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飛輪海小説『ステップアップ!』第二十三話~ヒロ篇

第二十三話「披露パーティーのサプライズ」~ヒロ篇 

夜明け前の日月潭は、まだ薄暗く、朝もやが立ち込めていた。 

その中で亦儒とアミンのロマンチックなキスシーンを目の当たりにしている。   亞綸は少し泣いているのかもしれない。 私も涙が止まらない。 

それだけ嘘みたいに美しい風景と、感動的でドラマチックなキスだから。 

アミン、亦儒、よかったね。 

そんなときアラームが鳴り始めた。 

亞綸があわてて携帯のアラームを止める。

腕時計を見ると、ちょうど午前四時。 

亦儒はアラームで私と亞綸に気付いたようだ。

キスをやめると少し照れくさそうにこっちを見て笑っている。 

でもしっかりアミンのことは抱きしめたまま。

           

         *    *    *

 

亦儒の運転で、車は走り出した。 助手席にアミン、うしろに私と亞綸。 

車の中は、チキンのいいにおいがする。 ものすごく朝早いのにヴァネスが持たせてくれたサンドウィッチだった。 ヴァネスが夕べから漬け込んだチキンの照り焼きサンドらしい。 食べるのが楽しみだ。 ヴァネスには、何から何までお世話になってしまって感謝の気持でいっぱいになる。 

「落ち着いたら一緒にお礼を言いに行かないといけないな。」

 亦儒とアミンは二人でそう話し合っていた。

亞綸は車が走り出してしばらくすると眠ってしまった。  私の肩にもたれるようにして。 泣いていた私が眠るまで起きていてくれたのかもしれない。 亞綸がちょっぴり大人になったように感じる。  でも寝顔はやっぱりあどけないかな。

そう、実はゆうべ私はあのまま泣きながら亞綸と一緒に眠ってしまったのだ。 そして・・・ 

・・・目が覚めるとちょうど三時だった。 よく眠っている亞綸を起こさないように、私は隣の亞綸の部屋のシャワールームを使うことにした。 

亞綸の胸であんなに泣いてしまったことは思い出すだけではずかしかった。 あとで亞綸にどんな顔して会えばいいんだろう。

シャワールームから出て、バスローブを着る。 ドライヤーで髪を乾かしながら、鏡を見ると、思ったより目が腫れていないことにホッとする。 でも絶対に気まずい。 亞綸どう思ったかな・・・。 髪を乾かし終わったところで私はあることに気がついた。 亞綸の部屋のドライヤーが壊れてないってこと! 亞綸ったら!

「おはよ~ヒロ・・・ 早いね・・・あ・・・」

 眠そうな亞綸が現れる。 

「亞綸! だましたのね!」

「あ、ばれた? でも怒ってないで早くメイクしないと遅刻するよ~。」

 やだ! 最悪だ。 ノーメイクでバスローブ姿を亞綸に見られてしまったという事実。 ゆうべから見られたくない姿ばかりを見られてる。 

 そのあと、亞綸はゆうべのことには触れてこなかった。 でも亞綸だってあんな姿は不本意だったにちがいない。

亞綸ったら、もしかして寝たふりしてたりして。 

 

「ねえアミン、昨日、亦儒ったら、ひどい顔してたでしょ? 目の下に、こ~んなクマつくっちゃって! 辰亦儒のアイドルらしからぬ顔! その顔を見て大東の怒りも収まっちゃうくらいだったもん。 この何日か、アミンのことで眠れてなかったみたいよ。」

「そんなにひどい顔だったんだ。 だからわたしを避けるみたいにして顔をちゃんと見せなかったのね。 部屋もすぐに暗くしたのもそういうことだったんだ。」

「ヒロ、余計なこと話すなよ。」

「それに、脅迫メールを読んだときもね~。」

「おいヒロ!」

「何? 脅迫メールって?」

「ヴァネスから”アミンをもらう”ってメールがあったの。 亦儒ったらあわてちゃって大変! そこへ、亞綸が“ヴァネス兄貴は手がはやい”だの“百戦錬磨”だの大げさに煽り立てるから・・・。」

「これ以上暴露して、もし事故ったらヒロのせいだぞ!」

「はいはい、このへんでやめとこうかな~。」

 

台北に近づくにつれて、道路は渋滞し始めたけど、イベント会場にはリハーサル十五分前に入ることが出来た。

控え室には、マーキーとヤンさんがやきもきして待っていた。 

私は亞綸、マーキーが亦儒のスタイリングを超特急で終え、ステージに向かう。

ステージのそでで、大東とアミンが何か話していた。 三人のリハが始まってから、アミンを捜すと、アミンは舞台裏の隅のほうで泣いていた。 

「心配かけちゃってたんだね。 大東にいっぱい怒られちゃった。 ヒロも、本当にゴメンナサイ・・・。」 

 アミンは日本語で何度も謝ってくれた。 どんなに心配していたか、アミンに伝わってよかったね、大東。

          *    *    *  

 婚約披露パーティーの日がやってきた。 無事にこの日を迎えることができたことが信じられない気もする。 今日は何事も起きなければいいけれど・・・。

 

最近アミンのことで頭がいっぱいだった私は、実は昨日まで自分の衣装を考えるのをすっかり忘れていた。

そこで思いついたのが、台湾に持ってきていたのに、ずっとタンスのこやしになっていた振袖だった。 台湾の夏は暑いし、多少動きにくいけれど、アミンの晴れの日だから思い切って着ることにしたのだ。 でも、ウーズンに振袖姿を見てもらいたいのが本音かも。  

 

呉尊はパーティーに間に合うように帰国するらしい。 あれから私には何も連絡してくれなかった。 今日、呉尊に会ったら、何から話せばいいんだろう。 私はどうしたいんだろう・・・。

 

今は午後四時。 無事メディアの記者会見が五時半、パーティーは六時から始まる予定だ。 自分の着付けを無事終え、アミンの控え室にドレスやメイク道具を運びいれる。 アミンのスタイリングは四時半の予定なのに、時間がきても現れない。 亦儒もまだ姿が見えなかった。 本当にいったいどれだけ気をもませたら気が済むんだろ、あの二人は!

 

ニ十分遅れで姿を現した二人に、文句を言ってる暇はない。 私はたすきで振袖のたもとをくくりあげ、戦闘開始だ。 亦儒に衣装を渡して別室に行ってもらい、何か言いたげなアミンにかまわず、へアメイクさんにヘアスタイリングをしてもらっている間に、アミンのメイクをほどこす。

 あとはドレスを着せるだけ。 結局仮縫いの衣装合わせ以来、一度もアミンに袖を通してもらうことなくこの日を迎えてしまった。 淡いパープルの、上品でシンプルなデザインのこのドレス、絶対にぴったりで似合うはずだ。  そのはずだった・・・・・・でもなんだかおかしい・・・。 背中のファスナーをなんとか閉めることはできたんだけど、ウエスト部分が予定外にぽっこり出ている。 日月潭のペンションで食べ過ぎたの? でもおなかだけが妙に出ている。 アミンの顔を見ると、照れくさそうに笑っていた。 アミンは私の耳元に顔を寄せてあることをこっそり教えてくれた。

「ウソ! ホンマニ!?」

 思わず日本語で聞き返してしまう。

「昨日わかったの。」

「それって、もしかして高雄のイベントに行ったときの・・・?」

「ヒロと呉尊のせいだからね! ううん、おかげかな。」

「どういたしまして・・・ってそれよりどうしよう! このドレスだと、シンプルすぎておなか目立っちゃうじゃない。 あ~何か考えないと! 」

 落ち着け私! 何か解決策があるはずよ! マスコミに絶対にばれない秘策!  ストールを前に垂らす? ううんそれじゃ横から見たら意味ないし。 どこから見てもわからないようにしないと! 

 そうだ、ウエスト部分を着物のおはしょりみたいにつまんでバルーン状にして、何か紐で結んで・・・いい紐みつけてこないと!  私はふと自分の帯に気がついた。  銀色の組紐の帯締めが目に入る。 これだ!

 私は帯締めをほどいて抜き取り、アミンのウエストに巻きつけドレスをたくしあげ、横で結び目を作ってみた。

「いいかも!」

 ウエストでたくしあげた分、せっかくのロングドレスが短くなってしまった。 これじゃ靴も見えてしまう。 見えないと思ってシンプルなハイヒールにしたんだけど・・・。 かかとが十三センチもあるハイヒールはアミンにはよくないし。

 それに、ウエストをバルーンにして丈が短くなったから、大人っぽさよりフェミニンな感じに切り替えないといけない。

 私が履いてきたシルバーのサンダルがあった!  今日おろしたてのサンダルで、かかとも低めだし、色も合う。 あみあげになっているのがなんだか妖精っぽく見えそうだ。

亦儒とアミンの会見が始まった。 苦労のかいがあってなんとか納得のいく出来ばえになり安堵する。 亦儒は、離れた場所から見ていた私に親指を立ててウインクしてくれた。 私も親指を立ててニッコリスマイルで返す。  

 

控え室に片付けに戻ると、呉尊が待っていた。

「呉尊! おかえりなさい。」

「ヒロ? 綺麗だね! 驚いたよ、誰かと思った! キ・モ・ノ?」

「そう、キ・モ・ノ!」

 呉尊の以前と変わらない様子にホッとする。 やっぱり振袖を着てよかった! 

「なんだか少し痩せたみたい。 撮影大変だったの?」

「そんなことより、ヒロ、まだフリーになることの返事をしてないんだって?」 

「私どうすればいいの? 明日までには返事をしないといけないんだけど迷ってるの。」

「せっかくのオファーなんだ。 ボクは反対しないよ。 林志玲の晴れ舞台に協力してあげればいい。 でもやるからには中途半端なことはしないで、林志玲の仕事にしばらく集中するべきだよ。 ボクはヒロを応援するから。」

「呉尊・・・ありがとう。」

 私は呉尊の気持ちが嬉しかったのと、久しぶりに会えた喜びで呉尊の胸に飛び込もうとしたけどノックの音で躊躇する。

「ヒロ、パーティーが始まるぞ。 呉尊! 戻ったんだな。 元気か?」

 大東だった。  大東はもうあのことを知っているはずだ。 今、どんな気持ちでいるんだろう。

 パーティーは事務所のスタッフ、二人の友達数人と家族という、ごく内々のものだった。   

 亞綸は乾杯のあと、急ピッチに飲んでいたかと思えば、久しぶりに会えた呉尊をつかまえて、嬉しそうにあれこれ話したり、アミンの友達に頼まれて一緒に写真を撮ったりしてご機嫌な様子だ。

 アミンと亞綸のお母さんも、亞綸と競うようにして呉尊と嬉しそうに話している。 アミンのお母さんは呉尊の大ファンなのだ。 親子で呉尊を取り合っている様子がおかしくて仕方がない。  

 私はアミンと亦儒の友達が来ている手前、あまり呉尊のそばにはいられない。

 そして 

「ボクたち、今日入籍しました!

 亦儒の爆弾発表に知らなかった人たちはどよめく。 呉尊もそのうちの一人みたい。

「実は来年にはパパとママになります!」

 呉尊は目を大きくして、「ホントに?」と口パクで少し離れた場所にいた私に聞いてくる。

アミンは今、四ヶ月目に入ったところだそうだ。 スタイリングしながら昨日からのいきさつを聞いたけれど、昨日まで妊娠に気付かなかったというアミンには驚かされた。 遅れることがよくあるらしいので仕方ないと言い張ったアミン。 亦儒は迷うことなく籍を入れようと言ってくれたって。 今日遅刻したのは、社長に直談判し、そのあと二人で婚姻届を出しに行っていたからだったらしい。 

「そういうことなら、婚約披露パーティーでなく、今からは結婚披露パーティーに変えさせていただきます!」

司会役の亦儒の友人がそう宣言した。

亦儒は幸せの絶頂という感じで、目じりなんか下がりっぱなしだ。 考えてみれば、こんなに幸せなカップルもいないかも。 一番気持ちが通じ合った直後のオメデタ発覚、入籍、披露パーティー。 私と呉尊も幸せな結婚ができるのかな。 私たちはまだ日取りさえも決まっていない。 呉尊を見ると、なんだかぼんやりしている。 私が取り皿にとっておいた料理にも手をつけていない。 疲れてるのかな。

 

私がアミンのドレスのウエストの帯締めを結びなおしていると、少し酔った様子の亞綸がやってきた。

「結婚、おめでとう。 亦儒なら絶対に幸せにしてくれるよ。 ・・・姉さん。」

 亞綸はそれだけ言うと足早に去っていった。

 亞綸がアミンにむかって「姉さん」と言ったのを始めて聞いた。 アミンからも「姉さん」と呼ばれないことを相談されたこともあった。 そんな亞綸が“姉さん”と呼べるようになったんだ。

 アミンは感極まったようで、口元を両手で覆っている。 こぼれ落ちた涙を、亦儒がニコニコしながらハンカチで拭いてあげているのが微笑ましい。

 

大東、今日はほとんど飲んでないみたい。 すべてを冷静に受け止めているようにも見えた。

「この前の大東、すごくかっこよかったよ。」

「なんのことだよ。」

「別に~。」

  “あとのことはオレに任せて早く迎えに行ってこいよ!”と亦儒の背中を押した大東。 

 男の引き際を心得ていて、本当にかっこよかったな。

 アミンのお父さんと亦儒のお父さんは、始めの頃からずっと二人でビールを飲んでいた。 そしてアミンのお父さんは泣いていて、「よかったよかった」と同じことばかりを言っている。 そのそばで亦儒のお父さんが「本当に申し訳ない」と何度も誤り続けていた。 

 私の予感通り、“何事も起こらなければいい”という願いが、いとも簡単に破られてしまったけれど、“オワリヨケレバ、スベテヨシ”だ。  

ドレスのリフォームのことも満足している。 私ってピンチに強くなってきてるのかな。 ピンチをすごくエキサイティングで楽しかったって思えるんだから。

   

この仕事、やっぱりやめられない。

 

天職なんだって心から思えた瞬間だった。

    

      第二十四話「最後のキス」~ヒロ篇につづく・・・

  目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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コメント

こんにちは(^^)
1日で一気に読んじゃいました!

高3のわたしからしたら、なんか大人の世界ってこんな感じなんだなあとかしみじみ思ったり、、、

わたしもいつか飛輪海と大人の恋愛を楽しみたいです(^ω^)!!
…脳内で\(^0^)/笑

これからも更新頑張って下さい!
応援してます(∩'∀^∩)

投稿: Light | 2009年9月30日 (水) 09時33分

Lightさん

コメありがとうございます(o^-^o)
時間かかるのに一気に読んでもらえて嬉しいです(≧∇≦)
Lightさんは高3ですか(*^.^*)
”大人の恋愛”をちゃんと描けているか自信はないですけど、
アイドルとはいえ、飛たちにも素敵な恋愛をしてほしいな~という願いを込めて日々がんばって書いてます! 

ちょっと今は亦儒ばかりがハッピーで、
呉尊がつらい状況になっていますが。。。

いつか大東と亞綸にもいい人をみつけてあげたい気持ちでいっぱいです( ^ω^ )

 

投稿: ミント | 2009年10月 1日 (木) 20時03分

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