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飛輪海小説『ステップアップ!』第三話~ヒロ篇

             第三話 「阿旭との再会」 ~ヒロ篇 

 倒れこんだ私の体を受けとめてくれた人がいた。 それがまぎれもない阿旭、その人だった。

「大丈夫?ヒロエ?」
 
 昔と変わらない阿旭の声。 私のことを「ヒロエ」と呼んでいた阿旭・・・
阿旭は私の両肩をしっかりとつかみ、泣きそうな笑顔でみつめている。

「いつか会えると思ってたよ・・・会いたかったんだ、ずっと・・・」
 
 そう言って阿旭が私を抱きしめそうになった時だった。

「ヒロ!」
 
 呉尊の呼ぶ声がして、阿旭の動きが止まった。 私は急いで阿旭から体を離した。

「ありがとう。うちのスタイリストが転びそうになったのを助けてくれたんですね。」
 
 呉尊は一部始終を見ていたのだ。 でも会話までは聞こえてはいないようだった。

「あ、ありがとうございました・・・」

 私は顔があげられないで、うつむいたままでおじぎした。

「彼女は、今キミのスタイリストなのか?」
 
 阿旭は冷静な声で呉尊にたずねた。 私の心臓は今にも爆発しそう・・・

「以前はボクのスタイリストのアシスタントだったんだ。 今は炎亞綸のスタイリストになったんだけど・・・今日はトラブルがあって代わりに来てもらったんだ。 えっと・・・もしかして二人は知り合い?・・・」

「呉尊! ヒロ! 何やってるの! 時間ないんだから早く準備して!」
 
 マネージャーのヤンさんが呼びに来たおかげで、呉尊の問いかけに阿旭は答えることはなかった。

「じゃ、ボクも着替えるから。 また後で。」
 
 そう言って阿旭は自分の控え室に入っていった。

 私は何事もなかったように呉尊のスタイリングを終え、逃げるように控え室をあとにした。 今何か聞かれたら、どうしていいかわからなくなりそうだったから。 阿旭が呉尊に私とのことを話すんじゃないかという心配もあったけれど、とにかくこの会場から逃げ出したかった。 阿旭への思いが、あふれ出してしまわないうちに・・・。

 私はマーキーが搬送された病院に立ちより、検査結果が何事もなかったことを確認してホッとした。 それなのにマーキーときたら、愛車のことばかり気にしていた。

「私の大事な大事なビートルちゃん、今頃どこにいるのかしら・・・廃車なんてことになったら生きていけないわ~。」

 マーキーをタクシーで自宅まで送り届け、私は一人で事務所にもどり、屋上へ出てみた。 台北の景色を見渡しながら、必死に気持ちを落ち着かせてみようとしたけど、なかなか心臓のドキドキが収まらない。

 阿旭につかまれた両肩に、まだのこっている手の感触。 テレビや雑誌で見るのとは比べ物にならないくらい、間近で見る阿旭の瞳は輝いていた。 私だけを見つめる阿旭の瞳・・・。

 呉尊の深く、おだやかで癒されるような瞳も好きなのに、今はどうしてもあの時の燃えるような阿旭の瞳が忘れられない。 

 呉尊は会見後には北京に飛ぶことになっている。 今夜マンションに呉尊が帰ってこないことにホッとしている私。

 気持ちを落ち着かせてから階下に戻ると、亞綸が電話応対をしていた。 今日は会見やイベントがたてこんでいてスタッフがまだ戻っていないのだ。

「え? キリムラヒロエ? スタイリストの? あ、ヒロのことか・・・彼女は今いませんけど何か? 電話番号?教えられませんよ。 うちの専属ですから他で仕事はしません!」
 
 亞綸はそう言い切ると受話器をガチャンと置いてしまった。

「亞綸どうしたの? 私に電話? 誰から?」
 
 胸騒ぎがする。

「ヒロいたんだ~。 なんかさ、名乗らないのにヒロの電話番号聞いてくるんだよ。 おかしいだろ? だから切っちゃった。」

 亞綸がいたずらっ子みたいな表情で肩をすくめた。 これ以上追求するのはやめておこう。 もしかして阿旭・・・そう思うとまた心臓が高鳴った。

「でもさ~なんか聞き覚えのある声だったんだよね~。 気のせいかな。」
 
 やっぱり阿旭だ。 私は心の中でどうか思い出さないでと祈るしかなかった。

「ねえヒロ、今日呉尊、北京に行っちゃったんでしょ? どっか二人で食べに行こうよ~」

「亞綸! いい加減にしろ!」

 タイミングよく亦儒が戻ってきた。 大東も一緒だ。

「ヒロ、今夜時間あるなら、一緒に亞綸のうちに行かない? アミンが婚約披露のドレスの相談したいってさ。 アミンとお義母さんがご馳走作るって。 それなら亞綸、ヒロと一緒にめし食えるだろ。」

「私はいいけど・・・亞綸、それでもいい?」

「それでいいよ!もう!」
 
 亞綸はむくれ顔になって背中を向けてしまった。

「大東も来るだろ? 昔よくみんなで亞綸のうちに集まったよな~。」

 亦儒が懐かしそうに言った。

「ワルい、オレはやめとく。 ジムさぼり気味だから行っとかないと・・・」

 最近変なのは亞綸だけではない。 大東もなんだか・・・。

「ダメダメダメ! そんな理由じゃ許さないよ! 大東も来てよ!」

 結局亞綸が食い下がったおかげで大東も一緒に行くことになった。

                    
                      *   *   *

「アミンは本当に幸せよね。」

 私はレタスをちぎりながら無意識にため息をつきながらつぶやいてしまった。

「どうしたの? ヒロだって幸せすぎるくらい幸せなくせに~!」

 アミンはドレッシングをかき混ぜながら、肘でつついてくる。

 私とアミンは二年来の友人だ。 私が今の事務所専属になった頃からの付き合いになる。 みんながデビューしたばかりで、あの頃はよくこうやって亞綸のうちに集まり、ワイワイと楽しくやっていた。 亞綸のお母さんはにぎやかなことが大好きで、誰かの誕生日ともなると俄然張り切ってパーティーを開いてくれていたのだ。 だけど最近は仕事が忙しくなって集まることもなくなっていた。 

 今夜は、呉尊がいないけれど、久しぶりの集まりに亞綸のお母さんも嬉しそう。 亦儒がリビングで場を盛り上げている間、私とアミンは夕食の準備の仕上げにとりかかっていた。

 そこへ大東が一人現れた。

「ミネラルウォーターのおかわりもらえる?」

 私はふと、大東はアミンと話したいんじゃないかという気がした。 二人は同い年で以前はとても仲がよかった。 仲がいいというか、お互いをけなしたり、からあいあって、男女を越えた関係というのだろうか。 はた目にはずっとそう見えていた。

「大東、タッチ交代! たまには手伝ってみたら? サラダくらい作れるでしょ?」

 私はそう言い残してさっさとリビングに逃げて行った。

 リビングに入ると、みんなはテレビを見ながら盛り上がっていた。 ちょうどその時、芸能ニュースが始まり、今日の呉尊の記者会見が映し出された。 私は大東と交代してしまったことをすぐに後悔した。 亞綸が目ざとく気付いてしまったからだ。

「あれ?今日の呉尊の衣装、白だったの?昨日マーキーが選んだのって青いロゴのジャケットじゃなかった?」

 私は一呼吸おいてからなるべく平静を装いながら答える。

「今日ね、マーキーの車が事故に巻き込まれて、私が代わりの衣装を持って行ったの。マーキーは無事だったのよ。 安心して。」

「よかった・・・大変だったんだな。 でも、やっぱりヒロが選んだ白い衣装のほうが似合ってる気がするよ。 さすが呉尊をわかってるね! 愛だな!」                     

 亦儒がそう言って私にウインクしてみせた。

 画面に呉尊と阿旭が並んで映っていて阿旭が質問に答えている。 亞綸はそれをただじっとだまってみつめている。 亞綸は勘のいい子だ。 事務所にかかってきた電話の声と阿旭の声が同じだと気付いてしまったかもしれない。 そう考えると気が気でなかった。

「あ~、呉尊が来られなかったことが残念で仕方ないわ。」

 亞綸のお母さんがため息をつく。

「お義母さんは呉尊のファンだからな。 今度は必ず連れてきますよ。 もしかしてお義母さん、ヒロに嫉妬したりしてないですよね?」 

 亦儒がいたずらっぽい笑みで亞綸のお母さんをからかう。

「いやだわ亦儒! からかわないでちょうだい。 ヒロ、そんなことは絶対にないから。 わたしは二人を祝福するわよ!」

 慌てて弁明する亞綸のお母さんの様子を見て、亦儒は大笑いしているけど、亞綸は無表情のまま会見をみつめていた。

        第四話 「大東とサラダ」~アミン篇へつづく・・・ 

   目次と登場人物~ヒロ&アミン篇

   目次と登場人物~大東&亞綸篇

   目次と登場人物~SP

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コメント

ブログ開設おめでとうsign01

これからもちょくちょく遊びに来るねgood

楽しみにしてるよっwink

投稿: You☆ | 2009年6月24日 (水) 01時23分

You☆さん
早速のコメありがとうhappy02
のんびりがんばっていくね~

投稿: ミント | 2009年6月24日 (水) 10時44分

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