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飛輪海小説『ステップアップ!』第十三話~ヒロ篇

     第十三話「パーティーで阿旭と」~ヒロ篇

 新作発表のファッションショーが終わり、パーティー会場にうつる。 ショーは本当に素敵だった。 特にレディース部門は、モデルが出てくるたびに、あの女優さんに着せてみたい!とか、あのタレントに似合いそう・・・とか想像をめぐらせてしまった。 本当なら、メンズ部門に注目しないといけないんだろうけど・・・。 もちろん、亞綸に似合いそうなアイテムはしっかりチェックした。 マーキーに頼まれていた他の三人の分も。

「ヒロ! あっちのテーブルにヒロの好きなサーモンがあるよ! 飲み物は何がいい?」

 なんだかはりきってエスコートしてくれる亞綸には申し訳ないけれど、一緒にいるだけで注目を浴びてしまうこの状況になかなか慣れない私。 いつもの格好なら誰も気にかけないだろうけど、ドレスアップしているとどうしても好奇な目で見られてる気がしてならない。 ヒソヒソ声で話してないで、言いたいことがあるなら、はっきり言いにきてほしい。 それともどこか私のドレスが変なのかな? 

 結局、ブランドショップには、すでに今年のデザインのものはほとんどのこっていなかった。 それはそうだ。 今日のこのパーティーのために、招待されている有名人たちのスタイリストは、こぞって今年流行のアイテムを、奪い合うように購入している。 亞綸のこのジャケットだって、似合うもので、しかも他のタレントとダブらないように配慮しながら、やっとの思いでゲットしたのだから。 だから私のこのドレスは、衣裳部屋にあった、去年のドレスなのだ。 

 でも、実は私のお気に入りの一点で、一度でいいから私も着てみたいと思っていたドレスだった。 だけど、さすがにそのまま着るのにはデザイン的にも流行的にも抵抗があり、私なりのアレンジを加えていた。 実はこのドレス、肩と胸元が大きくあいていて、小柄な私が着ると、かなりセクシーな感じになってしまう。 背の高い人が胸元を見下ろすと丸見えになりそう。 だからさっきショップで借りてきた、長めでスパンコールつきのストールをネクタイみたいに結び、膝あたりまでストンと垂らして、胸の谷間が見えないように隠してみた。 流行のワンショルダーのドレスが多い中、このアレンジは気に入っている。

 そして、そのドレスに元々セットでついていた小さめのラメのハット型髪飾りは、頭につけるのはちょっと目立ちすぎて恥ずかしいので、手持ちのポーチにくっつけて個性をアピールしてみた。 

 しばらく食べたり飲んだりしながら、他のタレントのファッションチェックをしていると、亞綸は次のドラマで共演する小鬼に連れて行かれてしまい、私は一人取り残されてしまった。  

 これで目立たなくなるからホッとはしたものの、やっぱり場違いでちょっと心細くなる。

そう思った時だ。

「あら、あなたもしかして日本人じゃない?」

 そう声をかけてきたのは、台湾で活躍している、日本人タレントのMakiyoだった。

「え、あの、はい、日本人です。 どうしてわかったんですか?」

 年下のはずの彼女に、なぜか丁寧語で話してしまう。 もちろん日本語で。

「わかるわよ。 日本人のにおいがするもの。 あなた、素敵ね~。 去年のドレスをアレンジしてるのね。 ポーチも可愛いわ。 ストールを長く下げているのも、スラっとして見えるし・・・。 私も背が高くないから、とっても参考になるわ。 あなた一体何者かしら?」

 テレビで見た印象とまったく一緒だ。 遠慮がなくて思ったことを何でも口にする。 でも全然イヤな感じがしないから不思議だ。 それにやっぱり年下には見えない。

「あの・・・スタイリストです・・・。」

「あら、どうりで! いつか私もお願いしたいわ~。 よろしくね~。」

 彼女はそれだけ言って去っていった。 有名タレントに評価してもらえて、内心興奮していた。 でもこの時は社交辞令としか受け取っていなかったけど。

 少し緊張したせいか、ノドがカラカラだ。 亞綸はまだ戻ってこない。 仕方なく、自分でドリンクのコーナーに飲み物を取りに行く。 どこか隅っこのほうでゆっくり飲もうと、振り返った時だった。 慣れない高いヒールの靴であることをすっかり忘れていた私は、思わず踏み出した右足からバランスをくずし、ちょうど通りかかった人にグラスを持った手をぶつけてしまったのだ。 

「キャ!」

 相手の短い叫び声を聞いた。 顔を見ると、あまりにも綺麗でスラッとした女の人でドキっとする。 見たことあるような・・・誰だっけ? 一緒にいた人(この人も見たことある)が慌てている。

「志玲、ドレスが!」

 そうだ、モデルの林志玲だ! 彼女のドレスのワンショルダーの部分に、紫色のシミができている。 どう考えても、私のグラスに入っていたグレープジュースにちがいない。

「スミマセン!」

思わず日本語で謝ってしまった。 さっき、Makiyoと久しぶりに日本語で会話したせいかな。 慌ててすぐに言い直す。

「すみません! どうしよう・・・本当にごめんなさい!」

「いいのよ、仕方ないわ。 お気になさらないで。」

 彼女は笑顔で優しく、イメージ通りだ。

「よくないわよ!! 志玲、あなたこのあと、囲み会見があるんじゃなかったの!?」

 一緒にいる人(まだ誰だか思い出せない)が大声を出すもんだから、周りの人たちが注目しだす。 どうしよう、万が一用の亞綸のタキシードはロッカーにあるけれど、ドレスの用意はない。 

「あなた、一体どこの誰よ!!」

 一緒にいる人(バラエティー番組の司会者かも)が息巻く。 もうどうすればいいのかわからない。 亞綸どこ行ったの! 誰か助けて! そう心の中で叫んだ時だった。

「彼女はスタイリストだよ。」

 現れたのは阿旭だった。 予想外の登場に声も出ない。 今日は呉尊と一緒にドラマの撮影のはずだ。 ここで会うなんて期待もしていなかった。

「日本人で、以前、ボクのスタイリストのアシスタントだったんだ。 許してあげてくれませんか。」

 阿旭はそう言って、一緒にいる人(アナウンサーだったかも)にニッコリ微笑みかけると、彼女は溶けてしまうんじゃないかと思うような表情になっている。 誰だって阿旭に微笑みかけられればこうなるだろうけど。 それにしても阿旭と林志玲が並ぶと壮観だ。 美男美女すぎて、同じ場所にいるのは気がひける。 二人の関係を疑っていた頃の自分が、少しだけ顔を覗かせる。 ダメダメ! 今はそんな場合じゃなかった! 

「ヒロエ、ドレスは他には持ってきてないのか?」

 私は首を横に振ってから、

「何か別の方法を考えてみる・・・。」

 阿旭のおかげで冷静さを取り戻せた。 一緒にいてくれるだけで安心できる。 ふと“アレンジ”という言葉と、さっきMakiyoが褒めてくれたことを思い出した。

私のストールをスルスルっと首からはずし、ポーチにピンで留めてあった帽子をストールにつけてみる。 うん!これしかない!

「あの、志玲さん。 この帽子とストールをショルダーの部分につけてみてもいいですか?」

「ええ、かまわないけど、せっかくあなた素敵だったのに、かえって申し訳ないわ。」

 とことんいい人だ。 “天は二物を与えず”なんて言葉は彼女には当てはまらないみたい。 五物くらい与えてるかも。

「私の不注意ですから、気にしないでください。」

 彼女のワンショルダーのドレスは、もちろん流行のものだし、よく似合っていた。 だけど他の人たちとの決定的な差がなく、せっかくの美しさがぼやけてしまって見える。 この帽子をリボン状にしたストールに留めて、ストールの両端を前と背中側に垂らしてみる。彼女のピンクのドレスに、貝殻の虹色のようなスパンコールのついたストールとシルバーラメのハット型髪飾りが絶妙なアクセントになった。 もちろんジュースのシミも隠れている。 

「あら~! 素敵じゃない! お手並み拝見させてもらったわよ。 やっぱり私の目に狂いはなかったみたいね~。」

 Makiyoがまた現れた。 取り囲んで見ていた人たちも、賛美の言葉を口にした。 林志玲は、みんなの好反応に嬉しそうだ。 

「本当にありがとう。 お名前聞かせていただける?」

「キリムラヒロエです。 炎亞綸のスタイリストをしています。 クリーニング代はモデル事務所のほうにお支払いに伺いますので・・・。」

「日本の方なのね。 クリーニング代は必要ないわ。 スタイリング料ということにしましょうよ。 それじゃ、阿旭、ヒロエさんを一人にしないで、ちゃんとエスコートしてさしあげてね。」

 彼女はにっこり微笑んで、そのまま囲み会見へ向かうため、去っていった。 彼女の満足げなあの笑顔を見て、私は喜びで頭のてっぺんから足の先まで、鳥肌がたつくらいだった。 こんなの初めてかもしれない。

 注目を集めすぎた私たちを気遣ってか、Makiyoが私たちをV.I.P.ルームに招き入れてくれた。 

「私、ここで顔がきくのよ。 騒ぎがおさまるまで、この部屋使っていいから。 誰も来ないから安心して。 なんなら中から鍵かけてもいいわよ。」

 そう言ってウインクするとMakiyoは出て行ってしまった。 彼女も林志玲に負けず劣らずいい人だ。

 だけど、いきなり阿旭と二人きりにされてしまったことにとまどった。 

「偶然すぎて、びっくりしちゃった・・・。ドラマの撮影だと思ってたし・・・。」

「パーティーに招待されてるって話したら、呉尊が撮影順を譲ってくれたんだよ。 CG部分の撮影だったから、一人ずつだったんだ。 その時、炎亞綸も招待されてると聞いて、ヒロエに会えるんじゃないかと思って捜してた・・・。 だから偶然じゃないんだ。」

 なんて答えればいいんだろう・・・。 昨日会いに行ってしまったばかりに、阿旭に期待を持たせてしまったのかもしれない。 このままじゃダメだ。 ちゃんと伝えないと!

「私! 結婚が決まってるの!」

 あぁ、なんて唐突な結婚宣言・・・。 もっと他に言い方があったんじゃないかな・・・。 今さら遅いけど・・・。 阿旭の顔を見ることができなくて、うつむいてしまう。

「・・・結婚?・・・じゃ、仕事はどうするんだ?」

「仕事は・・・やめるの。」

「やめる? 結婚していても仕事は続けられるだろ?」

 もうこれ以上、何も聞かないでほしい。 何も言えないから。

「昨日、スタイリストとしての夢を語っていたばかりじゃないか。 さっきだって、あんなに嬉しそうだった。 やりがいを感じてるんじゃないのか? それなのに、どうして?  結婚に縛られて夢を捨てるのか!」

「私だって・・・私だって続けたいの! 林志玲に喜んでもらえて、どんなに嬉しかったか! もっとたくさんのモデルや女優さんに私の選んだ衣装を着てもらいたい! でも!」

 急に阿旭に抱きしめられる。 

「ごめん、ヒロエ・・・もういい・・・もう何も言わなくていいよ・・・。 責めるようなこと言ってすまない。 結婚するって聞いて動揺したんだ・・・。 諦めたつもりだったのに、未練がましくてかっこ悪いな・・・。 もう少しだけこのままでいていい?」

 阿旭に抱きしめられているのに、思ったほどにドキドキはしていない。 二年前、私の勝手な思い込みと決断であの家を出て行ってしまったことで、どんなに彼を傷つけたか・・・それをイヤというくらい思い知った。 私に会うことで、彼なりに終わらせようと努力しているのかもしれない。 私もきちんと向き合わないと・・・。 

「本当に、ごめんなさい。 阿旭のこと疑ったまま、勝手に消えて・・・。 バカだったね、私・・・。 信じなくてごめんなさい。」

「ボクも自分のことばかりで、ヒロエの不安をわかろうとしてなかった。 一緒にいたのに何もわかってなかったね。 男なんて、みんな自分勝手なものかもしれない。 一緒にいるだけで相手も幸せだと思ってる。 だから・・・。」

 阿旭はそう言ってから、ゆっくりと抱きしめていた腕をゆるめて、私を見た。 その目はとても優しかった。

「相手に、ちゃんと自分の気持ちを言葉で伝えないと。 ヒロエの仕事に対する夢とか、情熱とか、遠慮しないで相手にぶつけないと、通じないよ。」

 阿旭は私の鼻先を指でつついてから、にっこり笑う。 二年前、六つも年下の私を子ども扱いしてよくやった仕草だった。 その時、ガチャっと急にドアが開いて誰かが飛び込んできた。 亞綸だ。

「ヒロに触るな! いくら言承旭だからって、ヒロに近づくとボクが許さないぞ!」

 私も阿旭も、亞綸の勢いがすご過ぎてすぐには言葉も出ない。 何か誤解してる。 というか誤解される状況よね、どう見ても。 

「亞綸、落ち着いて! 誤解だってば! よくここにいることわかったわね。」

Makiyoが教えてくれたんだ。 ここに二人がいるって・・・。 いい雰囲気だったって・・・誤解ってどういうこと?」

 さっきの“Makiyoはいい人”発言、撤回する。 絶対にあの人おもしろがってる。

「あとでちゃんと話すから! とにかく、亞綸のおかげよ、何もかも。 ありがとう。」

 今夜ここで阿旭や林志玲に会えてよかった。 このパーティーに出られたのは亞綸のおかげだから、たくさん感謝しないと。 亞綸は訳がわからずキョトンとしているけど。

「ボクは先に出るよ。 炎亞綸、彼女のことよろしく。」

 阿旭がV.I.P.ルームを出て行くと、急に力が抜けたように亞綸が寄りかかってきた。

「ヒロ、ボク言承旭にとんでもないこと言っっちゃったのかな? わっ!

 私に寄りかかっていた亞綸が、急に飛びのいた。 

「ヒロ! どうしたのその格好・・・。 胸がきわどすぎるよ~。」

 亞綸の顔が真っ赤だ。 私は自分の胸元に視線を落とすと胸の谷間からおへそ辺りまで丸見えになっていた。 ストールを林志玲に貸したんだった。 慌てて手で胸元を隠す。  

「はい、このジャケット着なよ! っていうか本当に誤解なの?」

「亞綸シツコイ! カエルワヨ!」

「え? 何? ねえ、そう言えばMakiyoから聞いたよ~林志玲とのこと! ヒロ待ってよ!」

この三日間、仕事のこと、結婚のこと、呉尊のこと、阿旭のこと・・・いろんなことが絡まりあって、頭がゴチャゴチャになっていたけれど、とりあえず絡まっていた糸がほどけた気がする。 あとは正直な気持ちを素直に話すこと。 それからだ。
   第十四話「大東との新しい絆」~アミン篇
につづく・・・

   目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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