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飛輪海小説『ステップアップ!』第十二話~アミン篇

      第十二話「大東のお母さん」~アミン篇


 とり憑かれたように徹夜で書き上げた原稿を持って出版社に飛び込む。 午前十時。 いつもならブツブツと何かつぶやきながら目を通す担当者が、まったくの無言。 一気に書き上げて、読み直さずにそのまま持ち込んだから、自分でも出来については半信半疑。 寝てないからか余計にハイになってて、アドレナリンが過剰分泌されてるんじゃないかというくらい。

 担当者が原稿から視線をはずし、天井を仰ぎ見てからわたしを見据えた。

「よく頑張りましたね。 最終回にふさわしい内容でしたよ。 主人公の女性として、人間として一皮むけた成長が感じられました。 セリフに頼らない、心理と情景描写もとてもいい。 もしかして先生自身に何か心境の変化があったんじゃないですか? と言っても昨夜から短時間でここまでの変化が起こるとは信じがたいですが。」

 普段笑わない担当者がハハっと声をたてて笑った。

                        
*    *    *

 充足感に浸りながらタクシーの車窓から街の景色を眺める。 見慣れた街並みなのにいつもと違って見える。 どこか旅行にでも行きたくなってきた。 自分へのご褒美に一人旅でもしようかな。 来週には次の連載の準備にかからないといけない。 そうだ、取材旅行も兼ねちゃって、経費で落としたりして。 善は急げ。 お気に入りの本屋に立ち寄ることにした。

 その前に昨夜から何も食べてないことに気付き、まずマックで簡単に食事してから、本屋で旅の本を立ち読みし、数冊購入した。 ふと、ここから大東の家が近いことを思い出した。 大東のお母さん元気かな・・・。 腕時計を見ると一時・・・。 この時間なら大東がいるはずがないから大丈夫よね。 そう自分に言いきかせた。

 大東の家は、日本統治時代に建てられた古い日本家屋で、昔、亡くなったお父さんが、香港から渡ってきてから苦労して買った家らしい。 だから大東のお母さんは、豪華なマンションよりも、その家がいいと言って二人は今でも住み続けている。 広くはなくても趣きがあって、よく手入れの行き届いた日本風の庭のあるその家が、わたしも大好きだった。 門を入ると、大東のお母さんが庭で草むしりをしていた。 すぐにわたしに気付くと、少し泣きそうな笑顔で迎えてくれた。

「あぁアミン! アミンじゃないの! やっと来てくれたね!」

 そう言ってわたしの手を握って何度も何度も「よく来てくれたね。」と繰り返すので、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 大東のお母さんも、亦儒とわたしの婚約のこと、知っているはずなのに触れようとはしなかった。 ただ、大東が働きすぎで心配だとか、大東が忙しいのに親孝行をしてくれるとか、大東の話ばかりを繰り返した。 そしてついうっかりだと思う。

「アミンがあの子のお嫁さんに来てくれたらどんなに嬉しかったのにねぇ。」

 そう深いため息とともにつぶやいた。

「あらいやだ、へんなこと言って悪かったね・・・。 お茶をいれなおそうね・・・。」

 大東のお母さんが席をたつ。 息子を思う気持ちが痛いほど伝わってきた。 大東もわたしと同じで親を亡くしているから、どこか通じるものがある。 でもわたしたちは二人でいてもそういった感傷を決して表に出したことはなかった。 根底にはあっても、反対に明るく振舞う・・・というより別人格になってケンカ腰で言い合ってるほうが癒されるというおかしな関係なのかもしれない。 そんなわたしたちの“言い合い”を初めて見た人は驚くけれど・・・あふっ・・・・アクビが出る・・・なんか眠くなってきた・・

               *   *   *

「痛っ・・・」

 腕がしびれている。 あれ? ソファ? ここどこだっけ。 ・・・いつの間にか眠っていたみたい。 それはそうだ、徹夜で原稿を書き上げたのだから。 ここのとこ睡眠不足だったし。 外を見ると暗い。 もう夜になっている。

 たしか、大東のお母さんと話してて・・・。 はっとして起き上がり周りを見渡すと大東が椅子を逆向きにまたいで座ってこちらを見ている。 もしかして大東がソファまで運んでくれたのかな。 それってお姫様だっこで? 顔が一瞬にして熱くなる。

「オマエよく寝てたな、人のうちで。」

 辛らつな口ぶりなのに目が優しい気がする。 そんな顔してずっと見てたのかな。 胸がきゅんとした。

「お帰りなさい。 お母さんは?」

 わたしは髪と襟元をととのえながら眠る前の記憶をたぐりよせる。

「三時頃電話した時には、いたんだけど。 夕飯、うちで食べるからって言ったら、作って待ってるって。 でも帰ったら、夕飯は用意してあるみたいだけど、母さんはいなくてさ。」

 立ち上がってテーブルまで行くと、夕食が二人分用意されている。 お皿の下に紙切れをみつけたので読み上げてみた。

「お友達と映画を観てくるので、遅くなります。 どうぞ二人で召し上がれ。 母より・・・。」

「ったく余計なことを・・・。 仕方ない、食うか。」

「うん、あっためるね。」

 スープと煮物をを温めなおし、青椒肉絲は炒めるだけになっていたので中華鍋で手早く炒め合わせる。 ごはんをよそって大東に手渡す。

「サンキュ。」

 少し指先が触れる。 今さら指先くらいで照れるのもおかしな話だけど、お互いにドキッとしたみたい。 大東は照れ隠しか、席を立って冷蔵庫から缶ビールを二本持ってくる。

「呑むか?」

「うん・・・ありがと。」

 軽く乾杯のしぐさをして、おいしそうに缶ビールを呑む大東。

「どこで仕事だったの?」

「台中。 なぁ・・・普通、あんなことあった昨日の今日でうちに来たりしないだろ?」

「ごめん・・・すぐに帰るつもりだったんだけど」

「あやまんなよ・・・調子狂うな・・・」

 大東の横顔、困ってる。

「なんでだよ。」

「何が?」

「だから、なんでそんなに結婚したいんだ。」

 もしかして大東を悩ませちゃったのかな・・・。 わたしの結婚願望のことを話すには、まず亡くなったママのことから話さないといけない。 ママとの約束を・・・。

  第十三話「パーティーで阿旭と」~ヒロ篇につづく・・・

   目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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