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飛輪海小説『ステップアップ!』第四話~アミン篇

      第四話「大東とサラダ」~アミン篇

 ヒロが突然キッチンから出て行ってしまい、わたしと大東は二人きりにされてしまった。何か気まずそうな大東の表情に、わたしもどうしていいかわからなくなる。

久しぶりに顔を合わせたのに、何から話せばいいんだろう。 亦儒との婚約は大東も知っているのに「おめでとう」の一言もない。わたしの口からちゃんと報告するべきなのだろうか。

以前はこんなことで悩まなかった。 言いたいことを言い合って、からかったり、怒ったふりしたり、大笑いしたり。 いつからだろう。 大東がうちに来なくなったのは。 多分、半年前、亦儒と付き合い始めた頃からだ。

「あ、そうだ。ミネラルウォーターだったよね。」

わたしは気まずさをうちやぶりたくて、冷蔵庫から出したミネラルウォーターを慌ててグラスにそそぎこんだため、持っていた大東の手に思わず水をかけてしまった。

「うわ、つめてぇ!ったく水くらいまともにそそげないで、いったい何歳だ?」

「水はこぼしても立派に大東と同じ二十六歳やってます!飲んだら手伝ってよ!レタスをちぎるくらいできるでしょ? ほら、こうやって・・・」

「できるから貸せって!立派な二十六歳なんでね!」

「やだ、先に手を洗ってよ!ほらエプロンもして!」

「なんでフリフリのエプロンなんだ!」

「意外と似合ってるけど~」

 こうやって言い合えることが、ただ嬉しかった。 大東もなんだか楽しそうに見える。

「なんで笑ってるのよ、そんなにわたしといると楽しい?」

 顔をのぞきこんで、昔みたいにちゃかしてみる。

「うるさい! さっさと手を動かしてドレッシング作れ!」

「お母さんはお元気?」

「おまえに会いたがってた。」

「じゃ、今度会いに行こうかな。」

「オレのいない時にな!」

 久しぶりに大東の憎まれ口を聞けたことが、こんなにも嬉しいなんて! 大東の口から「おめでとう」なんて言葉を聞くより、何十倍も何百倍もこのほうがいい。 そんなやりとりをしながら二人で完成させたサラダは、なんだかいつもよりもおいしそうに見えた。

「オレって天才かも?」

「サラダくらいで?」

 二人で満足げにサラダの出来を眺めていると、

「お二人さん、おなかペコペコなんだけどまだ? そのサラダで最後だろ? 運ぶよ。」

 亦儒が笑顔で戸口に立っていた。 いつからいたんだろう。 亦儒は長い腕をのばしてきて、ひょいっとサラダボウルとドレッシングのピッチャーを手にとり、

「お、これボクが一番好きなアミン特性のドレッシングだね。 ボクが来るときはいつもこれ作ってくれるよね。 愛を感じるな~」

と言って持って行ってしまった。

「じゃオレも先あっちに行ってるから。」

 大東はエプロンをはずすと、テーブルに軽く投げつけて出て行ってしまった。 目も合わさずに。

 キッチンを少し片付けてからリビングに行くと、亦儒が立っていてわたしに向かって左手を差し出してきた。 わたしは自分の右手をあずけて、亦儒のリードでみんなの前まで連れて行かれる。 すると突然クラッカーが鳴り響き、シャンパンのコルクが飛び、

「婚約、おめでと~! 亦儒! アミン!」

 そう第一声をあげたのは意外にも大東だった。 お母さんとヒロも嬉しそうに拍手してくれている。 弟はつまらなそうに一人もうシャンパンを飲んでいた。

「婚約披露パーティーの前にうちうちでお祝いしたかったのよ。 今夜がちょうどいい機会だと思って。 それからヒロもおめでとう!  今度は呉尊と一緒に来てちょうだいね。 日本語ではなんてお祝いの言葉をかけるのかしら。」

 母は、はしゃぎながら、わたしたち三人にシャンパンをついでくれる。

「ケッコン、オメデトウ。 オシアワセニ~って感じです。」

 ヒロがそう答えると、大東が

「ケッコンオメテト~! オ、シアワセ、ニ~!」

っと言ってシャンパンを一気に呑み干した。 そこへちょうど父が病院から帰ってきた。 父は大学病院に勤務する外科医だ。

「お義父さん、お疲れ様です。 今夜は呑みましょう!」

 場がさらに盛り上がり、亦儒がみんなについでまわる。 自分でも次々に呑むもんだからシャンパンのビンは一気に二本もあいてしまうくらいだった。 その勢いになかば呆れたわたしは、料理を食べ終わると、こっそりヒロを連れて自分の部屋へ戻ることにした。

「もう、ついて行けないわ。 あのノリには。 亦儒ってあんな呑み方する人だった? 大東もなんだか盛り上がりすぎてヘンな感じ。」

  大東は、テレビに出ているときはパフォーマーで盛り上げ役に徹しているけど、普段はわりと淡々としている。 でも本当はシャイで不器用な人なんだと思う。

「亞綸のお母さんに頼まれちゃったのよ。 クラッカー渡されて、盛り上げてって。 もう半分ヤケになってたわね。 亦儒は嬉しくて仕方ないんじゃないの? 世界一幸せだーーー!って叫んでたじゃない。」

 亦儒があんなふうにお酒で乱れるなんて意外だった。 欠点のない完璧な人だと思っていたから少し安心したかも。 ポジティブで頭脳明晰、いつだってまわりに気を配れて、困っている時には助けてくれる。 わたしはそんな彼を尊敬している。

ふいにヒロと呉尊のなれそめが気になり、わたしはヒロに詰め寄って聞いてみる。

「ねえ、ヒロ。 呉尊はどんなふうに告白してきたの? なんか真面目な呉尊からはちょっと想像できなくて。」

「やだ、それまだ誰にも話したことないんだから。」

「話さないなら今度呉尊に聞いちゃうわよ!」

 ヒロは仕方なく、はずかしそうに話し始めた。

           第五話 「呉尊の告白」~ヒロ篇
へつづく・・・

  
目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP                             

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