« 飛輪海小説『ステップアップ!』第十九話~アミン篇 | トップページ | 飛輪海小説『ステップアップ!』第二十一話~アミン篇 »

飛輪海小説『ステップアップ!』第二十話~ヒロ篇

                  第二十話「亞綸の孤独」~ヒロ篇

 私と亞綸は、ヴァネスという人の勧めで、彼のペンションに泊めてもらえることになった。

 アミンが幼い頃からの知り合いで、別荘の管理人の息子さんらしい。 亞綸は「兄貴」と呼んで慕っているようだった。 

 そして今、遅めの夕食までごちそうになっているところだ。

「すいません、急なのに泊めていただいて。」

「かまわないよ、こっちが呼び出したようなもんだし。 それに食中毒のせいでキャンセルが出てさ、部屋はがらあきなんだよ。」

 え? 食中毒? スプーンを持った手を思わず止める。 多分驚きが顔にも出ていたんだろう。

「あ、ちがうちがう! うちがじゃないよ! お客が別のところでね。」

「ヴァネス兄貴、驚かさないでよ!」

「ちなみに、このビーフシチューはアミンが作ったんだ。 うまいだろ。」

「そうやって姉さんのこともペンションでこき使ってたんだ。」

 でもアミンはきっと気がまぎれたにちがいない。 

「あの・・・どうしてあんなメールを?」

 実は亞綸の携帯にヴァネスから脅迫メールが届いたのだ。 みんなでアミンの行方を心配いている最中だった。

“アミンは預かった。 返して欲しければ相手の男を連れて来い。 

 すぐに来なければアミンはオレがもらう。         兄貴より”

 湖を寂しげにみつめるアミンの後姿の写メつきで。

 

「驚いたよ~、兄貴からメールもらうなんて三年ぶりだったし、内容が内容だしさ。 ホントどうしてだよ。」

「どうしてもこうしてもないさ、文面どおりだ。」

「じゃ、“オレがもらう”ってのは?」

「今日、アミンにプロポーズしたんだ。」

「プロポーズ!? 兄貴が姉さんに!?」

「ま、結局ジャックの本当の兄貴にはなりそこねたみたいだけどな。」

 
 
 
 食事が済んだあと、私と亞綸はそれぞれの部屋でゆっくり休むことにした。

 明日のイベントは午前中からリハーサルが始まる。 一人のこってくれた大東や、楽しみにしているファンのためにも、なんとか間に合うように台北に戻らないといけない。 

 ここのところ、どうやらあまり眠れていなかった亦儒の疲労はピークにきていたようだ。 亦儒、明日は早いから、今夜はよく眠れるといいんだけれど・・・。

 目覚ましのアラームをセットしようと携帯を見ると、大東からの着信だらけに気付く。 いけない! 大東に連絡するの忘れてた! 

 大東も、本当は一緒に来たかったに違いない。 それなのに我慢して残ってくれた。 もし三人とも行って、イベントに間に合わないようなことがあったら大変なことになるからだ。 大東のプロ根性は半端じゃない。   

 亞綸は「ボクに来た脅迫状だぞ! ボクが行かないと別荘の場所もわからないくせに!」そう子供みたいにごねてついてきたのだ。

 

 大東に電話したら、すごく怒っていた。 亞綸も連絡してなかったらしい。 アミンの無事と、二人はもう大丈夫だと思うって伝えたら、「そうか。」と一言だけつぶやき、「絶対に明日遅れるなよ!」と言って切られてしまった。 ごめんね、大東。

 シャワーを浴びようと思い、Tシャツを脱ごうとしたときだった。 ノックの音と「入っていい?」と亞綸の声が聞こえ、あわてて脱ぐのをやめる。

 亞綸はもうシャワーを浴びたみたいで、ペンションのバスローブを着ている。 髪はまだ濡れていた。 刺激的すぎる姿に内心ドキっとする。

「ボクの部屋のドライヤー壊れてるみたいでさ、ヒロのほうの貸してよ。」

 なんだそんなこと?

ドライヤーを渡そうとしたのに、受け取らず、ひょいっとベッドに飛び乗る亞綸。

「ついでだからヒロが乾かしてよ。」

 この子ったらまったく! どこか修学旅行気分の亞綸にしばらく付き合うことにした。 私はベッドに腰掛けて、亞綸の髪を乾かし始める。

「花火きれいだったな~。 ヒロと一緒に観れてよかったよ。」

「そうね。 亦儒とアミンの仲直りには絶好のシチュエーションよね。」

「二人の話はしないでよ! 今は思い出したくない。」

 そっか、そうだよね。 今ごろ二人は・・・って考えると気が気じゃないよね。 まだ割り切れないでいる亞綸のシスターコンプレックス。

 でも今夜はもう一歩、踏み込んでみようかな。 私の部屋に来たこと後悔するかも。

「亦儒じゃ不満なの? 嫌いじゃないんでしょ?」

「・・・好きとか嫌いとかの問題じゃない・・・。 亦儒のことは好きだし尊敬してるよ・・・。」

 少しすねたような声で答える亞綸。 私はしばらく黙って髪を乾かし続ける。 亞綸のもどかしさが伝わってきた。 自分で自分の感情をコントロールできないでいるもどかしさ。 どうしてあげればいいんだろう。 

 髪が乾いてドライヤーを置いても、私はそのまま亞綸の髪をなで続けた。 まるで幼い子供にいいコいいコするように・・・。 ベッドの上でひざを抱える亞綸は本当に子供みたい。 

「アミンと一緒にいられなくなると寂しい?」

「・・・うん。」

「好きなのね?」

「・・・うん。」

「アミンをとられたくないのよね? 誰にも。」

「・・・うん。」

「でもずっと結婚できなければいいとは思ってないんでしょ?」

「・・・うん。」

「幸せになってほしいよね?」

「うん。」

「祝福してあげられるよね?」

「・・・多分・・・。」

「亞綸、偉いね。」

 突然亞綸に抱きしめられ、少し驚いたけれど私はそのままでいることにした。

「いつも子供扱いだな、ヒロは・・・。」

「・・・イヤなの?」

「・・・イヤじゃない。 ヒロの子供扱いは心地いいから。」

 しばらく私も亞綸も黙っていた。 それから口火を切ったのは亞綸だった。

「・・・ヒロも・・・幸せになるんだろ?」

「私も幸せになるつもりよ。」

 本当は、何が私の幸せなのかを見失っていた。 仕事をしながら会えない日々が続く結婚生活なのか、仕事を諦めてずっと呉尊と一緒にいられることが幸せなのか・・・。

「なんでボクの好きな人はボクから離れていくんだろ。 ヒロはブルネイだろ? 解散したら、呉尊も亦儒も今みたいに会えなくなる・・・。」

「何言ってるの、亦儒はお兄さんになるのよ。 すぐ近くのマンションに住むんでしょ? 私と呉尊だって、一年の半分は台北よ。 遊びにくればいいじゃない。 それに大東がいるでしょ。」

「そんなの全然ちがうよ。 ヒロだって本当はわかってるくせに。」

 そう、わかってる。 一緒に住んでた家族から離れて、別の家族を作るって、それは一番大切な人が変わるってこと。 四人は飛輪海という絆で結ばれていたけど、その絆が現実から思い出になってしまう寂しさ・・・。

 感受性の強い亞綸が、一番切実に感じていたんだ。 私にしか甘えることができなかったのに、もっと早く気付いてあげてればよかった。 

    

 私はよくアミンと姉妹にまちがわれる。 顔は似てないけど、雰囲気や考え方、話し方が似ているらしい。 それまで周りには男性タレントやニューハーフのスタイリストが多くて、話し方が男っぽかったりオカマっぽいのが混ざってると言われていた私が、アミンの中国語をお手本にするようになったからだろう。 

 亞綸が私にこだわるのも、私がアミンに似ているからかもしれない。

 

私が今すぐフリーのスタイリストになるって言ったら、亞綸はどうなってしまうだろう・・・。 

 呉尊、私はいったいどうすればいいの? どうしてあなたは林志玲のオファーを受けることに賛成なの?  なぜ連絡をくれないの?

 いろんな思いが交差して、胸がいっぱいになる。 自然と涙があふれ出して止まらない。

「ヒロ? 泣いてるの? どうしたの?」

 私を抱きしめていた亞綸の胸で、今度は私が子供みたいに泣いてしまってる。

 何か言おうとしても言葉にならなくて・・・。 我慢しようとすると余計にしゃくりあげてしまう。

「好きなだけ泣けよ。」
 

 亞綸の腕にぎゅっと力が入るのがわかった。 亞綸の男っぽい一面が珍しく顔を出す。 それまで子供みたいだった甘えん坊の亞綸はもういない。


     第二十一話「亦儒と別荘で」~アミン篇へつづく・・・

    目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

|

« 飛輪海小説『ステップアップ!』第十九話~アミン篇 | トップページ | 飛輪海小説『ステップアップ!』第二十一話~アミン篇 »

飛輪海小説『ステップアップ!』」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 飛輪海小説『ステップアップ!』第十九話~アミン篇 | トップページ | 飛輪海小説『ステップアップ!』第二十一話~アミン篇 »