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飛輪海小説『ステップアップ!』第二十一話~アミン篇

      第二十一話「亦儒と別荘で」~アミン篇

 別荘まで手をつないで歩いてきた。 亦儒たちが日月潭に来たいきさつは詳しくは聞かなかった。 でもヴァネスが連絡してくれたことは確か。

 わたしがこの一週間どんな生活をしていたかを簡単に話し、ヴァネスのことも少しだけ話した。 あとはただ黙って夜の散歩を楽しんだ。 花火を観たり、手をつないで散歩するなんてこと、今までできなかったから。

 別荘に入るといい匂いがする。 もしかしてビーフシチュー?  キッチンの鍋にはわたしが夕べから仕込んだビーフシチューが入っていた。 テーブルにはオードブルとサラダ、パンなどが一人分きれいに並べてあった。 きっとヴァネスが用意してくれたんだろう。 

「わたしはもう同じものを夕方ペンションで食べたの。 亦儒は運転してて何も食べてないんでしょ?」

「ホントだ、もう腹ペコで倒れそうだ~。

 亦儒はおなかに手を当てて、よろけるマネをする。

 

 ビーフシチューを温め直して、味見をしようと小皿を口元に持っていくと、亦儒がうしろから小皿を横取りして味見する。

「うまい! このビーフシチュー、アミンが作ったんだろ?」

「どうしてわかったの?」

 ペンションを手伝っていたことは話したけど、料理を作っていたとは言っていなかったのに。

「一度、アミンんちで食べたことあっただろ? うまかったからよく覚えてるよ。」

 亦儒はそう言いながら小皿を返して、うしろからわたしの腰の辺りに腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。

 あれはまだ付き合う前だったはず。 一年も前のことなのに亦儒はちゃんと味まで覚えていてくれている。 かくし味にこだわりがある得意料理を褒められて嬉しくなる。

 

「ヴァネスって人、いい人だな。」

 耳元で聞こえる亦儒の優しい声が心地いい。

「うん。」

 わたしのために亦儒をよんでくれたヴァネス。 あのプロポーズはサプライズのためのお芝居だったのかな。

「アミンの初恋の相手だって? 結婚の約束してたとか?」

「やだ、ヴァネスから聞いたの? 子供のときのことよ!」

 いい人で終わらないのがヴァネスらしいところ。

「彼に怒られたよ。 もう一度アミンを泣かせたら、取り戻しに行くってさ。」

「・・・そんなこと言ってたんだ・・・。」

 ヴァネス・・・涙が出そうになる。

「わ、泣くなよ! ヴァネスが来るぞ!」

 二人で笑い合う。 ヴァネスのことならこんなふうに話せるのに、肝心の大東のことには触れられないわたしたち。 このままでいいのかな・・・。

 でも今さら切り出せない。   

「アミン、なんだか新婚みたいだな・・・。」

 ホントだ。 キッチンに二人で立っていると、そんな気分になってくる。 でもそう思うとちょっと緊張してきてしまう。 このあと、どうなるんだろ・・・。 

「あ、そうだ、ボクが食べてる間に、先にシャワー使っておいでよ。」

 亦儒の意外な言葉に内心驚く。 せっかく二人きりになれたんだから、こんな時こそ一緒に入りたがると思っていたのに。 なんだか亦儒の様子がおかしい気がしてきた。 よく考えたら目を一度も合わせてない。 面と向かって話してないということ? まだわだかまりがあるからなのかな・・・。

 

 シャワーを浴びながら、あれこれ考えるとますます緊張してくる。

 わたしと亦儒は、お互い実家だから、ほとんど二人きりで会ったことがなかった。 どちらかの家で食事をすることは何度かあったけれど、二人きりで会ったのは片手で数えられるくらい。 だから、そういうことになったのは、はっきり言えば二回しかない。

 初めてのときのことを思い出してしまう。 付き合い始めて二ヶ月になる頃、亦儒のうちに夕食に招待されたときだった。 てっきり亦儒のお母さんが夕食を作ってくれていると思っていたら、亦儒の両親とお姉さんは、遠方の親戚の結婚式に行っていて帰らないっていう。  そんな高校生みたいな真似をした亦儒が、律儀に慣れない手つきで一生懸命チンジャオロースーを作ろうとしていた。  テレビ番組で一度作ったから大丈夫って言いながらも、危なっかしくて、結局包丁で指を切ってしまった亦儒。  

 わたしは絆創膏を貼ってあげながら、そんな亦儒のことをなんだか急に愛おしくなっちゃって、その指にキスをしてしまった。 そしたら亦儒がキスしてきて・・・。 

だけどキッチンでのキスにはいろんなお邪魔虫がひそんでいた。 

 まず第一のお邪魔虫は炊飯ジャーだった。  炊き上がりのお知らせが鳴り始めたのだ。

急な展開のキスに、まだとまどっていたわたしは照れ隠しもあって「かき混ぜないと・・・」って言ったけど亦儒はとりあってくれない。 

 そしてわたしがだんだんうしろに下がっていくうちに、冷蔵庫の前まで来てしまった。 そして亦儒が冷蔵庫の扉に手をついたときだった。 亦儒は扉にくっついていたキッチンタイマーのボタンを押してしまったらしく、わたしの耳元でアラームが鳴り出したのだ。 これが第二のお邪魔虫。 

 わたしはおかしくおかしくて仕方なくなり、笑いが止まらなくなってしまった。

亦儒は「まいったな・・・、ぶちこわしだよ。 計画通りにはいかないってことか・・・。」そう嘆いたあと、急にわたしを抱き上げた。 それから亦儒の部屋に連れていかれて・・・。

 それまでは、なんでも相談にのってくれる頼りになるやさしいお兄さん的存在だった亦儒の、違う一面を見た日だった。

 さっきキッチンで、亦儒も思い出したりしたのかな。 あの時のこと・・・。

でもこのあと、どうなるんだろ・・・。 明日は四時には出発してイベントに間に合うように台北に帰らなければいけない。 睡眠時間八時間はムリでも、少しでも長く亦儒には休んでもらわないと。 

 わたしがシャワールームから出ると、お皿を洗い終わった亦儒が、わたしと顔を合わせる間もなくシャワールームに入っていった。 

 ベッドメイキングしてあるベッドは、わたしがこの一週間使っているダブルベッド一つのみ。 とりあえず、同じベッドでいいよね? 

 髪を乾かして、歯をみがいて、ベッドに入っても、なかなか出てこない亦儒。

 待ってる間、二度目のときのことを思い出してしまう。 

 ある日、ヒロから、「一度飛輪海のイベントって参加してみたくない?」と誘われ、高雄までヒロと二人で行ったことがあった。 握手会ではヒロのコーディネイトした完璧な変装で、わたしとヒロは飛輪海の四人に気づかれることなくクリアー。 亦儒が“サンシャインスマイル”をふりまいているのを遠くから見たけれど、自分の番のときはうつむいてばれないように必死だったっけ。

 そのあと、ヒロがとってくれたホテルに着くと、なぜかフロントも通らずに直接部屋までわたしを連れて行くヒロ。 チェックインは? ルームキーは?と不思議に思ってついていく。 そしてある部屋まできて、ヒロがノックすると、中から呉尊が出てきて、「やあアミン! 久しぶり。 あ、さっき握手したっけ。」と言う。 「じゃ、私はこの部屋だから。 アミンはむこうのほうの505号室だから。 おやすみ~」って・・・。 呆然としながらも、言われたとおり505号室をノックすると、出てきたのは亦儒だった。 そのときわたしの口から出た言葉といえば、「来ちゃった。」だ。 こんなよくドラマに出てくるようなセリフを言うしかないくらい、わたしは動揺していたのだ。 自分の小説には絶対に使いたくないフレーズ。 あとでヒロに聞いたけど、どうやら亦儒が呉尊に、なかなかわたしと二人で会えないということを愚痴ったらしい。 それで同棲し始めていた呉尊とヒロが不憫に思ったらしく、こんなサプライズを考えてくれたのだ。

 あのときの亦儒の喜びようはすごかった。 わたしがわざわざ会いに来てくれたと思ってすごく感動してくれたみたい。 いまだに亦儒は、呉尊たちの計画だったとは知らないでいるけど。

 亦儒がやっとシャワールームから出てくる。 着替えを持ってきてないからペンションのバスローブ姿だ。 わたしときたら、色気のないスウエット上下。 しかもノーメイク。 何か話さないと気まずい・・・。

「すっぴん見ないでね。」

「ああ・・・じゃあこっちのソファで寝ようかな?」

 やだ、まるで一緒に寝るのを拒否しちゃったみたい。 見ないでって言っちゃったから余計に目も合わせてくれないかも。 

「だめよ! それじゃぐっすり寝れないでしょ? こっち来て!」

 キャーこれじゃわたしが誘ってるみたい?

 ちらっと亦儒の様子をうかがうと、何か迷ってる様子の横顔。 それからルームライトのあかりを下げて薄暗くしてくれる。

「これならよく見えないから大丈夫だろ?」

 そういえば、高雄のホテルのときもこうやってぎりぎりまで暗くしてくれたんだった。

 また思い出しちゃった! もしかして亦儒も? このスウェット、あのときも着てたし!

 そう思った瞬間、亦儒の体が近づいてくる。 まだ心の準備できてないったら! 心臓爆発しそう!

「ごめん、そこのボクの携帯とって! 明日三時半にアラーム鳴るようにしとかないと・・・。」

 なんだ・・・。 ホッとしたようなガッカリしたような・・・。 ううんガッカリしてないったら! 

「おやすみアミン・・・。」

「・・・おやすみ・・・。」

 おやすみのキスもないなんて・・・。 亦儒が何を考えてるのかわからないのが不安・・・。 ホントにもう怒ってないの? なんだか寝付けないかも。 思わず小さくため息をついてしまう。

「あのさ、アミン・・・。 キスしたいけど、やめとくだけだから・・・。 ここのとこあんまり寝てなくてさ。 明日事故らないようにしたいから寝とかないと。  この状況で自分を抑える自信ないからさ・・・。 さっきちょっと近づいただけでもう・・・・。」

 亦儒はわたしのことなんでもわかってくれてる。 わたしの不安を取り除こうとして、あんなことまで言ってくれたのにわたしったら自分のことばかり・・・。 すごく自分がイヤだ・・・そう思ったときだった。 

 亦儒の右手がわたしの左手をぎゅっとにぎりしめた。

 亦儒の優しさがスーッとわたしの自己嫌悪をやわらげていく。

 しばらくして亦儒の寝息が聞こえてくる。 もう眠っちゃったの?  

 本当に疲てたんだね。

 心配かけてごめんなさい。

 おやすみ、亦儒・・・。

第二十二話「太陽と月、亦儒とアミン」~アミン篇につづく・・・

    目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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