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飛輪海小説『ステップアップ!』第八話~アミン篇

    第八話「エレベーターで大東と」~アミン篇 

 時計はもう、夜の十時をまわっていた。 最終回だというのに、決して納得のいくものが書けたわけじゃなかったけど、今のわたしのこれが精一杯だった。 主人公のとった行動の理由付けのセリフが、なんだかもの足りない気がしていた。 セリフに頼りすぎてるのかな・・・。 そんな堂々巡りから抜け出せない。 

タクシーの運転手にこのまま待ってもらえるように頼み、出版社にかけこむ。

巡回中なのだろうか、守衛室には誰もいない。 

守衛がいない時は記帳しなけばならない。 急いでるときにかぎってこれだ。 名前と時間と行き先の階数を書き込む。 

 担当者の待つ編集部は十五階にあるため、エレベーターに乗らなければならない。 少しためらいながらもエレベーターに乗り込む。 わたしは子供のころの体験がトラウマになり、閉所と暗所が恐いのだ。 もしエレベーターに閉じ込められたらなんて、想像するのもいやだ。 いつもそう思いながらも、何事もないのが当たり前。 無事に編集部までたどりつき、担当者に原稿を渡す。

 

 担当者は原稿に簡単に目を通し、ため息をついてから

「いいでしょう。 先生、お疲れ様でした。 校正後、また連絡しますので。」

 編集部を出てからエレベーターまでの廊下が長く感じられる。

「いいならため息つかないでよ! つくんだったら書き直しって言えばいいのに~!」

 誰もいない夜の廊下にわたしの声が響き渡る。 そこの角をまがるとエレベーターがある。 こんな時間に一人で乗るのはやっぱり気が重い。 降りるときくらい非常階段にしようと思い直し、引き返そうとしたその時だ。

「おい! 夜中にひとりで叫ぶなよ。 危ないヤツだと思われるぞ。」

 信じられないことに大東の声が聞こえた。 角を曲がると、大東がエレベーター横の壁にもたれて腕組みして立っていた。 一番会いたいような会いたくないような人と、こんなところで会うなんて、事実は小説よりも奇なり・・・ってよく言ったものだ。 かなり動揺してるけどそれは隠して、

「ストーカーみたいに待ち伏せしないでよ!」

と高飛車に言い返す。

「ちょうどここで雑誌の取材受けてたんだよ。 撮影がおしてこんな時間になって帰ろうと思ったら下でオマエの名前書いてあるの見て・・・」

「会いたくなって待っててくれたんだ~ 昨日会ったばかりなのに~」

 大東はこの手の攻撃が苦手なのだ。 照れてあせって自爆するはず。

「そ、そんなわけないだろ! オレはただこんな時間に女一人で帰して何かあったら・・・」

 隙をつくると反撃されてしまうから、わたしは攻撃の手を緩めない。

「大東、わたしのこと女だと思ってくれてたんだ~ 心配してくれて嬉しいな~」

「バ、バカ!誰が心配なんか・・・タクシー拾えなかったらどうするつもりだ・・・」

 心配してくれてるの、ホントはよくわかってる。 すごく嬉しいんだけど・・・強がるしかないわたし・・・

「わたしバカじゃないから、ちゃんと乗ってきたタクシー待たせてるわよ。」

「あれ、オマエのタクシーだったのか・・・さっきオレのマネージャーが乗って帰ったぞ。」

 信じられない! ちゃんとチップを渡して待つようにお願いしてあったのに! 返す言葉がなくなってしまう。 もう11時をまわっている。 なかなかタクシーを捕まえるのが難しい時間帯だ。

「どうしよう・・・」

 心細くなって、つい本音が出てしまった。

「いいからエレベーター乗れよ。」

 エレベーターに乗り込み、扉が閉まって二人きりを実感すると、いろんな意味でドキドキしてきた。 エレベーターは恐いけど、大東が一緒だから気がまぎれる。 でもやっぱりドキドキは止まらない。 昨日とはちがって、本当に大東と二人きりだから。 その時、突然、ガクンという衝撃で、わたしは足元がふらつき、大東がとっさに支えてくれた。 それと同時にエレベーターが停まり、あたりが真っ暗になってしまった。 わたしは何がなんだかわからないし、何も見えないこの暗闇がいつまで続くのかもわからない恐怖がおしよせ、心臓がバクバクしてくる。 息苦しくなり、呼吸が早くなる。 以前、パニック症状で過呼吸を起こした記憶がよみがえる。 怖い!大東の腕をつかんでいた手に力が入る。

「オマエ、大丈夫か?」

「怖い! 何も見えない暗闇がすごく怖いの! 狭いのもいや! やだ! やだ! 早くここから出して! 息ができない! 苦しい! 助けて大東!」

 大東の名前を叫んだ瞬間、暖かい大きな手がわたしの両頬をつつみ、唇に誰かの唇が重なるのを感じた。 何秒・・・何分わたしはそのまま動けずにいたんだろう。 その間、唇はふさがれ、驚きもあってずっと息を止めていたせいだろうか。 いつの間にか自然に呼吸できるようになっていたし、恐怖心も消えていた。 あたりが明るくなった気がして目を開けると、目の前には閉じたまぶたがぼんやり見える。 わたしが落ち着いたのがわかったからか、ゆっくり手と唇が離れていき目が合う。 疑いようもなく大東だ。 こんな至近距離でみつめあったのは、二年前のテーブル下でのキス未遂事件以来だ。 でも、今のはなんだったの? もしかしてキス? 真っ暗だったからよくわからない。 パニックで記憶もはっきりしない。 そんなのいやだ。 せっかくのキスだったのに実感がわかない。大東は気まずそうにわたしから視線をはずした。 間近で大東の唇を見ていると、もう一度ふれてみたいって思いが心の底からわき上がってきた。 指でそっと大東の唇にふれてみる。 驚いた表情の大東は、かがめていた体を起こす。 それでもわたしは思いっきりつま先立ちしながらそのまま大東の首に両腕をまきつけ、飛びつくように唇を重ねていた。 停まっていたエレベーターが急に動き出す。 足元がふらついて一瞬、唇が離れたけれど、大東がすぐ抱きとめてくれた。 そして大東からのキス。 一階に着くと、扉が開いてしまう。 永遠に停まっていてくれれば、よかったのに・・・。

     第九話  「呉尊のディナー」~ヒロ篇へつづく・・・

   

  目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

  目次と登場人物~大東&亞綸篇

  目次と登場人物~SP

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コメント

おとといから読ませてもらってます☆
飛の小説はなかなか見つからなかったので見つけた時本当に嬉しかったです(´∀`!!!
これからも頑張ってください!!!

投稿: Mayo--* | 2009年7月 3日 (金) 18時58分

Mayo--*さん

友達以外の方からのコメントが
初めてだったので、
私のほうこそとってもとっても嬉しかったですheart02
続けて読んでくださる方がいると、ヤル気が出ちゃいますo(*^▽^*)o

そうですか、確認したことなかったんだけど、
他に書いてらっしゃる方ってあまりみえないんですね。


遅筆ですが、これからも末永くお付き合いくださいませ~wink

投稿: ミント | 2009年7月 4日 (土) 14時29分

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