒。 

それから「たまに来てもらって、ボクたちの幸せを確認してもらうついでに、しっかり見せ付けておかないとね。」と冗談なのかどうかわからないことを言う。

しかも大東を呼んでおきながら、亦儒はいつも愛娘のユーフイを連れて出かけてしまうらしいのだ。 「ボクに何か不満があるなら、大東に愚痴を聞いてもらえばいいんだ。」と亦儒は笑って言う。 「ボクってとことんMだろ?」って・・・どれも本音だと、私にはなんとなくわかるので、思わず私も笑ってしまった。

アミンの娘のユーフイは、私にとっても娘同然だ。 可愛くて仕方がない。 名前も私と同じ漢字で“裕惠”なのだ。 

亦儒はいまだに知らないらしいけど、ユーフイが生まれるきっかけを作ったのは、何を隠そう、私と呉尊だった。

今では、私も早く子供が欲しいと思ってしまう。 結婚相手もいないのに・・・。

          最終話「幸せのリベンジ」~ヒロ篇につづく・・・

 目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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