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飛輪海小説『ステップアップ!』第九話~ヒロ篇

     第九話「呉尊のディナー」~ヒロ篇

 行天宮から、思い出の榮星公園を通り抜け、中山國中駅までたどり着く。 ここからMRTに乗ると、呉尊のマンション近くの動物園駅まで乗り換えなし。 このMRT木柵線の始発が中山國中駅で、終点が動物園駅だなんて、皮肉にも私の恋愛とダブってしまう。 阿旭が始まりで、終わりが呉尊・・・。 じゃあ夢は、仕事はどうなるの? そんなことを考えながら、昨日からの疲れもあってか、私は眠ってしまった。 
 終点のアナウンスで目覚め、あわてて車外に出た。 時計を見るとちょうど9時。 呉尊の帰ってくる時間だ。 急いでマンションまで走り、エレベーターに飛び込む。 そこでふと買い物をした食料品を持っていないことに初めて気がついた。 タクシーの中に置き忘れたんだ。 携帯電話でタクシー会社に確認しようとバッグを見ても携帯もない。 事務所の衣裳部屋に忘れたにちがいない。 タクシー会社もよく覚えてない。 何もかもどうしようもない状態に陥ってしまい、私は部屋のドアの前まで来るとペタンと座り込んでしまった。 呉尊になんて言い訳できる? 私、いったい何やってるんだろう・・・。 そう思った瞬間、ドアが開いた。

「ヒロ? こんなところでどうした? 具合でも悪いのか?・・・」

 呉尊が心配そうに駆け寄ってくる。 私はもう胸が張り裂けそうになる。 涙がこみ上げてきた。

「か、買い物したのに・・・タクシーに忘れちゃって・・・」

 嗚咽でなかなかうまく話せない。 でも話さなきゃ・・・

「電話しようと思っても・・・・携帯も事務所に忘れちゃって・・・タクシー会社も覚えてないし・・・ご馳走作ろうと・・・思ってたのに・・・こんなに遅くなっちゃって・・・ごめん・・・なさ・・・」

「あやまらなくていいよ。 急な仕事だから仕方ないだろ? 携帯に何度もかけたら亞綸が出て、アイツから聞いたよ。 それに忘れてった携帯、預かってるってさ。 ほら、中に入って。」

 急な仕事って・・・亞綸が嘘ついてくれたんだ。 泣きながら呉尊に支えられてダイニングルームまで入ると、テーブルの上にはたくさんの料理が並べられている。 驚いて呉尊を見上げる。 呉尊はテーブルに向かって腕を差し出し、

「ジャジャーン! 今夜は北京料理~! 仕事が早く終わって、一便前の飛行機に乗れたんだ。 だからご馳走作って待ってたんだ!」

 私はなんて言っていいのかわからないし、混乱してしまうし、安心したしで余計に涙が出てきてしまう。 テーブルの真ん中には立派な北京ダック。

「この・・・北京ダック・・・どう・・・したの?」

「北京のレストランでお土産にもらっちゃってさ。 オーナーの娘さんがボクのファンらしくって、一緒に写真撮ってあげたんだ。 そのお礼にって。 おいしそうだろ?」

 ご満悦な顔の呉尊があまりにも可愛くって、思わず笑ってしまう。

「やっと笑ったな? ほら、この薄餅はボクが粉から練って焼いたんだよ。 北京ダックを包んで食べたらサイコーさ。フカヒレスープはレトルトをあっためただけなんだけどね。 今日は時間が足りなかったから。 でも次回はもっとボクの腕前を披露するよ。 いつものヒロが栄養を考えたおいしい料理のお礼にね!」

 そう言って呉尊はおでこにキスしてくれた。 ごめんね、呉尊・・・本当にごめんなさい・・・。

     第十話 「アミンの覚醒」~アミン篇につづく

   目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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コメント

初めまして。昨夜から読ませて頂いてます。
私の妄想とかなり近いものがあり、
一気に読んでしまいました。
続きを楽しみにしています。

投稿: かーみっと | 2009年7月13日 (月) 23時22分

かーみっとさん

ミントのほぼ妄想的小説を楽しみにしてもらえて嬉しいですhappy02
ゆっくりのアップですが、これからも読んでくださいね~

投稿: ミント | 2009年7月14日 (火) 14時32分

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