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飛輪海小説『ステップアップ!』第十四話~アミン篇

     第十四話「大東との新しい絆」~アミン篇

 ママは、わたしが十歳の時に発病した。 それから二年間の闘病生活の末、三十六歳の若さで亡くなった。 ママの入院中、わたしは毎日のようにママのもとに通い、枕元でいろんな話をしてあげていた。 初めは学校での出来事、友達の話が多かったけれど、そんな話は一ヶ月ほどで尽きてしまった。 そのうち、わたしは自分で作った話をママに聞かせるようになった。 父は病院勤務で忙しく、緊急のオペが入ると、お手伝いさんが帰ってしまった時には、一人ぼっちの夜をすごすこともあった。 そんな時、寂しさや怖さを吹き飛ばすため、空想で気を紛らわしているうちに、いつの間にかお話づくりがうまくなったのかもしれない。 

 ママが一番気に入っていたのは、わたしがお嫁さんになる物語だった。 ママにとって、わたしの花嫁姿が見られないかもしれないということが、一番の気がかりだったんだろう。 何度も何度も子供のようにせがんで、聞きたがった。 わたしはそのたび、花婿さんの設定を替えて話してあげた。 ある時は白雪姫の王子様、ある時はアラブの若き石油王、他にも当時人気の俳優だったり、隣のクラスの男子だったり、何パターン作っただろう・・・。

 ママは、わたしが幸せな家庭を作ること、可愛い娘を持つことを望んでいた。 ママがそうだったように。 そしてママが亡くなってからはそのママの夢が、わたしの夢となった。 

 

 夕食のあと、縁側でビールを飲みながら、そんな昔話をした。 縁側に腰掛けて大東のお母さん自慢の庭を見ながらわたしが話している間、大東は黙って静かに耳を傾けてくれていた。 夜風が気持ちいい。 年代物の風鈴の音色はどこか懐かしい。 大東は少しうしろの柱にもたれてすわっていたので、どんな表情なのかはわからなかった。 だけど、わたしの表情も見られていないから、話しやすかった。 

「ママの話をするの、久しぶりだな~。 家では出来ないから・・・。」

「どうして? 親父さんがいるだろ?」

「ううん、お父さんはお母さんを気遣っててママの話をしたがらないの。」

「そうか・・・オレなんかは、四六時中死んだ親父のこと話てるな。 おふくろが夕食に親父の好物つくったり、今夜は特に暑いから今頃天国でビール飲んでるんじゃないかって噂したりさ。」

「それじゃママは、豆花が好きだったから今頃食べてるのかな?」

 そんなとりとめのない会話が嬉しくて、なんだか涙が出そう。

「親父さんだって本当は話したいのを我慢してるんだろ。」

「どうかな・・・お父さんは、お母さんを助けられなかったことが一番つらいんだと思う。 思い出したくないのかも・・・。 時々、苦しくなることがある、家族といると。 だから結婚して早く家を出たいのかな・・・」

 大東は何も答えなかった。 しばらく風鈴の音色だけが響いていた。 どれくらい経ってからだろう、大東が思い切ったように話し出した。

「・・・正直、“結婚”は今のオレの中にはなかったワードだ・・・。」

「そうそう、そうだろうと思ってた~。」

 真面目な話になるのを避けたくて少し軽くうけ流す。

「真面目に聞けよ。 あれから一晩中考えたんだ。」

「わたしは原稿書き直したくなって徹夜しちゃった。」

「マジか? なんで!」

「今日、編集の担当者がね、初めて褒めてくれたの。 大東のおかげだね。」

「なんでオレの? オマエの書いたもの読んだことないし。 ホント訳わかんないヤツだな。」

「わたし、いつか大東の主演映画になるような、いいもの書くからね。」

「オマエ、アルコールのせいで気が大きくなってるだろ。 ま、期待しないで待っててやるよ。」

「だっていつまでもアイドルやってられないでしょ? わたしが主演を指名できるくらいの大作家になって、汪東城を映画スターにしてあげるから。 アジアの汪東城から世界のジロー・ワンに! じゃないとなかなか結婚できなくて、大東のお母さんが心配するもんね。」

「・・・そうだな、頼むよ。 おふくろを早く安心させたいけど、今のオレじゃまだ結婚はダメージでしかないからな。 ・・・でもオマエにだけには言われたくなかったけど・・・。 なあ・・・やっぱ待っててくれないんだな。」

「大東待ってたら、晩婚になっちゃいそうだもん。 言ったでしょ、わたしはママみたいに若くて素敵なママになりたいって。 早くママに私の花嫁姿と、可愛い孫を見せてあげたいもん。 きっと天国から見てくれてるだろうから。 二十六才にもなってママのことばかり言ってるなんておかしいでしょ? 重度のマザコンよね。」

 ちょっと自嘲的になったのは、いつもみたいな大東の辛辣な言葉を引き出したかったから。 

「バ~カ、マザコンではオレにかなわないだろ。」

 そう来るとは思わなかったので、わたしは思わず吹き出してしまった。 その後も笑いが止まらない。 なんだかホッとしたのかな。 それにちょっと酔ってるのかも・・・。

「オマエ、笑いすぎ。」

「大東が笑わせるんだもん・・・涙出てきた・・・。」

「目こするなよ、またコンタクトレンズ落とすぞ。」

 ドキっとして笑いが止まった。 思わず振り返って大東を見てしまう。

「なんだよ、その過剰反応! また変態扱いする気か?」

「何よ、またキスするつもり?」

 二年前を再現するように、膝と手をついて、大東のそばまで近づいてみる。

「オマエ、露骨すぎ・・・。」

 大東が赤面して目が泳ぐ。 

「そっちがむし返したくせに! でも、あの時キスしてたらどうなってたと思う?」

「わかんねぇよ・・・そんなこと聞くな。」

「わたしは二年前のあの時すごくキスしたかったよ。」

「嘘だろ・・・。」 

「好きだったから、あの頃、大東のこと。」

「じゃあ、なんで!」

「本能かな? わたしたち、友達になったほうが長続きするって。 とっさの勘みたいな? きっと付き合っても、大東は仕事とわたしのことで悩んだと思う。 それでうまくいかなくなってたはず。」

「決め付けんなよ。」

「でも昨日のわたしは、別の本能が働いたのかな。 二年前と似たシチュエーションで、あの頃の気持ちにリンクしちゃったみたい。 大東が好きだからキスしたの。 あのキスに嘘はなかったよ。」

 大東はしばらく何も言わなかった。 風がやんだのか風鈴の音はやみ、庭の虫の声だけが聞こえる。 そして大東が思い切ったように聞く。

「停電で止まっている間の出来事は、全部真実だって、後悔てしないって言えるか?」

 わたしは大東の横で正座して、深呼吸してから答える。

「一生忘れない。 後悔したくない。 大東のこと好きだったことも、エレベーターでのキスも。」

 大東が急に「あーー!」って叫びながら縁側にころがる。

「オマエ、さっきからその単語連発しすぎだぞ! 酔ってんだろ?」

「何? もしかして“KISS”のこと?」

「もう言うな!」

 大東は仰向けで大の字になり、腕で目元を隠しながら叫んだ。 わたし、やっぱり酔ってるのかな。 なんだか大東をからかうのが楽しくってやめられなくて、大東の顔をのぞきこみながら追い討ちをかけてしまう。

「照れてるの? キス、キス、キス、キス、キッスーーー!」

「昨日のことリアルに思い出すだろ! 酔っ払いが! いい加減、襲うぞ!」

 大東の言葉にハッとなる。 わたし調子にのりすぎたかも。 大東の気持ちを知りながらあおるようなことばかり言って・・・。   

「わたし、もう帰るね・・・」

 そう言って立ち上がろうとした時だ。

「待てよ、冗談だって!」

 突然起き上がった大東に腕をひっぱられ、わたしはその勢いで大東と一緒に床に倒れこんでしまった。

「痛ったあ・・・」

「ワ、ワルい・・・大丈夫か?」

 まるで押し倒されたような構図になっているみたいだけど、痛くてそれどころじゃない。

 でも目を開けると、わたしの上に大東がいて、心配そうに見ている大東の顔がすごく近い。

 目をそらすと、今度は大東の二の腕のが目にはいる。 動揺もあってか、その二の腕を見ていると、ある疑問が沸き起こり口に出てしまった。

「ソファまでどうやって運んだの?」

「は?」

「お姫様だっこしたの?」

「オマエ本当に大丈夫か?」

「いいから答えなさい!」

「ったく・・・酔うと女王様キャラか?」

「早く答えなさ~い!!」

「はいはい、しました、しました! 文句あるのか? 重くて倒れそうだったぞ。」

「嘘! そんなわけない! 亦儒だって平気なのに・・・あ・・・」

 酔ってるとはいえ、わたしって・・・。 わたしに覆いかぶさるような状態になっていた大東は苦笑いしてから体を起こし、両腕をうしろについてあぐらをかいて天井を仰ぎ見る。

 「そこでその名前出すのか? オマエみたいなデリカシーのない女、一生かかっても親友どまりだな。」

 わたしはゆっくり起き上がって、また縁側に腰掛けた。 大東に顔を向けられなくて残ってもいない缶ビールを飲むふりをする・・・。

「・・・ありがと・・・。 それでも親友でいてくれて。」

「・・・オレ、二年かかったな・・・親友と認めるのに。 一年半はこれでいいんだって自分に言い聞かせてた。 この半年は後悔ばかりだった・・・。 亦儒に嫉妬した。 だけど・・・一番苦しかったのは、自分の気持ちを伝えることができなかったことだ・・・。」

 大東はそう言ってわたしをうしろから抱きしめた。 わたしの手元からカラのビール缶が縁側の下に落ちてころがっていく。

「昨日好きだってぶちまけたら楽になったな。 抱きしめ放題だし。」 

「普通、親友はそんなこと言わないし、こんなふうに抱きしめたりしないと思うけど。」

「酔ってるときくらい大目にみろよ。 さっきの失言の代償だ・・・見ろよ、満月きれいだな。」

 夜空を仰ぐと本当に綺麗な月。 でも満月じゃないはずだ。 昨日は空を見る余裕なんてなかったけれど、昨日が満月だったんだろう。 昨夜は普通じゃない状況だったうえに、満月だったから、わたしも大東もあんな行動に出てしまったんだと思う。 わたしは月の満ち欠けに影響されやすい体質だから・・・。 

 わたしはママが亡くなった頃から、気持ちの浮き沈みが出るようになった。 それを父や友達には知られたくなくていつも無理に元気なふりをしたりしていた。 しだいにそのサイクルが一ヶ月だということがわかってきて、二十代になってからは月の満ち欠けのサイクルと同じだと気付いた。 満月の夜はテンションが上がりやすく、日を追うごとに下がっていく。 新月には落ち込むことが多くて、表面的に明るく振舞うことが本当につらかった。 

 亦儒と出会ってからは、軽減したようにも思う。 落ち込んでるときを知っているみたいに、明るい声で電話をしてきてくれる亦儒に、これまでどれだけ救われたかわからない。 いけない・・・今は亦儒のことを考えちゃいけなかった。 例え心の中でも・・・。 

 わたしはそのときふと、昨夜、担当者にかけてから携帯の電源を切ったままなのを思い出した。

「大東、担当者からの電話待ちだったの。 ちょっと携帯確認してもいい?」

 大東はわたしを抱きしめていた腕をほどいて、ソファにあったバッグを素早く取りに行き、縁側のわたしに投げてくれた。 急いで着信を確認すると、担当者と亦儒からの着信がこの一時間に交互に何回も入っていた。

「大丈夫だったか?」

 仕事には人一倍、責任感を持っている大東は、すごく心配してくれているみたい。 亦儒からの着信には触れず、担当者から何回も入っていたと告げる。

「大東ごめん。 きっと校正の確認があるんだと思う。 わたし、出版社に行かなくちゃ。 お母さんによろしく伝えてね。」

「ああ、またな。 気をつけて行けよ。」

 大東はわたしの目をしっかり見つめて言った。 昨日までとは違う、わたしたちの新しい絆が大東に自信を持たせたのかもしれない。 わたしは笑顔で手を振り、その場をあとにした。

   第十五話「呉尊、愛してる。亦儒の苛立ち」~ヒロ篇につづく・・・

  目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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