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飛輪海小説『ステップアップ!』第二十二話~アミン篇

    第二十二話「太陽と月、亦儒とアミン」~アミン篇
 

 目が覚めると三時だった。 亦儒の寝息は深くてまだ目覚める様子はない。 わたしは身支度して、先に湖畔のベンチへ向かうことにした。


 書置きには
“最後に夜明け前の日月潭を見ておきたいから先に行ってます。”
 そう書いておいた。

 思い出のベンチに腰かけ、辺りをゆっくり見渡す。 夜明け前にここへ来るのは、昔、ママと一緒に来て以来だ。 まだ薄暗く、湖面には朝もやが深く立ち込めていた。 山際が薄紫色に染まっている。 空には白く細い糸のような月が、空の隙間のように存在していた。 ホッとした。 新月は終わったみたい。
 

  時間がたつごとに、どんどん変化していく日月潭は、どの景色を切り取っても違う味わいの絵になりそうだ。 その一枚一枚を全部文章で表現できるかな・・・。
 
  刻一刻と変わってゆく日月潭に魅了され、わたしはうしろからの足音に気付かないでいた。 ふと気付くと、亦儒がベンチの横に立っていた。 亦儒は気持ちよさそうに伸びをする。

「ふうっ、きれいだなぁ。 アミンが早起きしてでも見たいわけだ。 あれ、月だろ? あんなに細い月、初めて見たよ。」

「“繊月”って言うの。 わたし、繊月を見るのが好きなの。」

「アミンは新月が嫌いだからだろ?」

「・・・知ってたの?」

「昨日が新月なのも知ってたよ。 だから心配で気が気じゃなかった。 アミンが必要以上にマイナス思考になる日だから。」
 そう言いながら亦儒は優しい眼差しで、しっかりとわたしの目をみつめながら隣に腰掛けた。

「アミンは無意識だろうけど月のことをよく口にしてたよ。 だから初めはてっきり月が好きなんだって思ってて、月が出てるときに電話するときは、ベランダに出て月を見ながら話してたんだよ。 アミンも今、同じ月を見てるのかなって思いながら。 でもだんだんわかってきたんだ。 満月のときはすごく元気なのに、月が細くなるにしたがって元気がなくなっていく。 新月の日は元気なふりしててもボクにはわかったよ。 アミンの絶望感や不安な気持ちが。」
 
 亦儒はわたしの手をとり、もう片方の手をのせてしっかりと握る。

「もう見えない月にこだわるのはやめにしないか? 見える月はきれいだろ?  それでいいじゃないか。 ボクの月の女神さん。」
 
 亦儒は続ける。

「日月潭は太陽の形の“日潭”と、月の形の“月潭”が合わさって“日月潭”なんだろ? まるでボクたちのことみたいじゃないか? ボクがサンシャインでアミンが月の女神。 ボクたちが一緒にいるのは日月潭と同じで運命なんだ。」
 
 その瞬間、雷にでも打たれたようにわたしは心が震える感覚におそわれた。
 
 亦儒の一言一言が心と体にしみわたっていくようだった。

 昨日は一度も目を合わせてくれなかった亦儒。 だけど今日の亦儒のまなざしは、わたしだけにふりそそぐ太陽みたいだ。
 
 それなのにわたしは、何かやましい気持ちを抱えたままで、今の亦儒はまぶしすぎる。 でも大東のことをどう話せばいいのかわからない・・・。

「あれ? 止まってる。」

 亦儒は、握っていたわたしの右手の腕時計を見てそうつぶやいた。
 
 夜中の十二時前で腕時計は止まっていた。 亦儒はポケットから自分の携帯を取り出し、時間を確認すると、わたしの止まっていた腕時計のねじを巻いて時間を合わせてくれた。

「よし、午前三時五十二分。 これで月から太陽の絵に変わった。 ボクたちの夜明けだね。 まだ本当の太陽は出てないけど。」
 
 そう言って笑う亦儒の笑顔こそがわたしの太陽だって、そう伝えたいのに・・・。


 この腕時計は男物で「これを見て一日に何度もボクのことを思い出してほしいから」と言って、亦儒がプレゼントしてくれたものだった。  ジョルジオ・ロッシの手巻き式サン&ムーン・・・。 文字盤の窓に、午前は太陽、午後は月の絵が現れる。 手巻きは面倒だという人もいるだろうけど、亦儒はいろんな思いを込めてこの腕時計を選んでくれていたことに気付く。
 
 明けない夜はない。 必ず日は昇り、希望の光が差してくる。 わたしが落ち込んだときの絶望感から早く抜け出して欲しいという願いが込められていたんだ。
 
 そして恋愛も、ときには面倒なこともあるけど、自分で解決していかないと。
 
 やっぱり大東のこと、このままにはできない。 わたしは決意した。

「大東のことだけど・・・。」
 
 そうわたしが切り出すと、亦儒はわたしの唇を指で軽く押さえる。

「あのときのボクは嫉妬の塊みたいになってたんだ。 ボクがずっとアミンの精神面と小説を支えてきたって自負があったからね。 アミンの作品に、ボク以上に影響を与えたのが大東なんじゃないかって考えると・・・。 それくらいにあの最終回の内容は衝撃的だったんだ。 それで大東に嫉妬してしまった。 でもあんなふうな気持ちになったことが初めてだったから、どうその気持ちを処理していいかわからなくなって、アミンを無視したり、大東にぶつけてしまったんだ。
 あんなみっともない態度とって、アミンにどう向き合えばいいのかしばらくわからないでいたよ。 だから電話もできなかった。」
 
 亦儒はそこまで話すとベンチから立ち上がり日月潭に向かって話し続けた。

「実はさ、大東とアミンが思い合ってたのをずっと前から気付いてたんだ。 ホントにあきれるくらいに不器用な二人を見ていて、早くくっつけばいいのにって思ってた。 初めはね。」
 
 知ってたんだ。 大東のケンカ友達でいることは、楽しくもあったけど、つらいこともあった。 女扱いされてなくて、恋愛圏外女を演じなければいけなかったこと。 落ち込んでいたわたしを、幾度となく笑わせてくれていたのは、全部知っていて、わたしを励ますためだったんだ。

「だけどいつからか、このままお互いの気持ちに気付かないでほしいって思い始めたんだ。」
 
 亦儒は振り返ってわたしに向かって両手を差し出した。 わたしはその手を取ってベンチから立ち上がる。

「つまり、大東を健気に思い続けていたアミンを好きになったってこと。 だから今さら二人のことで、とやかく言えないんだ。 というか逆に大東に感謝しないとね。 ボクってかなりMなのかもしれないな。 他の男を思ってるアミンがたまらなく愛しいんだ。」
 
 亦儒らしいポジティブシンキングに納得させられる。 でも、わたしの気持ちを楽にしてくれようとしているのかもしれない。
 
 それに、そうじゃないのに! 今のわたしは前とは全然違ってる! 
 
 わたしはあふれ出すような思いを心にとどめておくことができなくなっていた。

「亦儒、わたし・・・尊敬してるとか、大事にしてくれるからとか、そんなことじゃないの。 全然違うの、前とはたくさんたくさん違ってるの。 だから亦儒は誤解してる・・・今のわたしは・・・。」
 
 何から伝えればいいのかわからなくなる。 そんなわたしの手をとったまま亦儒は優しい表情で見おろしている。

「何が違うか言ってみてくれないか。」

「あのね、亦儒の手に触れてるだけで、こんなにドキドキしてるの、わかってる?」

「うん。 それから?」

「わたしは絶対にイヤなの、もしあなたが他の人のこと少しでも考えたら・・・絶対にイヤだと思う。 今、想像しただけでイヤなんだもん。 だから絶対に絶対に他の人のこと好きにならないでね!」

「そんなことあるわけないだろ。 それから?」

「亦儒はわたしのことなんでもわかってるつもりかもしれないけど、一つだけ間違ってることがあるの。」

「それって何?」

「今のわたしの心の中にいるの、亦儒は自分じゃないって思ってるかもしれないけど、間違ってる・・・。」

「ボクでも間違うことがある?」

「そうよ! 絶対にまちがってる! わたしのことはわたしが一番わかってる!」

 でもなんて言えば一番伝わるかわからない。 支離滅裂で作家として情けないくらい、幼稚な言葉しか出てこない。

 でも胸がいっぱいで・・・。

「なんだか泣きそうなの・・・どうしよう・・・でもちゃんと言いたいの・・・亦儒にちゃんと言葉で伝えたいの!」

「ボクも聞きたいよ。 アミンの言葉がちゃんと聞きたい。」

 
 わたしはゆっくりと深呼吸して息を整えてから、亦儒を見上げる。

「・・・好きなの・・・あなたが誰よりも・・・好き・・・。」
 
 つないでいた両手を強く引き寄せられ、わたしの唇に亦儒の唇が重なる・・・。

 この世に、こんなに甘美な瞬間が存在するなんて、想像もつかなかった・・・亦儒のキスを、こんなふうに感じたのは初めてだ・・・お互いの気持ちが重なって、溶け合うようなキス・・・。

 
 わたしはずっと長い暗闇の中にいた気がする。 いつも一人だと感じていた。

 でも本当は違ってた。 わたしを助けてくれていた人がたくさんいた。

 そのことに気付かせてくれたのが亦儒。 わたしを導いてくれる太陽だ。

 太陽がなければ月が輝けないように、わたしには亦儒が必要なんだ。

 これから亦儒と一緒に生きていくことを・・・幸せになることを誓いたい。

 今がわたしと亦儒が幸せになる、大事な夜明け前なのだから・・・。

第二十三話「披露パーティーのサプライズ」~ヒロ篇につづく・・・

       目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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