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飛輪海小説『ステップアップ!』第六話~アミン篇


   第六話「大東との思い出、亦儒の助言」~アミン篇  

 ヒロと大東が帰り、わたしは明日が締め切りの原稿にとりかかることにした。 でもなんだか考えがまとまらない。 大東の口から「おめでとう。」なんて言葉、少し複雑な気持ち・・・。 それに、ヒロと呉尊のなれそめを聞いたせいで、わたしはある出来事を思い出してしまったのだ。 心の中にずっと封印していた、わたしの中で、なかったことにしていたあの出来事を・・・。

 あれは二年前、みんながうちに集まるようになって五回目くらいの日だった。 その日は弟と母はまだ買い物から帰っていなくて、わたしは一番乗りで来ていた大東と、リビングで二人きりになってしまった。


            
*    *    *

 
 よりにもよってどうして大東と二人きりなんだろう。 少し気まずいようなこの空気感が耐え難い。 わたしは初めて会った時から大東を意識してしまっている。 この三ヶ月、毎日彼のことが頭から離れない。 多分、これって恋だよね? けれど、彼はわたしにはまったく関心がないようで、一度も彼のほうから話しかけられたことがない。 いつもわたしから何か話しかけても、彼の口からはあいまいなあいづちしか返ってこない。 話したいのになんだかためらわれる。


 だからわたしは決心したのだ。 女として見てもらえなくてもいい。 友達でいいから、大東と対等に話せるようになろうと・・・。 でもどうすればいいのかわからない。 二十四歳にもなって情けないけれど、好きな人の前ではどうしても緊張してしまう。 
 
 そのせいかな、ノドはカラカラで、目もシパシパする。 目をこすると、余計に違和感があって思わずまばたきをしてしまったその時だ。 右目のコンタクトレンズがどこかへ飛んでいってしまった。 あわててしゃがみ、フローリングの上を這って探すけれどなかなかみつからない。

「オレがこっちのほう探すから、そっち探して。」

 大東がいつの間にか一緒に床に這いつくばって探してくれていた。 わたしは嬉しくてしかたない気持ちをおさえながら、探し続けた。 そしてテーブルの下に四つん這いで入っていった時、何かに頭をぶつけてしまった。

「痛ってえ・・・。」

 大東の声だ。 “何か”でなく大東の頭とぶつかったのだ。 顔をあげると、思いのほか大東の顔が近くにあって心臓が止まりそうになる。 間近で見る大東の唇、かわいいかも・・・キスしたいな・・・そう思ったとたん、大東の唇が近づいてきた。 わたしは思わず床についていた右手を大東の顔面に押し当てて思いっきり突き飛ばし、

「変態!」

 気付いたらそう叫んでいた・・・。 自分で自分が信じられなかった。 心ではキスしたいと思っていたのに、頭では一瞬にして友達同士はキスしたりしないって考えが働き、突き飛ばして罵るというとっさの行動・・・人間の脳のメカニズムの不思議を呪わずにはいられなかった。

「変態ってなんだよ! そっちがキスしたいって顔してたからだろ!」

 まさかわたしそんな顔してた? 顔から火が出るんじゃないかと思うほどだったけど、恥ずかしさを隠したくてますますエスカレートして言い返してしまう。

「そんなこと思ってないってば! アイドルだからって女が全員振り向くと思ったら大間違いよ! 最低のナルシスト!」

 もう最悪だ。 大東のプライドをズタズタにしてしまったに違いない・・・。

 
だけど、それからなのだ。 そのことをきっかけに、わたしは念願かなって大東と対等の“友達”プラスαの“ケンカ友達”に昇格してしまったのだ。

           
           *  
 *    *

 
 
誰かが触れた気がして目が覚めた。

「ごめん、起こしちゃったね。」

 亦儒がブランケットをかけてくれていた。 わたしはヒロが帰った後、机に向かったはいいけれど、大東とのことを思い返しているうちにそのまま朝まで眠ってしまったようだ。 ちょっと亦儒に対してうしろめたい気持ちになる。

「もう朝の8時なの? 亦儒、仕事は?」

「仕事が午後からでよかったよ。 まだ頭、痛くってさ・・・二日酔いなんて何年ぶりかな。」

「あんなに呑む亦儒、初めて見たからびっくりしちゃった。 シャワー浴びてきたら?」

「アミンもおいでよ。」

「もう! うちの家族がいるんだから!」

「冗談だよ。 原稿、すすんでる?」

「ううん、寝ちゃったから。 それに煮詰まってる。 この前、編集担当の人に言われちゃったの。 いつまでたってもデビューした頃のティーンのラブストーリーみたいだって。セリフに頼り過ぎない、もっと、大人の心の目を通した、理屈抜きの描写が欲しいって。  もう訳わかんない。」

「それは、きっとアミンが自分の欲望に忠実じゃないってことじゃない? 頭で理屈を考えるだけじゃなくてさ、理性を捨てないとね。」

 時々、亦儒の核心を突いたような言葉にはドキっとさせられる。 大東とのことを知ってるはずはないのに・・・もしかして寝言でなんかまずいこと言っちゃった? わたし・・・

「さあ、だから気分転換に、理性捨てて欲望に忠実に。 ゲストルームのシャワーなら誰も来ないだろ?

 亦儒の交渉術にはかなわない。 そう諦めかけたとたん、わたしは抱き上げられ、そのまま連れて行かれてしまった。

    第七話「亞綸の疑い、阿旭とあの場所で」~ヒロ篇につづく・・・

  目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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