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飛輪海小説『ステップアップ!』第十話~アミン篇

      第十話「アミンの覚醒」~アミン篇

 エレベーターが一階に着き、扉が開いた。 わたしは夢から覚めたように現実に引きもどされた。 誰かに見られたら大変なことになる。 わたしは身をよじって大東から離れようとしたけれど、逃れられない。 大東が左腕をのばして、“閉”のボタンを押した。 再びドアが閉まり、二人だけの空間に戻る。 大東に両手首をつかまれ壁に押さえ付けられる。

「大東やめて! もうやめよ・・・」

「イヤだ・・・もう自分に嘘をつけない! 好きなんだ・・・ずっと前から・・・結婚なんてするな! オマエだって・・・」

 大東にこんなこと言わせてしまったのは全部わたしのせいだ。 でも、大東を選ぶなんてできない。

「じゃあ、大東が結婚してくれるの?」

 本当はこんなこと聞きたくなんてない。 大東の目を見れなくて、わたしは顔をそむけた。 突然で大東は驚いたのか何も答えない。

「できないでしょ? できるわけない。 知らなかった? わたし、こう見えてもすごく結婚願望強かったの。 子供の時からの夢が、早くお嫁さんになって若いママになることだった・・・もう二十六歳よ・・・ギリギリなんだから・・・」

 こんなの半分は本当だけど、半分は口実だ。 こう言うしかなかった。

大東は押さえ付けていたわたしの手首をゆっくりおろしてから、エレベーターの“開”ボタンを押す。

「送るよ・・・」

 大東は扉が開くと、先に出て行った。 大東に背を向けられることが、こんなにもつらいなんて・・・。 みぞおちのあたりがへんに気持ちが悪い。 外に出るとタクシーが待っていた。 マネージャーを降ろしたあと、戻ってきてくれたようだ。 タクシーの中でも大東は黙ったままだった。 二人でいる時間がこんなにも長く苦しく感じたのは初めてだ。 いつもみたいに言い返してくれればどんなに楽だろう。 「誰がオマエなんか嫁にもらうか!」って言ってくれれば・・・。

 結局大東は、マンションに着くまでだまっていた。 別れ際に交わした言葉もどこがよそよそしいものだった。

「昨日、酔っ払って迷惑かけたこと、おばさんに謝っといてくれ。 それと・・・。 じゃあな・・・。」

「送ってくれてありがとう・・・おやすみ・・・。」

 大東は何か言いかけたようだった。 だけどわたしはそれを聞き流した。 そして最後まで目を合わさず、わたしたちは別れた。

 

 家のドアを静かに開ける。 父は夜勤なのか緊急オペなのか、靴がない。 リビングの灯りがついてないみたい。 母も弟ももう寝たのかな。 
 喉の渇きに耐えかねて、そのままキッチンへ向かう。 冷蔵庫をのぞくと、昨日、大東のためにあけたミネラウォーターがまだのこっていた。 わたしはそれをグラスにうつさず、ボトルのまま口をつけた。

「遅かったね。 どこ行ってたの?」

 驚きのあまり、もう少しでむせるところだった。 弟はシャワーの後なのか、髪はまだ濡れていて、バスローブ姿だ。 わたしは気持ちを落ち着けるためミネラルウォーターを一口飲んでから答える。
「う、うん・・・出版社に原稿届けに行ってたの。 担当の人と話し込んじゃってちょっと遅くなっちゃった。」


「ふ~ん・・・。」
 

 弟は勘のいい子だ。 すべてを見透かされてるようでなんだか緊張してしまう。

「ボクもそれもらっていい?」


「じゃ、グラスとって。」

「いいよ、そのままで。」 

 弟はわたしからボトルをつかみ取り、いきおいよく飲み干した。

「アミン・・・亦儒とも会ったの?」

「・・・ううん、出版社に行っただけよ・・・どうして?」

「じゃいいけど・・・おやすみ~。」

「おやすみ。」

 

 去り際の弟の視線がわたしの口元を見ていたようで一瞬あせる。 弟が部屋に入ったのを確認してから洗面台に向かう。 電気をつけて鏡を覗き込むと、多少グロスが落ちてしまってるけど、唇に特に変わった様子はない。 ただ頬が紅潮していて、目がいつもより潤んでいるような自分にドキっとさせられた。

 部屋に戻ると、いろんな思いが胸の中でうずまいて、疲れているはずなのに気持ちが高ぶっていることに気がついた。 なんだか味わったことのない感情だ。 大東のそむけた横顔、うしろ姿を思い出すだけで心が切り刻まれるようになる。 自分のしたことの愚かさを呪いながらも、大東とのキスを思い出すだけで、甘美にも似た感情が湧き上がる。 わたしがあんな大胆なことするなんて・・・。
 ふと”理性を捨てて欲望に忠実に”という今朝の亦儒の言葉を思い出した。 すべてのしがらみから開放されて、自由になる瞬間を体験したということなのかな。
 もしかして今なら書けるかもしれない。 そう思うと同時に、わたしは編集担当者に電話をしていた。

     第十一話「呉尊の恋、亞綸との約束」~ヒロ篇につづく・・・

  

  目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP     

 

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