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飛輪海小説『ステップアップ!』第十八話~ヒロ篇

             第十八話「ヒロの迷い、亞綸の心配」~ヒロ篇

 明日のイベントの三人の衣装を任されていた私は、その打ち合わせのため数日ぶりに事務所に来ていた。 

 なぜか社長に呼び出され、緊張しながら社長室のドアをノックする。 社長に直接会うのはほぼ二年ぶり。 私がアシスタントとして契約した頃以来だ。 社長室にはヤンさんとマーキーも来ていた。

「単刀直入に聞くが、キミはフリーになるつもりはあるかな?」

 社長の質問はいたってシンプルだったけど、私は返答に困った。 フリーのスタイリストに? そんなの今の私には夢のまた夢だ。

「・・・私は解雇されるということですか?」

「ヒロ、違うのよ。 選ぶ権利はあなたにあるわ。」

 ヤンさんの言ってる意味がわからない。 私なんかにどんな権利があるというのか。

「もうあなたに仕事の依頼が来ているのよ! 林志玲のエージェントからよ! これから世界に羽ばたこうとしている新進女優、林志玲から!」

 マーキーがそう興奮気味にまくしたてる。 林志玲がどうしたって? マーキーの広東語なまりの発音を聞き取るのが実は少し苦手だった。  でもたしか林志玲から仕事依頼って・・・ 

「キリムラヒロエさん。 どうでしょう、この依頼を受けてみては? 依頼人はキミのセンスを非常に高く評価してくれています。 ここでの仕事ぶりはマーキーからも聞いていますが、やはりあなたは女性である以上、女性のスタイリングを手がけてみたいとお思いになるのでは?」

 社長の言うことは、的をえている。 でもいきなりそんな夢みたいなこと言われても現実味がなくて・・・。 それにこんな大事なこと一人で決められない。 呉尊は主演映画の撮影時期が早まり、大陸に行っていて連絡もつかないでいた。 

「でも私一人で決められることではありません・・・。」

「ヒロ、呉尊はもうこのことを了承しているのよ。」

 呉尊が? どういうこと? 

「もうヒロったら悩む必要なんて全然ないじゃないの! ここのことは気にすることないわよ! 阿布にはあたしがいるし、アシスタントも育ってきているから心配ないわよ。」

 マーキーは男の中の男だ。 オカマの中のオカマ? 後輩の出世を妬むことなく、快く送り出そうとしてくれている。 普通の女だったらこうはいかない。 マーキーの気持ちは嬉しいけど・・・。 なぜか私は冷静だ。

「少し考える時間をください。」

 呉尊の真意がわからない今、私はそう答えるしかなかった。 

 呉尊が大陸に行ってしまってから何度もメールしたけれど、一度も返事がない。 携帯をもう一度確認したけれど、やっぱりメールは来ていなかった。 

 実はアミンからの返事もないことが気にはなっていたけど、もう一昨日には台北に帰っているはずだから、衣装とヘアメイクの最終打ち合わせをしに行きたいところだった。 

  

 衣裳部屋に戻ると、亦儒と大東がお互い背を向けて雑誌を読んでいた。 無言で気まずい感じに息がつまりそうだ。 早く来てよ亞綸! こんな日に限って遅刻するんだから。

 何か話さないと・・・。 そんな余計なことを考えてしまったせいで地雷を踏むことに・・・。

「亦儒、今日あたり、アミンの家に最終打ち合わせに行きたいんだけど、一緒に行ってくれない? アミンの予定どうなってる?」

「さあ・・・ボクは知らないけど・・・。」

 亦儒の不自然なまでの気のない返事が大東の癇に障ってしまう。

「亦儒、あれからちゃんとアイツに謝ったんだろうな!」

「どうせアミンから聞いてるんだろ?」

「知らないからオマエに聞いてるんだろうが!」

「いい加減にしてよ! 二人とも!」

 あれからもう一週間になるのに二人の険悪ムードは改善していない。 どうすればいいんだろう。 明日のファンイベント、ただでさえ呉尊不在なのに、こんな調子で大丈夫かな。 

「亦儒、アミンとは仲直りしたんでしょ? あなたのことだから心配してないけど・・・。」

 返事がない。 まさかそんなことって!  婚約披露パーティーは三日後なのに! 

「電話くらいしたよね? 毎日の日課だもんね。 台中はどうだったって?」

 亦儒はやっぱり答えない。 最悪だ。 話を総合すると、三人のうち誰一人としてアミンと連絡がとれていないということになる。 アミンのこの一週間の様子を誰も知らないのだ。 

「辰亦儒! アイツが一番待ってるのはオマエからの電話じゃないのか! オレが毎日かけても出ないんだからな!」

 大東が一番アミンのことをちゃんと心配してたんだ・・・。 私なんか、自分と呉尊のことで頭がいっぱいだったかも。 一度メールしたっきり放置してた・・・。

「何があったんだよ! 仲直りってどういうことさ?

 亞綸だった。 亞綸は一週間前の一件を知らないのに、話をきかれてしまったみたい。

「亞綸、遅かったじゃない。 聞いてると思うけど呉尊は大陸に行ってるから明日は三人で・・・」

「ごまかすなよ! なんかへんだよ! アミン・・・姉さんが旅行から帰ってこないことと何か関係あるんだろ!」

「帰ってないのか?」

 大東は椅子から立ち上がって亞綸に詰め寄る。 亦儒は背を向けていて表情が読めない。

「ねえ! アミンはずっと台中にいるの? 亞綸は電話で話したのね?」

「携帯はつながらないよ。 台中のホテルに電話したら、キャンセルの連絡もなく来なかったって・・・。 出発だって前の日に書置きだけで出て行ったんだ。 おかしいだろ? アミンらしくない行動だよ!」

 アミンはどこへ行ってしまったんだろう。 最近見る夢がアミンに関係あるような気がしてならなかった。

第十九話「日月潭の花火、ヴァネスのプロポーズ」~アミン篇につづく・・・

       目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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